■事業の進捗状況と今後の方針
1. 開発の進捗状況
UMNファーマ<4585>は塩野義製薬との資本業務提携により、再成長に向けた新たな事業方針を2018年2月に発表している。提携の第1フェーズとして、塩野義製薬との基盤技術整備及び感染症予防ワクチンを対象領域とした開発候補品の基礎的研究に経営資源を集中すること、また、基盤技術整備の開発状況に応じて2019年12月期まで半年ごとに一定のマイルストーンを収受し、売上を確保することを最優先課題として事業に取り組んでいる。第1フェーズ期間に必要な研究開発費や設備投資、事業運転資金については、塩野義製薬への第三者割当増資と転換社債の発行により調達した1,639百万円が充当されることになる。
ここで言う基盤技術整備とは、ヒト用感染症予防ワクチンを始めとする創薬に関する新規技術プラットフォームを構築することを指している。具体的には、同社が蓄積してきたワクチン原薬製造技術により生み出される組換えタンパク質抗原に、免疫増強を目的とするアジュバント及び製剤/ドラッグ・デリバリー技術を融合して、従来よりも高い有効性かつ生産性を実現する競争力の高いワクチンを創出する技術基盤を指し、同社ではこうした開発コンセプトにより創出されたワクチンを次世代ロジカルワクチンと呼称している。なお、アジュバントについては2017年6月に(国研)医薬基盤・健康・栄養研究所(以下、医薬健栄研)と新規アジュバントに関する共同研究契約を締結しており、同研究所が保有する新規アジュバントシーズ群を活用するほか、その他にも有効なアジュバントや製剤/ドラッグ・デリバリー技術を持つ企業があれば提携なども行いながら活用していく方針となっている。
2018年12月期第2四半期までの基盤技術整備と開発候補品の基礎的研究の進捗状況としては、当初の想定よりも順調に進んでいるようで、複数の自社開発パイプラインで次世代ロジカルワクチンの創製に一定の成果(アジュバント、製剤/ドラッグ・デリバリー技術の組み合わせにより、高い有効性及び生産性を実現)が得られたとしている。また、感染症予防ワクチン領域にいて複数の新規候補となる開発候補品化の検討を進めているほか、事業化を想定した知的財産確保等の取組みも開始している。
なお、医薬健栄研との新規アジュバントの共同研究については2018年6月までの契約期限を2019年6月まで1年間延長したことを発表している。引き続き共同研究を行うことで、より有効性及び生産性の高いワクチンの開発を進めていくことになる。アジュバントはワクチンの効果を増強する役割を果たすため、高い有効性や生産性を実現するワクチンを創出するにはアジュバントがカギを握ると言われている。特に、新興感染症に対するワクチンや、易変異性のRNAウイルスに対するワクチンでは、アジュバントは重要なオプションとなっており(アジュバントの効果がないワクチンもある)、新規候補の開発に当たって果たす役割は大きいと言える。今後の予定としては、新規候補の開発候補品化時において共同研究の対象を拡大するほか、新規ワクチンの開発・製品化に向けた各種有効性・安全性評価方法についても両社で検討していく予定となっている。なお、契約の延長による業績への影響はない。
2. 研究開発拠点機能強化の進展状況
同社では、研究開発拠点の機能強化についても順次進めている。横浜研究所では複数のプロジェクトを進めるための実験環境の整備を2018年12月期第2四半期までに実施したほか、秋田研究所も含めて開発候補品の基礎研究開発活動を推進している。また、秋田工場では第2回以降のマイルストーン達成に向けた設備の再立上げが完了し、現在は基盤技術整備に係る研究開発活動を行っている。また、GMP※運用に向けた体制構築についても塩野義製薬による支援を通じて進めている段階にある。
※GMP(Good Manufacturing Practice)…医薬品の製造管理、品質管理基準のことを指す。臨床試験等に使用する医薬品を製造するためには、GMP省令で定めた基準をクリアし、厚生労働省からの承認が必要となる。
また、研究開発や製造関連の人材の採用についても積極的に進めており、2018年8月(予定)には26名と期初段階から10名の増員となる。今後も秋田工場を中心に増員を進め、30名以上の体制構築を当面の目標としている。
3. 今後のスケジュール
今後の開発スケジュールとしては、提携第2フェーズの協議を2019年12月期中にまとめ、第2フェーズへ移行していく予定になっている。第2フェーズでは基礎的研究を進めた開発候補品の中から実際に開発を進めるパイプラインを選定し、非臨床試験から臨床試験まで進めていく段階となる。提携協議の中で開発パイプラインごとに契約一時金やマイルストーン、上市後の原薬/製品供給スキーム、ランニングロイヤリティ等の契約スキームを決めるほか、追加で必要となる開発費用にかかる資金調達スキームなども協議していくことになる。当初は第2フェーズへの移行時期を2019年12月期末頃と見込んでいたが、開発状況が順調なことから準備も含めて移行時期を前倒しする可能性も出てきている。なお、具体的な開発パイプラインについても、提携第2フェーズの協議がまとまり次第発表されることになる。開発が今後も順調に進めば、2020年12月期中に臨床第1相試験を開始できる可能性がある。
現在の開発候補品としては、従来開発を続けてきた季節性インフルエンザワクチン、新型インフルエンザワクチン、ロタウイルスワクチン、ノロウイルスワクチンの4品目のほか、複数の新規開発候補品があり基礎的研究が進められている。開発パイプラインは、これらすべての候補品の中から選定されることになる。新規開発候補品の対象疾患は明らかにされていないが、可能性のある感染症としてはRSウイルス感染症、ジカ熱、デング熱、マラリア、SARS(重症急性呼吸器症候群)などが挙げられる。
なお、主な感染症予防ワクチンの市場規模としては、インフルエンザワクチンが国内で700~800億円、世界で5,000~6,000億円、ロタウイルスワクチンが世界で2,000億円程度となっており、ノロウイルスやRSウイルス、ジカ熱等の感染症についてはまだ予防ワクチンがない。ちなみに、国内のインフルエンザワクチンに関しては、KMバイオロジクス(株)(旧化血研)、(一財)阪大微生物研究会(販売は田辺三菱製薬<4508>)、北里第一三共ワクチン(株)、デンカ生研(株)の4社体制で供給している。前回、インフルエンザワクチンで申請取下げを経験したことから、同ワクチンの開発を再度進めるかどうかは流動的だが、対象患者を既存品の効果が低いと言われている75才以上の後期高齢者向けに絞ったり、投与の容易さや有効性をさらに高めることで優位性を打ち出すことができれば販売承認される可能性があるため、パイプラインとして開発を進めていく可能性はある。
同社は次世代ロジカルワクチンの開発ターゲットとして、「脱注射」と「高い有効性」の実現を目指している。現在、予防ワクチンは注射による皮下投与が一般的だが、免疫反応を誘導する細胞は皮膚上層部に多く集まっているため、経皮投与や経鼻投与ができればより高い免疫応答が得られ、結果的に抗原量が少なくて済むことになる。また、注射投与と比較して接種時の患者負担も軽減されることになる。経皮投与の場合はマイクロニードルを用いて、先端部にワクチンを練り込ませる方法での製剤化の検討が進められている。「脱注射」が実現できれば、現在は要冷蔵での輸送・保管が必要な予防ワクチンも、室温での流通・保管が可能となり、流通インフラが整備されていない新興国でも導入が進みやすくなるといったメリットもある。これは「革新的バイオ医薬品を世に出すことで、世界の人々の健康に貢献する」といった同社の経営理念にも合致することになり、今後の開発の進展が期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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1. 開発の進捗状況
UMNファーマ<4585>は塩野義製薬との資本業務提携により、再成長に向けた新たな事業方針を2018年2月に発表している。提携の第1フェーズとして、塩野義製薬との基盤技術整備及び感染症予防ワクチンを対象領域とした開発候補品の基礎的研究に経営資源を集中すること、また、基盤技術整備の開発状況に応じて2019年12月期まで半年ごとに一定のマイルストーンを収受し、売上を確保することを最優先課題として事業に取り組んでいる。第1フェーズ期間に必要な研究開発費や設備投資、事業運転資金については、塩野義製薬への第三者割当増資と転換社債の発行により調達した1,639百万円が充当されることになる。
ここで言う基盤技術整備とは、ヒト用感染症予防ワクチンを始めとする創薬に関する新規技術プラットフォームを構築することを指している。具体的には、同社が蓄積してきたワクチン原薬製造技術により生み出される組換えタンパク質抗原に、免疫増強を目的とするアジュバント及び製剤/ドラッグ・デリバリー技術を融合して、従来よりも高い有効性かつ生産性を実現する競争力の高いワクチンを創出する技術基盤を指し、同社ではこうした開発コンセプトにより創出されたワクチンを次世代ロジカルワクチンと呼称している。なお、アジュバントについては2017年6月に(国研)医薬基盤・健康・栄養研究所(以下、医薬健栄研)と新規アジュバントに関する共同研究契約を締結しており、同研究所が保有する新規アジュバントシーズ群を活用するほか、その他にも有効なアジュバントや製剤/ドラッグ・デリバリー技術を持つ企業があれば提携なども行いながら活用していく方針となっている。
2018年12月期第2四半期までの基盤技術整備と開発候補品の基礎的研究の進捗状況としては、当初の想定よりも順調に進んでいるようで、複数の自社開発パイプラインで次世代ロジカルワクチンの創製に一定の成果(アジュバント、製剤/ドラッグ・デリバリー技術の組み合わせにより、高い有効性及び生産性を実現)が得られたとしている。また、感染症予防ワクチン領域にいて複数の新規候補となる開発候補品化の検討を進めているほか、事業化を想定した知的財産確保等の取組みも開始している。
なお、医薬健栄研との新規アジュバントの共同研究については2018年6月までの契約期限を2019年6月まで1年間延長したことを発表している。引き続き共同研究を行うことで、より有効性及び生産性の高いワクチンの開発を進めていくことになる。アジュバントはワクチンの効果を増強する役割を果たすため、高い有効性や生産性を実現するワクチンを創出するにはアジュバントがカギを握ると言われている。特に、新興感染症に対するワクチンや、易変異性のRNAウイルスに対するワクチンでは、アジュバントは重要なオプションとなっており(アジュバントの効果がないワクチンもある)、新規候補の開発に当たって果たす役割は大きいと言える。今後の予定としては、新規候補の開発候補品化時において共同研究の対象を拡大するほか、新規ワクチンの開発・製品化に向けた各種有効性・安全性評価方法についても両社で検討していく予定となっている。なお、契約の延長による業績への影響はない。
2. 研究開発拠点機能強化の進展状況
同社では、研究開発拠点の機能強化についても順次進めている。横浜研究所では複数のプロジェクトを進めるための実験環境の整備を2018年12月期第2四半期までに実施したほか、秋田研究所も含めて開発候補品の基礎研究開発活動を推進している。また、秋田工場では第2回以降のマイルストーン達成に向けた設備の再立上げが完了し、現在は基盤技術整備に係る研究開発活動を行っている。また、GMP※運用に向けた体制構築についても塩野義製薬による支援を通じて進めている段階にある。
※GMP(Good Manufacturing Practice)…医薬品の製造管理、品質管理基準のことを指す。臨床試験等に使用する医薬品を製造するためには、GMP省令で定めた基準をクリアし、厚生労働省からの承認が必要となる。
また、研究開発や製造関連の人材の採用についても積極的に進めており、2018年8月(予定)には26名と期初段階から10名の増員となる。今後も秋田工場を中心に増員を進め、30名以上の体制構築を当面の目標としている。
3. 今後のスケジュール
今後の開発スケジュールとしては、提携第2フェーズの協議を2019年12月期中にまとめ、第2フェーズへ移行していく予定になっている。第2フェーズでは基礎的研究を進めた開発候補品の中から実際に開発を進めるパイプラインを選定し、非臨床試験から臨床試験まで進めていく段階となる。提携協議の中で開発パイプラインごとに契約一時金やマイルストーン、上市後の原薬/製品供給スキーム、ランニングロイヤリティ等の契約スキームを決めるほか、追加で必要となる開発費用にかかる資金調達スキームなども協議していくことになる。当初は第2フェーズへの移行時期を2019年12月期末頃と見込んでいたが、開発状況が順調なことから準備も含めて移行時期を前倒しする可能性も出てきている。なお、具体的な開発パイプラインについても、提携第2フェーズの協議がまとまり次第発表されることになる。開発が今後も順調に進めば、2020年12月期中に臨床第1相試験を開始できる可能性がある。
現在の開発候補品としては、従来開発を続けてきた季節性インフルエンザワクチン、新型インフルエンザワクチン、ロタウイルスワクチン、ノロウイルスワクチンの4品目のほか、複数の新規開発候補品があり基礎的研究が進められている。開発パイプラインは、これらすべての候補品の中から選定されることになる。新規開発候補品の対象疾患は明らかにされていないが、可能性のある感染症としてはRSウイルス感染症、ジカ熱、デング熱、マラリア、SARS(重症急性呼吸器症候群)などが挙げられる。
なお、主な感染症予防ワクチンの市場規模としては、インフルエンザワクチンが国内で700~800億円、世界で5,000~6,000億円、ロタウイルスワクチンが世界で2,000億円程度となっており、ノロウイルスやRSウイルス、ジカ熱等の感染症についてはまだ予防ワクチンがない。ちなみに、国内のインフルエンザワクチンに関しては、KMバイオロジクス(株)(旧化血研)、(一財)阪大微生物研究会(販売は田辺三菱製薬<4508>)、北里第一三共ワクチン(株)、デンカ生研(株)の4社体制で供給している。前回、インフルエンザワクチンで申請取下げを経験したことから、同ワクチンの開発を再度進めるかどうかは流動的だが、対象患者を既存品の効果が低いと言われている75才以上の後期高齢者向けに絞ったり、投与の容易さや有効性をさらに高めることで優位性を打ち出すことができれば販売承認される可能性があるため、パイプラインとして開発を進めていく可能性はある。
同社は次世代ロジカルワクチンの開発ターゲットとして、「脱注射」と「高い有効性」の実現を目指している。現在、予防ワクチンは注射による皮下投与が一般的だが、免疫反応を誘導する細胞は皮膚上層部に多く集まっているため、経皮投与や経鼻投与ができればより高い免疫応答が得られ、結果的に抗原量が少なくて済むことになる。また、注射投与と比較して接種時の患者負担も軽減されることになる。経皮投与の場合はマイクロニードルを用いて、先端部にワクチンを練り込ませる方法での製剤化の検討が進められている。「脱注射」が実現できれば、現在は要冷蔵での輸送・保管が必要な予防ワクチンも、室温での流通・保管が可能となり、流通インフラが整備されていない新興国でも導入が進みやすくなるといったメリットもある。これは「革新的バイオ医薬品を世に出すことで、世界の人々の健康に貢献する」といった同社の経営理念にも合致することになり、今後の開発の進展が期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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