今月はあまり面白い作品がないのだが、
強いてあげれば、ベルトン・コップという作家の「消えた生け贄」(創元社)だろう。
解説によると、作者は六十六のオジイサンで、三十七も長篇を書いているという。
〈クライム・クラブ〉の面白いところは、
こういうヘンな作家をさがし出してくることで、
いつまでもクリスティ、カーでもあるまいから、
読者としてみると、たいへんありがたい。
ふつうに書けば、平凡な本格物になってしまうのが、
ちょっとプロットをひねったために、面白くなることがある。
解説者があげているコリン・ロバートスンの「殺人の朝」がその一例だが、
「消えた生け贄」も発端がうまい。
ここの設定で、大分、点数を稼いでいる。
(どういう設定かということはエチケットとして伏せておく。)
物語は、二部に入ってから、警察の活動が始まる。
チェヴィオットは、フレンチ警部みたいな〈足を使う探偵〉で、コツコツ歩き回っては、
アリバイをひとつひとつ確かめていく。
最後に判明する真相は、一寸したオドロキである。
「一寸した」という形容詞をつけたのは──この程度のことは書いてもいいだろうが──
この作品の根本のトリックと同じものを使ったのが我が国にあるからで、
実は、筆者は途中で気付いてしまった。
(もちろん我が国の作品の方が先に出ているのである。)
これは、マニアが集って、トリックのどこが似ていて、どこがちがうか。
そして、どっちの方が優れているか、論じあうのに絶好の問題である。
読者の皆さんの軍配はどちらにあがるだろうか?
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★「地獄の読書録」
小林信彦著 ちくま文庫 1989.5.30.第1刷 P.72~73より抜粋
ミステリ界の閻魔大王・小林信彦によるささやきである。
「ちょっとプロットをひねった」とは、どんな捻り方なのか知りたい。
それに、最後に判明する真相も知りたい。
けれど、この「消えた生け贄」という書籍を見つけるのは困難だろう。
こういうのを電子書籍にしてくれないと、困るよな。。
芥川賞だって、全選評が読めて、
そこからオモロそうな作品を落選作も含めて、
電子書籍ですべて読めるようにして欲しい。
豊崎由美の「石原慎太郎を読んでみた」だって、
国会図書館に行かないと読めない作品を評していて、
こっちも読みたくなってしまうんだな。
これも、電子書籍にして欲しい。
まず、豊崎の作品を電子化して、
興味のある人は、そこからダイレクトに慎太郎の作品にジャンプして読むことができる仕組み。
もちろん、ダブル有料でいいからさー。
こういうの、いくらでも作れるよねー。
だれか、やってよー。