著者の投資の目的は、「長期の資産形成を通じて老後を豊かに送る」ことにあります。
なぜ、短期でなく長期なのでしょうか?
答えは、長短投資法の特徴と手法を、比べてみれば明確です。特に、利益の源泉と配分の方法に注目してください。
★ 短期取引=ゲーム(ギャンブル、ばくち)
利益の源泉と配分: 参加者の掛け金(期待利益)を取り合う。必ず損失者が生じる。
手法: チャート重視と損切り。
利点: 相場に関係なく売買差益が狙える。小金があれば、いつでも参加し、いつでも退出できる。
欠点: ゲーム感覚だから大金を動かさない代わりに、資産形成意欲もない。
★ 長期取引=資産形成
利益の源泉と配分: 企業の利益配分から生じ、参加者全員で値上がりと配当を享受できる。
手法: ファンダメンタル重視と塩漬け。
利点: 大金を動かすことで資産形成が計れる。経済のパイが大きくなれば、企業の利益も増え配分も増える。
欠点: 時間がかかる。相場の下落時には損失が生じる。
長期投資の問題点としては、将来に対する漠然とした不安をあげることができます。急速な科学の進歩によって、社会も、経済も、自然環境も急速に変化しています。株の明日が読めないのと同じように、1年先の日本の姿が見えてきません。大震災が起きるかもしれないし、地球の温暖化で海面が上昇し、日本沈没だって考えられます。地政学リスクや、思想や文化の侵略……、なにが起きても不思議ではありません。
自然災害や外国との紛争以外にも、バブル以後「失われた20年」といわれたデフレに逆戻りし、再び長期にわたる低成長経済が続くという経済学者も多いようです。個別銘柄のリスクを取ってみても、日本航空や、東京電力の破綻という大きな事件も起こっています。
だから、「短期投資で、値幅取りで儲ける」では、ラスベガスに行って、ルーレットで儲けようとするのと変わりがありません。資本、技術、装備、人材などすべての点で勝るヘッジファンドや、機関投資家と、短期勝負で勝ち目のないゲームを争うようなものです。
むしろ、参加者全員で値上がりと配当を享受できる長期投資で、彼らにない時間という武器で勝負したいのです。少なくとも、同じ釜の飯を食った全員に利益が配分される長期投資のほうが、農耕民族である日本人の性格にマッチしているのでは、という気持ちもあります。
著者は、災害や国際紛争時の際に、日本人が取る対応能力の高さを信じています。社会も、経済も、一時的には混乱し、株式市場も大暴落は避けられないかもしれません。確かに社会的な影響は大きかったかもしれませんが、株式市場では、大きな流れの中でのひとつの出来事です。突然の災害や、予期しない社会の変化は絶えず起こっています。
海外で暮らすことや、海外へ資産の逃避をするつもりもありません。日本経済の回復を信じて、株式投資は続けるつもりです。長期投資のリスクよりも、日本企業の成長による資産形成と配当というメリットを十分考慮した上で、長期投資を選んでいるのです。