今まで古典にとんと縁のなかったオイラは、
「うた恋い。」にハマってからというもの、
清少納言のファンになってしまい、
枕草子関連本を探していたのだった。
エコシステムのCDを入手したとき書店にも寄ってみたら、
いつものようにあっさりとめぼしい書籍が目に入ってきた。
★「桃尻語訳 枕草子 上」
橋本治著 河出文庫 770円+税 1998.4.3.初版 2012.6.30.第13刷
まず驚いたのが、なんと13刷という事実。
どこかの学校がサブテキストにでも使用しているのだろうか?
1948年生まれの著者は、東大文学部卒。
彼に言わせると、清少納言の原典を読んでそれを正確に現代語に訳そうとすると、
どうしてもこう訳さざるを得ないのだと。
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春って曙よ!
だんだん白くなってく山の上の空が少し明るくなって、
紫っぽい雲がなびいてんの!
夏は夜よね。
月の頃はモチロン!
闇夜もねェ・・・・。
蛍がいっぱい飛びかってるの。
あと、ホントに一つか二つなんかが、ぼんやりポーッと光ってくのも素敵。
雨なんか降るのも素敵ね。
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以上、同書P.25より抜粋。
この書籍はこのように、ぶっ飛んだ訳になっているのだが、
プロがそういうのだから、素直に受け取って楽しめる器量のある人にはお薦めだ。
しかも合間にはとても詳しい注釈があるのだが、
何故なのかその注釈も、著者はぶっ飛んだ清少納言に語らせているところが心憎い。
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[註] ・・・(略)なにしろ平安時代ったら十二単だからさ、着物っていうのはみんな”重ね着”なのよ。何枚もね。そんでさ、着方がそうだから、着る物の”色”だっていうのもさ、色のついた布地を何枚も重ねるのね。たとえばさ、表地を白にしてその裏に黄色のきれを持って来るとするでしょ。そしたらさ、全体で重ねた感じがクリーム色になるでしょ?そういうさ、布地の透き通った感じで”色”っていうものを表現してたのね。凝ったことしてるでしょう。金のかかることしてるでしょォ。なにしろ”貴族”なんだもん、そういう高級な着方して生きてたのよォ。でさ、そういう色のコーディネーションのことをさ”襲色目(かさねいろめ)”って言ってたの。だからさ、”桜の直衣(のうい)”って言ったらばさ、その”桜”は襲色目の名前なのね。別に桜のプリントがしてある訳じゃないの。表が白で、裏が紫か、じゃなかったら赤---こういうのを”桜の色目”って言ってさ、素敵な公達がそういうジャケットを着てるってことよ。どんなに素敵かわかるでしょ?・・・(略)
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以上、同書P36より抜粋。
けっこう説明が詳しいので、思わず勉強になってしまう。
こうした註で、道長と伊周、彰子と定子、紫式部と清少納言の関係も、
伊周が逮捕・遠島される情景を述べるときにリアルに描かれており、
ただの翻訳を読むのとはわけが違う。
もちろん他にも平安時代の風俗がてんこ盛りだ。
なるほど13刷も増刷されただけのことは大アリな、隠れた名著なのであった。
これも京都ファンなら、黙って読むしかないだろう(笑)