たとえば甘草(カンゾウ)という生薬、
江戸時代には栽培が盛んだったが、
今ではほとんどその姿を消しているという。
甘草は、漢方薬の約7割に使用される生薬なので、
この問題を解決すべくムーブメントがないわけではない。
オイラがネット調査したところ、
ツムラ製薬と武田薬品が、効率の良い栽培方法を競っているらしい。
そういう前提知識があったオイラは、
生薬の国内生産って、特許とかとれば儲かるんじゃないかと想像していた。
ところが・・・。
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「生薬栽培は、まったく儲かりません。
しかも、公定規格に主要成分が達していない場合、
それはただのゴミと化します」
そのようなひと言で、2コマ目の講義は始まったのだった。
「どのように栽培を工夫しようと、
国の決めた薬価が採算ラインに影響を与える生薬栽培は、
たいへんに困難な作業となるのです。
しかも、中国産生薬は、とても安いときてる。」
一方で、レアメタルよろしく中国産生薬にも輸出制限がかかりはじめているという。
となると、中国産生薬は価格が上がるわけで、
国内生産しようという動機にはなる。
転じて、採算割れしないように、
生薬薬価を上げるよう要請する動きもあるにはあるという。
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演者は御影雅幸(ミカゲマサユキ)という、
この分野では第一人者だという。
金沢大学を定年となったのち、
現在は、東京農業大学・農学部バイオセラピー学科で教授をしている。
演題は、「漢方生薬の国産化に向けて ~マオウ等の国内栽培の試み~」
この御影の話を聴こうと、
遠く福井から駆けつけて、質問をしていた研究者もいたのに驚く。
さらに驚いたのは、御影の研究に対する熱意と、その結果。
国内のみならず、世界中を渡り歩いて研究してきた御影の肌は、
農家者らしく、つややかに黒光りしている。
話を聴いているうちに、いったい御影はいつ休んでいるのだろうと思う。
印象に残ったエピソードは、
中国四川にて、マオウ科・Ephedra cinica の研究採取した話。
斜面にEphedra cinica をみつけた御影は、
上・中・下段に植わっているそれを採取し主要成分を測定した。
すると、上・中・下で明らかに主要成分含量に偏りがあった、なぜなのか?
当初は動物の糞などが影響していると踏んだそうだが、
結局、その原因は土壌PHだと突き止めた。
Ephedra cinica の主要成分は、アルカリに傾いた方が成分含量が増加する。
こうした知見をさまざまに組み立て工夫して、
御影は、国内にてEphedra cinica 主要成分が公定規格の倍以上含む栽培、
収穫までの時間短縮、連作障害の克服などなどに成功している。
国内では、どの地域で栽培したら良いかも研究を進めており、
沖縄から北海道までにその範囲は及んでいた。
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「失敗の共有をしないと、研究の進捗が早くならない」
というアイディアも、御影は講義で提唱していた。