『三橋貴明の日本経済の真実がよくわかる本』(三橋貴明、PHP出版)
、、、part1 日本経済のウソを暴く、、の書評です。
いろいろなテーマが分かりやすく盛り込まれた本であり、また、章ごとに書きぶりが違うので、章ごとに書評しようと思います。
part1については★2つです。
分かりやすく書く努力は買えますが、根本的なとこで勘違いがあります(分かりやすく書いてる分、間違いもわかりやすいのです、、自戒。でも、突っ込まれ希望v(^^ )。
安倍さんは三橋氏をブレーンにしてるようですが、三橋流の経済政策は正しくないです。
三橋氏はマクロ経済についての理解が不足してるから(というか根本的に錯誤してる)。
政治家は多くの専門家にコンタクトをとれるし、話を直接聞ける立場にあるのだから、もっと専門家巡りをして、経済政策への理解を深めたり、優秀なブレーン探しに努めるべきでしょう(なぜ、浜田教授とかアイケングリーン教授@UCバークレーが財政出動に難色を示すのか、よく理解すべきです)。
一般人の私ですら、本業の合間の休日自学自習で数年内に把握、理解できることなのだから、政治家ならば一年で何とかなるはず、なのです。
今の政治家ってほんとに怠け者が多いと思う(キャリア官僚も変な方向でガリガリ時間を浪費してるので、結果的にそうなってます)
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Part1はデフレ脱却の経済政策について書かれてますが、経済政策の目標をGDP増大としている点が三橋氏の根本的ミス。
それともう一つの大ミスは、政府は破たんしないから幾らでもお金を刷れると思っている点。
さらに、市場原理の不可避性とその最適配分機能への無理解(これはマルクス経済教の特徴です。 三橋氏自身は左翼でないけど、日本は大学でも民間でも経済専門家にそういう思想がいまだにまん延してるので、ぼーっとして自分の頭で考えない人間は、その誤りを刷り込まれがち)
これら三つの錯誤が重なると、金融緩和+財政出動のアベノミクスになる。
政府がどんどん国債を発行して財政出動すれば経済は良くなる、という短絡発想になるのです。
この路線は財政出動単独よりは有効だが、日本経済の長期低落を止められない(後述のように資源配分のひずみを増大させるから)
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経済政策の目的は、三橋氏が言うのと少し違って、国民が『持続的に』豊かになっていくことであり、一過性の景気上昇ではない。 だから、GDP増大でなく、(物価上昇率を見込んだ)実質GDPの『持続的』増大が、経済政策目標になる。
つまり、潜在成長率(実質GDP増大率の中長期平均値)の上昇が経済政策の目標になる。 一過性の経済成長率増大があっても、そのあとに大きな落ち込みが起きるのでは無意味。
さて、潜在成長率の上昇には、生産性の上昇(効率の上昇と技術革新による新規需要創出)が大きく影響する。
で、生産性上昇は、資金や人材が最適配分に近いほど大きくなり、最適配分を成すのは市場原理を通じて資金、人材が振り分けられるときなのです。
政府経由(非市場経由)ではむしろ、最適配分からかけ離れる。
政府の財政出動乱発でも、一過性の景気上昇は起こせるが、中長期的には資源配分(資金・人材の配分)をゆがめ、生産性上昇を阻害し、潜在成長率上昇を阻害し、経済を停滞させ、税収を伸び悩みさせ、財政出動の支出ばかり増えて、財政悪化が進むだけなのです。
では、財政悪化を補うために、国債乱発をすればどうなるか?
政府は、(三橋氏の言うように)日銀にお金を刷りまくらせれば、借金返済不能(デフォルト)にはならない。
しかし、財政出動乱発で、実質成長率が低い国、実質的な富を生み出す能力が低い国が、その生産能力に見合わない巨額な紙幣増刷をすれば、その分、通貨価値の低落が起きます。
これは、借金返済額の実質目減りですから、貸した側にすれば部分的デフォルトと同じ(財務省が日本国債格下げに対し、格付け会社に行った抗議は、ちょっと恥さらしです)。
今、日本国債でお金を貸しているのは、日本国民と日本企業がほとんどなので、国債乱発(とその非効率なお金の使い方である財政出動の乱発)は日本人の資産目減りを起こすのです。
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私たちは、社会を形成し、お互いに労力、モノの交換をして生きざるを得ない。 経済活動を行わざるを得ない。 一人で完全に独立して生きられる人間はいない。 これは組織も、国家も同じ。
経済活動があれば、そこには、『より良い製品、サービス(労働・リスク)により高い価格(報酬)がつく』という市場原理が必ず働く(不可避性)。
誰だって自ら進んで損をし続けたい、とは思わないので、経済活動には、必ず市場原理の価格調整機能が働き、それにより価値(リスクも)に応じた資金配分・人材配分(最適資源配分機能)が生じる(集団心理による価格変動、ブレはあっても中長期均しでは最適配分化する)。
市場原理は不可避だし、最適配分を最も良く成すのは、市場原理が働く民間市場なのです。
市場原理が働かない(というか短期的には働かないように見える)政府では最適配分は出来ない。
政府経由の財政出動(公共投資や福祉)では、むしろ、政治的、恣意的、利権的(=税金詐取的)なばらまきになって、最適配分からかけ離れるうえ、不公正が膨張しがち(福祉ばらまきでは悪平等の不公正と勤労意欲の低下が起きる)。
景気循環、価格のブレによる市場原理の最適配分の一時的ひずみよりも、政府経由のばらまきによる恒常的ひずみのほうがずっと大きくなるのです(市場原理のひずみは景気循環で調整されるが、政府によるひずみはそうならない、、、、で、市場原理のひずみを最小化すべく実施されるのが金融政策(インフレ目標政策)である)。
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結局、不況時、デフレ時の金融緩和は正しいが、景気対策のための特別な財政出動(公共事業など)はしない、というのが基本的に正しい政策(国民益の持続的増大のために最も理に適った政策)です(景気に関係なく行う通常の公共投資は続けるべきです、、維持管理事業など)。
すなわち、日銀が金融緩和だけを十分かつ適正に行って(インフレ目標政策)、政府は景気対策や財政出動をしない、、後の資金配分は民間市場にゆだねる。 これが正しい。
それならば、増やした通貨以上の実質GDP増大が起きやすくなるので(=通貨流通増大=経済活動の持続的活性化=潜在成長率の上昇)、個人資産は膨らみ、政府債務は減り、民間債務は増える(=民間企業の経済活動の活発化)。
一方、成長戦略も、市場原理への阻害要因を取り除くものでなければ逆効果です。
農業の成長産業化政策は、看板と真逆で市場原理阻害度を高めるので(悪平等のばらまきで社会主義的状況を補強する)、実態は成長停滞化政策です。
金融政策(インフレ目標、動的資本規制)+真面目な成長戦略(まじめな規制改革)、、が日本にとってベストな経済政策です。 二本の矢でよい。
現状、アベノミクスは不十分な一本の矢(金融緩和)と逆噴射の二本の矢(財政出動、エセ成長政策。経済政策でなく選挙対策政策)から成っており、トータルではこれまでの自民同様、長期低落路線になっている(それでも逆噴射の三本の矢だった左翼政党、民主党よりはずっとマシ。 現状、一番まともな政策を掲げているのは自民でなく、みんなの党です、、つーか、アベノミクスはみんなの党の政策の一部をぱくっただけ)。
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米国もリーマンショック後、政府経由の景気対策の財政出動は行っていない。 連邦政府は行ったが、州政府は財政引き締めだったので、プラスマイナスゼロで、結局、金融緩和一本で回復した。
先週日記でも書きましたが、デフレは過剰債務と借金返済偏重(企業が設備投資やそのための借金を増やさない)と貯蓄への逃避、、すなわち、通貨価値の過剰化で起きるので、基本的な対策は、金融緩和=通貨供給量の増大による通貨価値の引き下げ(=資産価格、物価、賃金の増大)で行うべきなのです。
これは、資産価格、物価、賃金上昇にタイムラグはありますし、財政出動ほどの急速な回復はないですが、(資源配分の歪みによる)事後の揺り戻しもないし、不公正の増大もない。
また、最終的には所得上昇は物価上昇に勝つことになる。 景気上昇で貧しくなる人はいないし、賃金が上がらず(需要が伸びずに)物価だけ上がり続けることはあり得ないから。