アイリッジのニュース
テクノロジーで明日の世界を変えていく アイリッジという社名に込められた小田社長の想いと、上場までのプロセス
~morichの部屋 Vol.3 株式会社アイリッジ代表取締役社長 小田 健太郎様~
福谷学氏(以下、福谷):本日も「morichの部屋」、始まりました。今回で第3回目ですね。
森本千賀子氏(以下、morich):はい、3回目になりました。
福谷:1回目と2回目が終わり、今日が第3回目ですが、あっという間ですね。
morich:そうなのです、もう年末ですね?
福谷:年末にはまだ少し早いので、またあと1回は番組があるのかなと思いますが。
morich:そうですね。今までも、本当に楽しいお話をさせていただきました。
福谷:楽しい番組でしたね。学びの機会もいただきながら、いろいろなお話が聞けます。今日も素敵なゲストをお呼びしています。
morichさん。もう「morichさん」とお呼びします、私。
morich:良いですよ、福ちゃん。
福谷:「福ちゃん」と呼んでいただいて、ありがとうございます。morichさん、もう慣れましたか?
morich:いや、意外とまだまだです。実は、今までは創業者の方からバトンを受けて、現在社長でいらっしゃる方へお渡ししていたのですが、前回の坂本社長からのバトンを受けて、本日は創業者でいらっしゃる方にお渡ししようと思っています。
福谷:創業者であり、現在上場企業の社長の方ですね。
morich:はい、そうです。私はリクルート時代から、「創業者の方が大好き」みたいなところがありまして。
福谷:そうなのですか? なぜ、お好きなのでしょうか?
morich:やはり、創業するのは非常に勇気の要ることです。なおかつ、そこから上場まで行かれるというのは、本当にいろいろな経験をされたのだろうなと思っていて、今日はそこを是非聞いていきたいと思っています。
福谷:深掘りするために、いろいろなご準備をされてきたと思います。本日も、小田社長のシャワーを浴びてこられたのでしょうか?
morich:はい、もちろんですよ。みなさまが絶対知らないようなネタも持ってきました。
福谷:なるほど、ありがとうございます。
morichの自己紹介
福谷:ではゲストをお呼びする前に、本日もmorichさんの自己紹介をお願いします。
morich:あらためまして、みなさま、こんにちは。もう3回目の方もいらっしゃるかもしれませんが、はじめての方もいらっしゃるかもしれませんので、少し自己紹介します。
私はもともと新卒でリクルートに入社し、25年間リクルートにいました。リクルートでは、自分のやりたいことを見つけると、そのまま起業したり転職したりする同僚が多かったのですが、私は大好きな会社でもあったので、リクルートにいながら、実は第2、第3の副業というパラレルワークをずっと続けていました。
リクルートの中では転職エージェントとして、転職したい求職者の方と、中途採用したい企業側とのマッチングを担当していました。
これから小田社長というITの領域にいらっしゃる方をご紹介しますが、実は私も一時期、ITチームのマネージャーという近しいお仕事を担ったりしていました。
ちょうど7年前に独立し、今はmorichという、私の名前がそのまま会社になったような社名なのですが、そこで転職エージェントとともに、スタートアップ支援や社外役員、アドバイザーのようなこともしています。
実は、本も10数冊書いています。現在は連載で『プレジデント』や『Business Insider』、『日本経済新聞』のオンライン版などで、キャリアについてメッセージを発信したりもしています。
福谷:なるほど。今後は何か出版予定などあるのでしょうか?
morich:実は、今はどちらかというと紙ではなくてオンラインのほうに移行していまして。というのも、やはり紙だと、どうしても書いて出すまでにタイムラグがあるためです。
私は、今まさに旬なことを、この瞬間にお届けしたいと思うようになり、いわゆるオンラインや、今日のように動画のほうへ出演するかたちになっています。
福谷:ありがとうございます。
それでは、ゲストの方をお招きしましょう。morichさん、よろしくお願いします。
morich:本当に楽しみにしていました。株式会社アイリッジの代表取締役社長、小田健太郎さんでいらっしゃいます。こんにちは。
小田健太郎氏(以下、小田):こんにちは。よろしくお願いいたします。
福谷:よろしくお願いいたします。
morich:お待たせいたしました。よろしくお願いします。今日、実はたまたまランチさせていただいた方がいまして、その方が「オダケンさん」と言っていたのです。
なんと小田さんとものすごく近いところにいらっしゃった方で、どうも昔、奥さまと同級生だったというお話でした。引き寄せの法則ではないですが、シンクロしたようなタイミングがありました。
morich:今日はよろしくお願いいたします。
小田:よろしくお願いします。
福谷:よろしくお願いします。ありがとうございます。
小田社長の自己紹介
morich:小田社長、ぜひ自己紹介をお願いしてよろしいでしょうか?
小田:わかりました。そうですね、まず、今の仕事からお話しするほうがわかりやすいかなとも思います。
morich:そうですね、お願いします。
小田:当社は株式会社アイリッジと申します。主な事業は2つで、1つはスマートフォンアプリの企画、開発、運用です。もう1つはアプリを効果的に使うための、スマホアプリ向けのマーケティングツール「APPBOX」によるサービス提供で、この2つをビジネスの柱としている会社です。
もう少し補足すると、特に大手企業のスマートフォンアプリの企画、開発、運用をご支援するところが多いです。
morich:クライアントの一覧を見ると、本当にかなりの大手企業が中心ですよね。
小田:はい。例えば、コンビニ業界ではファミリーマートの「ファミペイ」アプリ、あるいは鉄道業界ではJR西日本のMaaSアプリなどを担当しています。
そのような小売、あるいは鉄道、さらに銀行業界あたりの案件を非常に多く対応しています。そういった大企業向けのアプリを作って、効果的に使っていただくことを支援している会社です。
morich:作るだけでなくて、その後に使っていただくところのマーケティングまでサポートされているのですね。
小田:はい。効果的に使っていただくところまでが仕事だと思っていますので、使った後に、例えばどのようにしてユーザーの方に広めるか、もっと効率的に使っていただくにはどのようなお知らせをどのような頻度で出したら良いかなど、そのようなところまで含めて一緒にアドバイス、ご支援させていただいている会社です。
morich:今は、だいたい何人くらいの組織になるのでしょうか?
小田:今は300人弱ですね。
morich:そうですか。主には、いわゆるエンジニアの方が多いのですか?
小田:そうですね。創業以来、スマホアプリ事業を中心にビジネスを進めてきているため、いわゆる開発チームはスマートフォンアプリを作る人たちが中心の組織になっていますね。
morich:ありがとうございます。
小田社長の学生時代
morich:現職に至るまでのところを紐解いていきたいと思います。大学は、第2回目のゲストの坂本社長と同じ慶應大学でいらっしゃるとうかがいました。
小田:そうですね。
morich:慶應大学の経済学部ご出身ですよね?
小田:そのとおりです。坂本さんともたまたま同窓です。
特に経済学部と絞っていたわけではないのですが、将来を考えた時に、よりビジネスサイドで活躍していきたいという思いがあって、経済学部を選び、大学時代を過ごしていました。
morich:何かの記事を読ませていただいた際に、ゆくゆく目指したいゴールとして、実はもともと起業家という目標をお持ちだったとありました。
小田:そうですね。それぞれ別の会社なのですが、私の父も、母方の祖父も創業経営者でした。会社を立ち上げて事業を経営していたというルーツがあり、一番身近な職業が起業家、創業経営者だったという環境でした。
私もいずれはそのような仕事に携わっていきたいなという思いが根っこにはあったのですが、大学を選ぶ段階では、まだそこまでリアリティを持った目標として描く段階ではありませんでした。たぶん、根底ではそうした思いも意識しながら、なんとなく経済学部というところを選んだのだと思います。
morich:ちなみに、今や上場会社の社長でいらっしゃるのですが、小田社長の大学生生活は、どんなご様子だったのですか?
福谷:なかなか聞けないですからね。
morich:聞けないです。実は、あまり情報が載っていなくてですね。
小田:これがまた、おもしろいトピックスや、ネタになるようなすごいこともしていないのです。今振り返ると、「学生で起業ができるなんて非常に魅力的なチャンスだ」なんて思ったりしています。もう1回学生生活を送れるのなら、学生時代に起業したいと思ったりするのですが、当時の私はそこまで思い至らずでした。
morich:まだその時は、それほど周りに学生起業家っていないですものね。
小田:そうですね。大学も普通に通い、サークルにも少し参加していました。
morich:要するに、典型的な大学生ということですね。
小田:緩やかに過ごしていました。
morich:みなさまに安心していただきたいのは、普通の大学生でも、こうやって上場会社の社長になれるということですね。
福谷:確かに。
morich:華々しい何かをやっていたということではなく。
小田:そうですね。そうではなく、本当に普通の大学生でした。
小田社長が新卒でIT業界のNTTデータを選んだ理由
morich:とはいえ、当時の慶應大学で経済学部出身の方ですと、みなさま例えば金融機関や商社などを選びがちなところに、なぜまたファーストキャリアとしてIT業界を選ばれたのでしょうか?
小田:おっしゃるとおり、銀行や商社はやはり人気の職業でしたし、私もやはり経済学部でしたので、そこのお話を聞いたりはしていました。ただ、当時も「いずれは起業したい」という思いがあって、そちらに近い職業というのがやはり選択肢に入ってきていました。当時は1999年で、IT産業が伸び出してきていた頃です。
morich:1990年から2000年あたりは、ちょうど伸び出した頃ですよね。
小田:そうですね。インターネットも当然出てきていましたし、その前から情報システム産業は、やはり成長産業と言われていましたので、そちらの業界に行けば、いずれ起業に近づくのではないかという思いもあり、そちらの業界の会社を回っていた中で、NTTデータに入社することを決めました。
morich:ご縁があったということですね。NTTデータでは、もともとエンジニアになろうと思われていたのですか?
小田:当時は、そこまで強く思ってはいなかったです。一方で、NTTデータでは、文系も理系もエンジニアになるという道がありました。
morich:当時はそうでしたよね。
小田:私は当時から、いずれ起業したかったため、NTTデータに入社した時もそこに近い職種で仕事ができたら良いなという思いがありました。たぶん、どこに入っても結局チャンスはあったと思うのですが、結果としてはビジネスサイドと言いますか、営業側に入りました。
morich:なるほど、セールスのほうだったのですね。
小田:はい。チームに入って、営業職を5年間続けていました。
NTTデータの営業職で得た未来につながるキャリア
morich:その期間のハイライトと言いますか、特に小田社長の未来につながるキャリアがあるとすれば、どのようなところになりますか?
小田:さすが、良い質問ですね。
morich:このような仕事を本業にしていますので。
小田:少し当時を振り返りながらお話ししていくと、やはり情報システム業界に入って知れたことは、今のビジネスにつながっていると思っています。
結果的に、我々は現在スマートフォンアプリによるビジネスを行っているのですが、大企業のスマートフォンアプリを作るとなると、例えば決済システムや管理システムといった、裏側の大規模なシステムとの連携が大きくなります。
morich:そうですよね。前提ですよね。
小田:大企業が作っている大規模システムとの連携となると、それなりのお作法と言いますか、いろいろなものがあるのですが、NTTデータにいた5年間で触れることができていたため、その後のキャリアに役立ちました。
morich:なるほど。やはり今のクライアントさまが大手企業でいらっしゃるので、経験が役立っていると。
小田:そうですね。ですので、大企業が大規模システムをどのように作っているかを知ることができたというのが、1つ大きかったなと思います。
また、今のビジネスでは、幸い大手企業のクライアントが多いのですが、大手企業と一緒にビジネスを進めていくには、その企業がどのようなことを行いたいと思っているのか、どのようなプロセスで実現されていくかという、企業としての意思決定のプロセスを把握できているほうが有利です。
そのような大企業の意思決定プロセスを、大企業であるNTTデータの中に入って見られていたというのは、今につながっていると思います。
NTTデータ時代のお客さまのエピソード
morich:何か思い出深いお客さまのエピソードはありますか?
小田:社名は公表していないのですが、みなさまご存じの食品メーカーの、物流システム案件です。当時はサプライチェーンマネジメントといっていたもののサポートですね。
morich:SCMですね。
小田:そうです。物流システムのお手伝いと言いますか、開発・構築を担当したことがあります。
物流システムというのは一般の消費者から見られない世界なので、本当におもしろいです。
morich:そうですよね。ちょっと想像がつかないところです。
小田:工場でものが作られる訳ですが、工場で作るためには、まず原料を海外から輸入します。作ったものを工場の近くに保管して、最適な頻度で消費者のいるところに届けていきます。
morich:小売店とかに運ぶのですね。
小田:そのような工程がある中で、それこそ工場の中でどのようなことが行われているのか。倉庫はどのように保管されているのか。よくピッキングなんて言いますが、どのようにして仕分けて持っていくのか。トラックはどのように管理されているのかといったビジネスの裏側を見ることができました。
私はビジネスの裏側のような、消費者が触れない部分の仕組みに大変興味があるのですが、当時そのようなものに触れることができたというのが非常におもしろかったですし、今もけっこう楽しいと思いますので、当時の経験が根っこにあるのかなと思います。
morich:なるほど。当時は、「見に行かせてください」ということで、クライアントの方にお願いして、現場まで行かれていたのですか?
小田:そうですね。お願いしたのと同時に、そのようなシステムを作るにあたって、「やはり現場を知っていないと駄目だよね」というニーズもありましたので、両方がきっかけで現場に行っていました。
morich:ピッキングしたとかというお話もあったと、記憶しています。
小田:さすがですね。そうですね、そのようなお手伝いもありました。
福谷:すごいですね。
小田:実際システムを作る時って、本当に業務を経験するって大事ですよね。
morich:そうですよね、わかります。私も実はリクルート時代、小売店さんとかでも必ずアルバイトさせてもらったりしていました。
小田:そうなのですよね。本当に、言われたものを聞いて作るだけでなく、一度自分が体験して、「このようなことなんだな」と理解してからシステムを作るというのが大事だと思っています。
morich:「このへんが難しい」などですね。
小田:そのあたりを当時経験させてもらいました。業務としての理解も進みますし、知らない世界を知ることも楽しいですし、それがまた、作ることに活きてくるという循環がありました。それは今につながる経験ですし、当時も大変楽しかったですね。
morich:とはいえ、当時はまだ入社して間もない、2年目から3年目の時期ですよね?
小田:新卒で入って、2年から3年目くらいの頃ですね。
morich:そうですよね。相手企業のシステム部門と一緒に連携しながら担当しているということですね。
小田:そうですね。
morich:そのような意味では、ある種まだ新米な感じですよね。
小田:そうですね。でも、新米だからこそ、本当にいろいろなことを無邪気に教えてもらうこともできましたし、「なんでもやらせてください」ではないですが、そのようなピッキングも含めてさまざまな業務を幅広く経験できました。今は物流システムとは遠い業界ですが、そのような経験はかなり今につながっていると思いますね。
次のキャリアを考え始めたきっかけ
morich:ある意味、充実されていて、まだまだやるべきこともある中で次のキャリアを考え始められたのでしょうか?
小田:そうですね。
morich:それは、何かきっかけだったのでしょうか?
小田:この辺りから、起業をちゃんと考えだしたのがきっかけです。
morich:そうなのですか? やはり、ちゃんと根っこに思いがあったのですね。
小田:そうですね。入社当時は「いずれ起業できたら良いな」くらいの考えで、近い業界ということでIT産業を選びました。しかし、やはり5年間働いていると、「そろそろ起業するにはちゃんと考え出さないといけないな」という思いが湧いてきました。
morich:ITにおいて、「ツールは使う」といったことは考えていらっしゃったのですか?
小田:そうですね。その中で、「じゃあ何にしようか? どうやって起業しようか?」と考えている中で、せっかく起業すると言いますか、前の会社を辞めるような意思決定をするのであれば、世の中を見ておくのも良いなという思いがあり、お話を聞こうと思っていくつかの興味ある業界に転職活動も行いました。
morich:転職活動をされていたのですね。リクルートも登録いただいていましたか?
小田:していたはずです。
morich:ありがとうございます。
小田:ただ、当時、本当に日経新聞の日曜版などで探していました。
morich:そうですね。まだメディアも広告がいっぱい出ていました。新聞に求人欄というのがあったのですよね。
小田:当時はそうでした。当時、エージェントはたぶん使わなかったです。
morich:まだまだ求人メディアが中心だった時代ですね。
小田:本当に日経の日曜版の求人広告を見て手紙を書くといった活動をしていたのです。
morich:手紙を書いたり電話をかけたりしましたよね。そのような時代でした。
外資系経営コンサルティング企業への転職
小田:その時、いずれ起業しようと思い、それを意識して退職・転職をするかしないかを見る活動だったので、そのような観点で探していました。
そうしたところで、ちょうど当時は経営コンサルティングという業界の認知が一般的にかなり広まってきて非常に伸びていました。もっと前から当然あったのですが、目にするシーンが増えてくる時期でした。
morich:そうですね。経営コンサルティングの会社が人気企業になりつつあったタイミングですね。
小田:いずれ起業したいという思いの中で、「経営を学べるコンサルティング会社というのが人気になってきているようだな」と気づきました。
経営コンサルティング会社に少し興味が出てきたので、お話を聞きたいと思いました。当時は新聞に大手経営コンサルティング会社の求人広告が、上から順番にすべて出ていたのです。
morich:なるほど。当時はそうですね。たくさん採用されていたということですよね。
小田:そこで日経新聞で見てリストアップした会社が出ていたので、上から応募してお話をしていきました。
福谷:なるほど。
morich:上からというと、外資系からですよね。
小田:外資系がやはり中心です。外資系の経営コンサルティング企業もいくつかあるのですが。
morich:そうはいっても、めちゃくちゃ難易度高いはずなのです。狭き門なはずです。
小田:上から応募していったので、3つ目、4つ目まで並行して受けていきました。その中で、結果としてボストン・コンサルティング・グループという、今非常に伸びて広まっている会社にご縁をありました。
morich:MBAを取られたわけでもないのですよね?
小田:はい、そうなのです。
morich:おそらく、ちょうどコンサルティングファームでもデジタルやITを強化しようとしていたタイミングだったのでしょうね。
小田:そうだと思います。その前に入社していた先輩は、やはりMBAを取った方が多かったのですが、ちょうど私が入社したあたりからMBAを取っていない、いわゆる次の成長を支えるような若手候補のような人が入り出した頃だったため、タイミングがうまく合ったのだと思います。
morich:それは何歳の時ですか?
小田:当時は27歳あたりです。
コンサルティングファームで得たもの
morich:20代でコンサルファームに転職されて、どうでしたか?
小田:これが面白かったのです。
morich:本当ですか? おそらく非常にハードでしたよね?
小田:非常にハードでした。
morich:おそらく当時はもうブラックな感じですよね。
小田:どこまで言っていいかわかりませんが、当時は本当に24時間働く、という世界だったものの、当然そのような世界だと聞いて覚悟を持って入っていたため、非常に良い経験になったと思っています。
また、ハードワークな中で自分ができることを増やしていくという経験をBCGというコンサルティングファームで積めたのは、もちろんそれだけではないものの、本当に良い5年だったと今だに思います。
morich:では、けっこう環境に馴染んだということですね。
小田:馴染みましたね。しかし、やはり初めの2年間はとてもつらかったです。
morich:そうですよね。何度も何度もフレームワークなどを行いながらですよね。
小田:はい。ハードワークですし、コンサルティングのやり方も覚えなければいけません。加えて、高いアウトプットを求められるためプレッシャーもあります。そこに時間を使いつつ何とかやりくりするということで、初めの2年間はつらいのですが、だんだん慣れてきて、ある程度できるようになってくると、今度はいろいろな業界の解決しなければいけない経営課題に向き合って、その解決をお手伝いしていくという楽しさがわかってきます。
morich:当時は、どのような業界セクターの担当だったのですか?
小田:いくつか担当していましたが、金融業界とモバイル・インターネット業界でした。
morich:そこが今につながっているのですね。
小田:今につながっていますね。
morich:外側からビジネスを見に行くというようなことでしょうか?
小田:そうですね。仕事の内容としても楽しいですし、一緒に働いている仲間も優秀で、仕事へ真摯に向き合っているメンバーなのでやはり気が合うのです。
morich:なるほど。その中で、起業家仲間は現在いますか?
小田:います。起業家仲間もいますし、起業はしていないものの、別の会社に転職して要職に就いている当時の同僚もいて、仲良くやっています。BCG勤務はおもしろい経験でした。
morich:BCGには何年いらっしゃったのですか?
小田:5年間関わっていました。32歳までですね。
morich:「やはり、元々の起業の道に」ということですね?
小田:そうです、5年経って32歳になり、そろそろ次を考えなければいけないと思い始めました。
morich:すごいです。現在キャリアは5年タームだとよく言われます。「5年タームで自分の棚卸しをしましょうね」と言われるのですが、それをまさに地でいっていらっしゃったのですね。
小田:そうですね。32歳になって、「やはり起業するならそろそろ始めないと」と考えました。しかし、今思えばカーネル・サンダースも60歳で起業していましたので、起業するのは別に何歳でも良いし、特に制約はないはずです。
とはいえ、腰を軽く動かすにはそろそろ起業しなければということで、アイリッジを起業しようとしたのが32歳の時でした。
社名に込められた意味
morich:アイリッジという会社名はどこから出てきたのですか?
小田:今はモバイルインターネット、スマートフォンアプリのビジネスを行っていますが、社名をいろいろと考えている中では必ずしもそこだけにフォーカスしてはおらず、ITやインターネット業界に軸足を置きながら世の中を良くしていくようなビジネスを作っていきたいという思いがありました。
いろいろと考えている中で、少し前に『リッジレーサー』というゲームがあったのですが、元々、海底山脈や海嶺のことを「リッジ」と言うことがあります。地球のマグマが湧き出てきて盛り上がったところがググっと広がって、地球のプレートを生み出している大元を指して「リッジ」と言うのです。
morich:そのような意味だったのですね。
小田:そのため、「『リッジ』が地球を作り出すように、我々も地球を作り出すようなビジネスを育てていきたい」という思いで、初めは「リッジ」という会社を候補にしていました。しかし、調べるとすでにそのような会社があり、商標も取っていました。
これに近いキーワードで「リッジ」を使った会社にしたいと思いました。また、当時は社名に「アイ」を付けることが流行っていました。
morich:そうですね。いろいろな会社名に「アイ」が付いていました。
小田:インターネットビジネスというのが流行り出しており、我々もインターネットビジネスを基盤にしたいと思っていたため、「では『アイ』をつけて、『アイリッジ』にしよう」というかたちで社名を付けました。
morich:では元々、「モバイルインターネットをやるぞ」ということでビジネスプランを作られたわけではなかったのですね。
小田:モバイルインターネットは当然候補ではあったものの、もう少し広く構えて、インターネット領域で広くトライしていきたいというような思いで創業しました。
過去に挑戦したビジネスプラン
morich:今のビジネスの前にもいろいろなチャレンジがあったということをうかがいましたが、どのようなビジネスを展開されていたのですか?
小田:当時は本当に「おもしろそうで、流行りそうなものにはチャレンジしよう」ということを実行していました。一度振り返ったことがあったのですが、今のビジネスに辿り着くまでに、2年間で大小兼ねて13のサービスを行っていました。
morich:そうだったのですか。それらは一応、世の中に生み出されたのですか?
小田:おもしろい気づきによって生み出すため、メディアに少し取り上げてもらうくらいまでは行くものの、だいたい鳴かず飛ばずでした。
振り返ってみておもしろいものでいうと、最初に行ったのはキッズ・アートでした。『キッザート』というのですが、子どもが初めて描いた落書きを大事に取っておきたいと。
morich:確かにそういうことはあります。
小田:しかし、そのまま取っておくだけではおもしろみがありませんので、プロのデザイナーの方に落書きに色を付けて、少しデザインとしてデフォルメしたものを作品として作るということを実行したら、なかなかおもしろかったのです。
morich:良さそうですけれど、マネタイズが難しかったのでしょうか?
小田:そうです。手間がかかって儲からないというものでした。
morich:そうですよね。誰からお金をいただくのかが難しいところですよね。そのようなピボットを繰り返していたということですか?
小田:そうですね。あとは、これも肝入りだったのですが、当時はパソコンで「Flash」の技術がはやっていて、ブラウザに絵を描くサービスなどが広まってきたタイミングでした。ブログも、例えば「手描きブログ」と言って手でお絵かきをして投稿するというものがはやりました。
「これはおもしろい」ということで、ブラウザ上にTシャツの背景画を置き、Tシャツ上に「Flash」を使ってマウスでお絵かきしたものを販売コーナーに置いて販売できるというサービスを作りました。販売コーナーで売れたらいくらかの利益が入るというものでした。このサービスもまたおもしろくて、数百人のファンというか、クリエイターの方がいらっしゃいました。
morich:そうなのですか。ネットワーク化したのですね。
小田:しかし、これも儲けられなかったのです。
morich:儲かるかどうかは、また別ですものね。
小田:クリエイターの方にお返ししたくて、そのフィーを料金に乗せると、やはりTシャツが高くなってしまうため、なかなか売りきれなかったのです。
そのようなものをいくつか模索している中で、実は当社を設立したのが2008年8月なのですが、ちょうど1ヶ月前の2008年7月に、スマートフォンが日本に上陸しているのです。
morich:そうですか。すごいタイミングですね。
小田:そうなのです。そのため、今お話ししたような少し変わったビジネスも展開しつつ、やはりスマートフォンは横目で見ていました。
そして、13個のチャレンジのうちの1つとして、「やはりスマートフォン上でのマーケティング支援にチャンスがあるのではないか」ということでトライしていき、結果として今の成長、ビジネスにつながるという流れになりました。
morich:そうなのですね。
選択と集中
morich:記事を読んだのですが、いわゆるオンラインのゲーム事業ですよね。これは逆に、ある意味収益力があったのにやめたということが書かれていました。
小田:そうですね。先ほど13個とお伝えしたうち、結果的にビジネスとして稼げたものは今のビジネスともう1つありました。
当時はまだガラケーのソーシャルゲームが全盛期だった頃です。ガラケーのソーシャルゲーム上でポーカーゲームをいくつか出したのですが、当時はソーシャルゲームが出始めた直後であったため、ユーザー同士が直接対戦するゲームがあまりなかったのです。
morich:確かに、まだそうですよね。
小田:はい。そこで、ポーカーゲームを対戦ゲームとして始めるということを行いました。そうすると、「モバゲー」とか「GREE」などが出たタイミングだったため、新作ゲームといってご紹介いただくわけです。
そうすると、もうそれだけでユーザーの方が集まり、一部に今のような課金の仕掛けも入れておくと、本当に公開した初日からユーザーがついて、課金もしていただいたということで、13個のサービスのうちの1個としては、非常に感触が良かったです。
morich:場合によっては、それを本当に生業にすることもできたということですよね? それをやめた背景には何があったのでしょうか?
小田:ゲームも伸び始めて堅い収益が続いていた一方で、スマートフォンでのマーケティングビジネス、今でいうところのO2OやOMOなどですが、スマホアプリを使って集客・販促するというビジネスも並行して伸びてきていました。そこで、「今、どちらかに振ったほうが良いか?」となりました。
morich:選択と集中ですね。
小田:そうですね。その時に、やはりスマートフォンという伸びているプラットフォームで、かつ、当時はスタートアップだったため、やはり立ち上がる先行優位のプラットフォームでチャレンジしたほうが伸びる価値があるのではないかと思ったのです。
morich:スマホアプリがちょうど出始めた頃ですかね。
小田:ちょうど出始めた直後です。当時を覚えている方もいらっしゃるかもしれませんが、スマホが2008年に誕生してから3年ぐらいで「スマホは流行らないのではないか?」と言われていたタイミングがありました。その時に、流行る前だからこそ、スタートアップが踏み込むにはちょうど良い領域なのではないかと考えたのです。
morich:先見の明ですね。
小田:結果として、たまたまそうなりました。かつ、やはりスマホマーケティングには非常に広がりを感じましたので、先ほどお話しした社名の由来ではないですが、「この地球を作っていく」ぐらいの大きなチャレンジをする領域の1つになるのではないかという思いで選択しました。
当時としては、本当に少しですがゲームでも稼いでいたものの、「では、こちらのスマートフォンアプリマーケティングの領域に注力していこう」ということで閉じたのです。
morich:クローズされたのですね。
小田:それが、創業の2年目ぐらいですね。
創業メンバーの採用基準
morich:元々創業された時はお1人ですか?
小田:元々は1人で始めて、半年ぐらいしてからほかの仲間にもジョインしてもらって、広がってきたということです。
morich:私は人材の採用や組織づくりのビジネスに軸を置いているため、採用のことも少しお聞きしたいと思います。
現在は先ほど300名いらっしゃるということでしたが、1人で起業されてから、最初はどのように人を採用していましたか?
小田:ほかの会社も同じだと思うのですが、初めの10人まではやはり紹介です。それこそ、知り合いに「このような人を探しているのだけれど、良い人はいない?」と延々と声をかけ続けると、やはりどこかで紹介してもらえるのです。
morich:では、ひたすら言い続けたのですか?
小田:言い続ける感じです。そうすると、ご紹介くださる方もいますし、入ってくれたメンバーが「ちょうど、ほかにも知り合いがいるよ」ということで紹介してくれるなど、10人まではいわゆるリファラルで重ねていきました。
morich:では、本当に思いのある方が集まったのですね。
小田:そうですね。
morich:その時は何を大事にして、採用する、しないの判断をされたのでしょうか?
福谷:教えてほしいですね。
morich:そうですね。最初の10人までのところは非常に大切だと思いますので。
小田:そうですね。極論すると、当時はまだ何者でもなくて、事業を何かやっていきたいという状況です。
morich:まだ上場前ですし、試行錯誤していらっしゃるタームですよね。
小田:上場するかどうかも決めていない上に、稼ぎもないわけです。先ほど言ったような、よくわからないことも含めビジネスにチャレンジしている状況の中で、そのような取り組みを一緒に行ってくれるという思いを持っているだけで、もうすべてです。
morich:スキルや専門性などよりも、思いということですか?
小田:そのようなフェーズの会社に同じ思いを持って、挑戦することに飛び込んでくれるだけで、もう感謝しかなかったです。
morich:どうしても、つい何らかのスキルや「過去のバックグラウンドが」と言いがちになりますよね。
小田:そうですね。よく日本では、バスにどのような人を乗せるかというのが大事だと言いますし、実際に大事だと思います。結果として非常に良いメンバーが初期に入社してくれて、そのおかげで今につながっているのですが、当時はそこまで考える余裕もなく、「本当にわからない状況だけれど、チャレンジしたい」という思いを理解してくれて、一緒に進んでくれるという、それだけで本当にすべてでした。
morich:そうすると、ある種起業は紆余曲折、山も谷もありますが、その時に耐えてくれますよね。
小田:そうですね。会社によってはミッションが決まっていて、「この課題を解決するためにチャレンジする」といった思いに集まるというパターンもあると思うのですが、当時の当社は何を行っていくかもまだ決まっていない段階でした。
morich:コアコンピタンスがまだ定まっているわけではなかったと。
小田:そのフェーズで、チャレンジを楽しんでくれるという思いがあったため、いろいろな事業の変化に対応してくれたのだと思います。
morich:逆に、「まだ決まっていない」ということをきちんと共有されて、かつ「一緒に作っていこう」ということだったのですね。
小田:そうですね。先ほど言ったような、おもしろいというか、おもしろいはずだと思ったことに取り組んだりしていました。
ターニングポイント
morich:そこから、最終的には上場まで行くのですが、大きなターニングポイントはどこにありましたか?
小田:やはり1つは、スマートフォンが日本市場で認知されて、主流になったことが大きかったです。これがなかったら、もう立ち上がりませんでした。
morich:マーケットが本当に爆発的に成長したということですね。
小田:はい。2008年に事業を始めて、3年目の2010年から2011年頃に、日本市場でスマートフォンが認知されたと言いますか、良いと思われて広まりだしたのですが、先ほどお話ししたとおり、ちょうどその手前でスマートフォンのマーケティングビジネスへチャレンジしました。
そのため、いち早くその領域、例えばスマホアプリの開発経験も積めましたし、「スマホアプリでマーケティングをするにはどうしたら良いのだろう?」ということにも試行錯誤でトライしていたため、日本でスマートフォンが良いと思われたタイミングで、1年か2年ほどの先行優位があったのです。
morich:ほかの企業が参入していない時ですね。
小田:ほかが行っていない時にそのような経験を積んでおり、何らかの実績があったということで、当社は本当に小さな会社だったものの、スマートフォンが伸び出した時には経験があったということで引き合いもいただきましたし、いろいろな大手企業にご提案に行くと、「興味がある」ということでお話を聞いていただけました。
morich:みなさまがスマートフォンで何に取り組もうと思われた時ですね。
小田:そうですね。ちょうど、少ないながら実績もでき始めたタイミングだったため、当時は一桁人数のスタートアップとお付き合いした経験がないという大手企業や金融機関などもいましたが、お取り引きを始めていただけて、ビジネスの広がりのきっかけになったということがあります。
ファーストクライアントについて
morich:私はいつも本業のほうで必ずお聞きするのですが、御社にとって大事な企業であるファーストクライアントはどちらだったのでしょうか?
小田:当時は名前を出していなかったのですが、全国規模の商業施設です。
morich:ショッピングモールなどの施設でしょうか?
小田:そうですね。当時はスマホアプリが認知されていなかったため、今でこそ商業施設が全国共通のアプリを作ることは当たり前なのですが、「いったん何々県だけでアプリを作ってもらおう」と担当の方がおっしゃられて、トライしたのが入り口になり、広がったかたちです。
morich:今のO2Oなどのビジネスにつながった訳ですね。
小田:そうですね。当時はまだ黎明期でしたので、けっこうフットワークが軽く新しいものにも興味を持っていただけて、社内に話を通していただくキーマンがいらっしゃったこともあり取引が始まりやすかったのです。
morich:クライアントにとっても、初めてのトライアルということですよね。
小田:そうですね。そのように、経験を積みながらはじめていきました。
上場を目指した時期
morich:上場を目指すことは、どのあたりから意識しはじめたのですか?
小田:当社は2008年に創業して2015年に上場したのですが、3年目の2011年ぐらいに上場を意識しはじめました。
先ほどお話ししたトライアルの会社は小さな規模で進めていたのですが、スマホの流れが来て、「うちもやりたい」と言ってくださる企業が増えた時に、こちらの体制を増やして対応できるようにしていきました。そうすると先立つ資金が必要になります。
さまざまな選択肢があったのですが、事業が成長し出していたため、いわゆるベンチャーキャピタルからお金を出していただいて成長資金にするという選択肢が良いのではないかと考えて、お話を開始しました。
一方で、2010年から2011年頃はリーマン・ショックの傷がまだ癒えていなかったため、ベンチャーキャピタルの方に話は聞いていただけるものの、今ほど積極的ではなく、けっこう堅いというタイミングでした。
morich:SaaSという言葉もまだない頃ですね。
小田:そうですね。それでも成長資金を使って成長させるのが良いのではないかと考えて、ベンチャーキャピタルにいろいろお話ししていき、出していただける会社が見つかりました。
ベンチャーキャピタルにとって出資するということは、当然何らかのゲイン、エグジットが必要です。今でこそM&Aという選択肢がありますが、当時で思い付くのは上場でした。ベンチャーキャピタルに出資していただくことと上場を目指すことはセットでしたので、そのタイミングで上場を目指すことを決めました。
morich:腹をくくって、次の成長フェーズに進んでいかれたということですね。
小田:先ほどお話ししたとおり、ベンチャーキャピタルからお金を調達するのが難しいタイミングだったため、本当に時間がかかりました。資金繰りも来月、再来月にはなくなるというギリギリのタイミングだったところで決めていただいた会社があり、何とか乗り越えるという苦労をしたこともあって、しっかり成長を目指してがんばっていこうと決めました。
morich:資金を調達して開発や人材に投資し、飛躍につなげられたということですね。
小田:ソフトウェアビジネスは資金イコール人件費ですので、採用も強化できました。
morich:そこからは順風満帆だったのですか?
小田:そこからは先ほどお話ししたとおり、幸いスマートフォンの成長の勢いに乗れましたので、お客さまも広がっていき、実績をご評価いただいて、また次のお客さまへ広がっていきました。
今は3代目の「アップボックス」というアプリに組み込むソリューションなのですが、その前身にあたるのが、いわゆるSaaS型で組み込むツールでした。エンドのアプリのダウンロードユーザー数に応じて課金していただくのですが、そちらも順調に伸びていきましたので、そこからの大変さは比較的少なかったですね。
morich:今のお取引先は300社ぐらいでしょうか。ほとんどエンタープライズのお客さまですか?
小田:はい、エンタープライズが中心です。
morich:O2OとかOMOですので、toCビジネスをされているお客さまが比較的多いのでしょうか?
小田:そうですね。先ほどお話ししたとおり、我々は小売、鉄道会社、銀行に強いのですが、今のアプリ業界は、大企業向けのスクラッチと言われるオーダーメイドで作るパターンと、SaaSでプロダクトを提供するパッケージの2パターンがあります。我々はもともと、スクラッチで作るほうからビジネスとしてスタートしましたので、そのようなお客さまが多くいらっしゃいます。
morich:それを、いわゆるSaaSに変えていったということですね。
小田:そうですね、組み合わせていきました。
新規事業への取り組み
morich:今は新規事業にも着手されているとのことですが。
小田:はい。先ほどお伝えしたとおり、もともと新規事業の立ち上げも好きなスタイルですので、いろいろな事業を行いたいと思っています。
morich:そうですよね。うずうずされているのではないかと思います。
小田:スマホアプリの領域が非常に伸びているため、当然そこにリソースを集中して無事に上場できました。次の成長のためには、やはり事業のポートフォリオを持っておかなければいけませんので、今後の成長を支える新規事業にもいくつかチャレンジしています。
すべてうまくいっているわけではないのですが、例えば今ですと、いわゆるFinTech事業の領域の1つとして、デジタル地域通貨の領域に取り組んでいます。地域限定のデジタルマネーを提供しやすくするシステムプラットフォームと、それを普及させるための運用のご支援をさせていただいています。
morich:どのような事例がありますか?
小田:もともとは飛騨高山の「さるぼぼコイン」というアプリがスタートです。この業界の方には有名な事例ですが、こちらは我々がお手伝いさせていただいています。
morich:聞いたことがあります。そうだったのですか。
小田:そうしたデジタル地域通貨の先進になっているような事例にも取り組んでいます。
morich:例えばその地域では交通機関に乗れたり、いろいろな決済がデジタルマネーでできたりするのでしょうか?
小田:はい。その地域では、他の決済手段よりも一番普及しているアプリです。東京エリアにも非常に広まってきており、今は世田谷区の「せたがやPay」、府中市の「ふちゅチケ」、板橋区の「いたばしPay」などがあります。
morich:商店街の普及にも一役買っていらっしゃるのでしょうか?
小田:はい。地域振興の一助になるような取り組みを行っています。
morich:先ほどおっしゃっていたMaaSアプリ事業は、鉄道会社ですか?
小田:そうですね。お店がある小売業のお客さまが多かったため、来店してもらうためにスマートフォンアプリでマーケティング支援を行ったことからスタートしました。
一方で、鉄道会社も駅があって、運行サービスで消費者と向き合っているため、鉄道会社のお客さまも非常に増えてきています。運行情報アプリのような移動サービスを行っている会社は、今はモビリティアズアサービスといって、運行サービスをシームレスにつなげていくサービスに発展していくための取り組みをされています。やはりユーザーとの接点としてスマホアプリが大事になりますので、我々もその領域をお手伝いするケースが非常に増えてきています。
morich:例えば、GPSと連携するようなかたちですか?
小田:そうですね。位置情報を使うこともありますし、従来は鉄道の運行情報を見られるだけだったのですが、例えば鉄道やバス、タクシー、シェアサイクルまで一気通貫で情報を見ることができます。
また、移動だけではなく、例えば観光先のいろいろな手配までできるという取り組みをお手伝いするケースも増えてきています。
morich:情報提供だけではなく、その先のサービス決済に至るまでお手伝いされているということですね。
小田:そうですね。MaaSの領域は、今各社非常に力を入れていらっしゃるタイミングですので、お手伝いするケースが増えてきています。
今後の取り組み
morich:小田社長としては、今後もっと取り組んでみたい領域はありますか?
小田:スマートフォンアプリは、この15年間で生活に浸透してきていると思います。
morich:そうですよね。先日、家に財布を忘れてしまい、旅行先で気がついたのですが、まったく財布が必要ありませんでした。「財布がなくても1泊2日の旅行ができるんだ」と思いました。
小田:スマホ決済もできますし、先ほどお話ししたように鉄道情報を調べることもできます。最近では家の鍵や車と連携できるなど、非常に生活に密着してきています。
我々はマーケティングの視点でビジネスを行っていますので、もともとは消費者にアプリを持っていただいて集客促進をするところからスタートしたのですが、最近ではお店のスタッフにスマホアプリを持っていただいて、接客を高度化しています。
例えば、今まではレジの裏に行って会員情報を調べなければお客さまのことがわからなかったのですが、手元でわかると接客が自然にできるようになったり、来店客数や、レジにたくさんの人が並んでいるかどうかがわかるといったこともできるようになっています。
結局のところ、スタッフの方は情報がなければアクションを起こすのが難しいですので、情報を伝えることでアクションのきっかけになるようなスマホアプリを広げていこうとしています。
morich:BtoBですね。
小田:そうですね。お店からすれば売上をアップするための施策の1つですが、必ずしも消費者の持つためのアプリではなく、スタッフの方が持つアプリにも取り組みを広げています。
morich:先ほどおっしゃったように、スマホのデバイスを使ってtoC、toB両方の領域で世の中をより良く便利にするということですね。
小田社長の軸
morich:そのような事業を展開されるにあたって、小田社長が大事にされている思想や哲学など、軸のようなものがあるのでしょうか?
小田:これもありきたりなのですが、やはり私のビジネスの思想は、アイリッジの「リッジ」についてお伝えしたように、世の中を作っていくことです。
当社のミッションでは「Tech Tomorrow」と言っており、テクノロジーで明日の世界を変えていく、作っていくという概念です。そこに結びつく事業を行っていきたいという思いが強いため、次の生活体験が良くなる、もしくは今までなかった生活体験ができるようになることを考えています。
スマホはこの15年で、まさにそのような世界を作ってきたと思います。最近、スマホの次のデバイスとしてグラスやセンサー、コンタクト、音声などが発表されているように、我々としても生活体験が変わるような領域にビジネスを作っていき、生活者にも企業にも喜ばれることにチャレンジしていきたいと思っています。
morich:「Tech Tomorrow」というのは、社員の方から出てきたのですか?
小田:アイリッジはインターネットで世の中を作っていくことからスタートしていますので、「Tech Tomorrow」と同じような思想はずっとあったのですが、5年前ぐらいに「ミッションバリューをもう少しシャープに作っていきたい」と社内で検討したタイミングがありました。
morich:ミッションバリューはある意味、ひと言で社員のみなさんすべての判断軸になるようなものですよね。
小田:経営陣を中心に議論して、今までの思いをよりシャープにするキーワードとして「Tech Tomorrow」を使っています。思いが反映された、非常に良いキーワードだったと思います。
morich:腹に落ちました。今までのNTTデータからのご経験や変遷がすべて集約されていると思います。
小田:ありがとうございます。
福谷:ありがとうございます。
未来を変えていく
福谷:スタートアップから始まって、上場を決めた瞬間から紆余曲折あり、「来月キャッシュアウトしてしまうかもしれない」というところからいろいろな方々に声をかけて夢やビジョンを語って、事業を作り上げていくことをお聞きして、私は非常に感動しています。
私も、私の周りの方々も、スタートアップ業界やベンチャー企業の方が非常に多いため、同じ思いを持っていらっしゃる方が多いと思います。その思いを、morichさんをはじめ、いろいろな方々に聞いてほしいと思っています。
morich:私が非常に感じたのは、起業家の方というのは、強烈な原体験を持って、それを何かしらのかたちに変えていく方が多いと思っていました。そのような方とご縁をいただくことが多かったのですが、小田社長はそのようなタイプではありませんよね?
小田:そうですね。先ほど大学時代に何をやっていたかという話をしましたが、普通と言いますか。こう言うと怒られてしまうかもしれませんけれど。
morich:もちろん、経営者のお父さまの背中を見られていたこともあると思います。ただ、大変恐縮ですが、強烈な原体験があったわけでも帝王学を受けたわけでもないですよね?
小田:そうですね。やりたいと思うことに対して意思決定をして、そこに向かっていく中で起業もできましたし、上場もできました。今は、また次の成長を目指しているというスタイルです。自分でも少数派だとは思っています。
morich:それがもしかすると、起業家や起業を目指したい方に勇気を与えているのではないかと思いました。
先ほどゲームで収益をしっかり作っていた時代があるとおっしゃっていましたが、それを生業として集中するような経営者も多い中で、そうではなく「Tech Tomorrow」というキーワードのとおり、明日を照らして世の中の役に立つことにこだわられているのではないかと思います。
小田:そうですね。先ほどお伝えしたとおり、世の中や生活スタイルを変えていくことのほうが自分に合っているため、ゲームが立ち上がりはじめたタイミングではありましたが、スマホマーケティングのほうに寄っていったのだと思います。
morich:私の起業家のイメージを変えていただきました。
小田:ありがとうございます。
morich:今は起業を目指している若い人が非常に多く、みなさん「原体験を見つけなければいけない」と思っておられますが、過去は変えられないじゃないですか。そうではなく、未来を変えていくことに思いを馳せれば、このようなかたちで上場も実現できるということなのだと感じました。
福谷:大変ですがチャレンジして、純粋に生きて人のためにがんばっていくということを学ばせていただきました。
morichiの部屋の回は、上場企業の社長をお呼びして、普段語られないいろいろなお話をお聞きできる番組となっています。本日はありがとうございました。
morich:これからも、スマホでどのようなことができるのか、非常に楽しみです。アイリッジさんにがんばっていただきたいと思いますので、応援しています。
小田:はい、がんばっていきたいと思います。
福谷:本日はありがとうございました。
morich:どうもありがとうございました。
小田:ありがとうございました。
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