(略)でも僕が話をしていちばん面白かったのは、
ワシントン州から来たトム・ジョーンズ(Thom Jones)という作家だった。
不勉強なことに僕はこの人の作品を読んだことがなかった。
でも僕が好きな作家として、
レイ・カーヴァー、ティム・オブライエン、コーマック・マッカーシーの名前をあげると、
「じゃあ絶対、あんたは俺の本を好きになるよ」と明快に断言してくれた。
こういってはなんだけど、トム・ジョーンズは見るからに変な人である。
遠くから一目で「こいつはカタギじゃねえな」とわかる。
編集者にあとで聞いてみると「あれは優れた作家だけど、ナッツ(異常者)だ」ということであった。
やっぱり。
でも決して気難しい人ではない。
年齢はたぶん僕と同じくらいだが、経歴がけっこうぶっとんでいる。
「ヴェトナムにずいぶん深くコミットしていて、それでちょっと頭がいかれて、フランスに行ってごろごろしていて、けっきょく広告会社に就職して四十くらいまでそこで働いていたんだが、俺は腕がよくてね、金が儲かりすぎてつまらなくて(俺ずっとジャガーに乗っていたんだぜ、ジャガーだぞ)、
それで学校の用務員になったんだ。そいでもって用務員を五年やってさ、その間に本をいっぱい読んでさ、これなら俺だって何か書けると思った。それでまあとりあえず古巣の広告業に戻ろうと思ったらさ、金の稼げる広告代理店をやめてわざわざ途中で小学校の用務員を五年もやるようなやつはマトモじゃねえって、戻らせてくれねえのよ(*向こうの気持ちもわかるような気がする)。それでさ、じゃあまあ作家になろうと思って、小説書いて『ニューヨーカー』に送ったら採用されてさ、それで作家になったんだな。しょっぱなから『ニューヨーカー』だぜ、ぶっとんじゃうよな」
ということである。
ワインを飲みながらけっこう早口で喋ったので、少しは違っているかもしれないが、
だいたいそういうラインの話だった。
こういう人って僕はかなり好きだ。
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カタギじゃない作家トム・ジョーンズの語りが、
「まほろ駅前番外地」のクスリ屋のシンちゃんのようで、お気に入り。
『ニューヨーカー』って、ホントに洒落がわかって文学的嗅覚の鋭い編集長がいるみたいだな。
『拳闘家の休日(The Pugilist at Rest)』という短編集を、
あとで購入して読んだという。
ハードで差し込みのある作風だったというので、北方謙三的な作品のようだ。
是非、それを邦訳して欲しい。
★「うずまき猫のみつけかた」
村上春樹著 新潮文庫 710円+税 H11.3.1.発行 H25.4.30.第六刷
「人喰いクーガーとヘンタイ映画と作家トム・ジョーンズ」P.50~51より抜粋
オイラも予選落ちした小説を、
英語で書き直して『ニューヨーカー』に送ってやろうかってんだ(怒)
訂正:「英語で書き直して」 → 「英語で書き直してもらって」(哀)