S&P 500月例レポート (2018年6月配信)_前編

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

2018年5月:「5月に保有しろ」ならよかったのだが…株式市場は5月に2.16%上昇し、年初来で1.18%上昇。レンジ相場が持続

 シンガポールでの米朝首脳会議(サミット)が本当に実現するかどうかは確実ではありません(主演女優の人種差別のツイートで打ち切りとなった人気TV番組『ロザンヌ』再開の可能性に比べれば)(6月1日執筆)。そして、市場は新たな最高値(サミット)には達しなかったようです。少なくとも今のところ、2018年1月26日に付けた過去最高値を5.83%下回り、2018年2月8日に付けた直近安値を4.82%上回っています。

 しかし、ウォール街では貿易(トレード)協議ならぬ取引(トレード)会議が行われたのか、市場の流れは全般的にメディア報道に左右される展開から、より銘柄固有の取引へと変化しました。上げ潮が全ての船を押し上げるのは素晴らしいことですが(5月のS&P 500指数は2.16%上昇しましたが、全ての銘柄が一様に押し上げられたわけではありません。情報技術セクターは7.13%上昇しましたが、電気通信サービスセクターは2.28%下落しました)、過去3ヵ月に及ぶレンジ相場は銘柄レベルの取引に移ったようです。

 通常、セクターや産業など上位レベルで再配分が始まり、銘柄レベルに移ります。したがってその結果、希望的観測ですが、長期投資家のポートフォリオは落ち着き、資産の入れ替えは通常の(そして継続的な)微調整や短期的なイベントへの一時的な反応にとどまるでしょう。そうなれば、相場は底堅さを増し、業績改善の持続や税金効果による消費支出拡大といった前向きなファンダメンタルズを背景に一段と上昇し、悪材料が浮上しても吸収できるとみられます。

 ファンダメンタルズに関しては、市場は現在の株価収益率(PER)を引き続き懸念しています。現在PERは3月時点の12ヵ月予想1株当たり利益(EPS)に基づくと、営業利益ベースでも公表利益ベースでも20倍を超えていますが、現時点で市場は前払いを良しとしているようです(2018年末の予想EPSによるPERは17~18倍、2019年末予想では15~16倍です)。しかし、利益の順調な伸びが続かない場合、前払い分の調整が必要になり、PERが許容可能な水準になるまで株価は下落する可能性があります。

 バーで交わされるような会話よりも、トレーディング・フロアの動向に関心がある向きには、それぞれ1兆ドルを目指していた3つのレース(既に終了しました)についてお話ししましょう。

1. S&P 500指数構成企業全体の1年間の株主還元額(配当と自社株買い)

2. Appleの時価総額(Apple株のトレーダーが推していましたが、彼らは今度私に一杯奢る必要がありそうです)

3. 米国の財政赤字額(議会予算局(CBO)は2020会計年に1兆ドルに達するとの試算を発表)

 私はこのレースに勝つのはS&P 500指数だと考えていました。それは2018年6月終了の12ヵ月間で届くと思っていたのですが、2018年第1四半期にあと数十億ドルとなりました。

・私のこの予想は外れました(ただしApple株のトレーダーほどではありません)。自社株買いは既に四半期ベースの記録を更新し、2018年第1四半期に増加を続け、任務を完了しました。

・指数構成銘柄の98.6%が決算発表を終え、第1四半期の自社株買いは1,872億ドルとなり、これによって配当と自社株買いによる12ヵ月間の株主還元額は初めて1兆ドルを突破しました。

・Appleの時価総額1兆ドル達成に関しては、直近の報告となる2018年4月20日付四半期報告書(10Q)の表紙に基づくと、同社の発行株式数は49億1,513万8,000株なので、1兆ドルの達成には株価が203.46ドルになる必要があります(5月末の終値は186.87ドル)。
 

 

 

●5月のまとめ

・米国10年国債利回りは、2011年以来の高水準となる3.13%まで一時上昇しましたが、その後に戻し、最終的には2.87%で月を終えました(過去20年間の終値での最高は2000年1月の6.78%、最低は2016年7月の1.37%)。米国30年住宅ローン金利は2011年以来7年ぶりの高水準となる4.80%まで上昇した後、4.56%で5月を終えました。

・原油価格は上昇基調が続き、2014年以来となる1バレル=72ドルを突破しましたが(過去20年間の最高値は2008年7月の145ドル、最安値は2016年2月の26ドル)、6月22日に開かれる石油輸出国機構(OPEC)の会合を機にサウジアラビアとロシアが増産に動くとの見方を受けて下落し、66.93ドルで5月の取引を終えました。

・VIX恐怖指数は10.91まで低下する局面もありましたが(1990年の指数開始以来の終値での最低は2017年11月の9.14、最高は2008年11月の80.86)、最終的には4月末の16.05から低下して15.43で5月を終えました(月中の最高は18.78)。

・指数構成銘柄の98.6%が決算発表を終え、第1四半期の自社株買いの総額は1,872億ドル(なお増加中)に上り、12ヵ月間の株主還元総額(配当と自社株買い)は初めて1兆ドルを超えました。

●主なポイント

・5月のS&P 500指数は2,705.27で取引を終え、4月末の2,648.05から2.16%上昇し(配当込みのトータルリターンはプラス2.41%)、4月の0.27%上昇(同プラス0.38%)や3月の2.69%下落(同マイナス2.54%)から改善しました。同指数は過去3ヵ月で0.32%下落(同プラス0.19%)、年初来では1.18%上昇(同プラス2.02%)、過去1年では12.17%上昇(同プラス14.38%)、2016年11月8日の大統領選当日(終値2,139.56)からは26.44%上昇(同プラス30.49%)となりました。S&P 500指数は5月中に最高値を更新することはなく、終値での最高値更新は年初来で14回となっています(直近の高値更新は2018年1月26日で2,872.87)。最高値の更新回数は2017年に62回(1995年の77回に次ぐ過去2番目の更新回数)、大統領選以降で84回となりました。

 ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は24,415.84ドルで取引を終え、4月末の24,163.15ドルから1.05%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス1.41%)。4月のダウ平均は3月末の24,103.16ドルから0.15%上昇(同プラス0.34%)、3月は2月末から3.70%下落していました(同マイナス3.57%)。年初来では、1.23%の下落(同マイナス0.24%)となっています。ダウ平均も5月中に最高値を更新することはありませんでした(年初来では終値で最高値を11回更新、直近の高値更新は2018年1月26日で26,616.71ドル)。最高値の更新回数は2017年に71回と過去最高を記録し(1896年以降。1995年は69回)、大統領選以降で99回となっています。

・S&P 500指数の時価総額は5月に5,630億ドル増加して23兆590億ドルとなり、世界の株式市場の時価総額は410億ドル増加して(このうち米国市場は7,040億ドル増加)54兆4,160億ドルとなりました。年初来では、S&P 500指数の時価総額は2,380億ドル増加し、S&Pグローバル総合指数の時価総額は3,740億ドル減少しました(このうち米国市場は3,840億ドル増加)。また大統領選以降では、S&P 500指数の時価総額は4兆5,820億ドル増加し、世界の株式市場の時価総額は10兆4,900億ドル増加しました(このうち米国市場は5兆6,060億ドル増加)。

・米国10年国債利回りは、一時3.13%(2011年以来の高水準)まで上昇しましたが、最終的には4月末の2.95%から低下して2.87%で月を終えました(2017年末は2.41%、2016年末は2.45%)。

・英ポンドは4月末の1ポンド=1.3767ドルから1.3294ドルに下落し(同1.3498ドル、1.2345ドル)、ユーロは4月末の1ユーロ=1.2081ドルから1.1695ドルに下落しました(同1.2000ドル、1.0520ドル)。円は4月末の1ドル=109.29円から108.82円に上昇し(同112.68円、117.00円)、人民元は4月末の1ドル=6.3337元から6.4104元に下落しました(同6.5030元、6.9448元)。

・原油価格は月の大半で上昇し、2014年以来となる1バレル=72ドルを突破しましたが、最終的には4月末の68.45ドルから2.2%下落して66.93ドルで取引を終えました(同60.09ドル、53.89ドル)。米国のガソリン価格(全等級)は、5月末は1ガロン=3.039ドルと、4月末の2.961ドルから上昇しました(同2.589ドル、2.364ドル)。

・金価格は4月末の1トロイオンス=1,316.10ドルから下落して1,303.00ドルで取引を終えました(同1,305.00ドル、1,152.00ドル)。

・VIX恐怖指数は4月末の16.05から低下して15.43で月を終えました(同11.05、同14.04)。月中の最高は18.78、最低は10.91でした。

・指数構成銘柄の98.6%が決算発表を終え、第1四半期の自社株買いの総額は1,872億ドル(なお増加中)に上り、12ヵ月間の株主還元総額(配当と自社株買い)は初めて1兆ドルを超えました。

・ビットコインは価格の低下を背景に市場の関心もやや失われましたが、4月末の9,225ドルから下落して7,559ドルで取引を終えました(同13,850ドル、968ドル)。月中の最高値は9,969ドル、最安値は7,069ドルでした。

・ボトムアップベースで算出した1年後の目標値はS&P 500指数が2,994(現在値から10.7%上昇、4月末時点では3,012)、ダウ平均は27,387ドル(同12.2%上昇、27,624ドル)と、相場が下落する中で底堅さを維持しています。

 6月の市場は5月と同様の展開となり、貿易を巡る不透明感が最大の関心事となるでしょう。2番目のトピックとしては、6月12日に3つの重要イベントが予定されています。開催か中止かで状況が目まぐるしく入れ替わる米朝首脳会談、0.25%ポイントの利上げが予想される連邦公開市場委員会(FOMC)の1日目、そして政府が異議を申し立てたAT&T(T)とTime Warner(TWX)の合併に関する裁判所の判決です。この判決は、今後のM&A活動を方向付けると予想されます。ただし、判決の内容にかかわらずM&Aが減少することはないでしょう。6月22日には、ウィーンで開催されるOPECの会合で減産が緩和される見通しで、市場は早くも原油価格に織り込み始めています。6月半ばに入ると企業は業績予想の見直しを始め、第3週には決算期のずれる企業の第2四半期の業績発表が始まります(本格的な決算発表シーズンは7月第3週以降)。舞台裏では、2018年第1四半期の税額の計算が行われ、企業支出への影響や個人の減税分の使途についての分析が続けられるでしょう。

 過去の実績を見ると、6月は54.4%の確率で上昇しており、上昇した月の平均上昇率は3.93%、下落した月の平均下落率は3.17%、全体の平均騰落率は0.69%の上昇となっています。今後のFOMCのスケジュールは、2018年6月12日-13日*(利上げを予想)、7月31日-8月1日、9月25日-26日*、11月7日-8日、12月18日-19日*、2019年1月29日-30日(*は記者会見が行われる)となっています。

 5月のS&P 500指数は2.16%の大幅上昇となりました(配当込みのトータルリターンはプラス2.41%)。4月も小幅ながら0.27%上昇(同プラス0.38%)したため、結果として年初来では1.18%の上昇(同2.02%)となり、それ以前の2ヵ月連続での下落から反転しました(3月は2.69%と大きく下落。2月はさらに大幅な3.89%の下落)。とはいえ、5月相場の牽引役は、7.13%上昇した情報技術セクターが一手に担いました。5月のS&P 500指数の上昇の76.5%は情報技術セクターの値上がりによるものです(S&P 500指数の年初来のリターンに対する同セクターの寄与率は133.6%。つまり、同セクターを除いたS&P 500指数の年初来騰落率はマイナス)。年初来のS&P 500指数の騰落率は1.18%のプラスに転じました(配当込みのトータルリターンは2.02%)。同指数は依然としてレンジ内で取引されており、2018年1月26日に付けた過去最高値を5.83%下回り、2018年2月8日に付けた直近安値を4.82%上回った水準で推移しています。また、2016年11月8日の大統領選当日からは26.44%(同プラス30.49%)上昇しました。

 5月は相場のボラティリティが低下し、1%以上変動したのは月間取引日数21日のうち3日でした(上昇が2日、下落が1日)。4月は1%以上変動した取引日は6日でした(上昇が3日、下落が3日)。平均日中値幅(高値と安値の差)で見たボラティリティは、5月は5.69%となり、4月の6.41%、3月の8.35%、2月の11.97%から低下が続きました。相場の流れは日々変化したものの、1日の中で方向性が大きく変わることはなく、市場は落ち着いていました。また、相場に影響するような規模の大きなプログラム取引もほとんどみられませんでした。

 セクター別の騰落率は引き続きまちまちでしたが、その差は縮小しました。その理由として、月前半に好決算が続いたことや、予想されたほどではないものの経済指標も引き続き改善したことが挙げられます。5月は、最も値上がりしたセクター(情報技術)と最も値下がりしたセクター(電気通信サービス)の騰落率の差が9.41%となり、4月の13.81%からは縮小しましたが、3月の7.86%からは拡大しました(2月は11.23%、1月は12.34%)。

※後編に続く
 


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配信元: みんかぶ株式コラム