(略)
「やれやれ、これで猫が七匹になった」結局、飼い主は見つからず、家に戻る途中で、
お客の一人のピーターがため息をついた。
「とんでもない、これ以上は飼えないわ」コニーはいった。
「そのとおりよ」わたしはうなずいた。「六匹で十分。六匹だって多すぎるぐらい。この猫は明日、愛護協会に連れていくわ」
山を下るあいだ、わたしたちはずっとおしゃべりをしていたが、小さな猫はまるで会話の流れを追うかのように、ボタンのようにぱっちりとした目で、わたしたち一人一人の顔を順繰りに見つめた。
そして会話が途切れるたびに、今度は自分がしゃべるのだった。子猫の鳴き声は、最初の音節を切りつめた短縮されたものだったから、ニャオではなく「ワウ」と聞こえた。ただし、ロック歌手がいいそうな「ワウ」だ。つまり「ワウアウ」とか、ときには「ワウアウアウ!」と聞こえた。どうやら子猫は会話に参加するつもりらしかった。おかげで、迷子のよるべない生き物ではなく、自分の考えをはっきり言葉にできる冷静な存在に感じられたから、妙な話だ。
家に戻ると、バスケットにバスタオルを敷いて子猫を入れ、台所の棚の上に置いた。子猫は七面鳥の肉を少しばかりもらうと、おとなしく丸くなって眠りこんだ。サンドウィッチを作ろうと台所に入っていくと、子猫がバスケットの縁から頭をのぞかせたので、わたしはパンにバターを塗りながら話しかけた。
「ぐっすり眠れた?」とわたしはたずねた。「お腹すいてる? もっとターキーがほしい?」そのひとこと、ひとことに、子猫は「ワウアウ」と答えた。そのときどきで、きっぱりと、不審そうに、同情をこめて、熱心に、とふさわしい口調に変えた。わたしがすっかりおもしろくなり、子猫の興味がいつまで続くか試してやろうと、勝手にしゃべりつづけた。だが、子猫はいっこうに飽きず、冷蔵庫から何かをとりだそうとしてこちらが黙ると、カウンターに戻るやいなや、わたしの目をじっと見つめてはっきりと質問した。「ワウアウ?」
「すばらしいわ」わたしはいった。「そんなにちっちゃな猫なのに、とてもおしゃべりが上手なのね」
子猫は熱っぽく同意した。「ワウアウ!」
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★「ねこ的人生のススメ ~しなやかに生きるための7つの法則」
ジョー・クーデア著 羽田詩津子訳 早川書房 700円+税 2007.3.31.発行
P.25~26より抜粋
自分が小説を書いてみる前だったら、感じなかっただろうと思う。
このジョー・クーデアという作家の文体に、親しみを覚える。
また、他の場所にふんだんに出てくるさらりとしたスケッチ風景描写が、オイラには参考になる。
その部分は、今のオイラにはっきりと欠けているところだ。
その上、この作品は明らかに私小説だ。
やっぱり自分が書いてみないと、
他人の作品を読んでも、その良さや違いを理解・発見することができない。
書いてみて、よかった。