S&P500月例レポート(2018年7月配信)_前編

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET: 2018年6月

 6月のS&P500指数は0.48%上昇(配当込みのトータルリターンは0.62%)となり、この結果だけを見ると退屈な月だったように思えます。しかし、セクター別の騰落率(生活必需品は4.15%上昇、資本財・サービスは3.43%下落)、あるいは構成銘柄の騰落状況(5%以上値上がりした銘柄は107銘柄、5%以上値下がりした銘柄は69銘柄と、指数の34.9%が5%以上変動)から判断すると、勝ち組と負け組がともに多い、活発な相場展開だったことが分かります。けれども、これは今に始まったことではありません。

 前四半期比、年初来、それどころか2016年11月8日の大統領選以降、S&P500指数はすべきことの一部、すなわち、構成銘柄の変動と結果の融合(時価総額加重ベースで)を行い、リスク低減にもつながりました。同指数は年初来では1.67%の上昇(配当込みのトータルリターンは2.65%)でしたが、構成銘柄の45%以上が10%以上変動しました(10%以上値上がりした銘柄が121銘柄、値下がりした銘柄が114銘柄で、合計で全体の45.6%)。

 大統領選以降では27.05%上昇(配当込みのトータルリターンは31.32%)していますが、構成銘柄の23.8%(120銘柄)の騰落率がマイナスとなっています。大統領選以降に注目したパフォーマンス統計によると、最も大きく値上がりした情報技術セクター(52.4%上昇)と、最も大きく値下がりした電気通信サービス・セクター(5.4%下落)の格差は57.8%になっています。すなわち、投資家はトレーダーのように自らの判断で勝負をするしかないということです。もしも、これぞというセクターや銘柄が「分かる」なら、それを買いましょう。テーブルに着席して給仕されるのを待つのではなく、自らバーで買う訳ですから、勝負をしたと認めます。仮にその判断が間違っていても、国産生ビールを買って嘆くのはあなた自身であり、それもあなたが勝負をした証しです。

 何を買ってよいか分からないなら、指数(多くの機関から数多くの指数が公表されています)を利用する手もあります。指数には結果を融合してリスクを分散する効果があるからです(ただし同時に、予想が正しい場合の潜在利益は減少します)。自分の予想に確信がない場合でも、自らのリスク水準に合う指数や商品(特定のタイプの手法や加重方法を採用する指数や商品は多くあります)は見つかるはずです。そして最後に、何を買うべきか「確信がある」なら、取引を行う場合は米証券取引委員会(SEC)の気さくな人たちからの呼び出しに備えることをお勧めします。
 

 

 
「嘘には3種類ある。普通の嘘、真っ赤な嘘、そして統計だ」(マーク・トウェイン)

◇貿易問題が関心を集めてグローバル市場の動きを左右し、ボラティリティとリスクの上昇につながりました。そうした中、米国市場は他の地域に比べてかなり順調でした。

  → 米国市場は6月に0.52%上昇し、年初来で2.30%上昇
  → 米国以外の市場は6月に0.82%下落し、年初来で4.98%下落

◇連邦公開市場委員会(FOMC)が政策金利を0.25%引き上げ、年内さらに2回の利上げを示唆したにもかかわらず、米国10年国債の利回りは2.86%と、5月に付けた2.87%から低下して月を終えました。

◇S&P 500指数構成企業の2018年第1四半期の1株当たり利益(EPS)は過去最高の暫定36.54ドル、利益は総額3,113億ドルとなりました(2018年第2四半期の予想EPSは38.65ドル)。

◇第1四半期の自社株買いは過去最高の1,891億ドル(これまでの記録は2007年第3四半期の1,719億ドル)となり、2017年3月から12ヵ月間の株主還元額(配当と自社株買い)は初めて1兆ドルを超えました(1兆30億ドル)。

◇S&P500指数構成企業の2018年第2四半期の配当は過去最高の1株当たり13.10ドル、総額1,116億ドルとなっています。

◇注目は、5月の個人消費支出(PCE)物価指数の前年同月比上昇率が2.3%と、2012年3月以来の高水準となったことです(コア指数は2.0%と、2012年4月以来の高水準)。インフレが視野に入ってきたのでしょうか?

主なポイント

◇6月のS&P 500指数は2,718.37で取引を終え、5月末の2,705.27から0.48%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス0.62%)。同指数は、5月は2.16%の上昇(同プラス2.41%)、4月は0.27%の上昇(同プラス0.38%)でした。また、過去3ヵ月間で2.93%上昇(同プラス3.43%)、年初来では1.67%上昇(同プラス2.65%)、過去1年間では12.17%上昇(同プラス14.37%)、大統領選当日(終値2,139.56)からは27.05%上昇(同プラス31.29%)しました。S&P 500指数は6月中に最高値を更新することはなく、終値での最高値更新は年初来で14回となっています(直近の高値更新は2018年1月26日で2,872.87)。最高値の更新回数は2017年に62回(1995年の77回に次ぐ過去2番目の更新回数)、大統領選以降で84回となりました。

 6月中にダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は8日連続で下落する場面があり、24,271.41ドルで取引を終え、5月末の24,415.84ドルから0.59%下落しました(配当込みのトータルリターンはマイナス0.49%)。5月のダウ平均は4月末から1.05%上昇(同プラス1.41%)、4月は3月末から0.15%上昇していました(同プラス0.34%)。過去3ヵ月では0.70%の上昇(同プラス1.26%)、年初来では1.81%の下落(同マイナス0.73%)となっています。ダウ平均も6月中に最高値を更新することはありませんでした(年初来では終値で最高値を11回更新、直近の高値更新は2018年1月26日で26,616.71ドル)。最高値の更新回数は2017年に71回と過去最高を記録し(1896年以降。1995年は69回)、大統領選以降で99回となっています。

◇米国10年国債利回りは、5月末の2.87%から小幅低下して2.86%で月を終えました(2017年末は2.41%、2016年末は2.45%)。

◇英ポンドは5月末の1ポンド=1.3294ドルから1.3205ドルに下落し(同1.3498ドル、同1.2345ドル)、ユーロは5月末の1ユーロ=1.1695ドルから1.1685ドルに下落しました(同1.2000ドル、同1.0520ドル)。円は5月末の1ドル=108.82円から110.68円に下落し(同112.68円、同117.00円)、人民元は5月末の1ドル=6.4104元から同6.6225元に下落しました(同6.5030元、同6.9448元)。

◇原油価格は(OPEC総会が追い風となり)3年ぶりの高値を付け、5月末の1バレル=66.93ドルから上昇して74.31ドルとなりました(同60.09ドル、同53.89ドル)。米国のガソリン価格(米エネルギー情報局(EIA)による全等級)は5月末の1ガロン=3.039ドルから下落して2.913ドルで取引を終えました(同2.589ドル、同2.364ドル)。

◇金価格は5月末の1トロイオンス=1,303.00ドルから下落して1,254.40ドルで取引を終えました(同1,305.00ドル、同1,152.00)。

◇VIX恐怖指数は6月中に19.61の高値と11.22の安値を付け、5月末の15.43から上昇して16.09で月を終えました(同11.05、同14.04)。

◇2018年第2四半期の営業利益ベースの予想EPSは底堅さを維持し、当四半期中は0.4%上昇しました(年初来では7.5%上昇)。第1四半期の暫定値からは5.8%増、前年同期比では26.7%増となっています。

◇第1四半期の自社株買いの総額は過去最高となる1,891億ドルに達し、12ヵ月間のS&P 500指数の総株主還元額(配当と自社株買い)は初めて1兆ドルを突破し、1兆30億ドルとなりました。6月の配当額は優に過去最高を達成した模様で、必ずしも過去最高ではないものの6月の企業の自社株買い意欲も強くなっています。

◇ビットコインは価格下落を背景に市場の関心もやや失われましたが、6月中に7,775ドルの高値と5,782ドルの安値を付け、5月末の7,559ドルから下落して5,921ドルで取引を終えました(同13,850ドル、同968ドル)。

◇ボトムアップベースで算出した1年後の目標値はS&P 500指数が3,026(現在値から11.3%上昇、5月末時点では2,994)、ダウ平均は27,798ドル(同14.5%上昇、同27,387ドル)と、相場が下落する中で底堅さを維持しています。

株式市場

 6月は市場にとって難しい月となりました。貿易問題と移民政策(いずれも政治問題)が新聞紙面やインターネットを賑わせ、市民が通りを埋め尽くす事態(集会やデモ)に発展しました。現在の貿易問題で市場は神経質になっていますが、より懸念が深刻化しているのは米国以外の国々です。6月の米国市場はS&P BMI米国指数でみると0.52%上昇(S&P 500指数は0.48%上昇)しましたが、米国以外の市場は2.25%下落しました(米国以外の先進国が1.68%下落したのに対し、新興国は4.34%とより大幅な下落となりました)。移民問題も相場に影響しています。米国では論争が激しさを増しており、今後も(特に欧州では)選挙の争点として、政策に影響を及ぼし続けるでしょう。

 ファンダメンタルズに目を向けると、税率が引き下げられ、売上高が前年同期比26.7%の伸びを記録した2018年第1四半期は「大成功」と評価できるものでした。第2四半期もこの流れを引き継ぐと予想され、売上高は前年同期比9.4%増が見込まれています(売上高の伸びは今後さらに加速が予想されます)。

 6月(そして、四半期、年初来、大統領選以降)の注目すべき動きは、株価とセクター別パフォーマンスのばらつきです。セクター別のパフォーマンスは極端な動き(大統領選以降、情報技術セクターは52.4%上昇した一方、電気通信サービスセクターは5.4%下落しており、過去20ヵ月間のリターンの差は57.8%に達しています)を見せていますが、それらをまとめた市場全体のリターンは緩やかです(年初来では1.67%上昇。配当込みのトータルリターンはプラス2.65%)。

 7月は例年、閑散としたムードで始まります。夏季休暇シーズンのため市場参加者が減少し、取引等が低調となるためです。7月4日は独立記念日の祝日で銀行や取引所が休みとなり、3日は取引所が早く(午後1時)閉まるため、活動はスローダウンします。しかし、7月6日の金曜日は取引開始前に雇用統計の発表があるため、活気が戻ってくるでしょう(相場が大きく変動することはないと思われます)。第2四半期の業績発表がスタートする7月13日は相場が活発に動くと思われます(過去、13日の金曜日は55.84%の確率で上昇、対して全取引日では54.20%)。またこの日は、Citigroup(C)、JPMorgan Chase & Co(JPM)、Wells Fargo(WFC)など大手銀行が決算発表を予定しています。市場(とトレード)は所得税減税が引き続き財務内容にどのような影響を及ぼしているかを注視し、アナリストは予想を微調整すると思われます。

 貿易問題は公の場(と水面下)での協議が続くことから、今後も市場に影響を及ぼすと予想されます。7月31日から始まるFOMCでは2日間にわたり激しい議論が見込まれますが、政策は据え置かれるでしょう。

 過去の実績を見ると、7月は57.8%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は5.03%、下落した月の平均下落率は3.24%、全体の平均騰落率は0.69%の上昇となっています。今後のFOMCのスケジュールは、7月31日-8月1日、9月25日-26日、11月7日-8日、12月18日-19日、2019年1月29日-30日となっています。

ファンダメンタルズ

 2018年第1四半期の利益と売上高の発表が終わり(依然として好調のようです)、まもなく訪れる第2四半期の決算シーズンに注目が集まる中、一部の企業は厳しい見方を示しています(企業は通常、業績の下振れを抑制しようとする一方、ポジティブサプライズの波には乗ろうとします)。現在、2018年第2四半期の利益はこれまでの最高である2018年第1四半期を5.8%、2017年第2四半期を26.7%上回る見通しです。2018年通年の利益予想はこれまでと変わらず、2017年を26.8%上回る見込みで、2019年は(現時点では)2018年を10.9%上回る見通しです(第3四半期に入らなければ、2019年予想を扱うことはできません)。

 市場は引き続き、足元の株価収益率(PER)を懸念しています。PERは3月時点の12ヵ月予想1株当たり利益(EPS)に基づくと、営業利益ベースでは20倍を超え、公表利益ベースでも23倍を超えていますが、現時点で市場は前払いを良しとしているようです(2018年末予想EPSに基づくPERは営業利益ベースでは17倍、公表利益ベースでは18倍、2019年末予想では16倍です)。企業利益の増加がPERを押し下げる中、現在のレンジ相場はPERの上昇を抑える役割を果たしています。2018年第2四半期のEPSは企業利益の増加(過去最高の更新が見込まれます)に伴い引き続き上昇する見通しで、その結果、PERは押し下げられますが、実際のPERは株価次第となるでしょう。

 2018年6月に支払われた1株当たり配当は3.60ドルで、2017年6月の3.46ドルから4.30%増加しました。2018年第2四半期では、配当金の支払いは1株当たり13.10ドルと過去最高を更新し、これまでの最高の2018年第1四半期(12.79ドル)を2.4%、2017年第2四半期(12.12ドル)を8.15%上回り、配当総額も1,116億ドルと過去最高を記録しました(それ以前の最高は2017年第4四半期の1,095億ドル)。2018

 年上半期には216銘柄が増配した一方、減配はホテル大手のWyndham Worldwideのわずか1銘柄でした。これは同社が事業をスピンオフして2社に分社化したためで(いずれもS&P中型株400指数に追加)、スピンオフ後の2社は分社化前と同じ配当率を発表しています(テクニカル上の減配でも減配には変わりありません)。216対1という比率は最近の指数の歴史において比類するものがありません(筆者が入手しているデータは2003年以降のものです)。

 本稿執筆時点で、発表された配当率と配当方針だけに基づくと、2018年は2017年の配当を7.2%上回る見通しで、またもや記録的な年になるかもしれません。事業環境、現金の入手可能性、予想される利益の増加、株主還元を強調する企業の「意欲」を踏まえれば、実際の配当の伸びも前年比で2桁になる場合もありそうです。

 自社株買いは1,891億ドルの過去最高を記録し(それ以前の過去最高は2007年第3四半期の1,719億ドル)、2018年3月までの12ヵ月間の総株主還元額(配当と自社株買い)は初めて1兆ドルを超えました(1兆30億ドル)。

※後編に続く
 


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配信元: みんかぶ株式コラム