だいたい女流作家の作品は妄想から出発したと思えるものが極めて少ないのだが、
たとえそれが文学的には一流の他の女性作家の作品と表面的には見分けがつかなくとも、
もとは妄想であったと断じることのできる女流作家の作品もある。
川上弘美の諸作品である。
この人の作品は小生が新人賞を与えた処女作の「神様」以来、
最新作品集の「なめらかで熱くて甘苦しくて」までそのほとんどを愛読しているのだが、
作家本人ともおつきあいがあるせいなのか、作品を読むとある種の情熱に基づく妄想から
文学の方へと送り込まれてきた小説であることが明らかなのだ。
その理由は詳細も含めて書くことが難しいが、
もしかすると彼女は囚われている情熱による妄想から抜け出せず、
文学的にもがき続けているという幸福な作家なのかもしれない。
最新作品集の一篇「mundus」などのように、
セックスをシュールリアリズム文学にまで高めた傑作は他にちょっと類を見ない。
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★「創作の極意」
筒井康隆著 講談社 1,300円+税 2014.2.28.第一刷発行
「妄想」P.256~257より抜粋
帯に「これは作家としての遺言である」と書いている。
自身が新人作家であった頃と現在とを比べて、
今どきの新人作家のために書いたという、小説を書くにおける技術的指南書かつエッセイ。
「凄味」「色気」「破綻」「会話」「省略」「遅延」「意識」「異化」「形容」「文体」
「視点」「実験」などなど、
小説にまつわる技術的な内容を具体的にわかりやすく説明している。
オイラは、かなり興奮して読んだ。
こういうことを知りたかった。得るものは多かった。
けれど、抜粋したとおり、せっかく川上弘美を登場させたのだから、
「文体」のところでも、彼女を登場させて欲しかった。
この作品の中では、実在の作家がたくさん登場している。
洋の東西・新旧を問わず、純文学、エンタメ、ハードボイルド、私小説などに渡って。
各所で、これから読んでおくべき作品も紹介しているという、
生き字引的な要素は、大きい。