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ぐるなびのニュース
発酵漬物の舞台裏:微生物の群像劇-自発的発酵における微生物生態系を科学する-
株式会社ぐるなび(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:杉原章郎 以下、ぐるなび)は、東京工業大学と「ぐるなび食の価値創成共同研究」として、日本の食文化を支える発酵をテーマとした共同研究を2016年より行っています。この度、2024年7月17日(水)に発酵漬物の研究に関する論文を発表したことをお知らせいたします。
【要点】
・しば漬の発酵において微生物群集の組成が経時的にどのように変化し、それが最終的な風味にどう影響するかを解明しました。
・特定の微生物群集を用いて新しい発酵モデルを構築し、それが発酵過程に与える影響を詳細に分析できるようになりました。
・この研究は、発酵過程の詳細な理解と発酵食品の品質・安全性の向上に貢献する技術的な基盤を提示しました。
【概要】
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授と株式会社ぐるなびとの共同研究チームは、京都の伝統的な発酵漬物であるしば漬の発酵プロセスにおける、野菜などの原料に由来する微生物群集の変遷とその役割について解明しました。自発的発酵を利用した発酵漬物は、商業的に生産されているものでも、発酵に影響を及ぼす外的要因を完全に制御することは困難です。これにより、発酵に関わる微生物の組成は一定ではなく、その詳細な役割や変化のタイミングを把握することも困難でした。そこで、本共同研究チームは、しば漬の主要原料であるナスから絞り汁を取り出し無菌処理を施した後、人工的に構築した微生物群集を用いて発酵を行いました。これにより、微生物群集が変化する要因や、発酵によって生まれる代謝物の変化を詳細に解析することができました。この研究アプローチが他の自発的発酵にも適用されることで発酵プロセスの理解が深まり、より一貫性のある高品質な発酵食品の製造が可能になることが期待されます。
本研究成果は、東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授、株式会社ぐるなびの澤田和典博士によって行われ、7月17日付の「Microbiology Spectrum」に掲載されました。
【株式会社ぐるなび イノベーション事業部 澤田和典よりコメント】
法改正により手作り漬物の販売を断念する生産者さんが話題になったように、日本の食文化にとって発酵漬物は重要な要素の一つと言えます。今回報告した研究内容をさらに発展させていくことで、自発的発酵を利用して作られている発酵漬物の品質を安定化させることができ、日本の食文化を守り育てることにつながるのではと考えています。
●背景
日本で伝統的に作られてきた発酵漬物は、特定の微生物を人為的に添加せず、原料などに自然に付着している微生物を利用した自発的発酵によって作られています。この自発的発酵プロセスでは、使用される原料の種類や漬け込み環境によって増殖する微生物の種類が変わるため、再現性高く品質を保つことは技術的な困難が伴います。さらに、どの環境因子が微生物の増殖や代謝にどの程度影響するかを明確にすることも困難です。そのため、これまでの研究では、自発的発酵を利用した発酵漬物に関わる微生物群集をケーススタディーとして取り上げることが多く、漬物の複雑な生態系内での微生物間相互作用や影響因子の詳細な解明は限られていました。しかし、発酵漬物の味や香りは発酵プロセスによって形成されるため、発酵漬物の微生物生態系を理解することは製品の品質向上にとって非常に重要です。
●研究成果
本研究では、自発的発酵を利用して作られる京都の伝統的な発酵漬物であるしば漬を研究対象としました。この研究で開発された再現可能なモデルを通じて、原料などに由来する微生物群集がどのように変化し、漬物の成分にどのような影響を与えるのかを明らかにしました。初めに、商業生産されているしば漬の微生物群集の変化を解析した結果、生産ロットによって微生物群集の変化に違いがあることが確認されました。そこで、しば漬の発酵初期に観察された微生物群集の平均値を基に人工的な微生物群集を構築し、ナスから得た絞り汁を無菌処理したものを発酵させました。この過程で、微生物群集の変化と環境因子の影響、および代謝産物の変化を詳細に分析しました。その結果、微生物群集の変化には高い再現性があることがわかりましたが、発酵漬物と人工菌叢を使ったモデル間での一致は完全ではありませんでした。この原因については原料が固体の野菜か液体の野菜汁かの違いによるものであると推定しましたが、結論づけるためにはさらなる研究が必要であると考えています。また、本研究ではラクチプランチバシラス・プランタラムが特にグルタミン酸とアラニンの増加に関与していることが示唆され、これまでの知見をさらに深める結果となりました。
●社会的インパクト
この研究は、自発的発酵を利用した発酵プロセスの理解を深め、食品の安全性と品質向上のための新たな基盤となる研究アプローチを提示しています。研究により開発されたモデルは発酵漬物の生態系がどのように変化し、それが製品の品質にどのように影響するかを示しています。これにより、自発的発酵を用いた漬物の製造プロセスをより高い再現性のあるものにすることが可能と考えられます。
●今後の展開
今回の研究方法は他の自発的発酵を利用して作られる発酵食品にも応用が可能であり、伝統的な発酵を利用した食品の商業生産においても品質管理の基準を高めることができると考えられます。具体的には発酵過程における微生物の動態を正確に把握し、望ましくない微生物の増殖を抑制することで食品の安全性を一層強化することが可能となります。また、さまざまな菌の集合体から起きる自発的発酵を現象として理解し、応用することで新しい発酵食品の開発につながる可能性があります。自発的発酵を利用した発酵食品では毎回同じ味を再現することは困難を伴うことがありますが、この研究により、消費者が「いつもの味」を安定して楽しめるようになる可能性が高まると考えられます。
また、本研究で題材としたしば漬から、多糖の生成能力が高く発酵物に粘性を与える乳酸菌を単離しています。本乳酸菌を使った発酵物の応用に対する展開については7月30日から8月1日に東京ビッグサイトで行われる国際発酵・醸造食品産業展にてご紹介します。
●付記
本研究は「ぐるなび食の価値創成共同研究」によって得られた研究成果です。
【用語説明】
(1)自発的発酵:
原料などに付着している微生物をそのまま利用して行う発酵のこと。伝統的な製法で作られている乳酸発酵の漬物(しば漬、広島菜漬、高菜漬、野沢菜漬など)やぬか漬けは自発的発酵を利用している。
(2)微生物群集:さまざまな種類の微生物の集まりのこと。
【論文情報】
掲載誌:Microbiology Spectrum
論文タイトル:Influence of the initial microbiota on eggplant shibazuke pickle and eggplant juice fermentation
著者:Kazunori Sawada and Takuji Yamada
DOI:10.1128/spectrum.00464-24
株式会社ぐるなび(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:杉原章郎 以下、ぐるなび)は、東京工業大学と「ぐるなび食の価値創成共同研究」として、日本の食文化を支える発酵をテーマとした共同研究を2016年より行っています。この度、2024年7月17日(水)に発酵漬物の研究に関する論文を発表したことをお知らせいたします。
【要点】
・しば漬の発酵において微生物群集の組成が経時的にどのように変化し、それが最終的な風味にどう影響するかを解明しました。
・特定の微生物群集を用いて新しい発酵モデルを構築し、それが発酵過程に与える影響を詳細に分析できるようになりました。
・この研究は、発酵過程の詳細な理解と発酵食品の品質・安全性の向上に貢献する技術的な基盤を提示しました。
【概要】
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授と株式会社ぐるなびとの共同研究チームは、京都の伝統的な発酵漬物であるしば漬の発酵プロセスにおける、野菜などの原料に由来する微生物群集の変遷とその役割について解明しました。自発的発酵を利用した発酵漬物は、商業的に生産されているものでも、発酵に影響を及ぼす外的要因を完全に制御することは困難です。これにより、発酵に関わる微生物の組成は一定ではなく、その詳細な役割や変化のタイミングを把握することも困難でした。そこで、本共同研究チームは、しば漬の主要原料であるナスから絞り汁を取り出し無菌処理を施した後、人工的に構築した微生物群集を用いて発酵を行いました。これにより、微生物群集が変化する要因や、発酵によって生まれる代謝物の変化を詳細に解析することができました。この研究アプローチが他の自発的発酵にも適用されることで発酵プロセスの理解が深まり、より一貫性のある高品質な発酵食品の製造が可能になることが期待されます。
本研究成果は、東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授、株式会社ぐるなびの澤田和典博士によって行われ、7月17日付の「Microbiology Spectrum」に掲載されました。
【株式会社ぐるなび イノベーション事業部 澤田和典よりコメント】
法改正により手作り漬物の販売を断念する生産者さんが話題になったように、日本の食文化にとって発酵漬物は重要な要素の一つと言えます。今回報告した研究内容をさらに発展させていくことで、自発的発酵を利用して作られている発酵漬物の品質を安定化させることができ、日本の食文化を守り育てることにつながるのではと考えています。
●背景
日本で伝統的に作られてきた発酵漬物は、特定の微生物を人為的に添加せず、原料などに自然に付着している微生物を利用した自発的発酵によって作られています。この自発的発酵プロセスでは、使用される原料の種類や漬け込み環境によって増殖する微生物の種類が変わるため、再現性高く品質を保つことは技術的な困難が伴います。さらに、どの環境因子が微生物の増殖や代謝にどの程度影響するかを明確にすることも困難です。そのため、これまでの研究では、自発的発酵を利用した発酵漬物に関わる微生物群集をケーススタディーとして取り上げることが多く、漬物の複雑な生態系内での微生物間相互作用や影響因子の詳細な解明は限られていました。しかし、発酵漬物の味や香りは発酵プロセスによって形成されるため、発酵漬物の微生物生態系を理解することは製品の品質向上にとって非常に重要です。
●研究成果
本研究では、自発的発酵を利用して作られる京都の伝統的な発酵漬物であるしば漬を研究対象としました。この研究で開発された再現可能なモデルを通じて、原料などに由来する微生物群集がどのように変化し、漬物の成分にどのような影響を与えるのかを明らかにしました。初めに、商業生産されているしば漬の微生物群集の変化を解析した結果、生産ロットによって微生物群集の変化に違いがあることが確認されました。そこで、しば漬の発酵初期に観察された微生物群集の平均値を基に人工的な微生物群集を構築し、ナスから得た絞り汁を無菌処理したものを発酵させました。この過程で、微生物群集の変化と環境因子の影響、および代謝産物の変化を詳細に分析しました。その結果、微生物群集の変化には高い再現性があることがわかりましたが、発酵漬物と人工菌叢を使ったモデル間での一致は完全ではありませんでした。この原因については原料が固体の野菜か液体の野菜汁かの違いによるものであると推定しましたが、結論づけるためにはさらなる研究が必要であると考えています。また、本研究ではラクチプランチバシラス・プランタラムが特にグルタミン酸とアラニンの増加に関与していることが示唆され、これまでの知見をさらに深める結果となりました。
●社会的インパクト
この研究は、自発的発酵を利用した発酵プロセスの理解を深め、食品の安全性と品質向上のための新たな基盤となる研究アプローチを提示しています。研究により開発されたモデルは発酵漬物の生態系がどのように変化し、それが製品の品質にどのように影響するかを示しています。これにより、自発的発酵を用いた漬物の製造プロセスをより高い再現性のあるものにすることが可能と考えられます。
●今後の展開
今回の研究方法は他の自発的発酵を利用して作られる発酵食品にも応用が可能であり、伝統的な発酵を利用した食品の商業生産においても品質管理の基準を高めることができると考えられます。具体的には発酵過程における微生物の動態を正確に把握し、望ましくない微生物の増殖を抑制することで食品の安全性を一層強化することが可能となります。また、さまざまな菌の集合体から起きる自発的発酵を現象として理解し、応用することで新しい発酵食品の開発につながる可能性があります。自発的発酵を利用した発酵食品では毎回同じ味を再現することは困難を伴うことがありますが、この研究により、消費者が「いつもの味」を安定して楽しめるようになる可能性が高まると考えられます。
また、本研究で題材としたしば漬から、多糖の生成能力が高く発酵物に粘性を与える乳酸菌を単離しています。本乳酸菌を使った発酵物の応用に対する展開については7月30日から8月1日に東京ビッグサイトで行われる国際発酵・醸造食品産業展にてご紹介します。
●付記
本研究は「ぐるなび食の価値創成共同研究」によって得られた研究成果です。
【用語説明】
(1)自発的発酵:
原料などに付着している微生物をそのまま利用して行う発酵のこと。伝統的な製法で作られている乳酸発酵の漬物(しば漬、広島菜漬、高菜漬、野沢菜漬など)やぬか漬けは自発的発酵を利用している。
(2)微生物群集:さまざまな種類の微生物の集まりのこと。
【論文情報】
掲載誌:Microbiology Spectrum
論文タイトル:Influence of the initial microbiota on eggplant shibazuke pickle and eggplant juice fermentation
著者:Kazunori Sawada and Takuji Yamada
DOI:10.1128/spectrum.00464-24
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