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*15:10JST RSテクノ Research Memo(10):VRFB用電解液事業は2026年12月期に売上高240億円を目指す
■RS Technologies<3445>の今後の見通し
3. バナジウムレドックスフロー電池用電解液市場に新規参入
(1) VRFBとは
同社は2023年10月にVRFB用電解液の開発、製造、販売を手掛けるLEシステムを100%子会社として新設した(旧LEシステムから同年12月に事業承継)。VRFBは省エネ対策として1970年代から国策プロジェクトとして研究開発が進められてきた蓄電池で、現在広く普及しているリチウムイオン電池と比較して小型化には適さないものの、不燃性で安全性が高く長期間性能が劣化しないことや無制限に充放電が可能なことなどが特徴として挙げられる。さらに、ほかの蓄電池が電極の化学変化で充放電を行うのに対して、VRFBは電解液の化学変化で充放電を実現する。電解液を増やすだけで蓄電容量を容易に増やすことができ、設計の柔軟性があることから定置式の大型蓄電用途、具体的には太陽光発電や風力発電などに最適な蓄電池として注目されており、国内では唯一、住友電気工業<5802>がVRFBメーカーとして事業展開をしている。
初期コストは高いものの、長期運用を前提とした用途ではコスト優位性を発揮する。リチウムイオン電池(リン酸鉄系)との比較においては、10年運用でほぼ同コスト、20年運用で3割強コストが低くなると同社では試算している。
(2) 市場見通し
メガソーラー発電所の普及により、クリーンエネルギーの昼間の電力供給量が増加した一方で、需給面から廃棄されるケースも目立ってきており、発電した電力を一旦蓄えて夜間に利用するための大型蓄電池の必要性が国内外で急速に高まっている。同社提供の資料に掲載されているIEA(国際エネルギー機関)が発行した「IEA World Energy Outlook 2022」によれば、世界の定置式蓄電池の蓄電容量は最も保守的な数値(各国の表明ベース)として、2021年の27GWhから2030年に10倍の270GWh、2050年に48倍の1,296GWhに拡大するとの見通しが示されており、このなかの一定割合をVRFBシステムが占めるものと予想される。
VRFBの新設蓄電容量は2022年の約1.5GWhから2028年に約20GWhに急成長し、電解液ベースでは約9万立方メートルから約120万立方メートル(金額で約50億ドル弱)と13倍に急拡大するとの予測※があり、そのうち50%が中国を中心としたアジア地域で占められる見通しである。既に、中国では電力会社などがVRFBシステムを導入するなど市場としても立ち上がっており、将来の市場拡大を見越してVRFB市場に参入する企業も増えている。同社は今まで中国で構築してきた地方政府やローカル企業等とのネットワークを生かして市場を開拓し、2028年までにVRFB用電解液市場でトップシェアを獲得することを目標に掲げた。
※ 環境エネルギー分野の調査会社Guidehouse Insights(米国)の予測。
(3) LEシステムの強み
現状、電解液メーカーとしては中国メーカーが多いが、LEシステムは原材料の安定的な調達力、電解液生産プロセスのコスト競争力、多数の電池メーカーとの連携を可能とする総合技術力の3点を強みとして挙げており、これらの強みを生かして国内外のVRFBメーカーに拡販する戦略だ。
a) 原材料の安定的な調達力
バナジウムの主要原産国は南アフリカ、中国、ロシア、米国の4ヶ国で9割超を占めている。用途としては製鋼添加剤向け(強度・耐熱性向上)が8割以上を占めているが、化学・エレクトロニクス業界向けでも幅広く利用されている。VRFB電解液用としては、五酸化バナジウムが一般的に用いられるが、市況変動により調達コストのコントロールが非常に難しいことが課題であった。LEシステムでは、原材料として中間生成物(AMV)を調達して製造をしているため、相対交渉による調達となっている。また、LEシステムでは火力発電所やプラント施設等から排出される廃棄物(残渣)からバナジウムを回収する多種の技術を保有しており、今後国内外の大手石油会社や鉄鋼メーカーのほか南アフリカの大手鉱山会社とも提携して、安定的に調達できる体制を確立していくことも考えられる。
b) コスト競争力
一般的な電解液の製造フローは、五酸化バナジウムを仕入れて、溶解・濾過、電解還元工程を経て3.5酸化バナジウムにし、電解液としている。これに対して、同社では五酸化バナジウムを精製するまでの中間生成物であるメタバナジン酸アンモニウム(以下、AMV)から直接電解液を製造する技術を確立している。AMVは相対価格交渉で五酸化バナジウムよりも安価に調達できるほか、溶解時間が5分の1と短いため電気代が半分以下に低減できる。また、高い液面接触面積を持つ還元装置の利用で電解液の製造コストを他社比較で50%程度に抑えることが可能と同社では試算している。VRFBのコストに占める電解液の比率は約35%と高いため、VRFBメーカーが採用するメリットは大きい。また、同社調べによれば電解液に含まれる不純物の成分が他社製品より少ないことも強みとなる。不純物が少ないほど長期運用に適していると見られるためだ。加えて、鉛フリーやアンチモンフリーの技術も確立しており、環境規制にも対応している。
c) 総合技術力
LEシステムは、国内で30年以上の間、VRFBに関わる研究開発に携わってきた。国内外のセルメーカーとネットワークを築いている人材を技術顧問団として有しているほか、独自でもセル開発が可能なVRFB設計技術をもち、最適なVRFBシステムを提案できることが強みである。特許戦略の面においても、バナジウムの回収技術や電解液製造プロセス、VRFBシステムの設計などで複数の特許を有している(保有特許10件以上)。
(4) LEシステムの現状と今後の見通し
LEシステムは現在、研究開発拠点となるつくば事業所のほか、量産工場として2021年9月に竣工した浪江工場(福島県)を持っている。浪江工場は年間約5千立方メートルの生産能力を有しているが、2022年までは売上実績がなかった。しかし、2023年に入って複数のアジアメーカーから引き合いがあり、このうち海外のセルメーカー経由で北米発電所向けの大型案件を受注し量産を開始している。既に出荷準備を開始しているが、売上計上は検収を終えたタイミングとなる。そのほかにも数千万円から数億円規模の引き合いがきている。
売上目標としては、2024年12月期に10億円、2025年12月期に30億円、2026年12月期に240億円を掲げており、営業利益率は2026年12月期で20%を見込んでいる。2024年12月期の売上目標については、北米発電所向けの案件(数億円)の検収タイミングによって未達となる可能性もあるが、引き合いは増えていることから、今後売上が加速的に成長する可能性は高い。浪江工場の売上能力は年間で30億円程度となるため、2026年12月期の売上目標を達成するためには、生産能力増強の投資が必要となる。最大消費国である中国に新たな拠点を設ける可能性が高い。進出する場合には、年間5万立方メートル規模の能力を持つ工場になることが予想される。同社では将来的に年間15万立方メートルの生産体制構築を目指している。現状の電解液の販売価格で換算すると約900億円規模となり、量産化によって低価格化が進むことを考えても、数百億円規模の事業に育つ可能性は十分にある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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3. バナジウムレドックスフロー電池用電解液市場に新規参入
(1) VRFBとは
同社は2023年10月にVRFB用電解液の開発、製造、販売を手掛けるLEシステムを100%子会社として新設した(旧LEシステムから同年12月に事業承継)。VRFBは省エネ対策として1970年代から国策プロジェクトとして研究開発が進められてきた蓄電池で、現在広く普及しているリチウムイオン電池と比較して小型化には適さないものの、不燃性で安全性が高く長期間性能が劣化しないことや無制限に充放電が可能なことなどが特徴として挙げられる。さらに、ほかの蓄電池が電極の化学変化で充放電を行うのに対して、VRFBは電解液の化学変化で充放電を実現する。電解液を増やすだけで蓄電容量を容易に増やすことができ、設計の柔軟性があることから定置式の大型蓄電用途、具体的には太陽光発電や風力発電などに最適な蓄電池として注目されており、国内では唯一、住友電気工業<5802>がVRFBメーカーとして事業展開をしている。
初期コストは高いものの、長期運用を前提とした用途ではコスト優位性を発揮する。リチウムイオン電池(リン酸鉄系)との比較においては、10年運用でほぼ同コスト、20年運用で3割強コストが低くなると同社では試算している。
(2) 市場見通し
メガソーラー発電所の普及により、クリーンエネルギーの昼間の電力供給量が増加した一方で、需給面から廃棄されるケースも目立ってきており、発電した電力を一旦蓄えて夜間に利用するための大型蓄電池の必要性が国内外で急速に高まっている。同社提供の資料に掲載されているIEA(国際エネルギー機関)が発行した「IEA World Energy Outlook 2022」によれば、世界の定置式蓄電池の蓄電容量は最も保守的な数値(各国の表明ベース)として、2021年の27GWhから2030年に10倍の270GWh、2050年に48倍の1,296GWhに拡大するとの見通しが示されており、このなかの一定割合をVRFBシステムが占めるものと予想される。
VRFBの新設蓄電容量は2022年の約1.5GWhから2028年に約20GWhに急成長し、電解液ベースでは約9万立方メートルから約120万立方メートル(金額で約50億ドル弱)と13倍に急拡大するとの予測※があり、そのうち50%が中国を中心としたアジア地域で占められる見通しである。既に、中国では電力会社などがVRFBシステムを導入するなど市場としても立ち上がっており、将来の市場拡大を見越してVRFB市場に参入する企業も増えている。同社は今まで中国で構築してきた地方政府やローカル企業等とのネットワークを生かして市場を開拓し、2028年までにVRFB用電解液市場でトップシェアを獲得することを目標に掲げた。
※ 環境エネルギー分野の調査会社Guidehouse Insights(米国)の予測。
(3) LEシステムの強み
現状、電解液メーカーとしては中国メーカーが多いが、LEシステムは原材料の安定的な調達力、電解液生産プロセスのコスト競争力、多数の電池メーカーとの連携を可能とする総合技術力の3点を強みとして挙げており、これらの強みを生かして国内外のVRFBメーカーに拡販する戦略だ。
a) 原材料の安定的な調達力
バナジウムの主要原産国は南アフリカ、中国、ロシア、米国の4ヶ国で9割超を占めている。用途としては製鋼添加剤向け(強度・耐熱性向上)が8割以上を占めているが、化学・エレクトロニクス業界向けでも幅広く利用されている。VRFB電解液用としては、五酸化バナジウムが一般的に用いられるが、市況変動により調達コストのコントロールが非常に難しいことが課題であった。LEシステムでは、原材料として中間生成物(AMV)を調達して製造をしているため、相対交渉による調達となっている。また、LEシステムでは火力発電所やプラント施設等から排出される廃棄物(残渣)からバナジウムを回収する多種の技術を保有しており、今後国内外の大手石油会社や鉄鋼メーカーのほか南アフリカの大手鉱山会社とも提携して、安定的に調達できる体制を確立していくことも考えられる。
b) コスト競争力
一般的な電解液の製造フローは、五酸化バナジウムを仕入れて、溶解・濾過、電解還元工程を経て3.5酸化バナジウムにし、電解液としている。これに対して、同社では五酸化バナジウムを精製するまでの中間生成物であるメタバナジン酸アンモニウム(以下、AMV)から直接電解液を製造する技術を確立している。AMVは相対価格交渉で五酸化バナジウムよりも安価に調達できるほか、溶解時間が5分の1と短いため電気代が半分以下に低減できる。また、高い液面接触面積を持つ還元装置の利用で電解液の製造コストを他社比較で50%程度に抑えることが可能と同社では試算している。VRFBのコストに占める電解液の比率は約35%と高いため、VRFBメーカーが採用するメリットは大きい。また、同社調べによれば電解液に含まれる不純物の成分が他社製品より少ないことも強みとなる。不純物が少ないほど長期運用に適していると見られるためだ。加えて、鉛フリーやアンチモンフリーの技術も確立しており、環境規制にも対応している。
c) 総合技術力
LEシステムは、国内で30年以上の間、VRFBに関わる研究開発に携わってきた。国内外のセルメーカーとネットワークを築いている人材を技術顧問団として有しているほか、独自でもセル開発が可能なVRFB設計技術をもち、最適なVRFBシステムを提案できることが強みである。特許戦略の面においても、バナジウムの回収技術や電解液製造プロセス、VRFBシステムの設計などで複数の特許を有している(保有特許10件以上)。
(4) LEシステムの現状と今後の見通し
LEシステムは現在、研究開発拠点となるつくば事業所のほか、量産工場として2021年9月に竣工した浪江工場(福島県)を持っている。浪江工場は年間約5千立方メートルの生産能力を有しているが、2022年までは売上実績がなかった。しかし、2023年に入って複数のアジアメーカーから引き合いがあり、このうち海外のセルメーカー経由で北米発電所向けの大型案件を受注し量産を開始している。既に出荷準備を開始しているが、売上計上は検収を終えたタイミングとなる。そのほかにも数千万円から数億円規模の引き合いがきている。
売上目標としては、2024年12月期に10億円、2025年12月期に30億円、2026年12月期に240億円を掲げており、営業利益率は2026年12月期で20%を見込んでいる。2024年12月期の売上目標については、北米発電所向けの案件(数億円)の検収タイミングによって未達となる可能性もあるが、引き合いは増えていることから、今後売上が加速的に成長する可能性は高い。浪江工場の売上能力は年間で30億円程度となるため、2026年12月期の売上目標を達成するためには、生産能力増強の投資が必要となる。最大消費国である中国に新たな拠点を設ける可能性が高い。進出する場合には、年間5万立方メートル規模の能力を持つ工場になることが予想される。同社では将来的に年間15万立方メートルの生産体制構築を目指している。現状の電解液の販売価格で換算すると約900億円規模となり、量産化によって低価格化が進むことを考えても、数百億円規模の事業に育つ可能性は十分にある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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