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―トヨタ・BMW提携強化で水素社会に一歩前進、究極のエコカーの未来へ躍動の銘柄群―
空気中の酸素と、タンク内の水素を化学反応させて発生させた電気で走る燃料電池車(FCV)。大気中に二酸化炭素(CO2)を排出することはなく、究極のエコカーと呼ばれている。そのFCVでトヨタ自動車 <7203> [東証P]とドイツの自動車大手BMWが提携関係を強化すると9月5日に発表した。航続距離で課題を抱える電気自動車(EV)の販売が鈍化傾向をみせるなか、欧米の自動車メーカーは販売戦略の転換を余儀なくされている。日本企業が技術を蓄積したFCVの将来的な普及拡大の期待が膨らみつつあり、関連銘柄は今が仕込み時と言えるかもしれない。
●全方位戦略のトヨタに世界の目
トヨタとBMWの両社は、水素分野での協力関係を強化することで合意した。次世代型の 燃料電池システムの共同開発に取り組み、両社の新型モデルに搭載する。BMWは2028年に同社初の量産型FCVの生産開始を予定するほか、インフラの整備や水素の安定供給、低コスト化も図るという。水素分野での日独連合の形成は、EVに傾斜してきた欧州メーカーの戦略転換を示すメルクマールと言えるだろう。
EVには航続距離に制限があり、バッテリー性能次第で買い替え時の下取り価格が安くなるという課題がある。購入補助金が支給されなくなるとすれば、資金余力のない消費者には手の届きにくい「ぜいたく品」であることも変わりがなく、実際にドイツでは政府による補助金が打ち切られた後、EV販売が落ち込んだ。メルセデス・ベンツグループや、ボルボ・カーは新型車の販売の全てをEVとする目標を撤回している。
欧州勢とは対照的に、トヨタはかねてからハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、EV、そしてFCVの各カテゴリーに経営リソースを配分する「全方位戦略」をとってきた。14年の段階で世界初の量産型FCV「ミライ」を投入するなど、技術面で海外メーカーに対しアドバンテージを持っている。もちろん、普及には水素インフラの整備や、車体価格そのものの低コスト化が求められることとなる。それだけに、市場が本格的に立ち上がりに向かうのであれば、普及に向けた課題を克服するための技術や関連部材・設備を持つ企業に新たな商機がもたらされることとなるだろう。
●「ミライ」でサプライヤー各社は実績構築
自動車はすそ野の広い産業であり、FCVにおいても多くの日本企業が研究・開発や生産に携わっている。「ミライ」に関しては、トヨタグループ大手ではデンソー <6902> [東証P]が水素の充填系システムや電源系システムを供給。豊田自動織機 <6201> [東証P]は大気中の酸素を吸引・昇圧するエアコンプレッサー、アイシン <7259> [東証P]は電動駆動装置「eAxle(イーアクスル)」、ジェイテクト <6473> [東証P]は高圧水素供給バルブや減圧弁を生産する。トヨタ系中堅メーカーでは愛三工業 <7283> [東証P]が水素供給ユニットなどを手掛けるほか、大豊工業 <6470> [東証S]は燃料電池の構成部品であるアルミダイカスト製エンドプレートが採用された。
素材系では日本製鉄 <5401> [東証P]のグループ会社が、燃料電池システムの小型・高性能化につながるカソード電極用の触媒担体として多孔質炭素材料「エスカーボン」を納入。また、日本製鉄の高圧水素用ステンレス鋼「HRX19」は国内の定置式商用水素ステーションの約6割に採用されており、高田工業所 <1966> [東証S]はHRX19の溶接施工法を確立している。
日本の自動車メーカーではトヨタ以外にも、ホンダ <7267> [東証P]が今年7月、新型FCVとして多目的スポーツ車(SUV)の「CR-V e:FCEV」の発売を発表した。ホンダを主要取引先とするサプライヤーでは、エイチワン <5989> [東証P]が燃料電池の鋼製部材である金属セパレーターのプレス加工で実績を持つ。
●水素インフラ整備加速に期待
水素ステーションでは、岩谷産業 <8088> [東証P]や日機装 <6376> [東証P]などが国内外で整備需要の取り込みに動いている。千代田化工建設 <6366> [東証S]はトヨタとともに、水素の製造効率の高い大規模水電解システムの共同開発を進めている。水素製造装置の三菱化工機 <6331> [東証P]や加地テック <6391> [東証S]も主要プレイヤーだ。
明治電機工業 <3388> [東証P]は水素ステーションの建設とともに、トヨタのミライに搭載されるモジュールを使用した産業用定置式燃料電池を販売。工場やホテル、データセンターでの利用を想定している。技術商社とあってPBR(株価純資産倍率)は1倍を下回っているが、配当利回りは4%超と高水準だ。同じくPBR1倍割れの新日本電工 <5563> [東証P]は、昨年末時点のオンサイト型水素ステーションにおいて使用される純水製造装置の約6割が同社製という。
水素の製造や、FCVの低コスト化に向けた取り組みも今後は加速しそうだ。東芝は22年10月、水素の製造に用いる希少金属「イリジウム」の使用量を従来の10分の1に抑えた電極の大型製造技術を確立したと発表。23年10月には膜電極接合体製造の事業強化に向けて、子会社の東芝エネルギーシステムズがフルヤ金属 <7826> [東証P]とともに、イリジウムの安定供給網を構築すると発表した。フルヤ金属の25年6月期は2ケタの増収増益計画。株価は7月に上場来高値をつけた後に頭打ちとなったが、200日移動平均線を下回った局面では押し目買い機運が強まっている。
●関連株には低PBR・高配当利回り銘柄が散見
日本精線 <5659> [東証P]は高純度水素ガスの製造・精製に使用するパラジウム合金圧延箔を用いた水素分離膜モジュールを開発。同社は大同特殊鋼 <5471> [東証P]が筆頭株主であり、親子上場というテーマを持つ。PBRは0.8倍台だが配当利回りは4%超。25年3月期第1四半期(4~6月)最終利益は前年同期比19.6%増の8億2700万円で、通期計画に対する進捗率は30%近くとまずまずの水準だ。
タイガースポリマー <4231> [東証S]も配当利回りは4%を超え、PBRは0.3倍台と割安な水準。25年3月期は最終減益予想ではあるが、同社はFCVに関して、発電ユニット周辺から水素が漏れ出した際に、決められた流路で排気するためのダクトを手掛ける。
メイコー <6787> [東証P]はプリント配線板製造大手であるが、燃料電池用触媒層の成形を目的とした静電塗布装置の開発を山梨大学と進めている。今期の最終利益は前期比10.5%増の125億円と過去最高益を予想。株価は6月までの騰勢を経て下押した結果、割高感が薄れている。
プレス機世界大手のアイダエンジニアリング <6118> [東証P]は今年5月、燃料電池に搭載されるバイポーラプレートの金属セパレーター成形専用機の販売開始を発表した。EV向け高速プレス機の受注が減少するなかで、FCV向けで技術力を発揮できるか注目される。円高懸念が直近の株価の圧迫要因となっているが、PBR0.5倍台で配当利回りは4%近くとなっている。
トヨタとBMVの提携強化で株価が動意づいた安永 <7271> [東証S]は、燃料電池内において水素と酸素を分ける壁となっている接着部の外観検査ユニットで、21年にトヨタから技術開発賞を受賞している。エノモト <6928> [東証P]は固体高分子形燃料電池向けガス拡散層一体型金属セパレーターの研究開発を推進。水素向け圧力計やセンサーを製品群に持つ長野計器 <7715> [東証P]も商機が広がりそうだ。
このほか、エヌエフホールディングス <6864> [東証S]やチノー <6850> [東証P]は燃料電池評価の装置・システムを手掛けるほか、ガス警報器の新コスモス電機 <6824> [東証S]は車載用水素ディテクターがトヨタのミライに採用されている。日東工器 <6151> [東証P]は、JFEホールディングス <5411> [東証P]グループ企業の水素燃料電池用高圧複合容器に装着できるカプラや減圧弁一体型専用バルブを提供。名古屋工業大学とともに水素ガスを不要とし、光で発電・蓄電できる新型燃料電池を共同開発する日邦産業 <9913> [東証S]、LPガスバルブを手掛け、FCV向けにも注力するハマイ <6497> [東証S]なども関連銘柄と位置付けられている。
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