英語の学び方

著者:矢口 新
投稿:2015/10/26 10:25

2020年の東京オリンピックを前に、英語を代表する外国語を身につけることが、重要視されている。日本企業でありながら、社内言語を英語に定めた企業が話題になったのは、もう何年も前だ。

私自身はメルボルン大学を卒業し、仕事でのニューヨークやロンドン在住を合わせると、10年ほど英語圏で暮らした。メルボルン大学での同級生(オーストラリア人)で、いまモナッシュ大学の教授をしている友人とはまだ交流があり、ロンドンや東京にも遊びに来てくれたが、それでも完全な意思の疎通は難しい。

そこで、未だに英語の学び方に興味を持ち、そんな記事を目にすると、フムフムと頷いている。そんな1つをご紹介がてら、今も私が続けている外国語の学び方にも触れさせて頂きたい。

・英語に触れる環境に身を置く?

「どうすれば日本にいながら英語運用力が身につくのでしょうか。ずばり、積極的に英語に触れる環境に身を置くことです。安易な方法としては英会話スクールやエアラインスクールの英語の授業があるのかもしれないですが、教室の中では生きた英語を学ぶことは難しいです。

筆者が支援した学生の例では、海外留学生のバディーになるのが最も一般的です。学内に留学生が多いにも関わらず彼らとの交流の場が無かった大学に通う学生は、自ら英語サークルを立ち上げて1年足らずでサークルメンバーを40人に増やし、活発に英語を使って活動しています。

また、海外から多くの観光客が訪れる、浅草寺近くの個人経営のカフェで接客アルバイトをした者もいます。個人経営のカフェなため、お客様と頻繁に会話を交わすことができるのだそうです。グローバル化が進んだ今の日本では、このように日本に居ながら生きた英語を身につける場所は非常に多くあります。ましてや学生ならば、自ら動けば多くの機会を得ることができるはずです。受け身でなく、どんどん動いて力をつけて欲しいです。自ら動ける人材を、いまの航空会社は求めているのですから。」
参照:「海外経験なし」でCAになるための英語学習法
http://toyokeizai.net/articles/-/86877

私のように、英語に触れる環境で、授業を受け、試験を受け、卒論を書いても、また、誤解が許される余地のない仕事を英語で長年続けていても、十分な意思の疎通は難しい。

特に日常会話は生きて流れているので、分からなくても、何度も聞き返すことができない。1時間会話したとして、内容の半分も分かれば、自分も相手も何となく意思の疎通ができたように思い、「あなたの英語は完璧だ」などと、お世辞を言われることすらある。ところが、そんなことをどれだけ繰り返しても、そのままでは上達しない。分からないことを、分からないままでいるからだ。

その意味では、英語に触れる環境に身を置くだけでは、英語に慣れるだけで、英語がうまくなることはない。実際、移民1世の人たちには、その後何十年もその地で暮らしても、バディーになり、カフェに通っても、その地の言語がうまく話せない人たちがいる。

・知らないとうまくはなれない

昔の同僚にカラオケが下手な人がいた。魅力的な低音を持っているのに、歌はまったく駄目だった。しかし、何年後かに再会すると、とんでもなく上手くなっていた。以前は歌をあまり知らなかったが、その後、カラオケのあるクラブ通いで練習を積んだらしい。つまりは、そういうことなのだ。

投資で儲けられない人たちがいる。私がその人たちに聞きたいのは、どれだけ投資のことを知っているかだ。価格がなぜ動くのかを知っているのか。市場は、大別すると正反対ともいえる性質を持つ、二種類の参加者がいることを知っているのか。「美人投票」する人たちばかりではないのだ。投資が下手なのは、投資のことを知らないからだ。

スポーツも同じ。囲碁や将棋も同じ。他のゲームも同じ。仕事も同じ。言語も同じだ。よく知らないことでも、それなりに楽しめるかもしれないが、上手くはなれない。


・外国語の歌を覚える

私自身の経験では、外国語の歌を覚えるのが、その言語上達への一番の近道だ。歌が下手なのは、その歌をよく知らないからだ。知らないのは、聴く回数が少ないからだ。

私はどの歌でも、数十回は聴く。数百回、あるいは千回を超えて聴いた歌もあると思う。そんな歌では、英語、ロシア語、イタリア語の歌は、ネイティブの人たちから褒められた。フランス語の歌も挑戦中だが、自信はある。不安に思うところは発音ソフトで確認するだけでなく、同じ歌の違う録音、また他の人が歌っているのを聴いている。たぶん、「シェルブールの雨傘(Ne Me Quitte Pas)」と、「Et Moi Dans Mon Coin」は、合格点ぐらいでは歌えていると思う。

最初から最後まで覚えて歌えるようになるには、意味を知る必要がある。丸暗記だけでは、1年後、2年後には歌えない。聴き、歌詞検索で歌詞を知り、聴いて確認修正し、意味を調べ、覚え、歌うと、その言葉が上達する。発音も良くなる。忘れると、聴き直す。

一例を挙げよう。ユーチューブで、「Leon Russell – This Masquerade – Leon And His Piano」を検索して貰いたい。3分22秒のものだ。

・This Masquerade

Are we really happy here with this lonely game we play?
Looking for the words to say
Searching but not finding understanding anyway
We’re lost in this masquerade

Both afraid to say we’re just too far away
From being close together from the start
We tried to talk it over but the words got in the way
We’re lost inside this lonely game we play

Thoughts of leaving disappear each time I see your eyes
No matter how hard I try
To understand the reason that we carry on this way
We’re lost in this masquerade

Thoughts of leaving disappear every time I see your eyes
No matter how hard I try
To understand the reason that we carry on this way
We’re lost in this masquerade
We’ve just got over but it’s also hard to be
When we’re lost in the masquerade

この曲は、ジャズ、ポップス、R&Bの3分野で同時に1位になった最初の曲らしく、1976年にはジョージ・ベンソンの歌で、グラミー賞「最優秀レコード賞」を獲得したとの解説がある。

この曲の上記のものと、George Benson、The Carpenters、Shirley Basseyなどを聴き比べて欲しい。歌詞の違いにも気付くはずだ。昔はジョージ・ベンソンの歌が好きだったが、今はオリジナルのレオン・ラッセルの、上のバージョンが格段に好きだ。

この歌にあるように、意思の疎通は(たぶん)一緒に暮らしていても難しいのだ。

「Looking for the words to say」を、カーペンターズは「Looking for the right words to say」と歌うが、他の部分の歌詞の違い同様、レオン・ラッセルより、イージーリスニング化されてしまっている。そんな違いに思いを馳せているうちに、英語が上達する。

・覚える時間がない?

まずは、ちょっとした空き時間にひたすら聴く。昔聴いた自分の覚え違いを修正するためだ。メロディーが頭の中に流れるようにするためだ。

次に意味を考えながら、分からない部分は調べながら、歌い始める。最初は、早すぎて歌えないと思えるところも、繰り返しで歌えるようになる。まさしく、継続こそが力なのだ。

覚えるのは、歩いている時、電車に乗っている時、寝る前、夜中に目を覚ました時などだ。トイレや風呂、自動車の運転中にはいつも歌っている。寝る時の学習効果は証明されているようだ。
参照:レム睡眠が学習に効果、脳波強まる 筑波大発見
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO93146270S5A021C1CR8000/

弊害があるとすれば、いつも頭の中にメロディーが流れていて、なんだか夢見心地になってしまうことだ。

食事中でも、もはや「looking for the words to say」すら行わず、上の空で相槌を打ってしまっている。「I’m lost in this masquerade」なのかもしれない。

配信元: みんかぶ株式コラム