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「日本の生産性を上げるカタリストになれるはず」 これからのマーケットとアクティビストの役割とは
パネルディスカッション 第2部
井村俊哉氏(以下、井村):モデレーターの井村と申します。よろしくお願いいたします。まず、みなさまに自己紹介をしていただきます。田中さんからお願いします。
プロフィール 田中克典氏
田中克典氏(以下、田中):こんにちは。ありあけキャピタルの田中と申します。私は、2001年から2020年まで、ゴールドマン・サックス証券で銀行アナリストをしていました。アナリストという仕事は人気商売のようなところもあり、人気のあるいいセクターを担当すると、いろいろな投資家から声がかかり質問が飛んでくるわけです。
みなさまもご承知のとおり、マイナス金利の導入以降、銀行株セクターは本当に鳴かず飛ばずで、バリュエーションはどんどん安くなっていきました。その時に、アナリストとしてレポートを1枚書いて、「銀行株が割安である」という議論をしても、おそらく誰も話に乗ってこないだろうと思いました。
投資家からは「安いのはわかっている。それでは、その安さを変化させるカタリストは何なのだ」と聞かれることが多かったわけです。ですので、「それならば、自分たちでカタリストを作ればいいのではないか」と考え、ありあけキャピタルという会社を設立しました。現在は銀行株中心に投資を行っています。
井村:なるほど。例えば、銀行でいうところのバリュートラップは「宝があるのはわかっているが、鍵がガチガチにかかっていて開かない。でもそこに大事なものがあるんだ」というお話ですが、田中さんの「カタリストを自ら作る」という場合は「銀行の金庫にはガチガチに鍵かかっているけれども、自分たちでこじ開けに行く」というニュアンスでいいでしょうか?
田中:銀行強盗というわけではないですが、そのとおりです。
井村:銀行強盗ではないけれど、カタリストを自分たちで作り、その対価としてフィーをいただくというファンドビジネスですね。ありがとうございます。続いて丸木さん、お願いします。
プロフィール 丸木強氏
丸木強氏(以下、丸木):ストラテジックキャピタルの丸木です。私はサラリーマンとして証券会社に勤めた後、1999年にアクティビスト・ファンドを立ち上げました。その時に一緒に始めたのが、若くない方はご存知の村上世彰さんという方です。そのファンドは2007年にいったん解散し、今の会社を2012年に始めて、やっと10年経ったところです。
アクティビスト・ファンドだと自称している、日本のマネージャーとしては数少ない運用業者だと思っています。経営者とエンゲージメントしますが、時と場合によってはハードな手段を取ることもあります。後ほどそのようなご質問も受けるのだろうと思いますので、できる範囲でご説明します。本日はよろしくお願いします。
井村:ストラテジックキャピタルの注目度は、個人投資家の中でもかなり高まっています。今年か昨年末くらいに「Twitter」を始められましたよね?
丸木:夏からです。
井村:失礼しました。フォローしているのですが、ツイートは丸木さまが更新しているのでしょうか?
丸木:弊社の20代のアナリストが更新していますが、時々チェックしています。
井村:では、投稿してもらっているのでしょうか?
丸木:はい、そのとおりです。
井村:時々「企業分析のいろは」などもツイートしていて勉強になりますし、明々後日に迫っている日本証券金融の臨時株主総会についてもツイートされており、発信力を付けて企業の変革を促していこうということだと理解しています。いろいろと聞かせていただきたいと思っています。続いて、ビデオオンラインで参加されているトビーさん、よろしくお願いします。
プロフィール トビー・ローズ氏
トビー・ローズ氏(以下、ローズ):Kaname Capitalのトビーと申します。よろしくお願いします。ボストンからの参加で、少し時差ボケしていますが、がんばります。背景としては日本の市場を25年程度見ており、約4年前にKaname Capitalを設立しました。
我々は、できる限り質の高い会社に投資しようとしています。できるだけバリュートラップを避けつつ、時々トラップバリューをアンドロップしようと動くこともあります。我々のキャッチフレーズは「不言実行」であり、言葉だけではなく、アクションでできる限りサポートしています。よろしくお願いします。
井村:通訳の方に入っていただき、英語でお話しいただいたものを通訳するという進め方でいきます。具体的にどのような相手に投資しているかというところもお聞きしたいと思っていますので、よろしくお願いします。続いて平野さん、お願いします。
プロフィール 平野太郎氏
平野太郎氏(以下、平野):カタリスト投資顧問の平野です。松本さんと一緒に、マネックス・アクティビスト・ファンドを運用しています。カタリスト投資顧問の前は、アライアンス・バーンスタインという会社に長年勤めており、東京にいつつグローバルな視点で日本の企業の分析を行ってきました。
その前は、マッキンゼー・アンド・カンパニーというコンサルティングファームで、主として経営の視点を磨いてきました。金融と経営の視点から、大きな波がある中で日本のガバナンスを向上させ後押しするというコンセプトのもと、マネックス・アクティビスト・ファンドを運用しています。
後ほど、いろいろな具体例等も踏まえ、みなさまと対話することを大変楽しみにしています。よろしくお願いします。
カタリスト投資顧問について
井村:よろしくお願いします。平野さんと松本さんは、例えば投資先の候補があって、その投資検討をした時、どちらが最終的に裁量を振るうのでしょうか? 平野さんが「ここはいい」と言えば、すぐに投資できるのでしょうか? そのあたりはどのような建て付けというか、役割分担になっているのでしょうか?
松本大氏(以下、松本):一応、合議ではあります。ただし、合議を行っていると丸くなってしまいます。最後は誰かが決めなければなりません。案外、私が決めます。
井村:最後は松本さんが決めるのですね。
松本:いえ、これは特に今からのお話です。現在、私はファンドへの関わりをさらに深くし、ファンドをもっと尖ったかたちにしようとしています。イェスパー・コールも投資委員会のメンバーなのですが、イェスパー・コールと平野と私の3人の投資委員会メンバーで話して決めています。
井村:基本的には合議で決め、松本会長が最終決定するということですね。
松本:私はいろいろな意味で目立ちますので、責任を取らなければいけないと思い、しっかりと行っています。
井村:なるほど。春からグループのCEOを退いて会長職になり、こちらでも会長になられるのでしょうか?
松本:それは総会の後からのお話です。6月の総会の後から、グループのCEOは清明となります。現在は私がCEO、清明がCo-CEOという体制ですが、今後はCEOを清明1人とし、私は代表権のある会長および取締役会議長になります。グループの日々のことは清明が行い、取締役会で決めるようなことは私と清明で決めていくようなかたちです。グループの日々のことから離れる分、時間を作って、アクティビスト・ファンドの運用にさらに深く関わります。
井村:そのお話を聞いて、大きな覚悟を感じます。まだお若いですので、グループ全体で経営の手腕を振るっていけるにもかかわらず、もうファンドにコミットするというのは、大きな覚悟があるのだと思います。
松本:この場でこのようなお話をしてすみません。マネックスという会社はBtoCの会社ですので、個人のお客さまがいるわけです。潜在的な個人のお客さま全体の平均年齢は、日本国民の平均年齢と同じだと思うのですが、1年に1歳も年を取らないのです。創業した時、私は35歳で、日本国民の平均年齢は40歳でした。今、私は59歳になりましたが、日本国民の平均年齢は48歳です。
平均年齢のマイナス5歳から始まって、今はプラス11歳です。つまり、私の年齢が平均から離れてきてしまったのです。社員も平均年齢が40歳くらいで、間違っていたら申し訳ないですが、清明は44歳か45歳だと思います。
井村:つまり、アクティビストとして「ガバナンスはどうなっているのだ」というようなことを言う立場でもあるけれど、社内的なガバナンスや組織をリフレッシュする意味も込めて、今回の組織体制の変更を行うということでしょうか?
松本:そのとおりです。その上で、私は運用の第一線にさらに出ていきます。そのまま結果が出ることですので隠しようがないことです。この歳になって、いきなり算数のテストを受け始めるような感じですが、そのようなところに出て、運用を一緒にしっかりと行っていこうと思っています。
井村:楽しみです。
平野:コンセンサスでないということです。合議と言いつつ、意見が違っていいということです。それぞれの見えている世界からびしっと言うことを言うため、意見が分かれることは当然あります。その中で、手前味噌になりますが、私はグローバルでいろいろなエクイティの人たちとずっと仕事をしてきましたが、やはり松本さんは「すごいな」と思うことがしばしばあります。ですので、そのような感じで運用しています。
井村:そのあたりも聞かせていただきたいと思います。
パネルディスカッション
井村:パネルのテーマは、大きく2つ用意しています。1つ目が「これからのマーケットとアクティビストの役割」です。2つ目が「アクティビストから見る日本の可能性」です。
アクティビストとは一体何をしているのか?
井村:こちらの2つのテーマで議論をしていきたいと思うのですが、その前に、「そもそもアクティビストとは一体なにをしているのか」ということをお話しいただけますでしょうか? 脅かして配当を増やさせるようなイメージしかないような気がしますので、まず活動の実態をご教示いただきたいと思います。
口火を切っていただきたいのは、ストラテジックキャピタルの丸木さんです。実際のところ、どのようなエンゲージメントを行っているのかということで、代表的な事例でもよいのですが、なにかお話しできるものがあればお願いします。
丸木:通常は、先に株を買ってしまうことが多いです。先に5パーセントくらい買って「社長に会いたい」と言うと、持ち株比率5パーセントの株主の面談を断る会社はまずありません。必ず会います。年に7回、8回から10回くらいです。
社長だけではなく、CFOや社外取締役や、会長であることもありますが、そのような人たちとどんどん面談をして、「このようなことをしてほしい」という要望をいろいろと伝えます。もちろん株主総会でも同様です。私は、最近は20分から30分ほどですが、7年から8年前までは1時間以上、株主総会で話していました。
井村:総会の発議の場で挙手して、1時間話すのですか?
丸木:話します。
井村:大変迷惑なのですが。
丸木:はい、話します。
井村:本当ですか?
丸木:今は20分から30分にしています。
井村:いやいや、20分から30分も長いですよ。
丸木:また会社説明会でも、弊社のアナリストが出て質問したりします。
井村:それは問題ないです。
丸木:ただし、普通のエンゲージメントでなかなか動いてくれない場合、株主総会でオフィシャルな株主提案を出したり、Webでキャンペーンサイトを出したりもします。日本証券金融のお話をすればよいでしょうか?
井村:その前に、今気になったことをお聞きします。アポイントを取り付けて年に7回から8回面談するということですが、その内容としてはなにかをご提案するわけですよね?
丸木:はい、そのとおりです。
井村:ご提案の内容は具体的に何でしょうか?
丸木:ガバナンスの改善と資本配分の是正、改善です。我々の場合、ビジネスの改善についてはほとんど言いません。言う時もありますが、我々はビジネスについてはやはり素人だと思っていますので、言いません。
バランスシート、つまり自己資本が積み上がりすぎていること、またそのために、資本コスト以上にリターンが生まれておらず、株価が安いこと、そしてそれをどのように改善したらよいのかを説明します。会社によっては、資本コストの計算の仕方、つまりスクラッチから説明します。
井村:しかしそれは、小難しく言うと資本効率の改善ということですが、平たく言うと「自己株買いするか配当を出せ」というふうに置き換わるような気もします。他のアプローチはあるのですか?
丸木:我々は通常、「自己株買いをしろ」とは言いません。なぜかと言いますと、我々が投資しているのは時価総額数百億円の企業ですので、流動性が下がってしまうためです。しかし、我々が株を買うと勝手に自己株買いをするのです。誰かアドバイザーがついて、「ストラテジックキャピタルが来たから、追い出すには自己株買いをしていけ」など、嘘のアドバイスをするのです。
井村:嫌がられているのではないですか?
丸木:しかしそのアドバイスは嘘であり、我々はそのようなことを望んでいないわけです。
井村:なるほど。
丸木:配当であればいいのですが、流動性が下がることは望んでいません。
井村:そうなのですね。
丸木:また、最近は増えましたが、「指名・報酬委員会を作れ」なども言うし、その運用の仕方についても実際に細かくヒアリングします。買収防衛策については「廃止しろ」、自己株を持っていれば「消却しろ」など、ありとあらゆることを言います。
井村:なるほど。そのあたりはたぶん、ガバナンスのご提案ですね。
丸木:はい、そのとおりです。
井村:そうすると、大きく「資本効率の改善」と「ガバナンス」の2点の提案をされていて、資本効率のところで言うと、「過剰資本になっているのをマーケットや社会に返してください」というふうにご提案するということですね。
丸木:そのとおりです。もちろんその前に、「資本効率が高い事業投資があるならそちらを進めてください。資本を使わないなら返してください」と伝えています。このように資本を使うというアイデアを持っていない経営者が多いため、余ってしまっています。
井村:確かにそうですね。そのような日本企業はたくさんあると思います。発行体もそれに危機意識を持っていますし、東証自体も持ち始めているタイミングですので、流れとしては今、一致していると思います。ありがとうございます。
銀行セクターにおけるアプローチ
井村:続いて、田中さんにおうかがいしたいのですが、今の丸木さんの視点は、自己資本が過剰になっているところの株を取得して、ご提案しにいくというものだと思います。
上場企業の銀行株が七十数行ある中で、今開示されている範囲だと北國フィナンシャルホールディングスとちば興業銀行の2社を選定した理由はどのあたりにあったのでしょうか? ちば興業銀行は大量保有を出しているし、上のほうでも買い増しのようなことがかなりたくさん観測されています。
田中:まず、我々のアプローチは、丸木さんのところとは少し違います。私自身が銀行アナリストとして銀行業界に20年ほど携わっていた中で、バランスシートだけの問題ではなく、ビジネスに関してもいろいろな非効率性があるのではないかと思っています。ですので、それも含めて全般的に価値向上を行うというのが、私のバックグラウンドから来ているポイントだと思います。
井村:なるほど、そこは大きいですね。アナリストとして事業サイドの理解もしているため、「他行ではこのように事業を再編しますので、御行もしたほうが企業価値が上がりますよ」など、企業価値の向上を望むということですね。
田中:そのとおりです。我々が心がけているのは、変化する意志のある経営者を探し当てることであり、それが私がこの業界に長くいたことのポイントだと思っています。
言い換えると、企業価値を上げることです。株価を上げるというのは、山に登ることではないかと思っています。山に登るにあたって、その山に登る意志のある経営者に伴走します。例えば燕岳に登るなら、我々は燕岳の下にいて、登ろうとしている人に「我々は山岳ガイドです。山の登り方を知っていますのでガイドしましょう」というかたちです。
東京で登山の魅力をイチから教えるのに比べると、この方法のほうがより成果が出しやすいと思います。結局、IRRを上げるという観点では、そのアプローチを取ることが、当社のファンドの投資家の方にとってもパフォーマンスを上げるという点でも、重要だと思っています。
井村:非常にわかりやすいです。なぜ燕岳なのかはわかりませんでしたが、山登りの例えだとわかりやすいですね。やる気のある人のいないところに行っても、行動するまでに時間がかかるし、行動しない可能性のほうが高いものです。
一方で、私もIRとコミュニケーションを取ることが多いのですが、やる気はあるけれどアプローチの方法を知らないという発行体はかなりあります。むしろ、やる気のある人のほうが多いのではないかと思うくらいです。そのような人たちに教えてあげるということですね。
田中:そのとおりです。銀行セクターの場合は特殊性があり、そもそも持ち株比率が20パーセント以上の株主になるためには、金融庁からの許可が必要です。一般論になりますが、株主権というものを考えた時に、株主総会で経営者を変えることが最大の権利であり、株主権の行使だと思います。
そのような意味では、従来、銀行セクターにおいては、その権利はなかなか行使できませんでした。なぜなら、20パーセント以上の株の保有が実質上難しいことが前提になっていたからです。それならば、このセクターにおいては保有株比率を上げていくことにより圧力をかける以外のアプローチが重要ではないかと思います。
また、この株主権を取れるところにおいても、状況が変わってきたのではないかと思います。松本さんのコンペティターですが、SBIホールディングスが新生銀行買収の時に、敵対的というかたちでスタートしたことも含め、この業界における常識が少し変わってきているようです。
このように、経営者のほうも意識が変わってきていると思います。同時に我々の戦略として、変化を早めに受け入れていただけそうなところにアプローチしていきます。
井村:例えばシティインデックスイレブンスという、村上ファンド系の大株主の名簿に載るという状況がセクター全体で散見されるようになってきて、発行体側もしっかりしないといけないという雰囲気になっています。その中でもやる気があり、目覚めている会社に対してエンゲージメントしにいくアプローチですね。わかりました。ありがとうございます。
外国人の投資家から見た日本株の魅力
井村:続いて、トビーさんにお聞きしたいのですが、海外にいる外国人の投資家から見た日本株の魅力と、現在どのような会社にエンゲージメントしているのか、投資事例のようなものをお聞かせください。
ローズ:このような機会を頂戴しまして、誠にありがとうございます。我々は米国で資金調達し、日本で投資をしている会社ですが、その観点からお話しすると、日本の市場は非常に割安ですし、また、今大きな変化が起きています。
我々の戦略は、ここでみなさまがお話しされたものと基本的に同じですが、違いがあるとするならば、質、そして割安というところを組み合わせていきます。そして、クオリティが一番高くて、しかも割安であるということを鑑みた時に、その大半の投資先が日本にあるといえます。
Kaname Capitalというのは、そのような意味ではバリューファンドなわけですが、我々がお話しするマネジメントの中には、敵対的なところもあり、そのようなところとも深く関わっていきます。例えば、変化するように促すなど、基本的には、先ほど丸木さんがお話ししていたかたちで対話を進めていきます。現在、20銘柄くらいに投資していますが、そのうち5銘柄と非常に深いエンゲージメントを持っています。
井村:例えば、その深いエンゲージメント先で、きちんとコミュニケーションが取れて、企業価値が上がっている事例はなにかありますか?
ローズ:はい、あります。今、深く関わっている投資先の1つに、医療機器メーカーのフクダ電子というところがあります。ここは創業者一族によって経営されている会社で、非常に長い歴史を持っているのですが、完全に株主を無視している会社でした。
株式を保有して3年ほど経ちますが、その3年間の中で「指名・報酬委員会を設置するように」という要望を出したり、あるいは個人株主への議決権を増やし、流動性を高めるために株式の分割の要求をしたり、また配当金の増配などを要求したりしてきました。だいたい、そのうちの半分くらいは要望が聞き入れられたと思いますが、残りの半分はまだ聞いてもらえていない状況です。
井村:なるほど。返してくれる発行体とそうでないところはあるけれど、深く関わり、提案して、引き続きコミュニケーションは密に取っていこうという感じですね。ありがとうございます。
エンゲージメント先との対話について
井村:続いて、平野さんにお聞きしたいのですが、今までの事例で出てきたものは、おそらく基本的にはブック、資本、バランスシートなどに着目し、配当や資本効率の改善のようなことを訴えかけるようなエンゲージメントが多いかと思います。
自分が個人的に気になっているのが、セプテーニという会社に対するエンゲージメントです。リリースで目を引いたのが、末尾に記載されていたエンゲージメント先の佐藤社長からのコメントで、「協働して企業価値向上に努めます」と、併走している感じが非常に強く出ていました。
この事例は非常にいいなと思ったのですが、実際にどのようなことができるのかというイメージが付いていません。どのようなことを行っていますか?
平野:ありがとうございます。我々の投資先はいろいろあり、成熟した企業の事業再編や資本構成のような対話もたくさんしています。どちらかといいますと、セプテーニは例外的に若い企業で、成長企業というかたちです。若い会社だけに、非常にオープンで、対話に対して大変積極的で、資本市場の声というものを聞きたいという会社でした。
社長を筆頭に、経営企画の方々がオープンに会社の課題を議論するという背景がありました。我々がお伝えした中で「電通との関係をどうするのか」というのが、おそらく大きな論点でした。客観的に見て、いろいろな企業・産業で起きたことを伝えたり、そのような中で、今のこの産業のステージでどういうことが望ましいのかといったことを議論したりしました。
例えばデジタルマーケティングは、非常にニッチで、パソコンで行うもの、またブラウザで見るものという時代から、スマホになり、MetaやGoogleの力が非常に強くなりました。その中で、大手の企業がデジタルマーケティングにだんだん乗り出してきました。そうすると顧客層も、ゲーム会社のようなところから大手企業に変わっていく時に、電通との力をより多く使うほうがいいのではないか、と思うのが自然な答えなのです。
しかし、そのようなことを会社の中で議論していると、気持ちとしては、「そうは言ってもコントロールされたくない」「自分たちでもやっていける」などのセンチメントがどうしてもあるわけです。それに対して、お声を届けます。また、この会社は社外の方も非常に優秀な方が多いため、会社から距離を少し置かれている社外取締役の方と合理的な対話が成立します。
その方たちからも、お話ししている中で「やはり電通との力を強くしたほうがいい」というお声をいただきました。その中で電通との共有が深くなったり、その上で資本市場に対してどのようなメッセージを出せば正しく会社を評価してもらえるかといったことについて対話しました。「伴走する」というのはまさにそのとおりで、お互いに非常にいい関係で対話ができたと考えています。
井村:株価的なカタリストみたいなところだけで考えてしまうと、例えば電通が一部のセプテーニさんに行って、電通の資本を一部入れているのです。ということは、「一部ではなく、すべて買い取って、電通の子会社にしたほうがよいだろう」という考えも、一方であると思うのです。
そのような場合はすべて買い取りというかたちになるため、イグジットという道が見えるのですが、そのようなお話はしないということなのでしょうか?
平野:それは少し差し控えさせてください。
井村:そうですか、ごめんなさい。
松本:相手によりますよね。「そのようにしたほうがよいのではないのか?」ということを、その相手や社長に言う投資対象もあります。セプテーニさんの場合にはそうではないということです。
井村:もう自立して、今後も引き続き成長できるというところにベットされているため、そのようなお話はしないということですね。
松本:自立というより、完全子会社になると、反対につまらなくなってしまうところもありますので、会社によっていろいろな違いがあると思うのです。
井村:なるほど、今のご説明でよくわかりました。
これからのマーケットとアクティビストの役割について
井村:さっそく1つ目のパネルに入っていきたいと思います。「アクティビストの役割」ということでお言葉を頂戴したいと思うのですが、みなさまの中で「表明したいぞ」とまず能動的に思われる方はいらっしゃいますか? 「これが私たちの役割だ」というお考えをお持ちの方、いかがでしょうか? では松本さま、お話をお願いいたします。
松本:先ほど少し話題に出た、東証の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」で、つい1週間ほど前に出た対応方針というものがあります。その1枚目の冒頭に書いてある文を少し読みます。
「我が国経済において、適材適所で伸びている分野に円滑に人や資本が移行していないことにより、 生産性の長期低迷が生じていることが課題とされる中、今後の日本経済の持続的な発展に向けて は、産業・社会における新陳代謝や、イノベーションを推進していくことが重要」
「その際、上場企業個社単独での取組のみならず、他社との生産要素の交換や合従連衡によって生産性を高めるといった方法も考えられるため、東証は、そうした取組を促進する枠組みづくりを 進めることによって、日本経済全体における生産性の向上に寄与していくことが肝要」
東証のオフィシャルな資料にこのようなことが書いてあります。
井村:アクティビストが言いそうなことを言っていますよね。
松本:実はこの部分は、私が書かせたのです。
井村:これは松本さんの作文なのですか?
松本:私が強くこのようなことを主張して、最終的に祝詞奏上である冒頭にこれが採用されたのです。先ほどもお話ししたように、儲けることは大切です。リターンを出すためにはどのようなことでも手がける方針です。丸木さんのように1時間話すかはわかりませんが、大先輩として見習い、いろいろと行います。
それと同時に、アクティビストは東証が言うように、我が国の生産性を上げることができると思うのですよね。そのためのカタリストになれると私は思っています。それがひいては受益者のみなさまにもプラスになるし、一般の個人投資家の方にもプラスになると考えています。
井村:マーケット側にとってもよいですよね。きちんとその規律を持った資本効率というのが意識づけられていくため、恐らくマーケット全体の底上げにもつながってくるでしょう。
松本:はい、そのとおりです。
井村:このような活動をすることが、アクティビストの役割の1つだということですね。
もう1つ、ここは丸木さんにお聞きしたいのですが、アクティビストには、ガバナンスに対する役割もかなり大きいと私は考えています。まさに今ホットな日本証券金融について、天下りの問題も提起されていますが、そこもガバナンスに起因するようなお話だと思っています。
そのため、私も2月7日の臨時株主総会に行く予定なのです。チケットを今持っているのですが、しかし議決をどうしようかと悩んでいるのです。東証に対して「否」を付けるのは怖いですよね。どうしたらよいのかと迷っているため、少しお言葉をいただいてもよろしいでしょうか?
丸木:今ご指摘があったとおり、日本証券金融は天下りがすごく多いです。日銀からは過去70年以上にわたって複数の人が来ており、今4人います。会長、社長、専務、子会社の日証金信託銀行の社長です。さらに財務省は旧大蔵省時代から60年以上ずっと必ず1人来ており、今は副社長に1人います。東証からは49年前からずっと来ており、今は社外取締役に1人います。
私はまず、これはESGの「G」の前に、「S」の問題であり、社会正義に反すると思っています。ただし株主としては、「それでも株主価値を上げてくれているなら、よいだろう」ということになるはずですが、現状はずっと十数年も、株価もPBR0.4倍から0.6倍くらいの水準です。
日銀や財務省から天下りすると自動的に年収が3倍になるため、退職後にゆったりと高給で、なにも努力しなくて過ごせる場所になっているのではないかという疑いを持ち、私は問題提起しました。
もちろんリターンを出さなくてはなりません。今ご質問があったように、役員を選ぶというのは、まさにガバナンスの問題です。ESGの「G」の問題です。「G」を改善すれば当然、株主価値も向上するはずです。我々は「ここについてはあまり言わない」という姿勢だった従来のビジネスの改善についても提案していますが、聞く耳を持たない感じです。
2月7日については、我々が「天下りだ」とずっと言っていると、「天下りではないのです」「資質で選んだ結果、たまたまこうなっているのです」と会社側が言うため、「では、そのような日銀、財務省、東証のOBの方々がなぜ、取締役役員候補になったのか調査しましょう」「調査をするための調査者を選びましょう」と提案しています。
提案する前の11月21日時点で、株価は990円台でした。その後少し上がったり下がったりしながら、今は1,100円を超えているところだと思います。この提案で株価が上がったのだと私は思っています。我々の提案が通れば、もっと上がる可能性があるでしょう。
「怖いのではないか」というお話がありましたが、確かに私の友人でも、「丸木、大丈夫か」「日銀や財務省を敵に回して大丈夫か」と言ってくる人はいます。
今のところは危険は感じていませんが、今後はなにかあるかもしれません。しかし、20年前とは違いますので、大丈夫だと思っています。昔となにが一番違うかと言いますと、メディアの取り上げ方が一番違っているのです。去年の6月に株主提案を実施した時は、日経は記事にしなかったですよ。
それが今回は、日経も少し書いてくれており、直近の「日経ビジネス」電子版ではすごく詳しく書いてくれました。したがって、やはり世の中が変わってきているのではないかと私は思います。ぜひ賛成票を投じてください。
井村:そうですね。「ガバナンスの前の『S』の問題だ」というお話は、胸に刺さりました。
もう1点、少し踏み込んでお聞きしたいのが、イグジットについてです。2020年の底値400円台から1,100円台まで株価が上がっていますので、「株価はだいぶ上がってきている中で、イグジットはどうするのだろうか?」というご質問です。
「儲けなくては意味がない」というお話が前提である一方で、株主提案を進める中で、「もう株価が上がってしまったから、出て行ったほうが受益者のためにはよい」というような判断がもしあるとしたら、それが今である可能性はありますか? これは話せるようなお話ではない気もしますが、イグジットのイメージについてはいかがでしょうか?
丸木:上がったと言っても、今はまだPBR0.7倍ですよ。
井村:まだ安いというお考えですね。
丸木:はい、そのとおりです。松本さんが出席された東証の議論でいくと、PBR1倍以下は、昔だったら「なんとかしろ」「議論して開示しろ」「どうするんだ?」と見做されている水準です。
井村:理解しました。「まだかなり安いぞ」というお考えですね。あと中計において、株主への100パーセント還元を行っている件も、丸木さんのご方針でしょうか?
丸木:この会社については例外で、私どもは「株主還元をしろ」とは一切言っていません。
井村:そうですか。
丸木:勝手に行っています。
井村:自発的に実施されているのですね。
丸木:はい、そのとおりです。他の解決策があるはずですので、別にしてほしいとも思っていません。株価を上げて、私たちを追い出したかったのではないでしょうか?
井村:そうなのですね。
丸木:しかし、思ったほど上がりませんでした。私たちも上がると思っていませんので、「やれ」とは言いませんでした。
井村:よくわかりました。ありがとうございます。
アクティビストから見る日本の可能性
井村:2つ目のパネルに移っていきたいと思います。「アクティビストから見る日本の可能性」というテーマです。トビーさん、外国人の投資家から見たポテンシャルについて、お話をうかがってもよろしいでしょうか?
ローズ:まず、私の考え方を少しご説明し、その後にテーマについてお話ししたいと思います。
日本の上場企業の半分がPBR1.0倍を割っていると考えると、例えば3,300社の上場企業があったとしたら、そのうちの半分は、これは取締役が不合格だったがゆえに切っているということが言えます。取締役会の平均人数は8名といわれていますので、これを単純に計算すると、1万3,200人の取締役が不合格だったといえます。
井村:厳しいですね。
ローズ:これは日本の人口の1ベーシスポイントです。人口の1ベーシスポイントを変えることによって、日本の新しい創意工夫とか、さらに日本の力を解き放つことができると考えています。約1万3,000人というと、武道館の収容人数でもあります。これだけの人数を変えることで日本を変えることができるというのは、本当にこの国でしかあり得ないことだと思います。
井村:なるほど。数値で落とし込まれると、けっこう胸に刺さりますね。1万数千人が落第点を押されており、その人たちが目覚めれば、日本はまったく違うふうに変わるというお話ですね。これは、アクティビストの役割にもつながってくる視点だと思いました。
もうお1人、田中さんにも、日本の可能性についてお聞きしたいです。地銀というのは、いわゆる「オワコン」ではないですが、どんどん人口が減少してシュリンクしていくような業界に見られがちだと思います。そのような視点から見た時に、日本にはまだ可能性があるのかといった点について、いかが思われますか?
田中:逆に言いますと、都心に住んでいる人と地方に住んでいる人の割合を考えると、半分弱の人たちは引き続き地方に住んでいるわけです。したがって、そこの部分を活性化するということ自体は、日本全体を盛り上げることになるだろうと思っています。
その中で、我々がその地方に直接触るのではなく、地方銀行は人も金も持っているため、彼らがそこにおけるファンクションをきちんと果たすことは、必要なことだと考えています。そこに我々は間接的に携われたらとも思っているところです。
井村:地域金融機関の役割として、資金と人材があるのだから、それの活用方法というのを教えるだけで、日本全体は地方から盛り上がるんだということですね。ありがとうございました。
質疑応答:株主権行使にかかる個人投資家への業務負担について
質問者:主に松本さんにご質問です。先ほどのビデオ講演でセスさんが「個人投資家もアクティビストの活動に興味を持ってほしい」とお話ししていたと思います。しかし、個人投資家が株主権を行使しようとすると、いくつか問題があって、その1つが、株主権の行使に先立って、個別株主通知という手続きを基本的に進めなくてはならないことです。
その際に、証券会社に電話して、申込書が来て、それを送り返すというふうに進めていくと、少なくとも1週間以上かかります。その上、この手続きにはお金が必要で、SBI証券だと3,300円くらい、マネックス証券だと半額の1,650円ですが、このようにいろいろと動こうとすると、けっこうお金がかかってしまいます。
こういった、手間がすごくかかるという面が、個人投資家のアクティビスト活動といいますか、株主権行使をかなり妨げているという問題意識があるのですが、松本さんはどのように考えていますか?
松本:それは提案をする際の工程ということですよね。
質問者:そのような提案をする際に「私は株主です」と言うために、個別に必要な手続きのことです。
松本:しかし、それは機関投資家も同じなのです。機関投資家も個人投資家も同じように扱っている結果、そのようになっているということなのです。一応、千数百円でできますので、致し方ないという気はしています。
一方で、例えばマネックス・アクティビスト・ファンドであれば、いろいろと意見を受け付けていますので、そこに「このような請求をしてほしい」「このような提案をしてほしい」というようなご意見をくだされば、それを我々が受け止めて進めていくということは可能だと思います。解決策としては、そのようなところかと考えます。
信託銀行側でもいろいろなプロセスがあるため、ある程度コストがかかるのは仕方がないのではないのかと思います。
ちなみに、今おっしゃったセス・H・フィッシャーが、この後来るという連絡がありました。
井村:ここに来るのですか?
松本:このパネルが終わった頃になってしまいそうですが、用事があって時間内には来られなかったのですが、日本にいますので少しだけ顔を出せるようです。最後に、すべて終わった頃にセスが来て、少しだけみなさまの前でお話しできればと思います。
井村:楽しみですね。
質疑応答:アクティビストにおける直近20年間での変化とファンド運用のパフォーマンスについて
質問者:2つご質問があります。1点目は丸木さんに、日本のアクティビストの中で、変わったことについてうかがいたいです。ガバナンス・コードができて、村上ファンド以降のこの20年間でどのように変わったのでしょうか?
特に気になっているのは、第1部で冨山さんがおっしゃっていた「会社はサラリーマン共同体、つまり『村』である」というお話です。これは本当に私も実感していますが、これに関して、どのような変遷があったのか、またこれからの5年後から10年後をどのように見立てられているのかについてお聞きしたいです。
2点目は、パネリストのみなさま、特に田中さんと松本さんにお聞きしたいです。実際にアナリストとしていろいろ分析されていた立場から運用する立場になりましたが、パフォーマンスを出すことは難しいのでしょうか? 自分の意図したものに対して、現状はどのような感じなのかについて、教えてください。
そう言いますのも、実は私、アクティビスト・ファンドのスタート以来、定時定額で毎日つみたてを実施しています。日本人として、このイベントに非常に大きな意義を感じており、応援していきたいのですが、正直パフォーマンスだけで見ると「S&P 500」のほうが、若干よいのです。これはもうどのファンドもそうで、仕方がないのです。
本音では、パフォーマンスが同じくらいであれば、応援として積立を実施していきたいのですが、あらためて考えると、パフォーマンスを出すのは難しいのだろうなという印象です。どのように考えればよいのかとお聞きしたいです。
井村:わかりました。1点目については丸木さんに対して、「アクティビストを長く見てきた中で、どのような変化があるのか」というご質問で、2点目は、松本さんと田中さん両名に対して「ファンド運用のパフォーマンスは本当に出ているのか、どのように考えればよいのか」というご質問ですね。
丸木:私は1999年からアクティビストとして活動していますが、その頃に比べると、アクティビストに対する印象は変わったと思います。子どもが学校でいじめられる心配がなくなりました。
これは笑いごとではありません。昔はいじめがあったのです。なぜあったかと言いますと、子どもの友だちの親御さんが、アクティビストについて、そのように言うためです。だから、子どもが学校でいじめられていた時代がありました。昔は心配していましたが、今はなくなりました。
メディアの取り上げ方も変わったのです。だいぶ違ってきて、このようなセミナーを開くと、みなさまがこのように集まってくださる状況も、大きく違うところだと思います。
ガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードも出来ました。企業については、大企業は相当変わっているのではないでしょうか? 大企業は日々、プレッシャーを感じていると思いますよ。30パーセント以上、外国人が持っていたら大変ですね。
ただし、我々が投資している先は、時価総額も数百億円なので、「株主には意見を聞いたことがない」というところも多く、このあたりの企業は十数年前、20年前とあまり変わっていないと、私は感じています。
だからこそ、そこは取り残された世界で、投資チャンスがあると思っています。こちらのほうが少しずつこれから変わるのだろうという認識です。
機関投資家のほうも、議決権行使で経営者にだいぶ反対票を投じるようになってきつつあるように、変化してきています。今後もう少し、それが進む可能性があると期待しています。
井村:メディアや世間からのアクティビストに対する目線というのは、非常に変わったというところで、このイベントが始まる前に、テスタさんと「このようなイベントがあります」「アクティビスト・フォーラムが開催されます」とお話しした時、最初はアクティビストへの印象がかなり悪かったですね。
「自分たちが儲けたいためだけに、要求している人たちでしょう?」というような印象を持たれていたため、アクティビストの社会的な意義が、もう少し周知される必要がたぶんあると思います。今、そのようなタイミングに来ていると、私は思っています。次は、松本さんからお願いします。
松本:1つ目のご質問ですが、4年前にアクティビスト・フォーラムという活動を始めた時に、あえてこの名前を使ったのですね。当時はマネックスグループの取締役会の中では反対意見もありました。
その際に私は、あえて「いや、アクティビストで行きたい。アクティブであるとか、意見を言うことは、なにが悪いのですか?」とお話ししました。「物言う株主」という言葉がありますが「物言う有権者」などという言葉はないですよね。
当たり前のことを、いかにも少し侮辱するような感じで表現する風潮は、非常によくないと思い、アクティビストという名前をあえて使って、そのイメージをリブランドしていこうと考えました。
2つ目のご質問で、パフォーマンスについてですが、パフォーマンスを出すことは当たり前だと考えています。マネックス・アクティビスト・ファンドも、最初はよかったのですが、去年などはそれほど悪くはないながら、あまり目立ってよい実績が出ませんでした。
しっかりとパフォーマンスを出してこそ価値がありますので、言い訳する気はありません。去年は難しく、リスクを下げた部分があり、残念な結果になりましたが、今年はマーケットの環境もよく、我々もいくつかの失敗も経て学びも得ました。
私はもともとトレーダーなので、結果の出ないものなど、ありえないと少し思っています。今後は確実にリスクを取ってリターンを出し、パフォーマンスをちゃんとお届けしようと考えています。
井村:1点、ご質問よろしいでしょうか? 運用報告書を見ると、ポートフォリオがすべて開示されており、なにに投資しているのかがわかります。直近のポートフォリオはまだわからないため古い内容にはなりますが、投資先は大手の自動車のメーカーや大手銀行などをそれなりのウェイトで持っていることがわかります。
受益者のお金を預かって、パフォーマンスをフルで取りにいく構えがある中で、あのポジションは、どのような方針でとっているのでしょうか? 流動性についての見方や位置づけなど、どのような感じですか?
松本:ファンド運用の当初は、個人の方を中心に受益者にしているため、トピックスに対してトラッキングエラーが大きすぎるとよくないという考えがあります。エンゲージメントのポジションがどうしてもバリューなどに偏る中で、大型株が上がる時についていけないなどの判断もあります。
特に2022年の場合には、金利が上がってくるだろうというビューもあり、それで銀行株を入れたりしました。つまりそのようにバランスをとるため、現状のポートフォリオにしたのですね。それも含めて、今後はさらに特徴を強くして、尖ったポートフォリオに変えていきたいと思っています。
井村:わかりました。いろいろなお金の出入りの兼ね合いや、ビューがあって、そのような投資先を組み入れているというお話でした。トビーさんもコメントがあるのですが、その前に、田中さんにもパフォーマンスについて、アナリストの時との違いなどをお話しいただければと思います。
田中:我々はまだ新しいファンドで、誇れるほど長い期間の実績があるわけではありません。我々に関しては、2022年にはフォローの風が吹いているので、パフォーマンスが出たことは事実ですが、まだ若いファンドだというところです。
では、アクティビストのファンドとパフォーマンスについてなのですが、私は少し頭でっかちなところがあるわけです。証券会社にいた頃からずっと、パッシブ・ファンドの勢いが増してきたというのはわかっていました。
その中で、パッシブ・ファンドやAIファンドだというものが入ってきた場合のアクティブ・ファンドのあり方を考えた時に、人間ができるアクティブ投資の中で、パッシブ・ファンドを上回る方法があるとするならば、それは発行体に働きかけて結果を変えることだと思っています。
私は、アクティビスト・ファンドには、パッシブ・ファンドに勝つ可能性があると考えています。このように、まだアナリストモードが抜けきれない、頭でっかちな考え方ではあるのですが、そう思いながら今、運用しています。
井村:わかりました。今はパッシブ全盛期ですが、アクティブできちんと選別するという、マーケットの価値発見の機能も、恐らくアクティブ・ファンドがいるから発揮できるものだとも考えられます。社会的にも意義があると思います。
では、トビーさんからコメントがあるということですので、お言葉、頂戴できますか?
ローズ:ここで唯一の外国人投資家として、円安についても言及したいと思います。やはり今回の円安は、リターンという意味では非常に大きな役割を担ってくれました。円ベースでは、45パーセントから50パーセントほど上昇しました。一方で、円安のせいで30パーセントほど苦しんだところもあります。
ですので、外国人投資家としてはヘッジされておらず、日経が横ばいなのに30パーセントも円安というのは苦しいことです。円安がこのまま進行するとアクティビズムはさらに増え、大きなプレッシャーになってくると思います。
松本:外国から見ると、非常に安いですよね。先日は巨大なアクティビスト・ファンドのエリオット・マネジメントがもう一度日本株に入ってくるという報道も出ていました。彼らの提案はまともですが、手段が過激なところがあるため、日本のマーケットや企業にもいろいろな刺激が来ると思います。
井村:為替の影響もあり、外国人から見ると投資妙味が増しているというお話でした。
質疑応答:譲渡制限付株式報酬制度導入の動きについて
井村:セイムボートに関連して発行体に対する株式のインセンティブ付与の流れについてのご質問です。「ここ数年はストックオプションを廃止して、譲渡制限付株式報酬制度を導入する会社が増えています。アクティビストの方から見て、譲渡制限付株式報酬制度導入の動きをどのように見ていますか? 個人的には、譲渡制限の解消条件が甘い会社が多いのではないかと思っています」というご質問です。
丸木:マーケット全般を見ているわけではないため、私が投資している会社のお話になってしまいますが、投資している会社の株価も、会社の価値以下のところが多いのですよね。そのような会社には、譲渡制限付株式(RS)やストックオプションはあまり発行してほしくないと思っています。
私が経営者なら、株価を安く放置してそのようなオプションをたくさん取ります。後で株価が上がれば儲けることができますよね。そのようなことができてしまうような、PBR0.5倍から0.7倍くらいの株価が安い企業には「譲渡制限付株式やストックオプションを発行するのなら、少しだけにしてください。株価を会社の価値以上に上げたら、もっとたくさん発行してもらってかまいません」と言っています。
うちの投資会社の中には、行使価額が1円などという会社もあります。上場企業の会社の社長には、まるで泥棒のような人もいるのです。
井村:インセンティブの設計の1つですからね。
丸木:インセンティブになりませんよね。
井村:株式自体を持っていなければ、経営者が株価を上げる意味を感じないということではないですか?
丸木:ストックオプション料ではなく、払い込んだ1円で株が買えるのですよ。50円でも100円でも大儲けできるのです。そのようなとんでもない設計をしている会社もあるので、個別に会社の設計を見なければいけないと思います。安すぎる時にたくさん発行するのも、「我田引水でけしからん」と思っています。
井村:「条件をきちんと見ましょう」ということでしょうか?
松本:会社によると思います。株価が安すぎる会社がRSなどをたくさん出すのは、やはり良くないと思います。
ただし、1円の株価はおそらくファントムストックで、基本的に株式型報酬というのはオプションではなく、経産省が推奨している譲渡制限付株式型報酬で、「現金報酬のうちの一部を、株に変えましょう」ということを言っているのです。そこにインセンティブのオプションなどが付くなどして、少しもつれてしまっている部分があると思います。この問題は会社別にきちんと整理して議論しなければいけないと思います。
井村:なるほど、そうですね。基本的には経営者にも同じ船に乗ってもらうというのがいいような気がします。
質疑応答:創業家一族が会社を私物化していた場合のスタンスについて
質問者:先ほどのセスさんのお話を聞いて少し怖くなったのですが、まだ創業家一族が支配している日本企業も多いと思います。
アクティビスト活動でさまざまな提案をする時に、実は創業家一族が会社を私物化していたことがわかったら、セスさんのように抵抗するのか、それとも「めんどくさい、これは時間がかかりそうだからやめてしまおうか」となるのか、なにか判断基準があるのでしょうか? マネックス証券のスタンスを教えてください。
松本:我々はカタリスト投資顧問という名前なのですが、カタリストというのは触媒という意味です。さらに、我々のファンドの特徴として「啐啄同時(そったくどうじ)」という考えがあり、卵から出ようとする雛がいて、外から突く音が「啐(そつ)」、中から突く音が「啄(たく)」で、両方一緒になるとポンと出てくるというコンセプトです。
まったく変わりようがない会社にエンゲージメントをかけて、受益者の方のお金を使って長年行っても、なにも変わらないのではリターンがないため、やはり変えることができる相手でないといけないと思います。
ですので、創業家が持っていても別にかまわないですし、あるいは創業家の持分が非常に多くても変わる可能性はあると思うのですが、いろいろと分析して「これは変えられない」「変えるにはよほどの時間がかかる」と考えた場合には、次のオポチュニティを探しに行くことにしています。
井村:期間利益のほうを優先するということですね。私は、『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』という本を読んで、リターンはもちろんですが、株主としてガバナンスの面で、もっといろいろと行わなければいけないということも感じていました。
松本:1年前くらいに、ENEOSがNIPPOという子会社を、ゴールドマン・サックス証券と作ったファンドに売るという案件がありました。簡単に言いますと、ゴールドマン・サックス証券があまりにも安すぎる値段でNIPPOを買うという案件です。
親子上場などの問題は、単に解消するのがいいというだけではなく、いくらで解消するのかということが大事です。少数株主の権利を守ることが大切ですが、NIPPOの件はそれが完全にないがしろにされていました。「これは放っておけない」と思い、我々は公開書簡も出しました。資本市場がこんなことでは良くないと、ミッションのように感じたケースもあります。
井村:大義で動くようなこともあるということですね。
松本:親子上場がどんどんなくなっていく時に、とんでもなく安い値段で親が子を買えば、少数株主のみなさまが困ってしまうため、それには釘を刺さなければいけません。しかし、大義はあるのですが、最終的にリターンがなかったり、あるいはみなさまのためにならなかったりすることに時間とお金をかけても仕方ありませんので、ものによると思います。
井村:最後に、一言ずつ総括をお願いします。
田中:銀行株は見捨てられたセクターと言われて長いのですが、やはりその中でも、変わろうと思っている経営者はいますし、そこに対する刺激はできると思っています。バリュートラップは、条件次第で解消するのではないかと思っています。
丸木:先ほど松本会長もおっしゃったように、アクティビストは日本経済を活性化できると思います。私は体が動く限り、そのようなことを今後のやりがいにしていきたいと思っています。
ただし、リターンを出さなければ投資家がお金を預け続けてくれませんので、この両立を目指していきたいと思っています。
ローズ:最後に、シンプルにまとめたいと思います。これまでは、日本におけるアクティビズム、アクティビスト活動はタブーでした。しかし、今や必須であり、当たり前のプラクティスになってきたと思います。
米国で資金調達し、日本で投資している外国投資家として、日本の機関投資家が投資できないようなところに投資できています。そして、私にとって最大の味方は、個人投資家のみなさまです。ぜひみなさまと協力しながら、日本の会社の価値を上げて、利益を実現していきたいと思います。
平野:本日は、どうもありがとうございました。話題には出ませんでしたが、部品メーカーの価格転嫁やデフレ脱却への方策などにも、案外アクティビズムなど資本生産性を高くする要求がワークしているのではないかと考えています。「NewsPicks」に、私の言いたいことがすべて入っているインタビューが出ていますので、もしよろしければお読みくださいませ。
井村:今回はあまりお話に出ませんでしたが、私は発行体に対する感謝を示すことも必要だと思っています。
例えば、私が一個人としてエンゲージメントした会社がオーダースーツ専門店の事業会社として持っている企業だったため、そちらでフルオーダースーツを作り、株主総会で着て「オーダースーツでバチッと決めてきました」とお伝えしました。また、私は株式をかなり保有しており、配当もいただいていたため、従業員の労をねぎらうという意味合いで、そのオーダースーツの商品券を100万円分用意してお渡ししました。
このようなことをしたのは、竹田和平さんという、金メダルを投資先に毎年配って「いつもありがとう」と言って回っている「花咲か爺さん」のような方がいました。感謝を発行体にどんどん伝えると、発行体も「株主のためにも、なにかしなければ」という気持ちになるのです。
強行的なアプローチが必要な時もあるかもしれませんが、私たち個人投資家は、感謝を伝えることが一番のエンゲージメントではないかと思います。IR担当に電話をかけて、聞きたいことのついでに「いつもありがとうございます」と伝えることが第1歩だと思います。ぜひ実践していただきたいと思います。
質疑応答:PBR1倍割れの時価総額100億円以下の会社について
質問者:上場企業の半数がPBR1倍割れということに関してご質問です。現在は、上場企業3,800社のうち1,800社くらいが、PBR1倍割れだったと記憶しています。約1,800社のうち、時価総額100億円以下の会社が多く、アクティビストの対象になるような銘柄、流動性があるのは1,800社のうち数百社くらいになってしまいます。
時価総額100億円以下で、全体の平均PBRも0.5倍以下に下げている、アクティビストにも見捨てられるような会社は、これから先も見捨てられるべきなのか、改善点があるのか、どのように思いますか?
松本:個社の努力では治りませんので、先ほどお話しした東証の対応方針の冒頭に、生産要素の交換や合従連衡を促さなければいけないと書いたのです。
地方銀行などでも、小さすぎて生産性が低く、PBRが下回っているところがあります。そのまま個社でどのように生きていくかではなく、例えば同じような業種が合併し、生産効率を上げるべきだと思います。
おっしゃるとおり、時価総額100億円以下の会社がアクティビストに入ってくることはあまりないと思いますが、東証の制度を変えることにより、そのような会社は合併などをしなければ、上場廃止になってしまいます。そのため、きちんと生産性が出るようなかたちにしていくのが大切ではないかと思っています。
質疑応答:有効性のある取締役決定機関を作るための活動について
質問者:東証のフォローアップ会議のメンバー、およびカタリスト投資顧問の取締役会長としてご質問します。フォローアップ会議では、成長意欲のある取締役を指名・承認する仕組みについて、例えば指名委員会等設置会社に変えることを提案するといったお話はありますか? また、エンゲージメント活動として、有効性のある取締役決定機関を作るための具体的な活動はしていますか?
松本:フォローアップ会議では、そのような話は出ていません。以前からメディアなどにもお話ししてきたのですが、日本の株主総会やコーポレート・ガバナンスを劇的に変える方法として、取締役選任議案は会社が出すのではなく、一定の条件を満たした株主しか提案できないルールに変えればいいのではないかと思います。
当然、株主は会社の中の人のことは知らず、すべてを勝手に選べません。そのため、会社側から条件を満たしている株主に、今年の株主総会が終わってから「うちの会社にはこのような取締役候補がいて、社外取締役はこの人たちがいいと思います」とお伝えし、株主が「社内では誰を社長にする気なのか」「社外取締役は、どのような理由でこの人たちを入れようとしているのか」と理由を聞き、「そうであれば、このようなもっと良い人を知っている」というやり取りの上で株主総会になるルールです。
今でも指名委員会は社外取締役が過半数を占めており、指名委員会で決めたものは取締役会でも変えることができません。実は今すでに、会社以外の人が決めるという流れは起きていますので、今後はもっと強くしていけばいいのではないかと思っています。
フィッシャー氏からのご挨拶
松本:それではここで、セス・H・フィッシャーさんが到着しましたので、少しだけお話しいただこうと思います。
セスさん、私たちは4時間のセッションを終えたところで、会場では300人、オンラインでは2,000人の投資家が参加しています。あなたのことを30分待っていました。
セス・H・フィッシャー氏(以下、フィッシャー):ありがとうございます。
松本:会場にいる方やビデオで見ている方に、なにか伝えたいことはありますか?
フィッシャー:これは本当にすごいことです。以前もこのイベントに参加しましたが、その時からずっとみなさまの関与や熱心さに大変感動しています。マネックスがあって、我々は幸運ですね。
松本:これはお世辞です。
フィッシャー:いつも言っていますが、株式をお持ちのみなさまへ激励の言葉を言うならば、企業のよいガバナンスのためには、みなさまの持っている議決権が本当に重要です。しっかりと行使してください。
もしあなたがフジテックの株主なら、1番議案には反対して、2番から7番議案までは賛成してくださいね。ごめんなさい、冗談です。しかし、それらの議案は私にとって重要ですが、日本のコーポレート・ガバナンスにとっても重要だと思います。
私たちは本質を求めています。例えば、過半数の社外取締役を入れるといった形式的な部分ではなく、実質的な部分が非常に重要です。私たち全員が本質に注意を払うのが大切です。
松本:日本のコーポレート・ガバナンスも昔に比べると良くなったと思います。オアシス・マネジメントが提案するフジテックの議案は、実質的にしっかり推し進めることですので、サポートしてください。
フィッシャー:ありがとうございます。
司会者:ありがとうございます。セス・H・フィッシャーさんでした。
松本氏からのご挨拶
松本:それでは、閉会のご挨拶です。マネックス証券は、お客さま向けのセミナーとお客さまに会うことが大好きで、20年以上前からこのようなセミナーを開催してきました。
コロナ禍でオンラインになってしまったのですが、やはりみなさまの顔を見なければ、なにに一番興味があるのかわかりません。また、感謝を伝えるためにも、昨年11月末に対面型の全国投資セミナーを再開しました。
2022年11月は福岡、2023年1月に大阪でも開催し、本日が新型コロナウイルス感染拡大後の、3回目の対面型セミナーです。私自身このようなセミナーはすでに何百回も行っているのですが、このアクティビスト・フォーラムは、全国投資セミナーに比べてもはるかに熱気があり、みなさまの視線から、ぜんぜん違うものを感じます。
やはり期待や、なにか変えてほしいことがあるためだと思いますので、我々はそれをしっかりと受け止めたいと思っています。先ほどセスさんがお話ししたように、形式ではなく実質の部分ですよね。オンライン証券などができて、投資環境は非常に良くなったと思いますが、日本の株がもっときちんと上がるように、日本の企業を変えていきたいと思っています。
みなさまが声を上げることが大きな力になると思いますし、我々はアクティビスト・ファンドもしっかりと運用していきます。ぜひ一緒に日本の資本市場を良くして、株価が上がり資産も増えて、日本の生産性も上がるよう取り組んでいければと思いますので、今後ともよろしくお願いします。本日は本当に長い時間、ありがとうございました。
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