シリア内戦は、2011年のいわゆる「アラブの春」で、アサド政権に対する抗議運動をきっかけとして始まった。そのとき、同国は2006年後半から続く3年以上におよぶ史上最悪の干ばつに襲われていた。厳しい干ばつが続いた結果、農村から都市に大量に人が移動していた。
米国が主導したイラク侵攻を逃れてきた150万人の難民を加えると、シリアの各都市の人口は2002~10年にかけて50パーセント増加した。
政府はほとんど何も対策を講じなかった。干ばつ被害が最も深刻だった地域が、昔からずっと差別され、無視されてきたクルド人の居住区だったことも問題の放置につながった。さらに、政治的腐敗も問題を悪化させたとされる。
私は「シリアはいずれ米国に潰される」と見ていた。米国の言いなりにならなかったアフガニスタンやイラクが、濡れ衣を着せられて潰された時に、アサド政権は一貫してフセイン政権支持を貫いたからだ。
その後のシリアは、アサド政権こそロシアの支援で居残っているが、一面では代理戦争の様相を帯び、国情はイラク並みになっている。ここで、アサドが居残るからかえって惨状が拡大しているとの見方も可能だが、フセイン後のバグダッドが未だに世界で最も危険な都市とされているのを見ると、力で抑え込むことだけでは治安が維持できないように思える。
「アラブの春」といえば、エジプトで成立した民衆の政府を、軍がクーデターで倒し、今は軍事政権となっている。米国の世界に対する軍事援助はイスラエルに次ぎ、エジプトが2番目で、この2カ国で大半を占める。後は、アフガニスタン、イラク、ヨルダンなど、分かりやすい国々だ。米国は軍事的政権を支持している。治めやすいからだ。これで米国など西側諸国が掲げる民主主義擁護は建前だけに過ぎないことが分かる。米国内でも同様で、米国人が懸念することのNo1は、「自国政府」だ。それで、銃器規制も効かない。
それはさておき、「地球温暖化」による干ばつや洪水、海面の上昇は、今後の世界を不安定にさせる。民族大移動が、今後の地政学的リスクの最大のものになるのかもしれない。
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