米の超大型爆弾、北朝鮮もにらむ
地下施設破壊に威力
2017/4/14 21:09 情報元 日本経済新聞 電子版
米軍が13日、過激派組織「イスラム国」(IS)のアフガニスタン拠点に対し、核兵器を除けば最大級の破壊力を持つ大規模爆風爆弾(MOAB)を投下した。
地下施設を破壊するのに適したMOABをこのタイミングで初めて実戦使用した最大の狙いは、多数の地下要塞を長年かけて築いている北朝鮮へのけん制にあったとみられる。
地下施設の数は多く、北朝鮮が米軍の威嚇を意に介さない可能性もある。
MOABは2003年のイラク戦争の際、旧サダム・フセイン政権を打倒する作戦で実戦投入が検討された。投入前にフセイン政権は崩壊したが、米軍は戦闘期間中に同爆弾の使用の構えをメディアを通じて周知。イラク軍のえん戦気分を誘う心理戦という意味で一定の効果をあげた。
米軍は今回、MOABの実戦使用の標的としてアフガンにあるISの地下トンネルを選んだ。通常の爆弾に比べ爆発力がケタ違いに大きいMOABは、地下施設の入り口付近で爆発すれば、衝撃波で地下にいる兵員を無力化できる。
米軍が北東アジアで対峙する北朝鮮への威嚇と解釈できる。
北朝鮮は国防方針の一つとして「すべての国土の要塞化」を掲げ、数十年にわたり軍用地下施設の建設を続けてきた。朝鮮半島有事になれば軍は地下施設に立てこもり徹底抗戦する構え。これに対し、米軍は今回、MOABを使う意思もあることを示し、北朝鮮軍の戦意をくじこうとした。
トランプ政権は対北朝鮮政策の目標を「北朝鮮の非核化」(ティラーソン国務長官)とする。経済制裁や外交、さらには軍事的威嚇を通じて北朝鮮が核武装路線を放棄するなら独裁政権の打倒までは求めないが、非核化に応じなければ限定攻撃も視野に入れる構えだ。
ただ、米軍のシリア攻撃が空軍施設に限っていたように、仮に北朝鮮の核実験場やウラン濃縮施設に限定して攻撃すれば、北朝鮮軍が大規模な反撃に出るのは必至だ。シリア攻撃時は避けられた軍事的なエスカレーションは、北朝鮮が相手の場合は避けられそうになく、大規模な戦闘を覚悟しなければならない。
北朝鮮は全土に無数の地下施設を持ち、そこに「ノドン」「ムスダン」などの弾道ミサイルと多数の発射台を隠している。
これらすべてを短期間に見つけて破壊するのはまず不可能だ。
1994年、極秘裏に核兵器を開発していることが判明した北朝鮮に対し米軍は軍事攻撃を検討した。しかし「いざ作戦の具体化に入ると北朝鮮軍が潜んでいそうな地下施設の数が多く、どこをたたくべきかを決めるターゲティング(攻撃目標の設定)さえできない状態だった」(日本の安保関係者)という。
あれから20年以上がたち、米軍は偵察衛星などで北朝鮮の地下施設の入り口などに関する情報を集めてきたようだ。
「今は94年当時よりターゲティングはできているはず」(別の日本の安保関係者)とされるが、北朝鮮も地下施設の存在に気付かれないよう隠蔽工作をしているもようだ。
米軍はMOAB使用で「地下に隠れても無事ではいられない」とのメッセージを北朝鮮に送った。だが北朝鮮が米軍の思うように反応するかどうかは不透明だ。(編集委員 高坂哲郎)