博展のニュース
顧客と伴走、体験を通じてマーケティングを支援
2173:博展
代表取締役社長 原田 淳氏
博展 <2173> [東証G]は、展示会やプロモーションイベント、商環境や地域の文化開発などにおける、人と人が出会うリアルな「場」「体験」の創造を通じて、マーケティング支援を行う企業。イベントやディスプレー業界は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が最も大きい市場の一つだったが、同社は21年3月期こそ営業損益5億8700万円の赤字を計上したが、赤字計上は1期だけで22年3月期には黒字に回復。23年3月期には過去最高の営業利益を達成した。コロナ禍からの市場回復があったにせよ、著しい業績回復の背景には何があるのか、また今後の展望について、4月に新たに代表取締役社長に就任した原田淳社長に話を聞いた。(聞き手・浅野尚仁)
ユニット型組織の効果で業績は最高益更新へ
――コロナの影響を教えてください。イベント、ディスプレー市場は新型コロナウイルスの感染拡大による影響が最も大きい市場の一つだと思うのですが、具体的にどのような影響を受けましたか。
感染拡大対策としての行政からの自粛要請があり、多くの展示会やイベントが中止や延期になりました。それに加えて、東京オリンピック・パラリンピックの影響もあり、開催を控えてイベント会場であるビッグサイトが使えなくなりました。また、五輪に合わせてイベントを行いたくても、コロナの影響で五輪の開催の日程が流動的だった時期があり、その影響で通常に五輪を開催した場合の想定以上に会場を使えなかったことが起きるなど、間接的なコロナの影響もありました。
――21年3月期は営業赤字に落ち込みましたが、1期だけで黒字に転換しています。急回復の要因は何でしょうか?
コロナの時に足を止めなかったということが大きいと思います。コロナ禍でも調子のいい業界と悪い業界があり、展示会やイベントはやらないけれど、ショールームを改装する、リブランドするといったような商環境の仕事はコロナの影響を受けませんでした。そうしたコロナの影響が小さい顧客に対して、我々としては今まで通り、顧客とともに課題を見つけて解決してやっていくという活動を継続して行ってきました。
コロナ禍では我々も大変でしたが、顧客も困っていました。自分たちの商品やサービス、企業ブランドといった価値を世の中に届ける方法を失ってしまったわけですから。それをどうすれば社会に届けられるかを、顧客と一緒になって考えた。そのことが評価されたのだと思います。
――決算説明資料では、ユニット型組織による営業活動の効果を挙げています。ユニット型組織とはどういったもので、どう効果を発揮したのでしょうか。
我々の業界では、基本的に顧客の課題を拾い上げる作業を営業やプロデューサーが行い、その課題をデザインやクリエイティブで解決するクリエイティブチーム、更にそれを形にする制作チームがあるのですが、これを一つのユニットとして顧客に伴走する体制にしました。営業だけが顧客に伴走するのではなく、クリエイティブも制作も伴走するという、本当の意味でのワンストップで行っています。近年は、顧客が「こういった課題があるから一緒に解決して」ということは少なくなり、顧客と一緒に課題を探索することが増えました。また解決の仕方も一つではありません。そうした顧客の抱えている課題を営業だけではなくユニットとして拾い上げることで、各職種が領域を超えて顧客の課題解決に取り組む。それにより課題解決までの回転が速くなり、顧客に評価されたことが業績にも寄与しました。
「営業」「クリエイティブ」「制作」を全て自社が行っていることも、ユニット型組織に貢献しました。それぞれの業務だけを行う企業はたくさんありますが、全てを自社で行い、しかも我が社の規模で100人ほどのクリエイティブがいる、あるいは制作工場を持っているというのは強みだと思います。
――23年12月期業績について教えてください。決算期変更のため9ヵ月決算となり、前期との単純な比較はできませんが、今期から新たに力を入れている分野などがあればお聞かせください。
新たにということではないですが、事業では商環境やデジタル分野に力を入れています。前期はリアルイベントに注力した結果、リソースが回らずに商環境は伸び悩みましたが、その間もさまざまな種は蒔いています。そうした種が今期以降に収穫期を迎えると考えていますので、いま一度アクセルを踏む期になるでしょう。
また、デジタル分野にも力を入れています。ただ、コロナ前と異なり、これからはオンラインだけ、リアルだけというイベントは減っていき、リアルとオンラインのハイブリッドが増えていくと考えています。コロナ禍をきっかけに、オンラインによるイベント開催は増えましたが、その一方で自分たちの商品やサービス、価値を直接対面で伝えられるリアルなイベントの価値も上がっています。両方のいいところ取りをするハイブリッドが今後主流になるでしょう。我が社の取り組みとしても、リアルで訪れた人にオンラインでいろいろな体験をしてもらう、また、オンラインでリードを集めて次にリッチな体験をしてもらうためにオフラインでコミュニケーションしていく。そうすると年間を通じてストーリーができてきますので、ビジネスチャンスは広がると思います。
――最近はオンラインイベントビジネスに参入する企業も増えています。競争が激化するのではないですか。
オンラインという手法だけを見ると競争は激化すると思います。ただ、大事なことは顧客が何を伝えたいのかということや、どういう体験を実現したいのかということです。それを理解したうえで、モノやコトではなくて、体験を通じて顧客の課題を解決するために伴走する。その手法としてリアルなイベントがあり展示会があり商空間があり、WEBがありオンラインがあると考えています。手法の可能性というのはこれからももっと広がると思いますが、それに対応していきたいと思います。
大事なことは、顧客と一緒に課題を拾い上げてから課題の解決に向かってアウトプットするまで、チームが顧客に近い距離間で伴走するということだと考えています。
BtoBのマーケット領域はブルーオーシャン
――中期計画では23年3月期営業利益7億3900万円から25年12月期同14億円とほぼ倍増を計画しています。何が牽引役となりますか。
今はどの事業も小粒だと考えているので、頑張っただけ伸びる段階だと考えています。例えば、我が社が現在、取引のある会社数は約650社です。一方、対象となる市場は上場会社も含めて4000~5000社あると考えています。それに対して650社しか付き合っていませんので、「まだこれしかやれていないな、課題はなんだろう」と常に考えています。
そのなかでも、BtoBのマーケット領域はブルーオーシャンと考えています。例えばティア1から仕事をもらっているティア2の企業が、自分たちの技術をもっと表現したい、市場に直接価値を届けたいとなった時、研究施設や工場の見学だけではなくて、そこにさまざまな体験を織り交ぜることでよりアピールできるようになる。そういうお手伝いをしていけたら良いと思っています。
――そのための取り組みとして重視しているのは何でしょうか。
まず展示会です。当社では展示会のDX化に注力していて、小規模の展示ブースであればコストをかけずに出店できるサービスを提供しています。出展に関わるさまざまな手続きや準備、ブースの設営から撤去までをネットを使って簡単にできるようにした「パケテン」を提供することで、顧客に展示会との距離をもっと身近に感じてもらえるようにしています。
展示会であれば、来場客に自分たちの価値を直接説明できます。先ほども申し上げたように、自分たち商品やサービス、価値を直接伝えたいというニーズは多いので、展示会というのは重要です。
自分たちの会社や商品を知ってもらうためのきっかけが展示会だとしたら、我が社はそれをお手伝いするとともに、もっと商品や企業価値を知ってもらうためにはどうすればいいかを顧客と一緒に考えます。WEBをこうしましょうとか、合同の展示会ではなく個別の商談会をやりましょうとか、セミナーをやりましょうとか、ショールームを常設の展示会にしましょうとか、そういったマーケティングの手伝いを地道にしていくことが、我が社の成長につながると考えています。
――25年に大阪・関西万博が開催されます。イベント、ディスプレー市場にとっては大きなイベントになると思うのですが、御社に具体的な受注は来ていますか?
企業のパビリオンなどの受注が見えてき始めたといった段階です。実際の受注は、どこにどんなパビリオンが置かれるかなどの内容が固まっていないと決まらないので、今後具体化すると思います。
――中期的な目標に対するリスクは何だとお考えですか?
コロナのような外部環境の変化というのはこれからも起こり得ると思いますが、そういったことにはその都度対処すればいい。それよりも人材を獲得できない可能性をリスクだと考えています。
優秀な人材を確保するためにさまざまな取り組みを行っていますが、新しく入ってくる学生は、現在働いている社員を見ると思うので、社員が生き生きと、力を発揮しやすい組織づくりをすることが大事だと思っています。社員に魅力があると思ってもらえればプライオリティーも上がるのではないでしょうか。
自ら市場を作る
――社長の思い描く「博展」の将来像を教えてください。長期ビジョンとして「Purpose(パーパス:目的)の実現」を掲げていますが、どういったパーパスでしょうか。
我が社では経営理念として「Communication Design ~人と人の、笑顔が創り出す未来へ。~」を掲げてきましたが、今年5月に新たにパーパスを制定し、「人と社会のコミュニケーションにココロを通わせ、未来へつなげる原動力をつくる。」としました。対象を「人」から「社会」に広げたことで、自分たちがどう世の中に貢献できるのか、もう一歩先の未来に関わりたいと考えています。デザインして終わり、イベントをやって終わりではなく、その先の未来づくりに貢献したい。そうすることで、社会に対してもっと影響力を及ぼすような会社に成長したいと思っています。
――ゼロ・エミッション型イベントの提供に注力するのもその一環でしょうか。
環境に配慮しないイベントは、これから世の中に受け入れられなくなっていくと思います。そのため、我が社では業界に先駆けてゼロ・エミッション型イベントへの取り組みを強めることにしました。
具体的にはイベントの造作物を環境配慮型にシフトしています。イベント終了後、アクリルなどは再利用し、木材などはマテリアルとしてリサイクルするなど「捨てない」「再利用」などの取り組みを行っています。また、来場者のアクセス手段などを含めて、イベントで排出されるCO2の測定や削減に取り組んでいます。
――中期的な数値目標は発表されていますが、もう少し長期の数値やシェアの目標などはありますか?
今ある何かの業界でトップというのももちろん魅力的ですが、自ら市場を作りたいと思っています。顧客体験を通じたマーケティングを提供することで、そのポジショニングはできつつあるので、これを更に磨き上げていきたいと考えています。
数値目標としては、何年までにということではなく、少なくとも売上高1000億円規模を目指しています。目標に近づくため、今は全事業部の成長を図っており、更なる成長のために今後は戦う市場を広げることを考えています。デジタルや観光、教育、グローバルなどに関して種は蒔いているので、そのなかから注力分野などが出てくると思います。
――株主還元について、目標などがありましたら教えてください。
具体的にはまだ発表できませんが、株主還元については積極的に進めていきたいと考えています。
◇原田 淳(はらだ・あつし)
2000年東海大学工学部建築学科卒。同年建設会社入社。一級建築士事務所を経て、2008年博展入社。商環境事業部長、イベント展示会事業本部長を歴任後、2016年博展グループ会社のスプラシア代表取締役社長に就任。2017年博展取締役に就任。常務取締役、取締役専務執行役員 CSOを経て、2023年4月より現職。
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