久しぶりに会った親娘の会話です。
「どうだい、だいぶ儲かったかい?」
『今年は調子いいみたい…。昨日はちょっと落ちたけど、昨年初めからは倍くらいになっているわよ!』
「よかったね! 最近は売り買いしているの?」
『ただ、見ているだけでこんなに儲かるなんて、なんだか悪いみたい。でも…、最近は調子の悪い経済指標が出たりするし、アナリストから弱気の発言も目立つわね。円安でも株価の反応は鈍いし、そろそろ売りかしら?』
「お金が要るの?」
『物価が上がって少しは大変だけど、旦那の給料もちょっと上がっているので、何とかやっているわよ』
「それだったら売る必要ないよ。円安で物価が上がり、一時的には景気は悪くなるけど、海外シフトが進んでいる企業の業績はよくなるので、これからが面白いと思うよ。株は増やした?」
『お父さんからいわれた銘柄は変えていないわよ。買ったときは利回りが3%以上あったんだけど、いまは1%台が多いわね』
「1%を切ったら売って、2%以上の株に乗り換える準備はいいね?」
『いいわよ! でも、2%以上の株がないときはどうするのよ?』
「そのときは現金を回収して、家族で世界旅行でもしたら。今年中には、そんなことにはならないと思うけど…」
「ただ、これから株を始めようとする人にとっては、いまは買いどきではないと思うよ。利回りの高い株は、隠された問題のあるボロ株が多いし。新興銘柄にいたっては、5年後に何社が生き残れるか分からないからね…」
「まだ上がるとは思うが、今まで以上に企業の業績に注意が必要だね。下がることも考えておかないと」
『え! 下がるの。本当に大丈夫かしら?』
「なにしろ、ネット証券は儲けが減って、空売り推奨会社まで出ている始末さ。証券会社としては、相場が大きく動いて出来高が増えないと商売にならないからね。彼らにとっては、相場が上に行こうが下に行こうが、動けば利益になるデイトレーダーが大歓迎で、NISAや長期投資家は口先ばかりの歓迎さ。だから証券系のアナリストや情報には、気をつけないとね」
『そうなの! ひどいわね』
「仕方ないよ。彼らだって商売だからね。これだけ手数料が安くなれば、量で稼がないと…、まあ、資本市場を支えている陰の力を理解してやらないとね。それに、今の買い手の国内勢だって、安く買いたいところが多く、短期間の値下がりだったら内心はホクホクさ」
『ふ~ん!?』
「ところで、僕の相場観はね…」
(また始まった…、儲けさせてもらったから、聞いてやらないと)
「1980年代、株の取引は人手で行われていたのは知っているよね。なかでも指標となる6~10柄ほどは、特定銘柄と呼ばれ、取引も8時50分から売買をセリのような形で行っていたんだよ。平和不動産から始まって、日本郵船…と続くのだが、取引が成立するとゲキタクと呼ばれる拍子木をたたいてね」
『歳が分かってしまうわね!』
「特定銘柄の株価で、その日の動きが読めたので、指標株としてみている人は多かった。今でいう、シカゴの日経CMEのようなものさ」
『まさか、復活しろなんていうんじゃないでしょうね』
「いまの取引の主体は、やっと外国人から日本人に移ったんだ。従来のPKOに加えて、日本の富裕層が投信を通じて株買いに入っているという。昨年の買い手だった外国人は、今年に入ってほとんど儲かってないようだ。円安でドル換算の日経平均は、横ばいか下向きだからね…」
「通貨安の国の株は買わないのが普通で、景気が悪い中国株や韓国株が意外としっかりしているのは、通貨高が影響していると見ている。日本でも外国人買いを期待する向きがあるが、ヘッジファンドは、日本株売りのアメリカ株買いじゃないかな…」
「投信も個人も、従来のような指数銘柄ではなく、個別株に目が向いてくると、株の指標も従来の日経平均ではなくて、個別銘柄の指標となるのでは…」
「その指標として、トヨタと日立を見ているよ。両方とも海外移転が進む日本を代表する銘柄だからね」
『高値が日経の18,000円ではなく、トヨタの10,000円、日立の1,200円というわけね』
「これからは、森より木を見ることになるが、その際、企業の一株利益の伸びに注目する必要があるよ…」
「よく、円安利益は一過性なので買えないとする意見もあるが、円安で得た利益を、自社株買いや、借入金の返済などに使えば、企業価値が増えるので、株価に反映されるよ。自社株買いをすれば、企業利益は増えなくても一株利益は増えるので、経営者としては企業防衛のためにもこの手を使うようになると見ているが…」
「もうひと月もすると、企業の決算発表となるので、銘柄格差はいっそうはっきりするよ…」
「いずれにしろ、株価の平均を表わす指数は、あまり役に立たないよ。これからは個別企業の業績と株価を注視しないとね。そのための指標が必要ってわけさ…」
「悠子も、あんまり相場を気にしないで、旦那を大事にしていれば、自然にお金が増えるよ!」
『ありがとう、お父さんも株のことは忘れて、長生きしてね!』