人間ドックや健康診断などで血液検査をしても、
そのルーティンに甲状腺検査は含まれていない。
つまり、医師が甲状腺機能に関して疑いを持たなければ、検査されることはない。
オプションで追加検査すると、全額自己負担の場合には、およそ5,000円かかる。
甲状腺に影響を及ぼす薬剤として、
徳島文理大学の副作用診断教育プログラムでは、その筆頭にアミオダロンを挙げていた。
これは分子内に2つのヨウ素原子を有しているためということで、イメージしやすい。
他には、元々、甲状腺ホルモンを内服していた場合に、
一緒に併用すると吸着により吸収が下がる医薬品とか、
薬物代謝に関して相互作用のために影響が出る①医薬品が挙げられている。
①の薬品は、抗てんかん薬が数種類。
他、平成18・19年度「薬事法77条4の2に基づく副作用報告件数」における
甲状腺機能低下症を引きおこした薬剤の報告においては、
インターフェロン35件、アミオダロン20件、シクロスポリン6件、
他薬剤が延べ11件という報告があったという。
しかしながら、この報告数は圧倒的に少ないとみるべきだろう。
なぜなら、医師が甲状腺を疑わない限り、甲状腺機能低下症も亢進症も発覚しないのだから。
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気になったので、
便秘という副作用があたり前のように生じてくる精神科でよく使用される薬剤を、
臨床試験を含めて製造している某製薬会社・学術部門に、電話で質問してみた。
「臨床試験の段階で、甲状腺機能を調べているでしょうか?」と。
かなり時間をかけて調べてくれて、
後日話を聞いてみると、答えはノーだった。
とてもセクシーな声で、そう答えてくれた女性担当者は、
他にも文献をあたってくれた。
「セロトニン作用に絡んだ医薬品で、結果、甲状腺に影響を与えた例がいくつかあります」
「それでは、前日にお話ししたオリバー・サックス『道程』で記述されていたように、
精神科で使用されている医薬品の中にも、甲状腺機能に影響を与えている医薬品が隠れている
可能性がゼロではないのですね?」
「ええ、その可能性がありそうです。しかし現状、精神科医師はまず日頃使い慣れている医薬品を
処方した上で効果が出ない場合、次に甲状腺機能を疑ってみるという過程を執っているのかも知れません」
「でも本来ならば逆に、まず甲状腺機能検査を血液検査のルーティンとして成立させ、精神科医師にはっきりと甲状腺機能に関する評価を与えておけば、マイケルのような、言ってみれば悲劇というか誤診というか、そういったことを防げるわけですよね?」
この後、甲状腺機能検査を血液検査や臨床試験のルーティンにするという、
まさにその道程について、二人でしばし語り合った。
甲状腺機能検査を血液検査ルーティンにするという方法は、コスト面から簡単ではないだろう。
でも、臨床試験の段階で甲状腺機能を調査しておけば、それが処方する医師の意識に登り、
精神科にて甲状腺機能検査を行う頻度は、ずっと増えるだろう。
便秘が甲状腺機能低下症の前駆症状で、それが進行してうつ症状(統合失調症だと陰性症状)が現れることがあるとすると、医師の処方薬に対するさじ加減が変わってくる。
オリバーの兄マイケルの場合には、甲状腺ホルモン剤の投与で幻聴(統合失調症の陽性症状)が消えたというのだから、精神科医師はますます甲状腺を調べたくなるだろう。