リスクを取る価値

著者:矢口 新
投稿:2014/10/20 10:39

JPX日経400指数には入れ替えがあるので、長期保有でも甘やかしの少ない応援に近い運用ができる。円安、量的緩和という支援材料に加え、NISAは非課税ということで、リスクが大きい長期保有とはいえ、私はリスクを取る価値があると見なしている。

・どこを向いての政策?

先週、元日銀理事の早川氏が「日銀は2年で2%の物価目標達成というメンツを捨て、年内にデフレとの戦いに勝利宣言をすることで『勝ち逃げ』し、異次元緩和からの早期撤収に向かうべきだ」と述べた。「異次元緩和は社会的実験でありギャンブルだったが、何はともあれ円安になり株が上がり、物価も1%台は維持できそうだ。ギャンブルとして評価するとまだ勝っている。最終的にギャンブルで勝つための要諦は勝ち逃げだ。いかに勝っているうちに終わるかが大事だ」と言ったという。
参照:日銀はメンツ捨て「勝ち逃げ」、年内に緩和縮小表明を-早川氏
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NDFCC66S972U01.html

どうにも納得のいかない発言だ。「円安になり株が上がり、物価も1%台は維持できそう」とあるが、どれが日銀の成果なのだろう。

ドル円が75円台の大底を打ったのは2011年、トレンドラインの上抜けは2012年10月から11月、異次元緩和は2013年4月だ。その前の同年3月には、すでに96円台まで上げている。また、米連銀が緩和終了に向かっていることでの円安は、日銀だけの手柄ではない。

株はどうだろう? やはり2012年10月から11月頃から買い始めた海外勢は、2013年4月の異次元緩和とは無関係だ。12月末に発足した安倍政権の手柄とするのも無理がある。それよりも、米国で同時期に始まった債券から株式への資金移動の余波と考えるのが自然だ。現に、株高となったのは日本だけではない。むしろ日本株は見劣りするくらいだ。

また、インフレ政策で必然的に目減りする貯蓄資産への対応策として「貯蓄から投資へ」と喧伝され、2014年初めから導入されたNISAの利用状況は期待外れで、同時期に理想的な投資物件として導入されたはずのJPX日経400指数は、10月以降の株下げで、1月導入時点の価格を大きく下回った。貯蓄がインフレで3%以上目減りしたことを鑑みると、「貯蓄も駄目、投資も駄目」となっている。何をしても損をしたのは国民だ。

物価は、消費増税分が3%近くある。これで可処分所得が減り、せっかく円安で上向いた景気が減速気味だ。円安は私の見方では、2011年に黒字から転じた貿易赤字によるものが一番大きい。

日銀がここで逃げれば、勝ち逃げというより、「負け逃げ」だ。また、逃げ場のない一国民として、私は、「勝ち逃げ」発言と共に、「社会的実験でありギャンブル」という発言にも、大いに違和感を覚える。早川氏が「元」日銀理事で国民は救われた。

とはいえ、現職総裁黒田氏の最近の発言からも、どこを向いての政策かが分からない。追加緩和が効果的だと思われた局面をことごとくやり過ごし、景気減速のデータや株安は、消費税率再引き上げの妨げとはならないと繰り返している。増税せねば、世界から見捨てられると、国民に背を向け、IMFや世銀を意識したような発言だ。

大きな政府の恒常化が真の目的ならば増税が適切だが、財政再建が目的ならば、増税よりも経済成長が適切なのは、金融危機後の欧米の政策が教えてくれている。
参照:増税か、経済成長による税収増か?
http://fx.minkabu.jp/hikaku/fxbeginner/united-states-budget-deficit/

私は株式の長期保有はリスクが大きいと言っている。最近の株安で、改めて痛感している。最も安全で収益性の高い投資手法は谷越えを見極めて買い、山越えを見極めて売ることで、そういった転換点の見極めは理屈とコツを学び、繰り返すことで上達する。

株式投資は企業を応援するものという考え方もあるが、身内に対してさえ、甘やかしでない応援は難しい。経営者が、赤の他人の資金を預かり、裁量権を与えられて運用していることを自覚していれば、投資家の運用手法に注文をつけるのは筋違いの甘えだと分かるはずだ。

その点、JPX日経400指数には入れ替えがあるので、長期保有でも甘やかしの少ない応援に近い運用ができる。円安、量的緩和という支援材料に加え、NISAは非課税ということで、リスクが大きい長期保有とはいえ、私はリスクを取る価値があると見なしている。

黒田氏や早川氏が逃げても、私は逃げずに居続けるつもりだ。


・前評判は当てにならない

阪神タイガースがクライマックスシリーズで対読売ジャイアンツに4連勝し、日本シリーズ進出を決めた。ここ数年、クライマックスシリーズを含め、終盤戦には決まって失速し、「期待外れの阪神」が定着していたように思うが、今年は、別の意味で思惑とは違った展開となった。

中途半端な時期にトップに立つと、決まって失速するので、ぎりぎりまで2位でいい、3位でもいいと思ってきたが、クライマックスシリーズで急に強くなった感がある。とはいえ、データを見ると強い阪神が見えてくる。

前評判は悪かった。外人枠の関係で先発エースの1人スタンリッジをソフトバンクに出し、代わりに入れた呉昇桓とゴメスがどこまでやれるのか、懐疑的な記事が多かった。また、大リーグ帰りの福留と西岡も、怪我もあってこれまで活躍したとは言えず、和田監督を責める記事が多かった。しかし、クライマックスシリーズでは、彼らの活躍なしには、日本シリーズ進出はできなかったかと思う。

エースと4番が仕事をするチームは強いと言われる。そこに若手とベテランとが噛み合うと最強だ。振り返ってみれば、今年の阪神がそうだった。

セリーグで、阪神選手が1位をとったタイトルだ。

野手
打率1位:マートン(神) .338
打点1位:ゴメス(神) 109

投手
勝利1位:メッセンジャー(神) 13
     山井 大介(中) 13
セーブ1位:呉 昇桓(神) 39
投球回1位:メッセンジャー(神) 208回 1/3
完投1位:メッセンジャー(神) 3
     能見 篤史(神) 3
     山口 俊(De) 3
完封1位:メッセンジャー(神) 3
奪三振1位:メッセンジャー(神) 226

エースと抑え、4番と5番がセリーグ1番の活躍をした。3番の鳥谷はチームの勝敗はその出来不出来にかかっている位の活躍をした。そこに若手とベテランとがうまく噛み合った。ちなみに、奪三振2位は2年目20歳の藤浪晋太郎(神)の172個だ。

和田監督は人選から采配まで、うまくリスクを取っているように思える。日本シリーズが楽しみだ。

配信元: みんかぶ株式コラム