前々から気になっていた作家の短編集だ。
朝日新聞で書評されたというので、行きつけの書店にあったのをみつけた。
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(略)
世の中を斜めから見る眼差し、他人の脳内を覗く薄気味悪さ、
複雑怪奇な運命のメカニズム、消せない過去、特定の物への執着、
誰しもそういう「煮ても焼いても食えないもの」を抱え込んでいる。
しかし、調理次第で、それらの素材は人々に何らかの啓示をもたらす。
小説は作者にとっては、不愉快な現実からの避難場所かもしれないが、
特定の読者の目に触れれば、それは精神安定の薬になったり、迷える背中を押したり、
罪悪感を抱かせたり、心のブレーキを外したりと様々な化学変化を引き起こす。
それを信じなければ、今の時代に小説なんて書き続けることはできない。
たとえば、同じ電車にたまたま乗り合わせた乗客八人が、
本書に収めた八つの寓話のような妄想世界に暮らしているのだとしたら、
まだまだ世の中は捨てたものではない。
同じ社会に暮らしているからといって、
人々が同じように考え、行動すべきだと思い込んででいるのは、
浅はかな政治家連中くらいなものだ。
人の妄想が多様である限り、社会は健全なのである。
そして、不愉快な現実を受け入れられずに悶々とするよりは、
その現実をとっとと受け入れて、もっとひどい現実への心構えをするべきなのである。
とりわけ無知とヒステリーがはびこる斜陽の国では。
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★「暗黒寓話集」
島田雅彦著 文藝春秋 1,350円+税 2014.11.30.第一刷
P.2~3 「はじめに」より抜粋
八つの短編からなっている。
この冒頭の文章にオイラはシビれ、
最初にある「アイアンファミリー」をめくったとき目に飛び込んできた
「秦一族」という言葉に誘われて、購入した。
これが、思いの外オモロイのである。
小説というよりは、エッセイに近い書き方をした作品がほとんどを占めている。
これも、オイラの好みな書き方だ。
島田雅彦のことをひどく貶した古来の作家たちは、
一体どこを見ていたのだろうか?
オイラとの思想的な類似性が、この作家をついつい贔屓めに見てしまうのだろうけれど、
さり気なく笑わせてくれる文章も散りばめられていて、
好感が持てる。
他の作品も読んでみたいと思わせる作品なのであった。
満足度は非常に高い。