元祖SHINSHINさんのブログ
「幽霊の2/3」
ミステリ界の閻魔大王・小林信彦によれば(「地獄の読書録」にて)、
ヘレン・マクロイは、以外に批評的才能がありセンスがとてもイイという。
ただし、「幽霊の2/3」のトリックが前例のあるもので遺憾だし、
殺される作家の名前もセンスが悪いという。
しかしながら、構成のうまさと話の面白さ(ハリウッドと出版社の実状という材料)がすばらしく、
楽しく読める作品だと。
気になっていたし、タイトルが風変わりだったので覚えていた。
しかし、1962年の作品なのだから、読めやしないと諦めていた。
ところが、フラリと出向いた大型書店の外国人作家のところで、
なんと「幽霊の2/3」を見つけてしまった。
あとがきを読むと、2009年に復刻したとある。
ラッキーだ。
★「幽霊の2/3」
ヘレン・マクロイ著 駒月雅子訳 創元推理文庫 860円+税 2009.12.4.3版
なるほど、なかなかオモロイ作品で、
ミステリー的な要素と、
閻魔大王の言うとおりヘレン・マクロイの唸らせるような批評センスが楽しめて、
そこにハリウッドと出版社の実状という材料が織り込まれ、
読んでいて、たいへんに脳みそが気持ちよくなる。
特に、出版社やエージェントの事情というのが、
「サリンジャーと過ごした日々」に描かれていた内容と重ね合わせると、
またぞろ楽しさが倍増してきて、脳みそがシビれる。
しかも、当時の文学的風潮や、
小説を書くときのバカにならない心得的な話も読ませてくれる。
(当時から、プロットのある小説は売れないという流れには、驚く)
村上春樹は、ミステリーをよく読むとエッセーで書いていた。
なので、若いころからそういう世界的な文学の風潮にも、
当然ながら敏感だったと思われる。
(この作品を、読んでいるはずだ・・・・・・)
「幽霊の2/3」は、日本ではあまり存在を認識されていない、
作家と出版社をとりもつエージェントというものが、どーいったものなのか、
よくわかる内容になっている。
沢山送られてくる作品の中から、
これぞというものをエージェントが見出し、
それを、出版社に打診していく仕事。
出版社は、エージェントによる下読みを通過してきた作品を、
あらためて審査してイケルと思ったら、
契約を煮詰めて、出版となる。
ところでこの契約で、失敗してしまうと
作家は大損してしまう。
米国にて実在の例だと、
「事件記者コルチャック」を書いたジェフ・ライスは悲惨だった。
世間知らずだった若いころに書いた作品が採用されたのはイイが、
契約が甘く(いいように言いくるめられたか、エージェントを通さなかった模様)、
後々大損をしてしまったという。
オイラのこどもの頃、TVシリーズ化された「事件記者コルチャック」をみたことがあるが、
スティーブン・キングよりも、遥かにオモロイ内容となっていた。
しかし、契約に騙されて大損していたジェフが、シリーズ化は認めないと言って打ち切りに。
その後は、なんと「事件記者コルチャック」に出て主演を演じていた俳優に、
もろもろの権利をだまし取られるという、
なんともドロドロした話になったそうだ。
ジェフ・ライスは、今どこでどーしているのか不明だということで、
なんとも気の毒。
順調だったら、
スティーブン・キングの良きライバルになっていたのではないか?
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