「新宿鮫」の大ファンで、人に小説を薦めるときには、
「新宿鮫」を真っ先に挙げるのだという。
故丸谷才一も「新宿鮫」の大ファンだと知ったのは、
丸谷の遺稿集を読んでいるときだった。
オイラが「新宿鮫」の存在を知ったのは、
大沢在昌が監修していたミステリの書き方本だった。
そのタイトルに惹かれて初めて読んでみたとき、
世の中にこんなオモロイ小説があったのかと驚くと同時に、
ページをめくる手が止まらなくなっていた。
気がついたら全巻そろえて読み終わってしまった。
何故に「新宿鮫」は、こうも人を惹きつけて止まないのだろうか。
恐らくは、まるで義経を思わせるような、
判官贔屓に読者をさせてしまう鮫島という主人公の設定やら、
その周囲の登場人物の魅力、
ストーリーのオモロさなどなど、
いろいろな理由があるのだろう。
そうした設定を継承して、
著名な作家が二番煎じをモノしているのを知ってはいるが、
読む気がしない。
あまりにもストレートな設定継承は、
読者の興味を失わせる方向に行きやすいと思われる。
でも、その著名作家の狙いたいことは痛いほどわかる。
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オイラの場合はどうしても書きたいことがあって、
小説の書き方の謎を追究しているところなのだが、
先の著名作家と同じく、「新宿鮫」のエッセンスを吸収したいと思っている。
そこで、写経するように、写「新宿鮫」してみることにした。
なにしろオイラ、ボツ原稿をまだ10枚X2回=20枚しか書いたことがない。
あまりといえば、あんまりな経験のなさ。
この未経験を補うために、写「新宿鮫」をしてみる。
そーすることで、「新宿鮫」の魅力を解剖できる可能性が高くなるし、
ただ写すだけとはいえ、長編を一冊書くのがどのくらいたいへんなことなのか、
少しでも体験してみたい。
特に探りたいのは、人物描写の基本と、
主要なテーマを挿入してくる技法について。
恐らくは相当に難儀なことになると思う。
伏見稲荷や七面山を登ったときのように、
初めてのことはペース配分も何もわからない。
でも、少なくとも一度は経験してみないと、
何も書けるようにならない気がする。