日本特殊塗料のニュース
【QAあり】日本特殊塗料、塗料事業から自動車製品事業へ参入し防音材技術を確立、新技術・新製品開発、グローバル展開を強化
個人投資家向けIRセミナー
遠田比呂志氏(以下、遠田):こんばんは、日本特殊塗料で社長を務めている遠田です。まずは、石川県能登半島地域で発生した地震で被災されたみなさまに心からお見舞い申し上げますとともに、1日も早い復旧をお祈り申し上げます。
本日はみなさまの貴重なお時間を頂戴し、日本特殊塗料がどのような会社かをご理解いただく機会を賜りましたことに感謝申し上げます。「日本特殊塗料」という名前から、塗料専業メーカーというイメージが強いかと思いますが、今日はその名前からくるプラス効果と苦労話を交えながら、会社についてご説明します。
当社について、以後は「ニットク」と呼ばせていただきます。みなさまにより深く、ニットクをご理解いただけたらと思います。どうぞ最後までお付き合いくださいますよう、よろしくお願いいたします。
会社説明の前に、簡単に自己紹介します。私は1983年4月に入社し、今年で41年目になります。当時の配属先は、今の設計および生産技術部門の先駆けのような部署でした。塗料会社ですが、1994年から1999年までは部品の設計部門の課長を、2006年までは部長を担当しました。
その後は生産子会社に出向し、戻ってきてからは原価管理・購買の部長を兼務して、2017年から自動車製品事業本部長、2021年から社長を務めています。
本日のご説明内容
遠田:本日ご説明する内容は、スライドに記載の5点です。
1.会社概要(1)会社概要
遠田:会社概要です。あらためまして、当社は日本特殊塗料と言います。プライム市場から東証スタンダード市場に移行し、今年で創業95年を迎える企業です。
ニットクの創業者は、東京高等工業学校(現在の東京工業大学)の助教授だった仲西他七です。彼が当時から研究開発を進めていた航空機用塗料を製造する目的で、王子の地にベンチャー企業のようなかたちで創業しました。
当時の航空機産業は日進月歩で、飛行機は時代の変化とともに羽布(はふ)という布張りからジュラルミンの軽合金に変わっていきました。今で言うスマートフォンのように、急速に発展するものに憧れを抱く人物が創業した会社です。
1.会社概要(2)社是・経営の基本理念
遠田:当社はどちらかというと技術開発からスタートした会社ですので、「自ら会得した技術を持って社会に報いていく」という信念が現在の社是です。経営の基本理念には「卓越した技術と製品により社会に貢献する」などを掲げています。
1.会社概要(3)沿⾰ (塗料事業/⾃動⾞製品事業)
遠田:当社の成り立ちを簡単にご説明します。塗料事業で創業し、その後、自動車製品事業に参入しました。特徴的なところについてお話しします。
先ほど少しお話ししたとおり、当社は航空機用塗料の製造会社として創業しました。しかし、1945年に第2次世界大戦の終戦を迎え、航空機の製造は全面的に禁止されました。工場は閉鎖、従業員は解雇、事業は一時中止となり、いわゆる存続の危機に見舞われました。
そのような状況下において、航空機用塗料で培った技術を応用し、1951年に屋根瓦用の塗料「スレコート」を発売しました。当時では珍しく合成樹脂塗料で商品化し、これが実質第2の創業期となっています。その後は屋根用の塗膜防水材や塗り床材を開発し、建築市場に参入しました。航空機用塗料は、現在も民間および防衛関係で採用されています。
一方の自動車製品事業は、塗料の技術で培った防錆や防音、制振といった技術を応用し、「ニットク・アンダーシール」を1953年に開発しました。また、1964年に開発した「メルシート」は、今では制振材の俗称のように扱われています。
それをもって「これからは車の時代だ」「車はやはり静かであるべきだ」という考えから、スイスのオートニウム社と技術提携し、自動車の音響制御技術を導入しました。それにより新しい吸音材・遮音材の開発に乗り出し、現在を迎えています。現在は自動車メーカーレベルの評価および解析能力を有し、車両全体の最適な防音提案ができるレベルになっています。
スライド下部、2001年の「超軽量防音システム部品」にアンダーラインを引いています。こちらは従来の防音材の概念を覆すような新しいコンセプトを持ち、内外のベンチマークの対象になるような、非常に機能的かつ軽量の製品です。この製品をもって、自動車事業を一段と拡大していきました。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):現在、御社は自動車部品に大幅に力を入れており、売上シェアも大きいです。吸音材・遮音材は、ご説明のとおり、自動車の乗り心地の向上になくてはならない技術だと思っています。
御社がこの事業に力を入れた理由についておうかがいしたいと思います。基礎となる技術があったのでしょうか? おそらく錆止めからもう一歩踏み込んで防音材にも力を入れているのだと思いますが、そのあたりの沿革と技術などを教えてください。
遠田:先ほど少しお話ししたとおり、塗料の技術から防錆・防音、制振に入り、スイスのオートニウム社と技術提携しました。そこがやはり大きな飛躍の第一歩であると考えています。いわゆる音響の制御技術を入手でき、今では自動車メーカーと遜色ない、1台の車全体の防音性能の割り付けなどができるまでに発展してきました。
また当社には、粗原料を混ぜて塗料を製品化するDNAのようなものがあります。そのため自動車部品においても、ある程度まで作られた材料を買って加工するのではなく、自社で粗原料を買って配合検討を行い、材料を作り、その材料を製品化します。これが当社のもう1つの強みではないかと思っています。
坂本:2001年の超軽量防音システム部品は、材料からすべて違うのでしょうか? おそらくこの部品が軽くなると燃費が良くなるため、かなりウェルカムな技術だと思います。
遠田:防音製品は、エンジンルームの音が室内に入ってこないようにするものが代表的です。そしてそのためには、塩ビなどのシートを貼り付けることが一般的な理論となっていました。
しかし当社はその理論を使わず、フェルトを固めて、ある程度の空気の流れの抵抗値がありながら遮音もできるという理論の製品を開発しました。ですので、どちらかというと目から鱗と言いますか。
坂本:逆転の発想ですね。
遠田:そのような感じで、軽くてある程度の吸音と遮音の性能が得られる製品として、採用が一気に広がっていきました。
1.会社概要(4)売上⾼構成⽐(主要事業/主要製品別) < 2023年3⽉期 >
遠田:当社の売上高構成比についてご説明します。スライドの円グラフは、赤が塗料事業、ブルーが自動車製品事業を示しています。約3分の1が塗料事業、3分の2が自動車製品事業です。
坂本:こちらは近年も変わりませんか?
遠田:コロナ禍で一時的に自動車製品事業の売上が減少した時は、5分の2が塗料事業、5分の3が自動車製品事業という比率になりましたが、コロナ禍が明けてからは、以前の3分の2と3分の1という比率に戻っています。
1.会社概要(5)連結業績の推移
遠田:当社のここ10年ほどの業績推移です。今お話ししたように、コロナ禍で塗料事業もやや下がりましたが、自動車に比べると下落幅が少ない状況でした。
スライドのグラフをご覧いただくと、営業利益が一時的にかなり落ちていますが、主要因はやはり自動車製品事業の影響です。コロナ禍が明け、昨年あたりからはだいぶ回復しましたが、材料費や電気などのエネルギーコストがかなり上昇しました。コスト上昇分は価格転嫁せずには続けていけないため、お客さまの理解を得ながら価格転嫁を行っています。
今期は過去最高の売上高を見込んでおり、営業利益は35億円を予想しています。
1.会社概要(6)国内主要事業所
遠田:スライドには、国内の研究所と工場を記載しています。本社は創業地の東京都北区王子に、開発センターは自動車製品部門と塗料部門の両方を王子の隣町である北区豊島に構えています。
国内には6工場を構えています。平塚工場と九州工場は塗料専用、静岡工場、愛知工場、広島工場、東九州工場は自動車製品専用です。
坂本:防音材や吸音材を作っているのですね。
遠田:おっしゃるとおりです。特徴的なのは九州工場です。戦中は東京に工場がありましたが、爆撃に遭うため疎開しなさいということで、疎開先の九州に工場を構えました。場所は当時から移転していますが、そのような経緯で九州に工場を持っています。
1.会社概要(7)グローバル展開
遠田:グローバル展開についてです。塗料事業はどちらかというと国内中心で、製品の輸出を行っています。
みなさまもご存知のように、日本の自動車メーカーはほぼ全世界で自動車を製造しています。そのため、サプライヤーの立場である当社も全世界で供給する必要があり、グローバル対応をしています。その中で、1社のリソースですべてを行うことは難しいため、スライドに記載の合弁会社を作って展開しています。
中国の武漢とインドネシアはニットクの連結子会社、それ以外は持分法適用会社です。このあたりが、当社の売上や利益構成を見た時に多少違和感を覚える点かと思います。
坂本:お付き合いは日本企業に限らず、現地の会社もあるのでしょうか?
遠田:自動車製品事業のお客さまは、基本的に日系企業です。一部の工場では、ローカルのTier2のような製品も作っています。
2.各事業の概要(1)塗料関連事業 主要製品
遠田:各事業の概要です。塗料関連事業については先ほどからお話ししているとおり、主力の塗り床材や防水材などを中心に建築・構築物用塗料を販売しています。また、スライドに飛行機とロケットの写真を掲載していますが、こちらにも当社の航空機用塗料を塗らせていただいています。
2.各事業の概要(1)塗料関連事業 主要製品
遠田:塗料関連事業としては、子会社のニットクメンテ社が集合住宅の大規模改修工事を請け負っています。
坂本:改修工事についておうかがいします。最近は大規模改修工事が必要なマンションが増えてきているため、おそらく15年ほど取り組んでいるかと思います。スライドにはタワーマンションの写真が載っていますが、普通のマンションもタワーマンションも両方取り組んでいる中で、得意なものなど、どのようなことを行っているのかを教えてください。
遠田:マンションは定期的に修繕工事を行いますが、当社は親会社が塗料会社ですので、工事では塗装工事全般を行っています。しかし最近は塗装工事に限らず、「水回りも一緒に見てほしい」などのご要望もあります。
また「高層マンションは危険ではないか」等の意見もありますが、最近はタワーマンションなどの修繕工事も請け負っています。そのため現在は、足場の仮設工事から下地処理の工事など、塗料を中心に幅広く取り組んでいるかたちになります。
2.各事業の概要(2)自動車製品関連事業 主要製品
遠田:自動車製品関連事業の主な製品をご紹介します。ニットクは自動車のエンジンルームや室内、下回り、ホイールハウスの中から車のアンダーカバーまで、車の内外装の「音」に関する部位の製品を対象に、幅広く展開しています。
特に代表的な製品は、先ほどお話ししたエンジンルームから入ってくる音を遮断するダッシュインシュレーターです。みなさまに身近なところとしては、フロアカーペットも市場の20パーセントぐらいを供給しています。
坂本:フロアカーペットもしっかりとしたゴムでできていて、遮音の効果があるのでしょうか?
遠田:そのとおりです。さらに、ダッシュインシュレーターは市場の40パーセントぐらいのシェアを持っています。
2.各事業の概要(2)自動車製品関連事業 主要製品
遠田:自動車製品関連事業では、部品以外にも塗り物やシートに対応しています。先ほど、「メルシート」という貼り物の制振材について話しましたが、今はメーカーによっては貼り物ではなく、フロアに塗って焼きつけるタイプもあります。
自動車製品事業に参入するきっかけになった車の下回りに塗る防錆塗料なども、当社の製品として展開しています。
坂本:融雪剤で錆びてしまうのを防ぐのでしょうか?
遠田:それも大きな用途の1つです。そのためメーカーからの受注ではなく、地域によっては直接「材料だけ売ってほしい」という特別な要望をいただくこともあります。
坂本:自動車工場がある地域などでしょうか? 車検のたびに聞かれたりしますからね。
遠田:そのとおりです。やはり北陸地方や東北地方のユーザーの中には「そのような塗料をいっぱい塗って、なるべく錆ないようにしたい」という要望もあります。
坂本:非常によくわかります。私も車が好きで、防錆は剥がすほうも貼ってふさぐほうも両方行ったことがありますので、意外と興味深く聞かせていただきました。
2.各事業の概要(2)自動車製品関連事業 グローバルパートナー
遠田:グローバル展開している自動車製品関連事業の、提携先メーカーをご紹介します。部品関係では、スイスのオートニウム社と提携関係を結んでからもう50年以上が経ちます。
坂本:非常に長いですね。他業種では、提携関係が途中で終わってしまう会社が意外とありますが、長く続いている秘訣などは何かありますか?
遠田:今は年に4回、3ヶ月に1回はトップ同士でミーティングを行っています。お互いに事業計画を作ってジョイントベンチャーも行っており、意外と「そんなことまで言うの?」というお話もけっこう平気でしています。
坂本:本当に仲がよいのでしょうね。
遠田:そうですね。向こうは欧米企業ですので買収を受けることもあり、オーナーやボードメンバーは変わらずとも、雇われ社長クラスは変わるケースがあります。そうすると、性格の違う社長になることもあるのですが、なぜか不思議とお付き合いが続いています。
また、トップ同士だけではなく、技術部門は技術部門で「Microsoft Teams」などのオンラインや各ジョイントベンチャーが進出している地域、あるいは日本国内等で年数回のミーティングを行っていますし、営業は営業でチームを組んでグローバル対応を進める構成になっています。
独禁法の問題があるため、当然ながら切り分けはしっかりとしています。
坂本:御社の海外売上高比率は他のメーカーより低めだと思いますが、それはやはり事業を切り分けているからですか?
遠田:おっしゃるとおりです。当社単独の規模とリソースで、グローバルすべてに対応することはできません。その中で提携しているため、当社が連結してマジョリティを握っている会社と、先方が握っている会社があります。当然、持分法になりますので直接的な売上などは入ってきません。そのため、当社は経常利益だけが高いという状況が出てきます。
坂本:持分法でも、オートニウム社と御社の両方で持っているところもあるのでしょうか?
遠田:ほとんどが両方で持っています。
2.各事業の概要(2)自動車製品関連事業 グローバルパートナー
遠田:EMS-EFTEC社は、防錆塗材や車のシーリング材など、車の「副資材」と呼ばれる材料を提供している会社です。こちらともグローバル対応しています。
坂本:こちらも大きな会社ですね。
遠田:実は、当社はこちらには工場進出しておらず、製品技術や製造技術などの技術情報を提供しています。向こうの工場で生産して日系メーカーに供給し、当社はロイヤリティをいただくかたちを採っています。
坂本:ファブレスで今風なやり方ですね。
遠田:このかたちを採る理由をご説明します。車1台にはさまざまな部品が使われていますので、1つのカーメーカーの工場に進出するだけでも、それなりの売上があり回収が見込めます。
ところが「副資材」と言われるものはそこまでの売上がないため、なかなかそれだけで工場進出することが難しいです。そうしますと、部品関係と塗材関係を展開している会社とうまくお付き合いする戦略が有効になります。
一気に工場をグローバル展開することはリソースの関係で限界がある中で、どうしても部品が優先される状況のため、このように少しずつ選択するかたちになりました。
2.各事業の概要(2)自動車製品関連事業 リサイクル推進
遠田:リサイクル推進についてご説明します。時代の流れとして、CO2削減やサーキュラーエコノミーなどが言われる昨今ですが、当社の場合は、古着を解繊し綿状にしてダッシュインシュレーターなどの自動車の防音材に使うという製法を、自動車製品事業のスタート時から行っています。
したがって、もう50年近くリサイクル品を使った部品生産を行っており、スライドの図のような循環を作っています。今は一般の古着だけではなく、自動車メーカーによっては作業着を当社が回収し、そのメーカーの製品に戻しています。
坂本:車の後ろを開けると入っている、ふわふわしたフェルトの部分ですね。
遠田:まさにそちらを、当社は古着やユニフォームをリサイクルして作っています。
3.今後の成⻑戦略
遠田:現在の中期経営計画の基本戦略であり、事業を展開する上で肝となる部分についてご説明します。
3.今後の成⻑戦略(1)国内事業の安定的な収益基盤の構築
遠田:1番目は、国内事業の安定的な収益構造の構築です。塗料事業は一貫生産を目指しています。先ほど粗原料のお話をしましたが、合成技術を進歩させて粗原料段階から塗料製品まで、一貫生産へのシフトを、今後はより強く行っていきたいと考えています。
当社の平塚工場は、もともと塗料と自動車の工場でしたが、自動車製品事業の「メルシート」の市場が小さくなったため、事業を集約しました。「リストラ」という言葉は日本人の印象がどうしても悪いため、私は社内で使わないようにしていますが、一般的に言いますと、平塚工場の自動車製品事業はリストラして工場の敷地を空け、塗料専用の一貫体制の工場にしていく方針です。
自動車製品事業に関しては、先ほどお話した当社の主力部品であるダッシュインシュレーターが、日本の全メーカーの乗用車市場の40パーセントという相当なシェアを持っています。そのため、生産性の向上や、CO2を削減した生産技術の開発などに取り組んでいます。
そのあたりを踏まえ、次の中計を発表する頃には、順次工場を新しい生産システムに刷新していきたいと考えています。
3.今後の成⻑戦略(2)「技術のニットク」の強化と新技術・新製品開発
遠田:2番目は、「技術のニットク」の強化と新技術・新製品開発です。技術的な内容にはなるものの、昨今は環境問題が重要視されるため、塗料事業については特定化学物質やモカ、鉛を使わない製品展開を進めていきます。
自動車製品事業は、我々のコア技術である自動車の防音マネジメントに加え、車の変化にあわせた新たな車の音響コンセプトも提案していきます。技術力を磨きながら立案していくかたちになります。
坂本:例えば、エンジンで音が出る部分とEVのモーターで音が出る部分が違うため、その部分を通常とは少し違った防音方式で対応しなくてはいけないということでしょうか? 材質などについてもご提案されますか?
遠田:おっしゃるとおりです。
3.今後の成⻑戦略(2)「技術のニットク」の強化と新技術・新製品開発
遠田:先ほどEVのお話が出ましたが、今はEV車のバッテリーに対応した先行開発も手掛けています。スライドに「易解体性」という見慣れない言葉がありますが、要は「簡単に車から部品が外せる」ということです。
部品が接着しているとリサイクルしづらいため、簡単に外せてリサイクルしやすい構造の製品も合わせて開発しないと時代についていけません。現在は、このような技術開発も進めています。
坂本:最近の特にバッテリーEVの車は、部品点数が少なくギガキャストで一気にプレスしてボディは完了となるため、そちらに貼り付ける防音材などもかなり開発を急ぐ状況ということですね。
遠田:まさに今、ギガキャストのお話が出ましたが、鉄板をプレスしてアッセンブリする従来の車両と、ギガキャストだと振動レベルが変わったり、それによる防音材の施工が変わったりします。
あまり大きな話はできませんが、現在はメーカーと一緒になって開発したり、弊社に車を持ち込んで解析したりしています。このように、新しいバッテリーEVの、いわゆる「ギガキャスト系」の車にニーズが流れていくことに応じて技術開発を行っています。
坂本:個人投資家から「今の車が全部バッテリーEVになった場合、売上構成は変わるのですか?」という質問をよくされると思います。もちろんすぐには切り替わらないと思いますが、例えばプラグを作っている会社はいらなくなり、売上が7割削られるという状況もあっての質問だと推測します。御社はどのような感じですか? チャンスのようなものはあるのでしょうか?
遠田:一般的に言いますと、モーターの車は車としては静かになります。しかし、人は絶えず要求が高くなりますので、新たな対応が求められます。実は車には、エンジン音によって隠れている音があります。それが、風切り音とタイヤのロードノイズです。
さらに、今の車は「運転するもの」という感覚ですが、今後自動運転が主流になれば、車は「乗るもの」もしくは「過ごすもの」という感覚に変わる可能性があります。人間は一度気になった音は忘れられませんので、エンジンからモーターに変わることによって、エンジン音で隠されていたロードノイズが無性に気になり「静かに本を読みたいのにうるさいなぁ」となる可能性が出てくるのです。
ですので、要求値が今より上がっていく中では、減るどころか、もしかしたら逆に増える場合があります。ただし、当社製品のポートフォリオとしては、今はエンジン音を静かにするところにお金がかかっています。
しかし今後「エンジンは静かになる」という認識に変わり、今度はタイヤなどの音を静かにしようとする場合は、そちらにお金を振り分けるなどの対応が考えられます。
今の車はエンジンで4輪を駆動させますが、今後はモーターを前と後ろに積めばよいとなると、音源が後ろに増えます。するとそちらへの対策も必要になるため、商品構成のポートフォリオが変わってきます。
ただし今のところ、1台あたりの売上は減っていません。バッテリーEVのお話になると中国のメーカーやテスラなどに興味を持たれる方が多いですが、実は我々もけっこうなお金を使って中国メーカーのベンチマークを進めています。その上でも減っていないという状況です。
今は第2世代が動いており、次の第3世代に移っていくフェーズとなっていますが、そちらを予見しながら市場の動きを注視した上で展開しています。
3.今後の成⻑戦略(3)グローバル展開の強化
遠田:3番目は、グローバル展開の強化です。塗料事業に関しては、機能性の高いものや防水性のあるものなど、求められる商品を日本で作り、東南アジアに展開していきます。自動車製品事業は、今中国が下火になってきている中で、これからは人口もインドが増えていくように、インドに投資を拡大する動きが必要になっていきます。
4番目は、DXの推進です。やはりどうしてもAIの活用が求められるため、塗料事業ではAIを使って配合を検討するなどの対応を進めています。自動車製品事業では、先ほど車1台の防音パッケージのお話をしましたが、かなりの基礎データがあるため、こちらをAIに機械学習させていきます。
坂本:「このかたちでこのモーターならこの設定だね」のような流れですね。
遠田:今は人間が「どのような設定にするか」のチューニングを行っていますが、そちらをAIの作業にシフトさせていきます。すでに進めていますが、AIにまかせることで作業効率を30パーセントから40パーセント改善できるのではないかという状況です。
自動車メーカーの要求に早く応えなくてはいけないという意味で、AIを活用していく展開を考えています。
3.今後の成⻑戦略(5)サステナビリティ(持続可能性)経営の推進
遠田:5番目は、サステナビリティ経営の推進です。こちらは当然のごとく、塗料事業も自動車製品事業も対応していきます。
塗料事業に関しては、先ほどお話した環境対応にも注力しています。当社は、屋根に塗ることで熱反射して室温の上昇を防ぐ「遮熱塗料」を日本で最初に出したメーカーです。こうした環境対応製品をより拡充していきます。
また、使う材料も石油由来の物質ではなく、いわゆるバイオマスなどの原料を取り入れ、当社ならではの開発を進めています。ただし、まだどうしても石油由来の物質に対して性能が劣ったりコストが高かったりするため、100パーセントの置き換えはできませんが、徐々にそのような対応を採っていく方針です。
自動車製品事業に関しては、先ほどお伝えした古着だけではなく化学繊維も回収し、再紡糸して使うための技術開発も行っています。
そしてカーボンニュートラルは、全社的に対応しないわけにいかない状況です。工場はできる限り太陽光発電を導入する方向へ徐々に振り向けています。
3.今後の成⻑戦略(5)サステナビリティ(持続可能性)経営の推進
遠田:今後非常に重要になると考えている人材育成とガバナンス強化、サステナビリティ重視の経営についてご説明します。
人材育成については、今の企業は余裕がなくなってきていると感じます。私が入社した当時は、忙しい時はあれども、自分の部門だけではなく興味を持ったら他の仕事を経験させてくれる余裕がありました。
今はどこのメーカーも企業も、職場のローテーションをしない限り自分の部門のみで、なかなか新しい経験ができません。そのため、職場でローテーションを行ったり、ローテーションをしない場合には、自分が担当していること以外の基礎的な技術の教育プログラムを作ったりして、人材育成を図りたいと考えています。例えば、技術者が財務を学ぶなどです。
また、教育の手前には人事制度があります。評価と教育は結びつきが強いため、先に人事制度を適切に刷新しておき、プラスアルファとして教育制度を構築したいと考えています。このような決定事項ではない内容については「社長の妄想だと思って聞いてくれ」と言い、組合の団交の席などで社員に説明しています。
坂本:とてもよいことだと思います。
遠田:ガバナンスの強化やCSRの施策強化は、当然のごとく行っている内容です。一番お伝えしたかったのは、人材教育を着実に行い、育てた人材がより生産性を高めてくれれば、企業としては「人への投資」が十分成り立つと言えるということです。
4.当期(2024年3⽉期)の業績(1)2024年3⽉期 第3四半期決算サマリー
遠田:第4四半期を含めた、2024年3月期の決算状況です。売上高は、前年同期比プラス約10パーセントとなりました。経常利益の前段階である営業利益が増えた点は、少しアピールしたいところです。
増収要因として、かなり厳しいことですが、お客さまへの値上げ折衝を行いました。またコロナ禍で非常に苦しい時に、生産性を改善しなければ製造業として身が持たなかったため、それを着実に実施してきたことが一定の収益改善につながりました。
坂本:歩留まりと一緒によくなってきたということですか?
遠田:そのとおりです。値上げ効果と生産性、歩留まりの向上という2つの効果によって、やっと営業利益が増えました。
坂本:塗料など、原材料費がかなり上昇したものもあると思います。
遠田:去年は特に苦しかったです。当社のお客さまは自動車メーカーや塗料の販売店、施工店などです。みなさまにとっても、その先にいるお客さまとの関係があるため、値上げはなかなか難しいことです。
しかし、世の中の流れなどを踏まえ値上げを受け入れていただきました。そちらに加えて、地道に行ってきた生産性の改善が実を結んだところです。
4.当期(2024年3⽉期)の業績(2)2024年3⽉期 通期業績予想サマリー(2024.2.9 上⽅修正)
遠田:スライドには、つい先週上方修正を行った内容を記載しています。
5.中期経営計画の業績⽬標・利益還元
坂本:サマリーを見ると好調ですね。御社は3月決算のため、このままいくと自動車の挽回生産もかなり見えてきている印象です。塗料もそうですが、他の自動車部品メーカーなどもとても業績がよいため、数字を見る限りでは上方修正もありえそうです。
また先ほどのお話を踏まえると、値上げや調整などに対するお考えもあると思います。この状況は、第4四半期含めて来期もすんなりと実現できる環境なのでしょうか? ちょうど先の中期経営計画が出ているため、うかがいたいです。
遠田:感触は悪くありません。ただし、不安要素もゼロではありません。例えば塗料関係では、コロナ禍を空けて需要が戻ったものの、急に忙しくなり全体が疲弊したことで一服感が出る可能性があります。
もう1つの懸念として、今の自動車関係の不正問題の影響が出ることが考えられます。また、みなさまもご存じだとは思いますが、中国で日系の自動車があまり売れていません。
坂本:「EVばかり」という話は聞きますね。
遠田:おっしゃるとおりで、そのような点が不安要素です。ただし、事情は織り込んだ上で計画を立てていますので、当然のように上を目指してがんばります。
5.中期経営計画の業績⽬標・利益還元
遠田:配当も増配しました。当社は安定配当ということで、コロナ禍前は配当性向30パーセントを目指してきました。
コロナ禍で利益が減った時にも過度に減配しませんでしたので、配当性向が一時的に上がってしまいました。今期は安定した数値を見ながら、若干プラスさせていただいています。
質疑応答:PBR対策の内容とスケジュール感について
坂本:「PBRが低く、東証も引き上げについてかなり積極的に言っていましたが、PBR対策はありますか? もしあるのであれば時間軸を含めて教えてください」というご質問です。
遠田:確かに、PBRは1倍を割りこんでいます。以前は超えていた時もありましたが、コロナ禍でかなり割れてしまいました。
坂本:利益が上がった部分もあると思いますけどね。
遠田:現状においては、本業の業績向上と利益向上に努めていきたいというのが正直なところです。それを行っていく中で、計画的にPBRを睨んでいく活動になると思います。まずは、安定して利益を向上させていくことに全力を注ぎます。
坂本:ありがとうございます。すごく実直なお答えだったと思います。
質疑応答:自動車の生産停止問題に伴う業績への影響について
坂本:「自動車部品関係が好調ですが、巷では事件や事故、不祥事などを含めた生産停止問題が起こっています。御社の業績にはどの程度影響がありますか?」というご質問です。
遠田:一番みなさまが耳にしているのは、ダイハツの工場が1ヶ月以上停まった件だと思います。当社の場合、ダイハツからの売上はそれほど多くありません。ダイハツには部品を納めておらず、床回りやシーリングなどの領域のみとなります。そのため、具体的な数字で言いますと、ダイハツ関連の売上影響は月にマイナス3,000万円から4,000万円程度であり、あまり大きくはありません。
また、トヨタ関係も若干ブレーキがかかっています。そちらの影響も、1億円から2億円の範囲で留まるのではないかなと見込んでいます。
坂本:確かに、各自動車メーカーの第3四半期の決算を見ると、不祥事を抜きにしても、生産台数が目標から数万台から10万台程度増加しているパターンが意外と多いです。御社はどちらかというと、車の台数が出た方が儲かる会社ですよね。つまり、そのあたりが後ずれだったらよいということだと思います。
遠田:おっしゃるとおりです。また、当社が供給している車のラインが停まるか停まらないかは、先ほどお伝えした市場の40パーセントの残りである60パーセントの領域と、どこかが明確にならないため、出たとこ勝負的な要素が残る点がやや不安材料です。
坂本:車種が売れていれば良いのですね。部品は、モデルチェンジごとに変わっていく感じなのでしょうか? 生産時の仕様が決まれば、終売まで御社のものが使われますか?
遠田:車のモデルは5年に1回程度変わります。そのため、部品は5年に1回のゼロスタートとなり競合同士で受注を競い合います。
坂本:つまり、一度採用されると5年はほぼ安泰という商売なのですね。
遠田:おっしゃるとおりです。言葉を選ばずに言えば、自動車は薄利多売で一定の量が見えます。コストや利益率が多少低くても数字が読めるという意味で、今までの自動車産業は魅力がありました。しかし、コスト競争ばかりさせられると厳しくなるため、今後は多少なりとも時代の変化があるかもしれません。
坂本:この前開発された軽い製品は高く売れるのですか?
遠田:残念ながら、そのようなわけでもありません。今から30年ほど前は「1キログラムいくら」というかたちで軽ければ価格にプラスされた時代もありますが、今は違います。逆に、同じコストでもより軽量化できることが当社のアドバンテージだと言われ、常にがんばり続けなければいけない状況です。
坂本:その状況でシェア4割はすごいと思います。
質疑応答:為替感応度について
坂本:「期初想定と比較した為替感応度について、利益など出しているものがあれば教えてください」というご質問です。御社は直接的な海外売上比率が少ない部分もあるため、そこまで感応度は高くないと思いますが、いかがでしょうか?
遠田:1年前に計画した時と今の為替レートは、あまり大きく変わっていないと思います。そのため、それほど感応度は高くありません。ただし、持分法適用会社の利益は現地の通貨で計上されるため、そちらの部分はぶれている状況です。
質疑応答:航空機向け塗料の採用状況について
坂本:「航空機の塗料は、どれくらいの会社に採用されているのでしょうか?」というご質問です。これは、日系企業が多いのかどうかというご質問だと思います。
遠田:航空機は、軍需産業と直結しています。そのため、日本が戦争に負けてからはGHQにより航空機の製造を禁止され、日本の航空機産業は約10年間空白になり、当社も製造停止になりました。
アメリカのボーイングも、ヨーロッパのエアバスも、現地にある会社かつ現地で作ったものしか使ってくれません。以前、ボーイングで一番売れている787の一番機をANAが使うことになり、弊社の塗料がANAの指定で採用されました。
その際は、北米の会社と技術提携を行い北米の会社で製造をして、ボーイングの規格も取って納品し、塗っていただきました。しかし、ボーイングの計画が遅れて6年から7年飛ばないことになり、その駐機中に泥だらけになってしまったのです。
さらにその間に、世界における民需塗料のゲームチェンジが起きました。今までの航空機塗料のベースはウレタンでした。自動車の塗装では、塗ったら焼き付け炉に入れてしっかり焼き付けができます。これに対し航空機塗料はそのようなことはできず、塗ったら常温で乾燥させます。
したがって、例えば同じウレタン系の塗料を使う際にも、当然ながら塗料の設計が異なります。その中で、当社はフッ素を使っていました。家庭用の塗料でも、ウレタンよりもフッ素の方が高級ですがよく持ちます。
他社のウレタン系塗料は5年から6年で塗り替えが必要ですが、当社のフッ素塗料は7年から8年持ちます。多少単価が高くても塗る回数が減るため、一番機に採用していただいたのですが、飛ばない間に世の中が変わってしまいました。
今の主流は、自動車のメタリック塗装と同様に上からクリアコートをかけています。
坂本:そうすると、剥がれにくく持ちが良くなるのですね。
遠田:おっしゃるとおりです。さらに、塗り替えが必要になった場合も、工期短縮になります。過去は色のついた塗料を2回塗りしていました。その都度マスキングを行いますが、現在は色のついた塗料を1回塗り、その上にマスキングのいらないクリアコートをするわけです。それを確かヨーロッパのマーキュビッツが開発し、アクゾノーベルコーティング、アメリカのPPGインダストリーズが後追いしました。
そのため現在はグローバルにおいて、マーキュビッツ、アクゾノーベルコーティング、PPGインダストリーズ等が世界有数のメーカーとして航空機塗料事業を行っています。
当社は悔しい思いをしました。後発で同じ塗料を開発したのですが、時間が遅れたため新造機には塗っておらず、現在は塗り替え需要にのみ対応しています。民需はそのようなかたちです。
坂本:クリアコートの塗り替えはどのくらいのタイミングで行われるのですか?
遠田:昔のウレタン塗料よりは少し伸びています。
坂本:航空機についてはあまりお話できなかったため、最後にうかがえてよかったです。
当日に寄せられたその他の質問と回答
当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。
<質問1>
質問:現在の株価は市場に適正に評価されていると感じておられますか?
回答:現在のPBRの水準等を考慮すると、適正とは言い難い面もありますが、当社としては、まずは利益水準、利益率の向上に注力していきたいと考えています。
<質問2>
質問:競合他社にない強みはどこにあるのでしょうか?
回答:説明の中でもお伝えしましたが、当社は技術力に強みがある会社です。航空機用塗料で培った「塗料」の技術、音響解析・評価、自動車の防音マネジメントに関する「音」の技術、あるいは材料から製品までを一貫して手掛ける「ものづくり」の力をお客さまから評価していただいていると思います。
<質問3>
質問:技術開発はすべて1ヶ所のセンターで行われているのでしょうか?
回答:基本的には、東京都北区の拠点1ヶ所で集中的に行っていますが、生産に関わる部分等、一部は各生産拠点で分担しています。
<質問4>
質問:利益率が大幅に向上した理由は何でしょうか?
回答:①売上高が増加したことに加え、②コロナ禍で生産量が落ちた中でも、持続的に生産の歩留まり改善、生産効率向上に取り組んできた結果、生産が回復したタイミングで、そうした取り組みの成果が表れてきたこと、さらには③原材料費上昇等のコスト増について、お客さまにご理解をいただき、売価に反映(値上げ)したこと等によるものです。
<質問5>
質問:現時点で海外売上はどのくらいの割合を占めているのでしょうか? 将来的な目標はありますか?
回答:自動車製品事業において、中国・武漢、インドネシアに連結子会社があり(その他地域では持分法適用会社で展開しているため、持分法投資利益で取り込み)、全体に占める海外売上の割合は約15パーセントです。
塗料事業においては、海外事業展開を検討中であり、自動車製品事業においては、顧客である日系カーメーカーの動向次第の部分があるため、現時点では、具体的な目標値は設定していません。
<質問6>
質問:原油高などで原価高騰の場合、価格転嫁はフォーミュラなどがあるのでしょうか? 都度個別交渉でしょうか?
回答:ナフサ等に連動してフォーミュラになっている部分と、都度個別交渉の部分、両方ありますが、特に塗料事業においては、厳しい競争環境下、基本的には都度個別交渉となっています。
<質問7>
質問:プライム市場上場は検討していますか?
回答:昨年、プライム市場からスタンダード市場へ区分を変更しました。①上場維持基準への抵触(上場廃止)リスクを考慮し、株主・投資家のみなさまに安心して当社株式を保有・売買していただく環境を確保すること、②限られた経営資源を、事業の中長期的な成長、収益基盤強化に集中することが、持続的な企業価値向上につながると判断したことが理由です。
時価総額の向上(一定以上の規模を安定的に確保)、経営資源の充実が達成できた際にはあらためて検討する可能性もありますので、ガバナンスの向上やサステナビリティ関連の取り組み充実化等については、今後も一定の水準を保っていく考えです。
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