31年ぶりに実施されたミャンマーの新しい国勢調査の結果が話題になっている。特に、従来の推計人口より1000万人も人口が少ない点に注目が集まっている。
この人口修正はミャンマー経済にどのような影響を与えるか。一人当たりGDPは幾らになるであろうか。今回の国勢調査の結果を受けて、日系企業のミャンマー進出計画に見直しの動きが出るであろうか。
1、一人当たりGDPの推計(試算)
筆者は先に、小論「ミャンマー国勢調査の結果(暫定)」を当WEBに発表した(2014年9月11日掲載)https://money.minkabu.jp/46686。 国勢調査によると、ミャンマーの人口は5142万人であり、従来の推計人口より約1000万人少ない。
新しい国勢調査の結果は日系企業のミャンマー進出に影響が出るのではないかと言う議論がある。推計人口が1000万人も減少すれば、ミャンマーの市場規模の見方に変化が出るからだ。GDPの規模、あるいは一人当たりGDPの大きさについても変化が出よう。そこで、本稿では人口の大幅修正により、一人当たりGDPがどう変化するかを試算した。
人口の修正に伴うGDPの変化は個人消費支出の項目だけであり、他の支出項目に変化は出ない。個人消費支出は家計調査(生計費調査)に基づいており、それに人口を乗じて推計されるからである。その他の支出項目は、例えば公共事業、企業設備投資、海外経常余剰などは人口に関係しない。そこで、個人消費だけに着目して、1000万人の人口減に対応した新GDPを大雑把に試算してみた。推計方法の詳細は表1の(注2)に述べた。
表1 ミャンマーの一人当たりGDPの推計(試算)
(注1)2013年値はIMF, World Economic Outlook Database, April 2014による。
(注2)筆者による試算は下記の手続き(前提と方法)で行った。
a)国内総生産(支出法)を個人消費支出とその他支出に分離した(個人消費の割合77%と前提した/2010年度実績)⇒2013年個人消費43,434百万㌦。
b)ミャンマー政府発表人口で一人当たり個人消費を算出し、それに国勢調査人口を乗じて新しい個人消費支出を推計した。⇒36,256百万㌦。なお、政府発表人口はCentral Statistical Organizationによる2012年61.0百万人の1%増とした。
c)個人消費以外の支出項目は人口変動に関係ないので、上記a)の数値をそのまま利用した。
d)上記b)とc)を合計して新GDPを算出し、それを国勢調査人口で除して新しい一人当たりGDPを推計した。
e)支出法国民所得はCentral Statistical Organization,〝Statistical Yearbook 2010″2012年刊による。
国勢調査に基づく新人口5142万人に対応したGDPは492億㌦と推計される(2013年)。従来の564億㌦に比べ72億㌦の減少である(従来比13%減)。従来考えられていたよりミャンマーの経済規模は小さいのである。しかし、一人当たりGDPは957㌦となり、従来推計の869㌦より大きくなる。(注)
(注)人口が減ったことにより、一人当たりGDPはその分大きくなり1097㌦になると考えるのは間違いである(564億㌦÷5142万人=1097㌦)。GDPの推計方法に想いを馳せるべきである。人口の修正があれば、個人消費支出の推計が変わり、GDP値も変わるのである。その結果、一人当たりGDPの上方修正率は人口修正率よりも小さくなる。
もちろん、以上は人口修正に伴う変化だけに着目したのであって、他の要素は考慮していない。また、個人消費支出の推計に当たり、手元にある統計資料の都合上2010年度の支出法国民所得を使ったわけであるが(個人消費の割合77%)、最新時の統計では少し修正されるかもしれない。
さらにまた、これは一研究者の個人的興味からの試算であり、ミャンマー政府が従来発表してきたGDPを修正するかどうかはわからない。本来なら、政府自ら6100万人(中央統計局)としてきた人口が5100万人に下方修正された以上、GDP経済規模は修正されてしかるべきであるが。〈もし過去のGDPが修正されない場合、今後発表されるGDPはこれまでのGDPとは連続性のないものになろう〉
2、日系企業の進出に影響出るか
人口が1000万人減となり、経済規模が564億㌦から492億㌦に下方修正される。今回の国勢調査の結果を受けて、ミャンマー進出をめざす日系企業に影響が出るであろうか。
良質で安価な労働力をめざしてミャンマー進出を計画してきた企業には、影響はないであろう。推計人口が修正されただけのことであって、豊富な労働力の存在という実態には変わりはないからである。チャイナ・プラスワンとして生産拠点をミャンマーに移し、世界に向けて輸出する企業計画には変更の必要はないであろう。
しかし、ミャンマーの“国内需要”を狙って進出を計画している企業にとっては、人口の減少、経済規模の下方修正(見方の修正)は、進出計画に影響が出てもおかしくはない。ただし、ミャンマーがこれから発展する新興市場であることには変わりはない。この点を忘れずに再検討が行われるべきであろう。
3、最貧国を卒業できるか
ミャンマーは従来、ASEAN最貧と呼ばれてきた。新推計では1人当たりGDPが957㌦(2013年)になったが、「最貧国」を卒業できるであろうか。
国連の定義によれば、後発開発途上国(Least Developed Country)の定義は以下のとおりである(外務省ホームページによる)。LDCは「最貧国」とも呼ばれている。
基準(2012年) 以下3つの基準を満たした国がLDCと認定される。ただし、当該国の同意が前提となる。
(1)一人あたりGNI(2008-2010年平均):992米ドル以下
(2)HAI(Human Assets Index):人的資源開発の程度を表すためにCDPが設定した指標で、栄養不足人口の割合、5歳以下乳幼児死亡率、中等教育就学率、成人識字率を指標化したもの。
(3)EVI(Economic Vulnerability Index):外的ショックからの経済的脆弱性を表すためにCDPが設定した指標。
2014年7月現在、世界の最貧国は48か国ある(うちアジア9か国)。ミャンマーはカンボジア、ラオス、バングラデシュ等々とともに、最貧国に認定されている。今回の国勢調査で人口が修正され、それに伴い一人当たりGDPが957㌦に上方修正されても、残念ながら、まだ「最貧国」を卒業できない。卒業にはあと数年かかるであろう。
ASEAN諸国の中での位置づけはどうか。従来、ミャンマーは「ASEAN最貧」と言われ、カンボジア、ラオスと肩を並べてきたが、カンボジアの2013年の1人当たりGDPは1016㌦であり(IMF推計。ADB推計では950㌦)、残念ながら、まだミャンマーはASEANでも一番低所得の国である(注、ラオスについては信頼できるGDP値は得られない)。ただし、「最貧国」3か国は拮抗しているので、ミャンマーが民主化と政治安定が続けば、最下位からの脱却の日は近いであろう。
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