芥川賞選評 ~山田詠美の怒り~

元祖SHINSHINさん
元祖SHINSHINさん

今回の芥川賞選評は、かなり難航したらしい。

相変わらず、受賞作そのものよりも、その選評の方がずっとオモロイ。

受賞作は、柴崎有香「春の庭」。

 

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この賞の選評委員の中には、先の震災、原発をテーマ、モチーフにした作品を検閲するものがいる。

そんなもっともらしい言説があるのを知って呆れるやら。おかしいやら。

私たちは、小説の質に言及する仕事しかしない。していない。

この先、それ以外をする気もないので、ここでお断りしておく。

まったく徒労感とはこのことだ・・・・・・と、いう訳で。

(略)

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★「文藝春秋 2014.9」

  920円+税 P.362~363より抜粋

 

いったい誰のことを怒っているのだろう。

よくわからないけれど、エイミーが吠えるといつもオモロイ。

想像するとドロドロした何かが、視えてくるようだ。

こうでなくっちゃいけない。

 

かつて石原慎太郎の作品(精神病の女性患者を云々という作品)が問題になって、

大御所たちが何人か、大いに怒りまくったというエピソードがあるけれど。

きっと、これはそういう類いの問題なのだろうと思われる。

 

その時には、怒りまくっている大御所たちを諌めるかのように、

三島由紀夫は慎太郎をかばったのだった。

でも、もしもオイラがその時代の大御所だったとしたら、多分怒るでしょこれは。

 

   *

 

「何かが足りない」と、川上弘美は言っていた。

同じ言葉を、エイミーも過去の選評で言ったことがある。

村上龍も、「もっと他に言わなくっちゃいけないことが、今の世にはたくさんあるだろうに」

という趣旨のことを述べていた。

 

浅田次郎の「月島慕情」的な、人の心を揺さぶる何かが足りないのだ、

とオイラは思っている。

 

   *

 

高樹のぶ子は、

一見、村上春樹風にも思えないこともないこの「春の庭」という作品を、

絶賛していた。

村上春樹流を見るや否や、

「猿まね」として、後ろからバッサリと切り刻んできた彼女にしては珍しいことだ。

槍かなんかが、降って来ないといいのだけど。

 

   *

 

文学界のトシちゃんこと宮本輝は、

受賞を逃した作品がなぜダメなのかを、わかりやすく語っていた。

取り上げたテーマをほったらかしにして、逃げるのはイカンと言っていた。

でも、今流のオープンエンディングとの絡みで見ると、微妙な意見なような気もする。

(落選作を読んでいないから、よく知らないんだけど)

 

   *

 

島田雅彦の選評、選評だけでなくTVでの解説などもそうだが、

オイラはけっこう気に入っている。

いつも具体例を挙げて説明するのだが、それが素人には学びになったりする。

何でこの人は慎太郎に、「うるせえ、バカヤロウ!」などと怒鳴られたりしたのだろう。

とっても親切なのに。

 

   *

 

堀江敏幸は、またまた連係プレイな選評をして楽しませてくれる。

しかもその選評の仕方には、それぞれの作品を読みたいと思わせるものがある。

サービス精神旺盛で、優しい人なんだなぁと思う。

 

  *

 

「春の庭」、オイラは嫌いじゃない。

でも、川上弘美の言うとおり、途中でわかりにくいところが、何カ所かあった。

後半のそれは、人称変更による、トリッキーな書き方をするための伏線的なもの。

中盤のそれは、ホントウにわかりにくい。

何とかして欲しい。

 

やんわりと漂ってくる川上弘美的なユーモアは、イイと思った。

おかげで、キャラクターのそれぞれに親しみが湧いてくる。

でも、都会的な引っ越しが頻繁に起きて、すぐにみんないなくなってしまう。

なので、そこはかとない寂しさを感じるようになる。

 

「人との別れが辛くない程度に、人と接しなさい」

という言葉を、転勤族な父を持つ、故・阿久悠はこどもの頃から言われていたそうだ。

若い頃から、東京に出ようと心に決めていた。

故郷から離れようとするベクトルは、村上春樹と同じだ。

 

オイラは真逆だ。

中上健次的なほど、土着性が強い。

それは、そのまんまそこで地縛霊になっちゃうんじゃないかと思うほどだ。

 

そんなだから、「春の庭」みたいに引っ越しが前提の物語を読むと、

無性に寂しくなってしまう。

やっぱりオイラは、猫なんだなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

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