行きつけのカスタムママが、アンディ・ウイリアムスのベスト集CDをプレゼントしてくれた。
翌日に車で聴いて旋律を思い出し、スペイン酒場で『シャレード』を歌ってみた。
歌詞の意味もほとんど理解しないまま、英語の発音もでたらめのまま、
声域はカバーできていることを確認しただけだ。
それから数日後、
ネットで購入したお気に入りの書籍を後ろから読んでいると、
驚いたことに、「シャレード」の歌詞をモチーフにした文章をみつけたのだった。
こういうのを、乱読のセレンディピティと言っていいのだろう。
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(略)
ああ、大当たりのショーだったわ / Oh what a hit we made
私たちは最後のひとつ前に登場して / We came on next to closing
恋人として最高の出し物を演じたけど / Best on the bill, lovers until
仮面を取れば 愛は冷めるの / Love left the masquerade
『シャレード』作詞 ジョニー・マーサー
これは映画『シャレード』(一九六三年)のテーマソングの一節だが、
これが私を、もうひとつの物語の宝、忘れられたボードビルのノウハウと出会わせてくれたのだ。
かつて私は、この歌詞の ” next to closing ”、” Best on the bill ” というフレーズに首をひねった。
どうして” 最後のひとつ前(came on next to closing)” なんだろう?
” お勘定(bill)” のどこに ” 最高のもの(best)”があるんだ?
なんのお勘定だろう?
恋人たちが仮面を使った何かを舞台で演じたらしいことは、
別の一節の ” 暗い舞台袖 ” で ” ピアノが鳴っている ” という歌詞からなんとなくわかったが、
このフレーズの正しい意味は私にはよくわからなかった。
サンアントニオの劇場で演じるようになったとき、
私はキャリアの長い役者たちにその歌のことを訊いた。
ひとりのベテラン役者が ” Best on the bill ” ” next to closing ” の正確な意味を教えてくれた。
古くからの華やかな伝統のあるボードビルの用語だという。
” bill ” とは " playbill " 、つまり劇場の前に毎日貼りだされる演目の広告のことで、
その夜に演じられる順序で出し物を並べた、娯楽のメニューのようなものだ。
その夜のボードビルで最高の " 出し物(billing)” 、
つまりパフォーマーの視点からすれば最高の出番は、
最後ではなく、最後からひとつ前なのだ。
(略)
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★「物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術」
クリストファー・ボグラー&デイビッド・マッケナ著 府川由美枝訳
アスキー・メディアワークス 2,000円+税
「ビルボードから学んだこと」P.323~325より抜粋
物語のクライマックスを、どこに持ってくるのがベストなのかという部分だ。
昔盛んだったビルボードの支配人は、そういうところに腐心していたのであって、
これは小説や映画でも同じであろうと著者は言っていた。
この書籍の解説にて、物語の法則について、
大塚英志という人が実にオモロイことを書いていた。
一つめは、佐藤亜紀が著作で語っていたことと符合することであり、
二つめは、村上春樹などの作品に対する簡易な批評であり、
(ここは養老孟司による批評と通じる)
三つめは、学問としての「物語論」には2種類の流れがあるという話だ。
それはまた今度。
PS:スペイン酒場で知り合ったベトナム人エージェントと、
最初は比較的に意気投合していたが、近頃はオイラの方がついて行けなくなってきた。
彼女には、他人の心理を駆使する天性かつ魔性の力が備わっている。
この辺の心理的な綾は、陳腐かも知れないが、小説の材料になり得る。
しかもそれは、多角関係な綾なのであって、それはそれでオモロイ材料となっている。
じゃあ、彼女は単なる遊び人なのかというと、それは違うのである。
まったく想像もできない一面を、しかも複数有しているから、驚くのである。
書きたくて疼くような思いがするのだけれど、
材料は熟成するまで、寝かしておかないとイカン。
「シャレード」も、そういう歌詞だとは知らずに彼女に聴かせたのだけれど、
結果的に、実に意味深な内容を歌ったものだと驚いている。
冗談の通用しないオイラは、この辺で離れておかないと、またヤバいことになるだろう。
だから、これでイイのだ。