2016年4月2日、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は、シャープ(6753)を買収した。
共同記者会見における質疑応答によって、鴻海の買収理由が明確になった。
【液晶事業の買取条項】
鴻海の会長である郭台銘氏は、共同記者会見において、 “契約が破談になった場合に鴻海が液晶事業を買い取れる権利” が盛り込まれていることについて、
「万が一のために入れた。そうなりそうな理由を思いつかないくらいだ」と説明した。
鴻海がシャープを買収した理由は、巷間で多種多様な解釈がなされている。
だが、この条項がそれを端的に表していると言える。
鴻海は、「シャープの液晶事業(特に最先端液晶技術のイグゾー)が欲しくて買収した」のである。
【契約破談条項の裏の見方】
契約が破談となった場合、鴻海はシャープの液晶事業のみを買い取る権利がある。
裏を返せば、「液晶事業以外には魅力を感じていない」と言っているに等しい。
具体的には、「太陽光、家電、複写機等の事業に魅力を感じていない」と意思表示したも同然だ。
そう思わせるもう一つの理由としては、会見の終わりに、「これからはイグゾー(最先端液晶技術)ですと申し上げて会見を終わりたい」と郭会長は述べていたことも付け加えておく。
【決算書から見るシャープ】
売上高だけ見れば、コンスタントに2兆5千億円を計上する超優良企業である。
しかし、高コスト体質のため、2015年3月期には2200億円もの赤字を計上している。
この結果、バランスシートの純資産が少なくなり、純資産対売上高の比率が60倍を超える水準となった。
自社の体力(純資産)に比べて、過大な売上となっており、過去に倒産した企業と同様の比率となっている。
そのため、倒産予知システムであるアラーム管理システムでも、ボーダーラインの40点以下の点数になると共に、「売上規模が自社の体力を超えており、リスキーで3年以内での破綻あり。」というコメントが出力された。
【総括】
鴻海が欲しいのは液晶事業のみだった。
それゆえ、契約の破談の有無に関わらず、「鴻海にとって保有するメリットがない」と判断された時点で、他の事業は切り離されると考えるのが自然である。
郭会長の「鴻海もシャープも独立したグループだ」という発言をそのまま受け取るのはナイーブすぎる。
取締役も株式も過半数を握るのは鴻海であり、郭会長の匙加減一つで液晶事業以外は、規模の縮小・売却・精算といった事態が考えられる。
シャープの買収で鴻海に敗れた産業革新機構に対して、鴻海から「液晶事業以外の売却打診!」という話があっても、何ら不思議ではない。
※ 参照資料
・日本経済新聞 2016年4月3日朝刊
『鴻海・郭氏、融和買収を演出』
■シャープに関するブログ■
・シャープ買収報道で出現した新キーワード=潜在的債務(偶発債務)(2016年3月1日)
http://alox.jp/blog/2016/03/01/61
・“迷走”を体現したようなシャープの買収劇(2016年3月29日)
http://alox.jp/blog/2016/03/29/65
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