元旦に猫に死なれた。享年十八。
猫の墓掘りが新世紀の初仕事だった。
わが家の隣は寺の墓地で、庭を掘ると古い五輪塔の石が出る。
その石の一つを猫の墓石にした。
翌日になったら、その石が移動していた。
老齢の猫だったし、最後はヨレヨレで、
死ぬときには人目につかないところに行こうとしたらしいが、
途中で力尽きて倒れた。
だから墓から出るほどの気力はなかったはずである。
なぜ墓石が動いたか、いまだにわからない。
もともと人間用の墓石だったから、
本来の持ち主が猫嫌いだったのかもしれない。
それなら墓石のほうが猫を嫌って逃げたのである。
わが家の裏山を越えると、駆け込み寺の東慶寺である。
隆慶一郎の小説の舞台にもなっている。
ここに小林秀雄の墓がある。
これは鎌倉時代の五輪塔を利用してある。
本人が石屋で気に入ったのを買ったらしい。
他人の墓石を使ったこういう先例があるから、
猫に使ってみたが、
墓石にはそれが気に入らなかったのかもしれない。
墓が動くというのは、考えてみれば、大きな異変の代名詞である。
とはいえ、猫の墓だから、
なにか起こるにしても、たかが猫程度の異変であろう。
いまは置き直した石が無事に収まっている。
猫がいないから、妙に元気が出ない。
十八年いると、ほとんど備品である。
(以下略)
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★「考える読書」
養老孟司著 双葉新書 870円+税 2014.5.25.第1刷発行
「お金の使い方(’01年2月)」P.26~27より抜粋
この書籍は本来、推理小説の雑誌に投稿された記事を集めた書評集ものなのだが、
中にはこのように、それとはまったく別のエッセイが枕になったものがあったりする。
まだ序盤しか読んでいないのだが、この抜粋部分に猛烈に惹かれた。
東慶寺に小林秀雄の墓があるのは知っていたし、
写真で見るとたしかに五輪塔でできている。
けれど、その墓石を小林本人が買い求めたとは知らなんだ。
それと、東慶寺の近くに養老孟司が住んでいるというのも驚きだった。
しかも、ひょっとしたら彼は、ムー民一族なのかもしれない。
近いうちに「ムー」編集長の三上は、養老孟司へ取材に行くべきだ。
オイラの方は別件で、彼に電話をかけるかもしれない。
彼は村上春樹もよく読み込んでいるようだ。
「チューチュー」って、言ってみようかと思っている。
PS:そうだ、この曲を三上編集長にプレゼントしよう。
対象が女か男かの違いはあるけれど、取材だってこの歌詞と通ずるものがあるはずだ。
ラテン調で底抜けに明るい曲風だ。
西原理恵子の書籍みたいに。
https://www.youtube.com/watch?v=ccdC_EPih2E
★「Get It Right The First Time」 Billy Joel