高齢者が大金を持つとこんな事件が起きる。金がなければ被害にも遭わない。困ったことだね。
◇矢継ぎ早の電話、自分見失う 知識はあってもだまされる
<上野警察署の者です。あなたの銀行口座が犯罪に使用されています>
横浜市青葉区の女性(81)宅に「ヤマダカズオ」と名乗る男から電話があったのは、一昨年11月のある朝だった。「ヤマダ」は電話を切る際に、口止めも忘れなかった。
<捜査中ですので誰にも言わないでください>
その日の正午、再び電話が鳴った。
<全国銀行協会のムラタです>
先ほどとは別の男。自己紹介した後、よどみない口調で語りかけてきた。
<犯罪を調査中で、あなたの口座を凍結します。使えなくなるので新しい口座を作ります>
女性は口座がある複数の銀行名を全て伝えた。「ムラタ」は、そのうち一つを指定して要求した。
<1000万円引き出してください>
求めに応じ、女性は携帯電話の番号を「ムラタ」に伝えた。すると、携帯電話に何回も着信があった。
<午後3時までに引き出さないと、間に合わない>
<タクシー代は出すので、すぐ向かって>
ついに女性は銀行に向かった。帰宅すると、また「ムラタ」から電話がかかった。
<これからアオキという男がそちらに伺いますので、現金を渡してください>
午後3時過ぎ、女性は玄関先に現れた20代の男に、現金1000万円を渡した。
× ×
「話の途中で言葉に詰まることもなく、実に巧みだった」。女性は電話をかけてきた2人の男について、記者にそう説明した。
冷静に考えてみれば確かにおかしなところはあった。しかし、断続的にかかってくる電話に焦りが募り、自分を見失ってしまった。上野署に問い合わせてだまされたことに気付いた。携帯電話の着信履歴を確認すると、「ムラタ」の番号でびっしり埋まっていた。
公的機関や金融機関を装った上、役割を分担して現金をだまし取る手口は「劇場型」とも呼ばれる。「男たちの話し声や現金を受け取りに来た男の顔は、今も忘れられない」。女性は自分を責めるように、つぶやいた。
県警が09年、振り込め詐欺の被害者を対象にアンケートを実施したところ、8割が「振り込め詐欺について知っていた」と答えた。それなのに、だまされてしまう被害者は後を絶たない。