上場企業1-9月の自社株買いが前年比4割増の4兆3500億円と、過去最大を記録した。2016年はまだ3カ月残しているので、年間でも最大だった2015年の約4兆8000億円を上回る公算が高まった。一方、新株発行による資金調達(公募増資と転換社債の合計)は7200億円と4年ぶりの低い水準にとどまった。
自社株買いの増加と新株発行による資金調達の減少を、設備投資などの資金需要が少ないためという解説がある。実際、4兆3500億円を買い入れ、7200億円を売り出せば、3兆6300億円の手元資金が減少する。上場企業は100兆円超と過去最高水準の手元資金を抱えているで、資金の使い道がないという解説だ。
しかし一方で、1-9月の国内社債発行額は前年比6割増の約8兆5000億円と急拡大した。上場企業はマイナス金利政策による低金利の恩恵を享受し、債券での資金調達を増やしている。先週、トヨタファイナンスが発行した3年債の利回りは過去最低の年0.0003%まで低下した。250億円の調達で、3年間の利払い総額は僅か22万5000円に留まる。
株式では3兆6300億円の手元資金が減少しているが、債券による資金調達が8兆5000億円に急増しているので、差し引きの手元資金は4兆8700億円増加している。主な資金の使い道はM&Aなどだ。
これを見れば、企業が消極姿勢に転じているわけではなく、資金調達の手段を株式から債券にシフトしていることが分かる。この操作により、企業の自己資本(純資産)が減少し、有利子負債(1年超なら固定負債)が増加する。財務内容は悪化し、自己資本比率は低下する。
どうして、あえて財務内容を悪化させるのだろうか? ROEを高めるためだと言っていい。ROE(Return On Equity)とは、当期純利益(Return)を自己資本(Equity)で割ったものだからだ。分母が小さくなれば、利益が増えなくても、ROEの数値は上がる。
営業利益から、金融・財務・為替などに関する損益を引いたものが経常利益だ。そこに特別損益を加減し、税金を支払って、当期純利益となる。つまり、有利子負債の利子は税引き前にコストとして計上できる。もっとも、現状の利子は無視できるほどに小さいが、それでも納税額を減らすことができる。バランスシート上の財務内容は悪化するが、実際のキャッシュフローは増える。
純資産を意味する株式と、負債を合わせたものを総資産と呼ぶ。株式が3兆6300億円減少し、債券負債が8兆5000億円増加すると、差し引きの総資産は4兆8700億円増加する。
利益が同じでも、この操作により、総資産利益率(ROA)は悪化し、純資産利益率(ROE)は改善する。ROEを高めるためには、意味のある操作だと言える。
日本企業のROEは15年度に7.8%と2年連続で低下した。12%と2桁のROEを誇る米国企業などに比べると見劣りする。もっとも、米企業も積極的に自社株買いを続けてきたので、ROEだけで判断すると、本当の実力を見誤る。日本企業のこの操作が3年連続の低下を防ぐためだとすれば哀しいが、それでも防げないと、もっと哀しい。
2016年1-9月には、海外投資家が1987年以降で最大となる6兆1900億円の日本株を売った。一方で、上場企業はネットで3兆6300億円買った。日銀は年間6兆円を買い続ける。年金も買う。こうした構図の良し悪しはともかく、私は、日本株は上がると見ている。
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