一二時くらいに帰ろうとしたのです。
ホテルが京都駅のそばだったので、歩いて帰ろうと。
近くもないけれど、歩けなくもない距離ですから、
私はよく歩いて帰りました。
その日は寒くて、高瀬川のふちを歩いていたら、
肩にガーンとぶつかってきた人がいた。
「こっちが酔っ払っているからって、ぶつからなくてもいいじゃないか」
と思って振り返ったのです。
すると肩幅が広くて、背が高くて、
毛皮のコートを着た女性が立っていた。
「わざとぶつかったんだな。これはオカマにちがいない。しめた」
と思いました。
私はオカマが好きだったのです。
「飲もうか」と言ったら、
「近くに知り合いの店があるので、そこに行きましょう」と言う。
そこで飲みながら、
「あんた、オカマだろ」と言ったら、
「冗談じゃない。私は女よ」って。
納得できなくてさらに追求したら、
この人はハーフだったのです。
それが私の頭にはありませんでした。
見た目からすると、どう考えてもオカマなのです。
こちらは解剖学者なのだから、
骨格を見て女性ではないと思ったのですが、
それが間違いのもとでした。
「京都は怖いところだ。
男だと思ったら、女を拾っちゃうよ」
と学生には言ってやりました。
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★「京都の壁」
養老孟司著 京都しあわせ倶楽部PHP 2017.5.26.第1版第1刷
「木屋町の思い出」 P98~100より抜粋
養老孟司の書籍はどうしてオモロイのだろう。
恐らく思うには、まるで飲み屋で話を聴いているような気分にさせられることが第一、
次に、「そりゃー知らなかった」という話を聴いて得したような気分になることが第二、
それから、今まで読んできた養老本の内容が数珠つなぎに繋がってくることに覚える
満足感のような因子が第三、
なのではないだろうか?
その上、この書籍は京都を語っているので、
第四のオモロサが加わっている。
残念なのは、ところどころ登場してくる飲み屋の実名がないことだ。
オイラも京都で飲める店を知っておきたいのだ。
しかも、そんなに高くない店を。
ぼったくり店の実名がないのはしょーがないが、
そんなに高くない店は、実名で語って欲しかった。
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「そりゃー知らなかった」というネタでは、
江の島って、もともとは鎌倉市だったって話。
その他にも「へー」というネタが散りばめられていて、楽しい。