アラジンと魔法のランプ

著者:矢口 新
投稿:2015/04/20 13:31

・投資のゴールは金持ちになることだけなのか? 

劇団四季がディズニー提携のミュージカル「アラジン」を公演する。ディズニー・バージョン、劇団四季バージョンの結末は知らないが、子供の頃、絵本などで読んだ「アラジンと魔法のランプ」の結末は、魔法のランプを取り返したアラジンが、美人の妻と幸せに暮らすところで終わるようになっていたかと思う。いわゆる、And they lived happily ever after、そして2人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ、という結末だ。子供の頃の私は、夢の中でそういった「魔法のランプ」を手に入れ、何とも幸せな気分に浸っていた。

ところで、あなたは何でも叶えられる「魔法のランプ」で幸せになれると思えるだろうか? 私が想像するには、まず美人の妻が「魔法のランプ」を欲しがるようになると思う。アラジンが「魔法のランプ」に叶えてもらった豊かで幸せな家庭が、妻にとっても理想的な家庭だとは限らないからだ。子供たちができれば、子供たちが「魔法のランプ」で、親に逆らってでも、何でも叶えようとするだろう。

共産主義社会が理想の社会だと思われていたことがあった。私はここで、政治や主義主張を述べようとは思わないので、共産主義を「魔法のランプ」としておく。つまり、それさえ手に入れれば、あなたの望む、理想的で幸せな社会が叶えられるのだ。ここでのポイントは、あなたが望む理想だということだ。もしかすると、あなたの理想は万人の理想ではないかもしれない。多数派の理想ですらないかもしれない。

共産主義社会をつくるのは人だ。先頭に立つのは権力者だ。あなたが権力者で、理想の社会をつくる能力があるのなら、少なくともあなたの周りの人々はすべて、今現在、幸せで満ち足りた人生を過ごしているに違いない。これは、共産主義だけには限らない。政治家や官僚、企業経営者、教育者など、すべての権力者が心に留めておくべきことだ。

大金は「魔法のランプ」に似ている。大金を得れば、何でも叶えたくなる。あなただけが大金を使う権限を持ち、周りを支配すれば、少なくとも周りの人々は、あなたから信頼されていないと感じるようになる。権限を分配すれば、それぞれがそれぞれに自分の欲望を何でも叶えようとする。

何を食べるかよりも、誰と食べるかの方がより幸せになれる。楽しい食事なら、何を食べてもそれなりに美味しい。しかし、信頼関係がない人との食事は、それほど楽しくないかも知れない。大金は人生を複雑にする。

「魔法のランプ」は魔物だ。その後のアラジンは、いつまで幸せに暮らせたのだろうか?


・投資を学ぶことのメリット

投資を学ぶことのメリットを列挙してみよう。

1、収益源になる可能性を高める

私は専業トレーダーになりたいと言う人には、通常、考え直すように助言している。副収入の手段とすることで、最も安定した投資が行えるからだ。投資収益だけで生活するには、当初の資金が大きくないと非効率だ。
参照:自分でも体験できる格差の拡大
https://money.minkabu.jp/49667

とはいえ、他に選択肢のない方々には、貴重な収入源ともなる。例えば、自宅から離れられない、あるいは自宅にいる方が望ましい方々にとっては、居ながらにして、また比較的時間をかけずに生活費を稼ぐことも可能な、数少ない手段だ。私はこういった人たちのお力になりたいと思っている。

2、自己実現の機会を得る

人が働く時、自己裁量で行える部分が大きいほど満足感も大きいとの調査結果がある。究極的には経営者の満足が一番大きいのだ。とはいえ、働く人すべてが経営者のように自己裁量を振るえば、会社組織は成り立たない。

投資は資金を自己の裁量で運用し、収益を追求するという意味で、利益の部分だけを取り上げた会社経営に似ている。実際、自分のやりたいことを行っている会社に投資することは、株主としてその経営に加わっていることに等しい。投資を通じて、自己実現の機会を得ることができるのだ。

3、リスクヘッジになる

例えばA社に勤め、余裕資金の全部で自社株を買っていたなら、その人はA社と運命を一蓮托生にしていることになる。その人がB社の株を買っていたなら、A社が潰れても、B社の株は残る。この時、A社とは正反対の動きをするB社ならば、A社が潰れた時に、B社株が大きく値上がりしている可能性がでてくる。つまり、リスクヘッジとなるのだ。

インフレ時には、株式投資がリスクヘッジになるのはよく知られている。

4、合理的な考え方になる

世の中は嘘に近い情報で溢れている。歴史で真実と思われているようなことはもとより、今現在、世界各地で起きていることですら、情報操作によって歪められていて、どこまで真実かが分からない。

一方で、損益がからむ市場価格はどこまでも合理的に説明が可能だ。どう考えても合理的とは思えないマイナス利回りのようなものでさえ、事情と意欲とを噛み合わせて消化してみると、合理的な説明ができるのだ。

そういった合理的な考え方で違う立場からなされている報道、情報を吟味する時、どちらの情報がより歪んでいるかが見えてくるようになる。投資は合理的な考え方の訓練ともなるのだ。

ファンタジーを好むのは構わないが、それで物事や人を判断してはいけない。

5、相手の立場が理解できるようになる

相場では常に売り手と買い手とが向かい合っている。つまり、正反対の事情や意欲を抱えた人たちが、ほんのわずかの売値、買値のスプレッドを挟んで向かいあっている。そして、外部状況の変化により、双方の事情や意欲が変化し、市場価格が変動する。

相場は、自分と向かい合った正反対の立場を理解する訓練の場でもある。

6、知識が増える

外部状況の変化、双方の事情や意欲の変化を知ろうとする過程で、実に多くの知識が自然に身に付き、市場価格変動の予測に活かせるものとなる。

7、リスクとリターンに敏感になる

生きることそのものがリスクとリターンだ。投資はリスクとリターンが生の状態で見え、結果がすぐに判明するので、恐い、避けたいと思う人が多い。しかし、結果がすぐに判明するからこそ、対処することができる。死ぬ直前に間違いに気付く投資などないのだ。そして、人生で取り返しのつかないものなどないと、身を持って知ることができるのだ。

しばしば人の人生を変えてしまうような投資を扱うのに、慎重であるに越したことはない。とはいえ、ざっと挙げただけでも投資を学ぶことのメリットがこれだけある。投資の勉強にもまたリスクとリターンとがあるのだ。

配信元: みんかぶ株式コラム