[ウォールストリートジャーナル 9月22日] *緑字は私見です
日米中銀が正反対な動き、投資家は板挟み
FRBの利上げ見通しと日銀の緩和策強化は市場を混乱させる恐れも
日銀は経済再生のための新たな対策を講じ、FRBは今後の利上げに向けて地均しを行った。
世界で最も強い影響力を持つ中央銀行2行が正反対の方向に動く中で
投資家は板挟みになるだろう。
これによって世界の資金の流れに大きな変化が生じ
米国の金利が上昇あるいは下落して金融市場が混乱する恐れがある。
そうなれば両中銀のこれまでの努力が無に帰す。
日銀は21日、金融緩和策を強化し
通常は投資家が支配する長期債市場のコントロールに乗り出す意向を事実上示した。
価格を問わず一定量の国債を購入してきたこれまでの政策から方針を転換したことになる。
さらにインフレに関する表現を強め、物価上昇率が目標の2%を超えること目指すと発表した。
特に10年物国債の利回りを0%程度に誘導する措置は投資家にとっては計算方法を変えるものであり、債券・株式・為替の各市場をさらにゆがめる可能性がある。
自発的に買おうという人間はもはやいない。いるのはプライスセッターだ。
10年物国債の利回りをゼロに誘導するための債券購入であれば
長期国債の買い入れ枠を年間80兆円に据えく必要があるのか?
むしろ減額される可能性もあるのでは?
日銀の目的は長期金利もプラス圏にとどめて、年金基金や銀行、保険会社から長期金利低下の不安を取り除くことにある。
投資家はその点を理解しており、21日には日本の金融機関の株価が平均で6%上昇した。
しかし日銀が実験的な領域でさらに歩みを進めた結果がどうなるかはまだ分かっておらず
物価を再び上昇させるという目標は依然として遠い。
経済協力開発機構(OECD)が21日に指摘したように
世界経済が依然として「低成長のわな」にある状況ではなおさらだ。
量的緩和なしで円安・株高は考え難い上に
今回の決定はむしろ円高・株安のリスクが増大したともいえるのでは?
一方、FRBは年内の利上げの可能性を強く示唆した。
2日間の会合の後に発表された声明によると、利上げの根拠は「強まった」。
ただ、見通しでは、会合に参加した17人のうち3人を除いた全員がフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標の中央値を年内に少なくとも25べーシスポイント(bp)引き上げるべきだとした。
しかも金融政策を決定する連邦公開市場委員会(FOMC)で投票権を持つ3人――これは異例ともいえる多さだ――が利上げを支持し、利上げの見送りに反対票を投じた。
FRBに利上げの意思があるのは明らかだが、実際に利上げに踏み切れるかどうかは分からない。
時期尚早の利上げは遅きに失するよりはるかに危険との信念がFRBにあることを考えると
FRBが計画を考え直すのにあまり材料はいらないかもしれない。
実際、21日の先物市場では年内利上げの確率は50%をわずかに超える程度だった。
日銀とFRBが取ろうとしている政策は市場をリスクにさらしている。
日本のリスクは、日銀がイールドカーブに口を挟むことでイールドカーブの安定感がかえって損なわれるか、投資家が日銀の決意を試したり、日銀にコントロールの意思がない市場を上昇させて対策を回避しようとしたりすることである。
ヘッジファンドの動きに注意か?
米国では投資家はFRBの意思を真剣に受け止めていないかもしれない。
昨年の利上げ前と同じ過ちを繰り返し、不意打ちを食らうリスクに自らをさらす可能性がある。
しかしそれ以上に大きなリスクが、世界の2つの主要中銀が同じ時期に全く違う行動を起こそうとしていることから生じる可能性がある。
例えば、長期債利回りを誘導目標とする日銀の政策は
日本の投資家の米国債への投資意欲に変化をもたらすだろう。
その結果、米国の長期金利に影響が及ぶ。
日銀が2%の目標値を上回る物価上昇を目指す方針を通じ、長期にわたって短期金利をマイナス圏に据え置くことを示唆する一方で、FRBが短期金利の利上げを計画している。
この結果、世界の資金の流れが変わる恐れがある。
FRBが慎重を期し、日銀が緩やかに戦略を変更したことは
中銀がこれまで自分たちの支配下にあった市場に対して謙虚になったことを示している。
一方投資家は当局より自信がある様で、株式市場や債券市場を過去最高の水準に押し上げている。
最後の貸し手が懸念しているなら、投資家もまた懸念すべきである。