(略)
みどりに限らず、彼女らでも俺の正体は知らない。
警視庁警備局警備企画課の裏舞台、「ZERO」の外部エージェント。
それが俺の正体だった。
いや、給料もらってないので正体なのかどうだかわからない。
しかも、エージェントと言えば聞こえはいいが、鬼平犯科帳で言えば単なる「犬」である。
五郎蔵とかおまさとか彦十とか、そんなものだった。
ただ、一応大きな、言論系のインターネットサイトをやっていたので
「物書き」としては恐れられていた。
警視庁幹部はいつでも俺が爆弾を破裂させるのが怖いはずだ。
先にも書いたとおり、国庫金からの給与は一切ない。
「情報収集に必要な経費も自分、情報もとってきて、功績があってもほめられることはない。
かつ、何かあれば切られて終わり。秘密は話すな」
こんなことをいわれていたのだ。
その代わり、多少、サイトで大げさなことを書いても警察は来ない。
どういうルートでつぶしているのかわからないが、
とにかく「国策捜査はされない」というメリットだけを持って仕事をしていた。
これが俺の正体だ。
でも、俺の彼女ですらそれを知らない。
話していないから。
みどりが風呂に入っていたが、かまわずシャワーを浴びて先に上がった。
シャワールームは、南向きの窓がついている。
窓の外からは東京の夜景が一望できたが、シャワーの湯気ですぐに曇って見えなくなった。
(略)
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★「ミツバチ」
二階堂ドットコム著 ネット購読150円
http://www.j-cia.com/archives/1099
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無料記事には、何やらわけのわからない「犬」の話が小説風に載っていたので、
正直、そんなに簡単に小説を書けるわけがないと舐めていた。
けれども、この「犬」の記事は、よその人が送ってくるのだと思い出し、
もしや・・・とか、まさか・・・とか思って、
彼の書く初めてだという小説を読んでみたいと気が変わった。
結果は、「まさか・・・」なのであった。
彼の情報マンとしての実働経験が元になっている小説なので、
ジャーナリスティックな読み物として、まずは読者をとらえる。
極道な人や、警察関係者、政治家などなど
自分の関与した情報が漏れたら・・・と思うと気が気でない人たちには、
看過できない小説となるはずだ。
また、軽妙洒脱なエロ描写も、ユーモラスで実に楽しい。
男女間の駆け引き描写にも優れ、翻訳物の探偵小説を読むかのような文体になっている。
結果、すぐに物語に引き込まれていくので、
一度読んでしまった読者は、購読を続ける他はなくなってしまう。
細かいところを視れば、この文章は要らないなど些細な箇所は気にはなるが、
このまま小説を書くという実作業を重ねていく内に、
大沢在昌の「新宿鮫」と同等な作品を書けるようになる可能性を感じる。
どう考えても、彼の書き方は読者を惹きつけるコツをしっかりと心得ている。
これこそが小説を書くにあたっての、要諦だろう。
人物描写が薄いという人もいるだろうが、
それがかえって、読者には好みの人物像を描かせることになるので、
山田詠美は例によって「女の書き方が甘い」などと、そう怒らないでほしい。
物語が進行していく内に、キャラクターがもっと際立つように書こうという、
これは二階堂の戦略だと思われる。
ネットで読ませるのもオモロイけれども、
新人賞に応募した方が、結果はもっと大きくなるかもしれない。
一度でも発表した作品は、新人賞に応募できないことがほとんどなので、
ネット小説はここで打ち切って、書いてしまった部分は新たに書き換えて、
新人賞に投稿した方がイイように思える。
まったく、羨ましい才能の持ち主だ。
PS:極道が8万人で、警察は30万人くらい?
じゃぁ、うまくいけば50万部狙えるかもしれない。
しかも、連載を狙えるってば。。