S&P500月例レポート (2018年1月配信)

 S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

追憶(1999年当時のように祝杯を挙げよう。それが可能だし、今がまさにその時なのだから)

 負け組となった者もありましたが、総じて2017年は、特に当初の期待感が低かったこともあって最高の年となりました。1年間でS&P500指数は19.42%上昇し、配当込みのトータルリターンは21.83%となりました(2016年はそれぞれ9.54%と11.96%、2015年は0.73%下落しましたが、配当込みのトータルリターンは1.38%)。11セクターのうち9セクターが値上がりしました(電気通信サービスセクターは12月も5.77%の続伸となり、年間の下落率は5.97%にとどまりました)。377銘柄が上昇し(このうち182銘柄が25%以上値上がり)、125銘柄が値下がりしました(このうち59銘柄が10%以上、また20銘柄が25%以上下落しました)。

 S&P500指数の上昇によって投資家は3.55兆ドルを手にし、加えて4,200億ドルの配当も受け取りました。また、同指数は年間で最高値を62回更新しました(1995年の77回に次ぐ過去2番目に多い更新回数)。世界がS&P500指数を中心に回ったようなものでしたが、年末に買いを入れる動きも相場を下支えました。

 ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は25.08%上昇し、(1896年以降で)史上最多となる71回も最高値を更新しました。金価格は13.3%(2016年末の1,152ドルから1,305ドル)、原油価格は11.5%上昇しました(同53.89ドルから60.09ドル)。また、VIX恐怖指数は低下し、市場の警戒感が後退しました(2016年末の14.04から11.04に低下)。

 2018年を展望すると、期待感は強く、(S&P500指数は2018年中に3,000を突破し、現在の水準から12.2%上昇すると予想するアナリストらで構成される)S&P3,000クラブの会員が増えています。2009年3月9日を起点とする息の長い上昇相場は、今やヴィンテージワインに例えられ(とはいえ、コルクを打ち直す必要があるかが問題となっています)、295%上昇しました。S&P500指数の3,000越えが見込まれる背景には、減税によって企業が手にする資金が増え、自社株買いを一段と進めていくとの期待感があります(こうした動きが一段の株高効果を生む)。また、(願わくは)消費者が所得税減税を通じた給与の増加を通じて、経済を刺激することも期待されています。

●12月のまとめ

○12月のS&P500指数は11月末の2,647.58から0.98%(配当込みのトータルリターンは1.11%)上昇して2,673.61で月の取引を終えました(11月は2.81%上昇し、トータルリターンは3.07%)。3ヵ月間の上昇率は6.12%(トータルリターンは6.64%)、2017年通年では19.42%(同21.83%)、2016年11月8日の大統領選投票日の終値(2,139.56)からは24.96%(同27.90%)上昇しています。S&P500指数は、12月中に終値での最高値を5回更新しました(直近の高値更新は12月18日の2,690.16)。2017年中の最高値更新は62回(1995年の77回に次ぐ過去2番目の更新回数)、大統領選挙投票日以降では70回となっています。

 ダウ平均は11月末の2万4,272.35ドルから1.84%上昇して2万4,719.22ドルで12月の取引を終えました。2017年の上昇率(昨年末の終値は1万9,762.60ドル)は25.08%となっており、12月中に終値での最高値を8回更新しました(直近の高値更新は2017年12月28日の2万4,837.51ドル)。2017年の最高値更新回数は71回と過去最高を記録(1896年以降では1995年の69回がこれまでの最多)、大統領選挙以降では88回となっています。

○S&P500指数の時価総額は2017年中に3.553兆ドル、また世界の株式市場の時価総額は9.603兆ドル増加しました(このうち4.095兆ドルが米国市場の増加分)。

○原油価格は11月末の57.35ドル(10月末は55.44ドル)から4.8%上昇して60.09ドルで取引を終えました。2016年末の53.89ドルからの上昇率は11.5%となっています。

○米国10年国債の利回りは2.41%と、11月末の2.42%から低下しました(2016年12月末は2.45%)。

○金価格は11月末の1トロイオンス1,277.70ドルから2.1%上昇して1,305.00ドルで取引を終えました。2016年末の1,152.00ドルからの上昇率は13.3%となっています。

○英ポンドは11月末の1ポンド=1.3531ドルから1.3498ドルに下落し(同1.2345ドル)、ユーロは11月末の1ユーロ=1.1909ドルから1.2000ドルに上昇しました(同1.0520ドル)。円は11月末の1ドル=112.57円から112.68円に下落しました(同117.00円)。

○VIX恐怖指数は11月末の11.30から11.04に低下して月を終えました(同14.04)。月中の最高は14.58、最低は8.90となっています。

○ボトムアップベースで算出したS&P500指数の1年後の目標値は2,814で(現在値から5.3%上昇)、またダウ平均は2万5,531ドル(同3.3%上昇)となっています。

○ビットコインは11月末の9,915ドルから上昇して一時2万ドルを付けましたが1万4,575ドルで取引を終えました。2016年末は968ドルでした。


●S&P500指数

 12月のS&P500指数は0.98%(配当込みのトータルリターンは1.11%)上昇し、9ヵ月連続のプラスとなりました(2016年11月以降の14ヵ月では13ヵ月がプラスとなり、唯一0.04%のマイナスだった2017年3月も配当込みのトータルリターンは0.12%のプラスでした)。年間を通じて毎月プラス(トータルリターン・ベース)となったのは史上初のことです。最高値の更新は5回(11月は7回)、2017年通年では62回と(2016年は18回、2015年は10回、2014年は52回)、1955年の77回に次いで過去2番目の多さとなりました。S&P500指数は過去3ヵ月間では6.12%(同6.64%)上昇し、2017年通年では19.42%(同21.83%)上昇し、また2016年11月8日の大統領選以降では24.96%(同27.90%)上昇しました。

 12月は11セクター中7セクターが値上がりしました。全セクターが値上がりした11月から減少し、10月と同数となりました。11月に5.90%の値上がりで反発した電気通信サービスセクターがまたもや最も好調となり、12月は5.77%の上昇となりました。税制改革から恩恵を受けるとの見方に加えて底値買いも寄与した模様です。しかし、2ヵ月連続で上昇しても年初来の不振を埋め合わせることはできず、同セクターは通年で5.97%下落(配当込みのトータルリターンはマイナス1.25%)し、騰落率は全セクター中で最下位のままでした。同様に、エネルギーセクターも12月は原油価格が1バレル60ドルを超える中、好調に推移して4.74%上昇しましたが、通年ではやはりプラスに届かず、3.80%下落(同マイナス1.01%)となりました。

 12月に最も振るわなかったのは公益事業セクターで、市場ではリスクを取って安全性が軽視されたため、6.36%の下落となりました。2017年通年では8.32%(同11.86%)上昇となりました。

 情報技術セクターは、12月は0.03%の下落と持ちこたえ、通年では36.91%(同38.83%)と騰落率首位となりました。消費関連セクターでは一般消費財が2.28%上昇、生活必需品が1.96%上昇といずれも好調でした。しかし通年では前者が21.23%(同22.98%)、後者が10.46%(同13.49%)と差がつきました。

 12月は利益確定や資産配分の見直しを背景に株式市場の上昇率が減速する中、値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を上回ったものの、値上がり銘柄数は281銘柄(平均上昇率は4.59%)と、11月の385銘柄、10月の318銘柄を下回りました。このうち26銘柄が10%以上値上がりしました(11月は65銘柄)。一方で、値下がりした銘柄は224銘柄(平均下落率は3.28%)と、11月の119銘柄、10月の186銘柄を上回りました。このうち9銘柄が10%以上値下がりしました(11月は10銘柄)。

 過去3ヵ月でみると、371銘柄が上昇(平均上昇率は10.35%)、このうち164銘柄が10%以上(平均上昇率は16.93%)値上がりしました。一方で、値下がりしたのは133銘柄(平均下落率は7.19%)となり、このうち38銘柄が10%以上値下がり(平均下落率は16.05%)しました。

 2017年通年では、値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を引き続き大幅に上回る377銘柄(平均上昇率は28.44%)となり、このうち182銘柄が25%以上値上がりしました。値下がりしたのは125銘柄(平均下落率は13.64%)で、このうち20銘柄が25%以上値を下げました。


●トランプ大統領と政府高官

 米上院銀行委員会は、第16代FRB議長(任期は2018年2月1日から)にジェローム・パウエル現FRB理事を起用する人事案を承認し、採決は上院本会議に移されました(承認される見通し)。

 トランプ大統領が米司法長官に指名した共和党上院議員ジェフ・セッションズ氏の後任を選ぶアラバマ州の上院補欠選挙では、民主党候補が当選しました。過熱した選挙戦では、共和党候補のセクハラ疑惑が焦点となりました。

 今回の選挙の結果、2018年1月3日に再開される上院の勢力図は、共和党51議席に対し民主党49議席と、議席差が縮まりました。米連邦通信委員会は、ブロードバンド事業者にインターネット上の全てのトラフィックを同等に扱うことを求めるネットワーク中立性の原則を撤廃することを承認しました。ブロードバンド事業者による直接的な影響は予想されておらず、問題は政治化(ショック要因化)しています。

 上下院はともに、2017年12月21日に再度短期の支出法案を可決し、これにより12月22日の政府機関閉鎖は回避されました。昨年10月からの2018年度予算につなぎ予算が適用されるのは今回3回目で(最初は9月、2回目は12月初めで、今回の予算は2018年1月19日まで有効)、またもや既視感のある展開となりました。トランプ大統領は12月22日午前に法案に署名し、議会は2018年1月3日まで休会に入りました。

●所得税

 上下両院はともに、共和党が1.5兆ドル規模と唱える所得税減税法案を承認しました(上院は賛成51、反対49、下院は賛成224、反対201で、下院では手続き上の不備により2回採決を実施)。反対した民主党は、今回の法案を企業優遇策と批判しています。法案の議会通過後(大統領による署名前)、複数の米国企業が、法案が署名されれば減税で予想される節税分を従業員へのボーナスの支給(AT&T [T]とComcast [CMCSA])。ともに1,000ドル)、給与の引き上げ(Wells Fargo [WFC])や従業員関連の投資(Boeing [BA]、3億ドル)に充てると発表しており、実際に法案はトランプ大統領により署名されました。

●利回り、金利、コモデイティは活発な動きが続く

 米国の金利は12月に若干変動しましたが、これは連邦公開市場委員会(FOMC)が2017年で3回目となる利上げを決めたことよりも、米所得税改革法案の承認(2018年に法案の大半が施行されます)の影響によるものでした。

 米国10年国債の12月末の利回りは2.41%と、11月末の2.42%から低下し、2016年末の2.45%からも低下して年を終えました。米国30年国債の利回りも2.75%と、11月末の2.84%、2016年末の3.07%から低下して12月を終えました。

 外国為替市場では、ユーロは11月末の1ユーロ=1.1909ドル(2016年末は1.0520ドル)から1.2000ドルに上昇した一方、英ポンドは11月末の1ポンド=1.3531ドル(同1.2345ドル)から1.3498ドルに下落しました。円は11月末の1ドル=112.57円(同117.00円)から112.68円に下落し、人民元は11月末の1ドル=6.6124元(同6.9448元)から6.5070元に上昇しました。

 金価格は11月末の1トロイオンス1,277.70ドル(同1,152.00ドル)から1,305.00ドルに上昇しました。原油価格は11月末の1バレル=57.35ドル(同53.89ドル)から上昇し、60.09ドルで12月を終えました。米国のガソリン価格(全等級)は上昇し、11月末の1ガロン=2.562ドル(同2.364ドル)を上回る2.589ドルで12月を終えました。

 VIX恐怖指数は、11月末の11.30(同14.04、2016年11月8日の米大統領選直前は23)から12月末は11.04に低下しました。月中の最高は14.58、最低は8.90でした。

●2018年1月の見通し

 2017年第4四半期の1株当たり利益(EPS)はまたもや過去最高を更新する見通しです。税制改革法案が承認され、設備投資に関するルールが変更されることから(減税の財源についてはまだ答えが出ていません)、市場の注目はこれまで以上に企業からの2018年の業績見通しに集まる可能性があります。企業の自社株買いの増加を予想する向きが大半で、一部では「急増(surge)」という言葉も使われており、今年は自社株買いと配当(大きなイベントがなければ、2018年には再度過去最高が容易に更新されるでしょう)が最終的に1兆ドルの節目を超えて、過去最高を更新する年(および四半期)になると思われます。

 米連邦準備制度理事会(FRB)の市場からの出口戦略について議論があまり聞かれないことは、資産運用者がそれを話題にしたがらないためかもしれませんが、上昇相場の期間と規模を考えれば、出口が訪れることは避けられません(貪欲であることと、そのために相場に長くとどまることは別の問題です)。

 ビットコインやその他の新しく登場した仮想通貨は面白そうに見え、もし私が若かったら(そしてより機敏に動ければ)この市場に参加するかもしれませんが、私の年齢と安全性の観点から考えれば、ラグビーをする方がまだ安全でしょう。

 過去を振り返ると、1月は62.9%の確率で月間騰落率がプラスとなっており、上昇した月の平均上昇率は4.11%、また下落した月の平均下落率は3.96%で、全体の平均騰落率はプラス1.12%となっています。

 今後のFOMCのスケジュールは、2018年1月30日-31日、3月20日-21日(新たな運営体制の下での開催)*、5月1日-2日、6月12日-13日*、7月31日-8月1日、9月25日-26日*、11月7日-8日、12月18日-19日*(*は記者会見が行われる)となっています。


 

 

 

 

 

 
 
[執筆者]
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス
シニア・インデックス・アナリスト

このレポートは、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。SPDJIは、翻訳が正確かつ完全であるよう努めましたが、その正確性ないし完全性につきこれを保証し表明するものではありません。英文原本についてはこちらをご参照ください。
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配信元: みんかぶ株式コラム