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ispace袴田CEO × QPS研究所大西CEO 宇宙ベンチャートップ対談 宇宙業界をリードする両者が「IRへの想い」を語る

投稿:2024/09/24 13:00

CONTENTS

荒井沙織氏(以下、荒井):特別企画「宇宙ベンチャートップ対談」を始めます。株式会社QPS研究所代表取締役社長CEO大西俊輔さまと、株式会社ispace代表取締役CEO袴田武史さまにご登壇いただきます。

当企画の対談テーマは、スライドの5つです。

1.当セッションの目的

荒井:各社のIRへの想いも踏まえて、当セッションの目的を教えてください。

袴田武史氏(以下、袴田):今回このようなIRの機会をいただき、本当に感謝しています。双方のプレゼンテーションでもあったように、宇宙業界はまだ非常になじみが薄い業界だと思っています。このような機会にみなさまとしっかりと対話することで、ご理解いただくことが重要だと思っています。

宇宙業界も実は1つの業界ではなく、その中にいろいろなビジネスがあり、それぞれに差異もあります。QPS研究所との対談から、同じところや違うところを認識してもらえれば、宇宙業界に対する興味関心もより高まると思っています。

大西俊輔氏(以下、大西):この数年で現れた“宇宙の常識”は、一般的には非常識とされることもあります。私たち宇宙産業に携わる者が当然と思っていることも、市場の中では当然ではありません。

今後しっかりと宇宙産業が市場に根付いて、みなさまが投資したいと思える領域になるには、常識・非常識をご理解いただく必要があるため、このようなかたちで詳細にいろいろと対話していきたいと思います。

この先、私たち以外の領域の宇宙ベンチャーや宇宙業界の方々も、株式市場に出てくると思います。それを含めて、宇宙というトレンドよりも、私たちの事業内容をしっかりと知ってもらい、投資判断してほしいと思いますし、これからもこのようなかたちで、いろいろなやり取りをしたいですし、今日もしっかりと対話したいと思っています。

荒井:宇宙業界をリードしていくお二方ですが、お互いに質問はありますか? このような機会ですので、まずは大西さまから袴田さまへのご質問をお聞かせください。

大西:私たちはおそらく同じ道筋をたどっていると思います。上場前にもさまざまなVCや事業会社の方に投資していただきました。上場前後での株主・投資家の方々に対してのやり取り、対応の違いが何かあれば教えてください。

袴田:上場前後での違いは、情報管理の違いという面があります。ベンチャー投資の時はNDAなどもあるため、基本的にはすべてをオープンにしてご理解いただきながら、投資していただいていました。

上場するとインサイダーの情報なども増えます。宇宙業界は1つの案件がかなり大きく、不確実性が高いです。どうしても、さまざまな情報がインサイダー情報になってしまう傾向があり、なかなかお話ししにくいと感じます。

その中でも、なるべく大局的なところをご理解いただけるように、対話したいと思っています。

荒井:袴田さまから大西さまへのご質問はありますか?

袴田:同じ質問もしてみたいのですが、もう少し違う視点でお尋ねします。特に上場前かもしれませんが、上場前後で投資家から資金調達したり、お話ししたりする時に「こう思っているのではないか」という仮説を持っていると思います。

それが違っており「実はこのようなところに、とても関心を持たれていた」ということはありますか?

大西:今、あらためて思ったこととしては、私たちの上場前の最初の資金調達についてです。

2016年に資金調達を始めた時から、パートナー企業と一緒に取り組んできました。私たちはそれも会社の強みだと思っていましたが、やはり世界でまだ実現していない「小型SAR衛星を作れること」が強みだと思い、お話ししていました。

しかし、投資家の方々との会話の中で「九州を中心とした日本中にパートナー企業があり、一緒に取り組んでいる”ものづくり”の土壌が良い」ということを言っていただきました。きちんとした地域連携がある上で、宇宙に取り組むことで、世界と戦えるようになっていると、逆に気付かされました。

当然と思って取り組んでいたものの、対話の中で「とても良い部分であるため、しっかりアピールしたほうがよい」と言っていただきました。上場後の投資家の方々に対しては、その点も私たちの強みとしてお話ししています。

2.宇宙業界理解のポイント

荒井:2つ目のテーマは「宇宙業界理解のポイント」です。スライドの3点について、袴田さまから解説をお願いします。

袴田:1点目と2点目について、簡単にお話しします。宇宙業界は非常に時間軸が長い業界ですので、今日明日で何かが急に変わるという業界ではありません。

もちろん、日々の開発やいろいろな進捗における変化点は出てきます。それは1つの変化かもしれませんが、今後事業が大きく変わるようなトレンドまで変化するかというと、実はそのようなことはあまり多くありません。

日々、私たちが発信しているニュースリリースやKPI進捗の情報を見てほしいです。特に私たちの場合は、四半期の売上や利益も開示していますが、その四半期数値の動きで事業が大きく変わるわけではありません。数年かけたトレンドを見てほしいと思っています。具体的には、私たちとしても着陸船の開発は数年かけて行うため、その開発進捗のKPIを出したり、全体の売上のプールになるようなお客さまがどれほどいるのかを示すMOU等の数値を出したりしています。

それとともに、やはり中長期的なトレンドを捉える上で、国の動きを見るのは重要だと思います。私のプレゼンテーションでもお話ししましたが、今は国から民間に対して、大きく産業がシフトしています。

ただし、国がすべてを民間に任せることでもないため、やはり国の政策とそれに基づく予算が重要です。そこをよく見てもらえると、この産業はこれから数年にわたって大きくなっていくことが、おそらくご理解いただけると思っています。

荒井:大西さま、ここまでで何か補足はありますか?

大西:やはり国としても宇宙産業に対しての支援のかたちや、この先産業をしっかり作っていこうという姿勢は、いろいろな予算や施策の中でも見えます。メディアでも「宇宙」というワードが多く出てきていると感じます。

業界としても技術や実績を見せていきつつ、それぞれが両輪となって成長していくところだと思っています。しっかりと支援いただいていると思う一方で、ここを踏ん張り時として取り組むことで、この先の産業としての成熟度が増していくのだと思います。

また、私たちが官公庁を中心に、売上を立てていくとなると、国の予算は年度単位になるため、年単位で動くかたちで取り組んでいきます。衛星の打ち上げも1つのイベントではありますが、この先衛星の基数が上がり、民間にこのデータ提供ができれば、年単位よりももう少し短いサイクルの中で、さまざまな連携が出てくると思います。

そうなれば、トレンドとしても少し短期的なものが見えてくると考えています。やはりそのように活性化していくということが大事であるため、早くそこの領域にたどり着けるようにがんばりたいと思います。

宇宙市場のプレイヤー例

荒井:袴田さま、3つ目のポイントについてお願いします。

袴田:ポイントの1点目、2点目は、どちらかというと共通するところがあったと思います。3点目では、宇宙といっても領域は広く、それぞれの事業があることをお話しします。

私たちが取り組んでいる領域には、地球から月まで広い領域があります。その中で実はいろいろな事業やプレイヤーが出てきています。打ち上げのロケットに関しては、イーロン・マスク氏が象徴的なスペースX社があります。

衛星のデータに関しては、QPS研究所があります。月に向かって輸送が必要になるため、そこが私たちispaceの領域になっていきます。また、月でももちろんデータなどが必要になるため、そのような事業がこれから展開されていきます。月以降の火星や小惑星の事業も、これから出てくると思います。

さまざまな企業がありますが、私たちispaceの事業の領域の特徴としては、プレイヤーがまだ少なく、いわゆるブルーオーシャンになっていることです。特に月の場合は、先行者利益が非常に強い領域になっていくと思いますので、私たちは事業として非常に注目しています。

荒井:大西さま、こちらについて補足はありますか?

大西:月に向かうispaceの飛行経路を図に示すと、私たちの衛星は地球の外表面のところをずっと飛んでいます。私たちが宇宙で画像提供をする産業を手がける一方で、ispaceは遠い月まで行って事業を行っています。

宇宙という領域の中でもいろいろな分野があり、その中で私たちは地球の近傍でデータを取得していきます。ある意味、みなさまの目の届くような領域ですので、身近な宇宙の中でしっかりアピールしていきたいです。

また、ispaceは私も子供の頃から見上げて宇宙の楽しさを知った月という場所、知的好奇心が大いに駆り立てられる領域に対して宇宙産業を手がけていくので、それが宇宙産業のいいところです。

もちろん月のほうの実需もあるのですが、身近な実需に対してのわくわく感もあり、このようなさまざまな実需が相まった産業は少ないと思います。その中で、日本にはispaceとQPS研究所があるということをしっかりとアピールできればと思います。

もっと濃い話をしたいのですが、今日はさわりの部分だけにします。私たちはスライドの図の左側を手がけているということを知ってもらえればと思います。

ユーザーが欲しい分解能を高い次元で達成

荒井:どんどんお話をうかがいたくなってしまいますが、トップ同士で意見を聞いておきたいことは他にありますか?

袴田:私たちの場合、日本はブルーオーシャンで私たち1社が海外と競争しているのですが、QPS研究所の場合はまず日本の官公庁を中心に事業を手がけていくということで、海外の競合と比較して技術や事業はどのように見られているのですか?

大西:世界に競合が5社ある中で、やはり私たちはユーザーが欲しいと思う分解能を高い次元でしっかりと達成していますし、良い画質のSARデータをいかに早く届けるかというところが差別化要因だと思っています。

海外企業のほうが衛星の数が多いですが、私たちもしっかり数を出していくことで、日本としてもQPS研究所としても、宇宙から見る目というものを持っていきたいです。それが宇宙から見た全体の平和につながっていくと思っていますので、一生懸命進めているというところです。

アポロ以降、知と経験の継承がないことの難しさ

荒井:大西さまから袴田さまへご質問はありますか?

大西:私は学生時代から宇宙分野に携わっている中で月に行く難しさを学んでいますので、何となくわかることもあるとはいえ、実はわかっていないこともあるのだろうと常日頃から思っています。地球近傍で手がける宇宙産業の難しさはもちろんありますが、月ではどのような違いがあるのでしょうか?

袴田:違いについて説明するのは少し難しいですが、ポイントがあると思います。使うエンジニアリングは、基本的にかつ最終的には一緒だと思っていますが、使う環境が違います。

いわゆる重力天体に当たる月は6分の1の重力がありますので、そこに着陸するためには衛星とはまた違うポイントがあります。特に推進系を使って徐々に速度を落としながら着陸しなければなりません。

そのポイントで重要になってくるのがアポロ以降、知と経験の継承がないというところです。アポロの時にできたことは技術的にはできます。何か新しい発明をしたり技術を作ったりしなければならないというわけではなく、古い技術を組み合わせれば基本的にはできるはずです。

ただ、その経験が継承されていませんので、基本的にはまた一からそのようなことを考えなければならないというところが、難しさとしてあるかと考えています。

3.ルーツの違い

荒井:宇宙業界理解のポイントを押さえた上で、各社の特徴について教えてください。3つ目のテーマ「ルーツの違い」を大西さまからお願いします。

大西:私たちは2005年に創業しており、現存する国内の宇宙ベンチャーではおそらく最初期に出てきた会社だと思います。私は創業者ではなく第二創業というかたちで途中から入り、この会社をしっかりと大きくしていくため、知識や想いの伝承を行っています。

宇宙業界にはやはり資金が必要です。そのためにVCからお金をいただき、また上場というかたちで資金を調達しました。そのような中、創業者から私に引き継がれたバトンを属人的ではなく、会社全体として組織的につないでいこうと思いました。

過去からいろいろな人たちが協力しながら、組織としてのQPS研究所が出来上がってきていると考えています。

いろいろな方々が必要なタイミングで必要な力を出しながらここまできており、この先24機体制、36機体制を目指す中で、よりいろいろな方々と連携して業界を盛り上げていく必要があると考えています。

この先もしっかりと必要なことを行って、QPS研究所として、日本の宇宙業界の発展に貢献していきたいと思っています。要するに、いろいろな方々が協力し合って作られた会社だと思っています。

荒井:ありがとうございます。では、袴田さまからお願いします。

袴田:私たちはQPS研究所とは明らかに違うルーツを持っています。私が創業してまだ経営している点が、今のお話とは大きく違うところです。映画「スター・ウォーズ」に魅了され、「かっこいい宇宙船を作ってみたい」という私自身の想いが原点ではないかと思っています。

大西さまと同様に日本で航空宇宙工学を学んだ後、アメリカの大学院で引き続き航空宇宙工学を学びました。その頃、民間での宇宙開発が始まる兆しを感じました。その時に、自分自身は技術者ではなく、人材がいないと認識していた経営と資本の観点から入ったほうがおもしろいと思いました。

コンサルティング会社に入社した後、「Google Lunar XPRIZE」というプロジェクトを手がけようと、日本国内で会社を作ったのが大きなきっかけになっています。

先代からの想いを共有し、成功につなげる

荒井:ありがとうございました。お互いに何かご質問があればお願いします。袴田さまから大西さまへのご質問はありますか?

袴田:第二創業が非常に特徴的だと思いますが、それ以外にも九州発・大学発のベンチャーであり、大学が持つ既存の技術を活用していることが強みになっていると思います。そこを強みにするために、今までクリアしてきた難しさはありますか?

大西:正直に言うと、私というよりも先代が10年、20年かけてQPS研究所とパートナー企業を連携させたことが一番大きいと思っています。10年、20年前の日本は、宇宙産業に予算を組むことはなかなかありませんでした。

そのような中、先代のみなさんは手弁当で「宇宙でいろいろなことをやっていきたい」という想いを10年、20年継続しました。その土壌を背景に、先代たちと私が10年間一緒に進め、想いを1つにしてきたことが成功につながったと思います。

私もいきなり1年ほどでポッと出てきたわけではありませんので、想いを一緒にかたちづくるために共有した学生時代を含めた10年という期間から、先生方が作りあげたQPS研究所をもう一段大きくしていきたいという想いがありました。

企業の方々とはその想いを事前に共有したため、先生方が反対しても企業の方々にはプッシュしていただいたので、そのような想いを持っていたところが今の協力体制につながっているのかもしれません。

ispaceを立ち上げたきっかけ

荒井:では、大西さまから袴田さまへのご質問をお願いします。

大西:私も大学で衛星などいろいろな宇宙開発を行っていた中で、ispaceはすでに「Google Lunar XPRIZE」などを手がけられていて「すごいな」と大学生の頃から思っていました。

なかなか聞けないことなので、ispaceを立ち上げるきっかけあるいは流れを教えてください。「もしかすると一夜で決まったのかもしれない」とも思いますし、いろいろなことがあったのではないかとも思っています。

袴田:コンサルティング会社で働いていた頃に「Google Lunar XPRIZE」を担当してみないかという話がありました。もともとはヨーロッパでホワイト・レーベル・スペースというチームが立ち上がって、吉田和哉教授という東北大の宇宙ロボティクスの教授が手がけている月面探査ローバーの技術を使って、開発を行い参加しようという枠組みでした。

その当時、ヨーロッパは経済的には厳しい状況で、「資金が調達しきれないため、日本でも資金調達したい。手伝ってくれないか」という話が最初にありました。話を聞いて「おもしろそうだ」と思ったものの、私は少し距離を置いていました。

その後、何回か誘いが来たため、「ヨーロッパの人を呼んで、日本でイベントをやりましょう。まずは認知を広げていきましょう」ということになり、吉田和哉教授らと一緒にイベントを開催しました。イベント後の朝まで続いた飲み会で「日本でも何か始めるべきでは?」と何人かが事前の議論をし始め、その中に私が入っていました。

特に私がリーダーシップを発揮していたのではなく、私はその中の1人でした。ただ、「公的な受け皿として会社を作ったほうがよい」という話になった段階で、誰も社長に立候補しなかったのです。そこで、当時働いていたコンサルティング会社への出勤を週3回にしてもらえれば、一番時間が空く自分が務めたほうがよいと考え、自ら手を挙げたことが最初のきっかけでした。

最初はそこまで深い意味がなかったものの、技術をある程度知っていて、経営と資本に関心があった私がハンドルしたのは、結果的には良かったと思っています。

大西:誰も社長に立候補しなかったという場面は、数秒の沈黙だったのですか? それとも、全員で目配せをして「誰がやる?」という雰囲気でしたか?

袴田:物理的にではなく、同じ時期にメールでやりとりしていた気がします。当時は4人で合同会社を登記したのですが、大学教授と私、自分で事業をし始めた人、広告代理店に勤める人と、皆さん忙しい人ばかりで、残念ながら責任をもってやり切れる人がいなかったのです。

私もその状況をわかっていたので「一歩踏み出してみようかな」と手を挙げました。

荒井:手を挙げる力が感じられるお話でした。

4.マーケット/注目ポイントの違い

荒井:4つ目のテーマは「マーケット/注目ポイントの違い」です。特に投資家の方が気になるところかと思います。

袴田:ispaceにおける次の事業の注目ポイントは、プレゼンテーションでもたびたびお伝えしているMission 2です。ここでしっかりと着陸技術を確立していくことが重要なポイントです。ただし、着陸成否だけではなく、そこで培った技術を次のMission 3以降にしっかりと反映していくことも大きなポイントだと考えています。

私たちとしても、事業を拡大していかなければいけません。事業の拡大という面で言うと、NASAの大規模プログラムである「CLPSプログラム(Commercial Lunar Payload Services(商業月面輸送サービス)の略)」の受注や、日本の宇宙戦略基金などでの需要を着実に獲得していくことが重要だと考えています。

大西:私たちの今のフェーズは、まず目の前にある官公庁の案件でしっかりと売上を立てて軸を作ることです。そのうえで衛星の数を増やし、民間や海外に対して販売を進めていく予定です。

ある意味、24機体制、36機体制のスタートラインだと思っているため、ここでしっかりと土壌を作り、次のステージに向かっていきたいと思っています。現在は種まきの段階であり、みなさまとやり取りしながら進めていきたいと考えています。

月輸送・探査の技術で最も難しい部分について

荒井:ここでもお互いに質問を投げかけ合っていただきたいと思います。

大西:私は宇宙全般が大好きで、いろいろな情報を見ています。さまざまな国や企業が月の探査をする中で、何が一番技術的に難しく大変なのでしょうか? 先ほど、知の継承が途絶えているとうかがいましたが、改めて教えてください。

袴田:技術的な観点で深掘りすると、今までの宇宙開発で手があまりかけられておらず経験がなかったのは、重力天体への着陸というテーマです。そこで重要なのは、推進系とそのエンジンをコントロールするソフトウェアです。

月の着陸の場合、地上で操作ができません。相当なスピードで着陸するシークエンスを行うため、人が介在することができないのです。つまり、自律的な判断をするオートノマスなソフトウェアを作らなければなりません。

ソフトウェア自体は作ろうと思えば作れると思いますが、ここで問題なのは、それを検証する機会がないことです。地球上では「6分の1の重力で真空」という環境が作れないのです。そのため、実際にハードウェアを作ってソフトウェアを乗せて、繰り返し実験・検証することができません。

そのため、基本的には、ソフトウェア上でシミュレーションをする方法に頼っています。シミュレーションに頼るとなると、私の考えとしては、シミュレーションにも前提を置かなければならず、さまざまな仮説をいかに知っているかが重要です。

先ほど「アポロ以降、知の継承がない」とお伝えしたように、それを知っている人がいません。しかし、私たちは、アポロの着陸船の着陸ソフトウェアを作ったアメリカの研究機関Draper Laboratoryと連携しています。着陸技術の不確実性をなくすため、Draper Laboratoryの知見を得ることが一番大きな手立てだと思っています。

トップランナーとして着陸時のデータを大量に取得

大西:地球の周りを回っている衛星は、オートメーションで動く要素もありますが、地球の近くで周回しているため、衛星とのコンタクトが可能です。

私たちの場合は、最初の動作を手動でしっかりと行い、調整する段階があります。その後は自動的なシークエンスに持っていきます。ある意味で地球に近い低軌道の衛星では手動と自動の組み合わせが可能な領域です。

一方で、衛星の性能を上げていく目的で、普通の運用では取らないようなデータもしっかりと取っており、その後の開発で活用可能となります。普通の運用では使わないような細々としたデータを集めて、その現象を把握することを行っています。

そのような視点では、着陸するまでのデータが非常に貴重だと思います。実際は、相当量のデータを取得していると思いますが、その点はいかがでしょうか?

袴田:もちろん大量に取得しています。私たちが世界でもトップランナーにいると自負するのは、まさにそこにあります。着陸のデータは、経験した機関でしか取れません。

先日、日本の「SLIM」が着陸に成功しましたが、今まで着陸を経験しているのは、国単位ではアメリカ、中国、インド、日本しかありません。更に民間企業では、私たちispaceと今年の頭に着陸したアメリカの1社しか着陸のデータを持っていません。

そのデータを持っていて、しかも着陸の直前まで通信ができていたため、着陸に係るすべてのデータが得られました。それをもとに失敗の解析もしっかりできています。そのデータを持っていることから、次回のミッションへの改善反映が非常に進めやすくなりました。確実性を担保できるデータをしっかりと獲得できている状況です。

政府案件が獲得できる強みとは?

荒井:袴田さんから大西さんへのご質問をお願いします。

袴田:QPS研究所の事業の強みは、政府案件がしっかり獲得できている点だと思います。先ほどのプレゼンテーションでも少し触れられていましたが、政府案件が獲得できるのは、どのような強味があるためでしょうか?

大西:いきなり応募して取れる案件はほぼないため、まずは私たちができることについて、いろいろな方に数年単位でご説明させていただきました。その結果が案件の獲得につながっていると考えています。

日々のやり取りはもちろん、その方々が欲しいと思う要件が実現できる衛星を、私たちがしっかりと作っています。それが相まって、案件獲得につながっていると思います。そのため、数年単位で継続して動きながら、着実に行っていくことが重要だと思います。

5.宇宙事業に対する想い

荒井:5つ目のテーマ「宇宙業界に対する想い」について一言ずつお願いします。

大西:変わらずに思っていることですが、この数年で宇宙業界が、みなさまに認知される業界になってきています。これを一過性ではなく、持続的な産業として育てていきたいと考えています。QPS研究所も絶対にその一翼を担い、しっかりと取り組んでいくつもりです。

この先も、今回のようにいろいろな内容を知っていただく機会が必要だと考えているため、引き続き取り組んでいきます。私たちも事業をさらに発展させていきますので、事業内容に注目していただきたいと思います。

袴田:月というと、まだ宇宙の中でも遠いところなのですが、最終的には、みなさまの生活にも関わってくる産業だと考えています。そのためには、エコシステムをしっかりと形成しなければいけませんし、グローバルにそれを進めていきたいと思っています。その先駆けとして月面への輸送事業を展開していきます。

また、宇宙の事業は一般的には技術などに注目されるケースが多いと思います。しかし、宇宙事業は技術だけではなく事業としていかに成長していくかが重要です。そのため、技術だけではなく、これから産業全体がどのように発展していくか、社会から見てどのように変化していくかという点にも関心を持って、応援していただけるとありがたいです。

配信元: ログミーファイナンス
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