行きつけのちょっとだけ元プロだった、スナック・カスタムのマスターなんだけど。
「とにかく、Shinの歌う『ロシアより愛を込めて』がイイ、これ歌えるやつ見たことない」
きっと、セールストークだろうと思う。
でも、あんまり行くたんびに言われると、気分は悪くない。
一方で、自分のできって、自分が一番よくわかる。
オイラの場合だと、007の歌だったら、
やっぱりトム・ジョーンズの『サンダー・ボール』が歌えるくらいでないと、
話にならないはずだ。
「この曲が歌えない=腹式呼吸ができてない」ってことになるんだと思う。
今どきの歌手は、敢えてこういう歌い方をしないというが、
こういう歌い方をできるんだけどしないというのと、
できないから知らんぷりしてしないというのでは、意味がまったく違ってくる。
そういう意味で、後者に当たるオイラはまったくの、ど素人なんだよな。
小説ってのも、あんがい似ていると思う。
「こういう文体でこういう雰囲気でも書けるけど、
今回は、こんなんでました」
みたいにならないと、プロじゃないんだと思う。
材料だけいくら立派でも、
それだけじゃ、ダメだろう。
そーいう風に思うから、
いつまで経っても、なかなか書けない。
恐らくは、沢木耕太郎も新人のころ、
こんなことを思ったからこそ、
『深夜特急』をなかなか書き始められなかったと思われる。
その間、沢木が何をしていたかというと、
ひたすら真摯に、
先人あるいは同僚の作品を読み続けていたにちがいない。
きっと、そうに違いない。