甲状腺のセレンディピティ

元祖SHINSHINさん
元祖SHINSHINさん

2週間ほど前に、Aという顧客から相談を受けた。

「今まで経験したことのない便秘になってしまって、なにか解決方法はないか?」

というものだった。

 

例によって、オリーブオイル云々の話をしてみたが、

その後、全く効果がなく別の医師にかかったという。

しかし、結局はその医師もありきたりな下剤の投与で終わっており、

なんの解決を見ることもない結果となった。

 

ところでその頃、オイラは認定薬剤師にならないといけなくなって、

徳島文理大学の主催する「副作用診断教育プログラム」を受講していた。

無料であるG講座第3回「甲状腺中毒症・機能低下症」の中に、

薬剤誘発性の甲状腺機能低下症という項目がある。

 

それによれば、

甲状腺機能低下症は、生命に危険を及ぼすからではなく、

比較的頻度が高く存在し、見逃されているケースがあることから

重篤副作用として対応が求められている、とある。

 

そして、甲状腺機能低下症を引きおこす薬剤として、

特に注目されていたのがアミオダロンという成分名の、不整脈に対する医薬品であった。

 

アミオダロンには二つのヨウ素分子が存在しており、

長期投与されている患者の2割に、甲状腺機能低下症が起こるという。

(逆に頻度は低いが、甲状腺機能が上昇することもある)

 

早期発見のポイントとして、以下のような臨床症状が挙げられる。

無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加・むくみ、

動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声など。

 

冒頭のAさんには、驚いたことに、このアミオダロンが長期投与されていた。

そこでAさんに問診してみた。

便秘以外に、上記症状が出ていないかと。

すると、若干の体重増加があるくらいで、精神症状は出ていないとわかった。

 

Aさんには、アミオダロンと甲状腺機能低下症の話をして、

次回受診時に、主治医へ報告して念のために甲状腺機能検査をしてもらうよう奨めた。

もしも、甲状腺機能低下症と判明したら、甲状腺ホルモン剤投与で副作用を解消できる。

 

     *

 

一九八四年、マイケルが三五年近く働いていた会社の創立者が引退し、会社はもっと大きな企業に売却されて、その親会社は年配の従業員をすぐに解雇した。五六歳でマイケルは職を失った。

がんばって役に立つスキルを身につけようと、タイプや速記や簿記を覚えようと懸命に努力したが、

急速に変化していく世の中では、このような昔ながらのスキルは価値を失う一方だった。

それまで就職のために誰かにアプローチしたことはなかったが、気おくれを克服し、

面接を二回か三回受けたが落とされてしまった。この時点で、彼は仕事をする望みをあきらめたのだと思う。長い散歩をやめて、大量の喫煙にふけった。何時間もラウンジにすわって、

タバコを吸いながら空を見つめている。私が一九八〇年代半ばから末にかけてロンドンを訪れたとき、目にする彼はいつもそんなふうだった。生まれてはじめて、少なくとも認識したのははじめて、彼は幻聴を聞くようになった。その「DJ」(彼の発音では「ダイジェイ」)は、なんらかの超自然的な電波を使って、彼の考えを監視したり、それを放送したり、向こうの考えを植えつけることもできるのだ、と彼は言っていた。

 

このときマイケルは、ずっとかかりつけ医として彼を診てきた父ではなく、自分の家庭医がほしいと言った。新しい医者はマイケルがやせていて青白い顔をしているのを見て、単に心の穴を埋めようとする力が尽きたのではなさそうだと考え、いくつか簡単な検査を行ない、マイケルが貧血で甲状腺機能低下症であることを突き止めた。甲状腺ホルモン剤、鉄分、そしてビタミンB12を処方されると、マイケルはかなり元気を取りもどし、三ヶ月後に「DJ」は消えた。

 

以上、以下書籍より抜粋、一部強調。

★「道程」

  オリバー・サックス著 大田直子訳 早川書房、2015.12.20.初版印刷 2015.12.25.初版発行

  P.387~389より

 

この書籍を読み終えたのは、ほんの一週間ほど前。

ここに書かれているマイケルというのはオリバーの兄で、統合失調症であった。

甲状腺機能低下症でありながら体重が逆に減っていたのは、貧血の影響だろう。

ここから示唆されるのは、統合失調症である以上、それに関係する投薬があったはずで、

それら抗精神病薬が、甲状腺機能低下症を引きおこす可能性がゼロではないということだ。

(一九八四年という部分も、別の意味で春吉君的なセレンディピティだけども)

 

言い換えると、抗精神病薬で当たり前な副作用とされていた「便秘」が、

実は甲状腺機能低下症である可能性があるということだ。

それが全体のほんの数パーセントであるのか、それとも驚いたことにほとんど全てなのかは、

甲状腺機能検査をしてみないことには、明らかにされない。

 

     *

 

オイラは誕生日月に、健康診断を受けるようにしている。

5/30(月)、長後駅前東口にある「ライフメディカル健診プラザ」に赴いた。

担当になったベテランだが美人な看護師に、こう訪ねてみた。

「オプションで甲状腺機能検査をしたら、いくらになりますか?」

 

「じゃ、それ用にちょっと多めに血、取っとこう、100ccくらい」と言いながら、

採血後に、金額を調べて教えてくれた。

それによると、全額自己負担でだいたい5,000円弱だという。

 

オイラは、実は・・・とAさんの事情を伝えると、

ベテランだが美人な看護師は、オイラの話にとても興味を覚えてくれて、

「それだったら、きっと適応が通るので一割負担で済むんじゃない」と教えてくれた。

 

それから、

「副作用ってね、比較的地味なモノから現れてくるモノなの。その便秘、ホント臭いわよ」

とも。

 

 

 

 

 

 

 

 

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