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アイ・エス・ビーのニュース
■今後の見通し
b) 提案型業務の拡大:Qt(キュート)
提案型業務の拡大施策として、Qt(キュート)をフック役として、車載機器や産業機器、医療機器向けを中心に開発案件の受注及びライセンス販売の拡大に取り組んでいる。2019年12月期の関連売上高は354百万円と前期から若干減少したものの、2020年12月期は営業体制を一段と強化することで前期比27.1%増の450百万円を見込んでいる。
QtとはThe Qt Companyが手掛けるアプリケーション開発キットのことで、最大の特徴は1つのソースコードで複数のOS(Windows、MacOS、Linuxなど)やデバイス(デスクトップ、モバイル機器等)に対応可能な“クロスプラットフォーム”という点にある。アイ・エス・ビー<9702>は2008年以来、日本でのQtパートナーとなっている。産業機器や医療機器などのGUI(Graphical User Interface)は陳腐化しているものも多く、こうしたGUIを見直す際に使い勝手の良いQtを導入するケースが多い。
また、2018年10月にカナダのBlackberryとの間で組込み系システムのリアルタイムOSの1つであるBlackBerry QNXシリーズ等に関するVAI(Value-Added Integrator)パートナー契約※を締結したことで、QtとQNXをセットで提案できることも今後強みになってくると思われる。特に、自動車分野においてはQNXがカーテレマティクス(自動車向け移動体通信システム)用OSとして世界で1.2億台に搭載されていると言われており、QtがQNXの標準QUIとして採用されているためだ。テレマティクス分野は5Gサービスの普及とともに、さらに進化を続けていくものと見られており、無線通信分野の開発力で強みを有する同社にとって、車載分野で売上げを拡大する好機になると見られる。
※組込みシステムに搭載されるリアルタイムOSの1つであるBlackBerry QNXなどに関する技術サポートとサービスを提供することができる契約。主な用途先としては、自動車システム、医療機器、FA機器などが挙げられる。
c) 将来性の高い市場・技術へのシフト:組込み分野(車載機器)
将来性の高い市場として、ここ数年、車載機器の組込み分野をターゲットに受注拡大に注力してきた。自動車の電装化及びICT化が進むなかで組込みソフトウェアの開発需要は旺盛であり、今のところ陰りは一切見られない。前述したとおり、同社は無線通信分野の技術開発力で強みを有し、また、QtやQNXを用いた提案型営業を行えることから、今後も既存顧客からのリピート受注だけでなく、新規顧客の開拓による売上拡大が見込まれる。車載システム向けの売上高はここ数年2ケタ成長が続いており、2020年12月期も前期比15.7%増の1,700百万円と高成長を見込んでいる。
(3) コスト競争力強化
コスト競争力強化の取り組みとして、グループ内でのオフショア/ニアショア戦略を推進してきた。オフショア拠点として、2018年よりベトナム子会社のISB VIETNUM COMPANY LIMITED (IVC)を本格的に活用。売上高の80%以上をグループ内から発注する方針へと切り替えた。従来は独立経営に委ね、案件ごとに発注していたが、期によってばらつきがあり、IVCの業績も低迷していた。2017年以降はグループ内からの受注が増加し、2019年12月期には売上高の91.3%をグループ内で占めるまでになっている。また、グループ案件に多く携わるようになったことで開発品質や生産性も大きく向上し、売上総利益率では2017年12月期の19.7%から2019年12月期は32.4%に上昇した。なお、2020年12月期については、IVCへの発注額がやや減少し、売上総利益率も29.4%と低下する計画となっている。これは、ベトナム現地に進出してきた欧米企業とのIT技術者の争奪戦が激化しており、人件費が前年比で1割程度上昇している状況に鑑み、保守的な計画としたためだ。なお、IVCの人員は約130名規模となっており、2020年は横ばい水準を見込んでいる。
一方、ニアショア拠点として、東北エリアでは(株)アイエスビー東北、北海道ではスリーエスを活用しており、2社合わせた人員は約130名規模となっている。これら子会社でのグループ内売上比率は2017年12月期の18.4%から2019年12月期は23.8%に上昇し、売上総利益率についても2017年12月期の11.2%から2019年12月期は15.1%まで上昇するなど、ニアショア拠点としての活用が進むと同時に、これら子会社の収益性も向上するなど好循環となっている。2020年12月期も売上比率は25.0%まで上昇するが、売上総利益率に関しては保守的に見て14.5%で計画している。なお、ニアショア戦略では新たに子会社化したコンピュータハウスの札幌拠点や福岡拠点なども今後活用していく方針だ。
(4) グループ経営戦略強化
a) 協業/分業による事業領域拡大
グループ子会社の経営リソースを効果的に活用するため、各子会社の特性を生かして協業/分業を進めている。例えば(株)エス・エム・シーは、従来、インフラ構築や運用・保守サービス等のフィールドサービス業務全般を行っていたが、経営の効率化を図るため構築業務については同社に移管し、逆に同社が行っていた運用・保守業務をエス・エム・シーに移管した。この結果、2019年12月期は売上高で前期比7.1%増の722百万円、売上総利益率で同5.6ポイント上昇の18.5%と大きく改善しており、2020年12月期は更なる売上高の拡大を見込んでいる。
またスリーエスは、2019年1月に札幌システムサイエンスとインフィックスを合併することによって相互の弱点・経営課題を補完し、業績拡大につなげた成功例となっている。具体的には、札幌システムサイエンスは道内の開発案件が少なく、稼働率の低さが経営課題となっていた。一方、インフィックスは東京に拠点を置き、金融や公共分野の開発案件で強みを有していたが、エンジニア不足により受注機会を逸するケースが多かった。こうした課題を2社が合併することで解消し、また、同社がニアショア拠点として活用を進めたこともあり、2019年12月期の売上高は前期比6.2%増の1,755百万円となった。売上総利益率は15.2%と前期から若干下がったものの、2期前の13.8%から見ると改善している。2020年12月期は売上高で前期比9.4%増の1,920百万円と、さらに拡大する計画となっている。
b) M&Aの実績
同社はM&Aについても成長戦略の1つとして掲げている。M&A案件としては、2012年以降6社をグループ会社として組み入れてきたが、いずれも買収前の想定利益率を上回り、買収初年度でのれん償却額を上回る営業利益を達成していることは注目される。これは、M&Aを行うに当たって、デューデリジェンスをしっかり行ったうえで、適正な買収額で子会社化していることに加えて、PMI(Post Merger Integration:M&Aの後の経営管理)についても、グループでのシナジーやコスト低減策など、子会社化後の収益成長に向けた適切な施策を立案し、実行できていることが要因と考えられる。また、M&Aは最終的には企業トップ同士の話し合いで決まるため、同社の代表取締役社長である若尾逸雄(わかおいつお)氏の人柄や経営に対する考え方が、相手先に高く評価されていることも大きい。
2012年以降、同社が実施した戦略的M&Aの2019年12月期までの成果を見ると、これら子会社の累計営業利益2,275百万円に負ののれん438百万円を足して、のれん償却額902百万円を引いた1,811百万円がM&Aによって生み出された利益となる。もちろん、この間のIT業界を取り巻く市場環境が良好だったこともあるが、M&Aをしたくても買収コストが高くて成約に結び付かない、あるいはM&Aできても買収コストが高くなりすぎて、業績面での貢献が当初の想定を下回るといった企業が多いなかで、同社のM&Aの実績は高く評価される。同社では、今後もシナジーが期待できる案件については前向きに検討していく方針となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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b) 提案型業務の拡大:Qt(キュート)
提案型業務の拡大施策として、Qt(キュート)をフック役として、車載機器や産業機器、医療機器向けを中心に開発案件の受注及びライセンス販売の拡大に取り組んでいる。2019年12月期の関連売上高は354百万円と前期から若干減少したものの、2020年12月期は営業体制を一段と強化することで前期比27.1%増の450百万円を見込んでいる。
QtとはThe Qt Companyが手掛けるアプリケーション開発キットのことで、最大の特徴は1つのソースコードで複数のOS(Windows、MacOS、Linuxなど)やデバイス(デスクトップ、モバイル機器等)に対応可能な“クロスプラットフォーム”という点にある。アイ・エス・ビー<9702>は2008年以来、日本でのQtパートナーとなっている。産業機器や医療機器などのGUI(Graphical User Interface)は陳腐化しているものも多く、こうしたGUIを見直す際に使い勝手の良いQtを導入するケースが多い。
また、2018年10月にカナダのBlackberry
※組込みシステムに搭載されるリアルタイムOSの1つであるBlackBerry QNXなどに関する技術サポートとサービスを提供することができる契約。主な用途先としては、自動車システム、医療機器、FA機器などが挙げられる。
c) 将来性の高い市場・技術へのシフト:組込み分野(車載機器)
将来性の高い市場として、ここ数年、車載機器の組込み分野をターゲットに受注拡大に注力してきた。自動車の電装化及びICT化が進むなかで組込みソフトウェアの開発需要は旺盛であり、今のところ陰りは一切見られない。前述したとおり、同社は無線通信分野の技術開発力で強みを有し、また、QtやQNXを用いた提案型営業を行えることから、今後も既存顧客からのリピート受注だけでなく、新規顧客の開拓による売上拡大が見込まれる。車載システム向けの売上高はここ数年2ケタ成長が続いており、2020年12月期も前期比15.7%増の1,700百万円と高成長を見込んでいる。
(3) コスト競争力強化
コスト競争力強化の取り組みとして、グループ内でのオフショア/ニアショア戦略を推進してきた。オフショア拠点として、2018年よりベトナム子会社のISB VIETNUM COMPANY LIMITED (IVC)を本格的に活用。売上高の80%以上をグループ内から発注する方針へと切り替えた。従来は独立経営に委ね、案件ごとに発注していたが、期によってばらつきがあり、IVCの業績も低迷していた。2017年以降はグループ内からの受注が増加し、2019年12月期には売上高の91.3%をグループ内で占めるまでになっている。また、グループ案件に多く携わるようになったことで開発品質や生産性も大きく向上し、売上総利益率では2017年12月期の19.7%から2019年12月期は32.4%に上昇した。なお、2020年12月期については、IVCへの発注額がやや減少し、売上総利益率も29.4%と低下する計画となっている。これは、ベトナム現地に進出してきた欧米企業とのIT技術者の争奪戦が激化しており、人件費が前年比で1割程度上昇している状況に鑑み、保守的な計画としたためだ。なお、IVCの人員は約130名規模となっており、2020年は横ばい水準を見込んでいる。
一方、ニアショア拠点として、東北エリアでは(株)アイエスビー東北、北海道ではスリーエスを活用しており、2社合わせた人員は約130名規模となっている。これら子会社でのグループ内売上比率は2017年12月期の18.4%から2019年12月期は23.8%に上昇し、売上総利益率についても2017年12月期の11.2%から2019年12月期は15.1%まで上昇するなど、ニアショア拠点としての活用が進むと同時に、これら子会社の収益性も向上するなど好循環となっている。2020年12月期も売上比率は25.0%まで上昇するが、売上総利益率に関しては保守的に見て14.5%で計画している。なお、ニアショア戦略では新たに子会社化したコンピュータハウスの札幌拠点や福岡拠点なども今後活用していく方針だ。
(4) グループ経営戦略強化
a) 協業/分業による事業領域拡大
グループ子会社の経営リソースを効果的に活用するため、各子会社の特性を生かして協業/分業を進めている。例えば(株)エス・エム・シーは、従来、インフラ構築や運用・保守サービス等のフィールドサービス業務全般を行っていたが、経営の効率化を図るため構築業務については同社に移管し、逆に同社が行っていた運用・保守業務をエス・エム・シーに移管した。この結果、2019年12月期は売上高で前期比7.1%増の722百万円、売上総利益率で同5.6ポイント上昇の18.5%と大きく改善しており、2020年12月期は更なる売上高の拡大を見込んでいる。
またスリーエスは、2019年1月に札幌システムサイエンスとインフィックスを合併することによって相互の弱点・経営課題を補完し、業績拡大につなげた成功例となっている。具体的には、札幌システムサイエンスは道内の開発案件が少なく、稼働率の低さが経営課題となっていた。一方、インフィックスは東京に拠点を置き、金融や公共分野の開発案件で強みを有していたが、エンジニア不足により受注機会を逸するケースが多かった。こうした課題を2社が合併することで解消し、また、同社がニアショア拠点として活用を進めたこともあり、2019年12月期の売上高は前期比6.2%増の1,755百万円となった。売上総利益率は15.2%と前期から若干下がったものの、2期前の13.8%から見ると改善している。2020年12月期は売上高で前期比9.4%増の1,920百万円と、さらに拡大する計画となっている。
b) M&Aの実績
同社はM&Aについても成長戦略の1つとして掲げている。M&A案件としては、2012年以降6社をグループ会社として組み入れてきたが、いずれも買収前の想定利益率を上回り、買収初年度でのれん償却額を上回る営業利益を達成していることは注目される。これは、M&Aを行うに当たって、デューデリジェンスをしっかり行ったうえで、適正な買収額で子会社化していることに加えて、PMI(Post Merger Integration:M&Aの後の経営管理)についても、グループでのシナジーやコスト低減策など、子会社化後の収益成長に向けた適切な施策を立案し、実行できていることが要因と考えられる。また、M&Aは最終的には企業トップ同士の話し合いで決まるため、同社の代表取締役社長である若尾逸雄(わかおいつお)氏の人柄や経営に対する考え方が、相手先に高く評価されていることも大きい。
2012年以降、同社が実施した戦略的M&Aの2019年12月期までの成果を見ると、これら子会社の累計営業利益2,275百万円に負ののれん438百万円を足して、のれん償却額902百万円を引いた1,811百万円がM&Aによって生み出された利益となる。もちろん、この間のIT業界を取り巻く市場環境が良好だったこともあるが、M&Aをしたくても買収コストが高くて成約に結び付かない、あるいはM&Aできても買収コストが高くなりすぎて、業績面での貢献が当初の想定を下回るといった企業が多いなかで、同社のM&Aの実績は高く評価される。同社では、今後もシナジーが期待できる案件については前向きに検討していく方針となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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