「欧州連合の未来はどうなる?」を取り上げるつもりでいたが、「消費税率引き上げ延期と財政再建」を先に取り上げる。
ブレグジットについては、それまで下記コラムを参照していて頂きたい。
既に、1000を超える「いいね!」を頂いている。
参照:イギリス国民を『EU離脱』に追い込んだ、欧州連合とECBの自業自得(マネーボイス)
消費税率10%への引き上げを2年半延期
現在の消費税率は8%だ。安倍首相が2017年4月に予定されていた10%への引き上げを、2019年10月へと、2年半延期すると決めたことで、「財政再建はどうするんだ?」、「社会保障の財源はどうするんだ?」との懸念が起きている。
安倍首相は財政再建を諦めたのだろうか? 増え続ける社会保障費の財源はどうなるのだろうか? そういった点を、財務省がホームページで提供しているデータをもとに、共に考えてみたい。
今の税収は27年前の約9割
以下の資料は、2016年6月時点に財務省のホームページにあるもので、データとしては少し古く思えるが、私の「そもそも論」には十分に活用できる本質的な問題が示されているので、そのまま引用する。
消費税率3%が導入されたのは平成元年(1989年)4月だ。日本の税収はその翌年度に60.1兆円のピークをつけ、以降の税収は現在に至るも27年前に遠く及ばない。そして、平成9年(1997年)4月に消費税率が3%から5%に引き上げられ、その年度に税収の次のピーク53.9兆円をつけてから以降は、グラフにはないが2015年度の56.3兆円まで、18年間更新できないできた。
つまり、前2回の消費税率引き上げでは、直後に税収がピークをつけたが、今回の5%から8%への引き上げでは、何とか、前回のピークは超えることができた。とはいえ、税収はこの27年間で約1割減っている。一方で、歳出は基本的に増え続けてきたので、累積赤字が膨らむことになった。
歳出と税収の差額である赤字幅は拡大中で、公債(国債)を発行することで穴埋めしてきた。そして、いわゆる「国の借金」残高は、2015年度末時点で1049兆3661億円になったと発表されている。
参照図:日本の財政と公債発行額
出典:財務省ウェブサイト(一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移)
景気拡大期でも法人税収の伸びは弱く、所得税収は横ばいか減少
ここで税収の内訳をみると、最大の財源は赤色線で描かれた所得税となっている。黄色線の法人税とは、法人の所得金額などを課税標準として課される税金で、広義の所得税の一種だ。これが、消費税を導入した平成元年にピークをつけ、現在はその半分もない。企業経営者の団体が概ね消費増税に賛成なのは、法人税を払いたくないからなのかと疑いたくなるくらいだ。所得税の方も、導入2年後にピークをつけた後は、右肩下がりの展開となっている。これで見ると、日本の税収の低迷は、消費税導入後に広義の所得税が急減したことにあることが分かる。
参照図:税収の内訳
出典:財務省ウェブサイト(税目別の税収の推移)
グラフの陰の部分は景気後退期だ。景気後退期には、所得税も法人税も減少する。これは企業収益の悪化、給与所得の低迷などを勘案すると、十分に納得がいく。しかし、消費税導入後は、景気拡大期でも法人税収の伸びが弱く、所得税収に至っては、横ばいか減少する。
一方で、税率を引き上げた消費税収は着実に増えている。これが、増税派が財政再建に役立つとする論拠だ。とはいえ、消費税収の伸びは景気拡大期、後退期に関わらず、ほぼ横ばいに推移する。このことは、8%から10%への増税では、消費税収は3兆円ほど増えることが予想できるが、それ以上でもそれ以下でもない。一方で、所得税収や法人税収は、これまでの例では、更に減少することが見込まれる。2015年度の実績では、所得税収と消費税収はほぼ同額だった。
このトレンドが続けば、日本の税収の最大の財源は消費税収となるが、それは税率を10%に引き上げても20兆円がいいところだ。税収のボトムは平成21年度(2009年度)の38.7兆円だが、消費増税後は所得税収の減少により、景気後退期に落ち込むことはもとより、景気拡大期でも、税収がそれ程増えないような構造になってしまう恐れが生じる。つまり、歳出が100兆円もあるのに、税収の上限が50兆円を切るようなことも想定され、「財政再建はどうするんだ?」、「社会保障の財源はどうするんだ?」との懸念どころではない、恐ろしい事態が出現しかねないのだ。
なぜ消費税導入後に広義の所得税が急減したのか?
では、なぜ消費税導入後に広義の所得税が急減したのだろうか? ここで課税のベースとなる日本の名目経済成長率を見てみよう。
参照図:名目GDP
出典:財務省ウェブサイト(統計表「四半期別GDP速報」から矢口が作成)
日本経済の規模は平成9年(1997年)にピークをつけた。この年の4月に消費税率が3%から5%に引き上げられているが、そのことが日本経済の成長を止めたようなことがあり得るのだろうか?
私は消費増税が日本経済低迷の主要因である可能性は、十分に考えられると見ている。上記のグラフの緑色の縦棒は個人消費だ。ご覧頂けるように日本経済の約6割を占める最大のエンジンだ。消費税は基本的にここに課税する。取りっぱぐれがないので、財政再建には欠かせないと、財務省や与野党の有力者たち、多くの学者たち、経営者たちが主張しているところだ。
例えば、個人消費を分かりやすく100兆円で推移していたとしよう。これは企業の売上となるので、ここから企業は給与を払い、負債があれば利息を払い、法人税を払い、設備投資や、研究開発費などをねん出する。これが平成元年からは3兆円天引きされ97兆円に減った。
実際の経済成長はその後も続いたが、法人税収はその年にピークをつける。個人が支払う所得税収も2年後にはピークをつける。これは、すべての原資となる売上が97兆円(100%-消費税3%=97%)に減少したためではないのか? そして、消費税率が3%から5%に引き上げられた平成9年(1997年)からは、企業の売上は5兆円天引きされ95兆円に減少した。そして、日本経済そのものが縮小に向かうことになった。
増税は、「官は公正で資金の使い方がうまい」という自信の表れ
日本経済の規模が約20年前から縮小していること自体には、いくつかの要因が考えられる。少子高齢化や労働人口の高齢化、そして円高による競争力低下などだ。しかし、日本経済の最大のエンジンである個人消費にブレーキをかけたことが、縮小に追い打ちをかけた可能性が高い。
では、天引きされた5兆円(現在は8兆円)はどこにいったのか? いったん国庫に入り、政府や官庁による公共投資や社会保障費を含む支出(歳出)となった。もし、これがうまく使われていたのなら、グロスの売上そのものは同じなのだから、経済成長が止まることはないはずだ。インフラ整備などの拡充でビジネスが効率的になり、社会保障が新たな労働や労働人口を作り出すことも可能だからだ。しかし、国や地方自治体の資金の使い方を見ていると、政治家や官僚が正しい資金の使い方を知っているとは思えない。いちいち事例を挙げるのが嫌になるほど無駄に使われ、日本経済を縮小させることになった。
増税は、「民間よりも、官の方が公正で資金の使い方がうまい」という自信がなければ、日本経済にマイナスとなり、成長も社会保障もダメになる。仮にこれまでの増税が、そういった自信の表れからだったとしても、20年近くも悪化させた事実には変わりがないので、今後も同じことを継続されては堪らない。増税後は成長が止まっただけでなく、税収すら減ったのだ。その間、歳出は増え続けたので、政府の借金は増え続けている。財政は悪化の一途だ。それでも私は、政治家や官僚が、私利私欲や個人的野心だけで「政治生命をかけて」増税し、無駄遣いし、日本経済を駄目にしてきたとは、思いたくない。
GDP600兆円は可能か?
安倍首相は、2020年までに日本経済の規模を600兆円にする目標を掲げている。そうであれば、上の名目GDPのグラフの意味するところを考えてみて頂きたい。経済成長率を1990年から1997年にかけての角度に戻すのであれば、消費税率を3%に、それ以前の角度に戻すのであれば、0%に戻す必要があるのではないか?
このグラフは、あと4年で600兆円に到達させたいとするならば、消費税率は0%に戻すことが必要だと示唆している。ここに異次元の緩和効果をプラスして、ようやくGDP600兆円は、首相の夢物語ではなくなるように思える。
企業収益が増えても税収がそれほど増えない構造
法人税収は消費税が導入された平成元年度(1989年度)に19兆円のピークをつけた。そのことについて、私は、売上から消費税分3%が天引きされたことにより、企業が人件費や利息、設備投資や研究開発費に回す分が減少し、縮小均衡が起きて法人税収や所得税収の減少につながったのではないかとの仮説を述べた。
私は、その仮説が的を射ていると思っているが、法人税収の減少には、他の要因、この仮説よりももしかすると、もっと影響力のある要因があったことも分かっている。財務省のホームページの同じ場所に載っているので、見逃していた訳ではない。極めて興味深いグラフだ。
参照図:企業収益と法人税率と法人税収
出典:財務省ウェブサイト(法人税 法人税収の推移)
法人税率は消費税が導入された平成元年度(1989年度)の40%から段階的に引き下げられ、現在は25.5%にまで低下している。その結果、企業収益が落ち込んだ時に税収源となるだけでなく、企業収益が急回復しても税収がそれほど増えない構造となった。特徴的なのは平成13年度から18年度にかけてで、企業収益が42兆円ほど増えたのに、税収は8兆円足らずしか増えなかったことだ。
法人税率の引き下げは、企業の競争力を高めるためだというのが建前だ。確かに、この期間の日本企業は少子高齢化や労働人口の高齢化、そして円高による競争力低下という逆風下にあった。それだけではない。米国は、米ソ冷戦時には、極東の最重要パートナーとしてそれなりに優遇してきた日本を、1991年のソビエト連邦崩壊後は、経済的な目下のライバルとして見始め、多くの難題をつきつけてきた。その後の日本経済、日本企業が米国の最大のライバルから陥落した事実を鑑みれば、消費税の導入と法人税率の引き下げも、米国の日本経済潰しのための入れ知恵かと勘繰りたくなるくらいだ。
加えて、台湾、韓国、香港、シンガポール、ASEAN、そして中国の台頭により、日本企業は世界経済におけるその地位を下げていった。とはいえ、これらの国の台頭は、大きなビジネスチャンスの到来でもあったので、必ずしも逆風とみなすことはできない。順位は下げても、日本自体の経済成長が止まることの理由にはならない。
いずれにせよ、大幅な税制改革から20数年を経て判明した事実は、法人税率の引き下げで法人税収は減ったが、企業の競争力もまた低下し続けたということだ。少なくとも、消費税導入による悪影響を補うことはできず、経済規模は縮小し、税収は激減した。
ゾンビ企業を生かしも殺しもしない政策
法人税収の減少は、企業収益が増えても税収がそれほど増えない税制としたため、今後も大きく増える見通しが立たないが、他にも大きな要因がある。欠損法人、つまり、税金を納めていない企業の増加だ。
参照図:欠損法人
出典:財務省ウェブサイト(法人税 法人数と欠損法人割合の推移)
欠損法人は全法人約260万社の7割以上、資本金1億円超の法人の約半分を占めている。そして、それは平成元年の税制改革直後から基本的には増え続けている。
このところの世界経済の低迷を、市場資本主義の敗北だと解説する人たちがいる。一方で、世界の主要国はほぼゼロ金利やマイナス金利政策という市場資本主義ではあり得ない政策を長く続けている。未曽有の量的緩和も、市場に任せる経済から、政府が主導する経済になったことを象徴している。つまり、市場資本主義は自ら崩壊したというより、大きな政府を望む各国の指導者たちに潰されかけている。
欠損法人が7割を超えることは、市場資本主義ではあり得ないことだ。それが長年生き続けていることは、ゾンビ企業を存続させる国の政策が行われていることを意味する。これがデフレの大きな要因であり、競争力低下、財政赤字拡大の1つの要因だ。そして、それを負担しているのが消費税であり、ほぼゼロの貯蓄金利であり、年金、保険の超低利回りだ。どれもが、個人が負担する部分だ。つまり、日本国民の負担はかってないほどに高まっている。
上記、欠損法人のグラフが今更ながらに教えてくれるのは、ゾンビ企業が増えるにつれて、日本が、日本人が貧しくなってきたということだ。このままでは、国も個人もゾンビ化する。
一貫した個人から企業への所得移転
平成元年に始まった消費税の導入と、それに伴った法人税率の引き下げは、政府を仲介に、個人から企業への所得移転を意味する。ほぼゼロ金利政策やマイナス利回りで、貯蓄や年金、保険資産を侵食し、ゾンビ企業を存続させることも、個人から企業への所得移転を意味する。正規雇用から非正規雇用への転換も、個人から企業への所得移転を意味する。その意味では、昭和末期以降の日本の経済政策は、一貫して個人から企業への所得移転を意味している。
個人と企業、どちらを優遇すべきかについては、あえて触れないでおこう。インフレ政策が狙っているように、企業を優先することで国が栄え、結果的に個人が恩恵を受けるのなら、意見の相違があっても、議論の余地があるからだ。
問題は、個人から企業への所得移転を進めたことで、個人資産が侵食されたことはもとより、日本経済そのものが縮小し始め、税収が急減し、国の財政が破綻状態となったことだ。優遇されたはずの企業も以前のような輝きがない。つまり、この税制改革で得したのは、個人でも企業でも、国でもない。一部で富の独占があるのだろうが、少なくとも日本国内の大半が貧しくなった。
にもかかわらず、政府、財務省、与野党の有力者たちは、インフレ政策を採り、財政再建を建前に消費税率の更なる引き上げを画策し、マイナス金利政策でゾンビ企業の更なる延命を図っている。つまり、個人から企業への所得移転を更に押し進めようとしている。これだけの資料を用意している財務省が、これで財政再建ができると信じているとは思えないのだが。
景気後退時でも消費税収なら安定しているという意味
国外に目を向けると、サブプライムショック後のユーロ圏諸国では、住宅バブル崩壊後の景気後退時に利上げされ、傷口が大きく広がった。また、リーマンショック後に財政出動を試みた国々の首長は例外なく全員解任され、後任の首長が緊縮財政を受け入れた。経済危機時に利上げしたり、緊縮財政を行うことは、教科書的にも破壊的な行為なのだが、現実にそれが行われ、それらの国々の経済は文字通りの破壊的な打撃を受けた。その後、ECBがマイナス金利政策、量的緩和政策を採ってからは、それなりに回復してきているが、今も多くの国の失業率は2ケタ台から下がらない。
経済危機時の利上げや緊縮財政とは、例えれば、震災などで税収が落ちたところに復興予算を組む代わりに、財政再建と称して予算を削り、支払い金利を引き上げ、公務員を解雇するようなことだ。これは実際にギリシャなどで行われた。そして債務返済のために民営化された港湾をはじめとしたインフラ設備を買ったのは、主にドイツと中国だった。これは、はっきりとした「悪意」なのだが、ユーロ圏の取り決めということで押し切られた。
そういう事実を目の当たりにしていると、社会保障費の財源確保のために消費税率を引き上げたということにも、「悪意」がないかを検証する必要があるかも知れない。これまで述べてきたように、消費税導入と法人税率の引き下げ以降、日本経済は縮小を続け、税収が減り、国の財政が破綻状態となった。そして、日本全体が貧しくなった。ここでの更なる消費税率の引き上げで、財政再建が成ると言うのは、詭弁でしかない。
百歩譲って、それでも所得税収は景気に左右されるが、消費税収は安定している点は認めよう。とはいえ、景気後退時でも消費税収なら安定しているという意味は、飢饉の時にでも年貢が取れるという意味だ。そのしわ寄せは、間違いなく教育や先行投資といった、未来にかける資金の減少につながる。夢など追っていないで、カネにならない勉強などしないで、働いて1円でも稼げという考え方だ。そして、若者が未来を犠牲にして稼いだ1円を、財政再建と称して国が持っていく。
スペインでは財政再建のために、多くの雇用が犠牲になった。20歳代の若者の約半数が5年ほども仕事につけないでいる。私は、半数の若者が長期間、労働力とならないで、その多くが社会保障費を受け取って、それで財政再建がなるという考え方が理解できない。この考え方は、スペイン人の考え方というよりは、EU政府や国際機関の考え方だ。私は、スペインは、その未来も幾分かは侵食されたのではないかと思う。
政府が財政の健全化を願うならば、消費税を0%に
雇用市場に関する限り、アベノミクスは大きな成果を上げたが、日本の未来を考えるのなら、景気後退時でも消費税収が安定していることの恐ろしさを真剣に考えてみるべきだ。また、景気拡大期に税収の伸びがないのでは、どうやって借金を返すつもりか?
政府が財政の健全化を願うならば、財務省が用意している資料を正しく分析し、消費税を破棄して、経済成長による所得税収増に賭ける忍耐が必要だ。仮に経済が成長し、利益が上がっているのに税収が増えないのなら、税率を上げるべきは法人税や所得税だ。種まきや若木の時期に刈り取ってはいけない。収穫は、豊かな果実ができるのを待ってからにするべきなのだ。
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