MBO、する企業、される企業

著者:鈴木 行生
投稿:2026/03/02 18:09

・MBO(Management Buyout:マネジメント・バイアウト)をする企業が増えている。なぜか。会社をよくするために、もっと大胆な手を打ちたいが、それが上場したままではやりにくい。制約にとらわれずに施策を実行するには、一旦非上場にした方がよい、という判断をする。こうする企業が増加している。

・MBOとは、企業の経営陣が自社の株式を買い取り、経営権を取得する手法をいう。上場企業の場合は、特定の大株主が株式を取得して、上場廃止になることがほとんどである。非上場になれば、上場している時よりも自由に経営ができ、企業価値が上げられるようになるという。本当だろうか。

・筆者がアナリストレポートを書いていた3社の事例を取り上げてみよう。1社目が、ピーシーデポコーポレーションである。パソコン(PC)の販売会社であったが、早くから会員制のデジタルサービスに舵を切ってきた。それをサブスク型の会員サービス企業に抜本的に変身しようと決断した。

・店舗での商品売上げは一旦大きく減少する。会員からは月次のフィーをもらうが、これも最初は収入減となる。いずれ会員が増え、一会員当たりのサービス購入が増えてくれば、安定した収益が見込めるようになる。

・店舗は商品の売り場ではなく、会員がサービスを受ける拠点となるので、イメージが全く異なる。業績が一旦落ち込むことを覚悟して、新業態への転換を実行することとした。

・2023年5月にMBOを実行した。買収の主体は創業者である野島社長で、TOB(株式公開買い付け)公表前の株価299円に対して60%のプレミアムをつけた。MBO後は、新業態への転換を進めており、イメージを一新している。新ビジネスの拡大にも力を入れている。業績はMBO後予定通り大きく落ち込んだが、現在は回復軌道に入っている。いずれ再上場を目指すことになろう。

・2社目はフロイント産業である。薬の製剤機械で日本トップ、世界でも上位クラスに入る。世界5拠点で事業を展開しており、日米伊中印で適所適販を目指している。医薬品の添加剤でも独自の技術を有しており、大型投資も必要となっている。伏島社長は創業者の長男で、この10年リーダーシップを発揮してきた。

・このユニークさが業績には十分反映されない局面で、アクティビストが主要株主に入ってきた。米国から中南米市場を開拓するという展開はすでに成果を上げつつある。イタリアからアフリカ、アジアの新興国を目指すという点でも、一定の地歩を有する。中国、インドには拠点を確立しており、これから拡大しようとしている。

・一方で、米中貿易摩擦の中で、拠点の活用にはフレキシブルな対応が求められる。国内では、新工場建設に向けて大型投資が必要になっている。次の中期計画では、業績が大きく落ち込むような積極投資を必要とする。

・これをやらないと、いずれ業績は伸びないことになる。上場したままでは、大胆な手が打ちにくい。投資家はリスクをとる経営判断に不安をもつかもしれない。ということで、MBOを決断した。

・TOBが順調に進み、上場廃止となった。昨年7月14日の株価766円に対して、公開買付価格は1085円と、42%のプレミアムがついた。アクティビストも了解したので、このディールは進んだ。

・MBO後は、グローバル展開と各拠点での供給体制づくりに一段と力が入ろう。業績は一旦落ち込むことが想定される。当社の場合、ユニークな存在なので、再上場を目指すかどうかは分からない。非上場でも十分活躍できよう。

・3社目は、レジルである。マンションに住む人が、マンション一括受電サービスを受けることによって、電気料金が安くなる。この事業で伸びてきたが、この電気に再生エネルギーを利用する。蓄電池を活用して、電気を貯めたり、外部に売ったりということで、エネルギー利用のフレキシビリティを高める。

・この分散型エネルギー事業を核に、グリーンエネルギーやエネルギーDXに事業を拡大している。M&Aにも積極的で、投資も増加が予想される。

・3年前に上場したばかりであった。しかし、創業者である大株主が、レジル以外の事業に力を入れていた。レジルの経営陣は、創業者とは直接関係がなく、外部から中途で入ってきた専門家である。

・ベインキャピタルがリードするファンドがTOBを実施した。厳密にいえば、MBOではないが、現経営陣がそのまま経営を継続する。買付価格は2750円で、TOB公表前の株価に比べると、33%のプレミアムが付いた。

・上場したばかりなので、上場のメリットを活かし、事業拡大を図ることもできた。それでも創業者である大株主の意向を優先して、一旦上場廃止を行い、体制を強化する。ファンドが大株主となるので、現経営陣をリード役として、3~5年で再上場してくることになろう。

・2024年のMBOは20社、2025年はMBO32社、ほかにTOBが80社であった。MBOが増加している要因は、1)資本効率の改善要求、2)事業再編のスピードアップ、3)成長投資の加速、4)株主還元の明確化などにあろう。

・上場していると、事業再編や成長投資はやりにくいのであろうか。一時的に業績が大きく落ち込んでも、次の成長に向けて投資を加速している企業はある。

・エクイティファイナンスを実施して、一時的に株数が増加して、一株当たり利益が希薄化しても、それを乗り越えるような成長を目指す。それが本来の株式市場である。

・業績が落ち込む局面で、株式市場がその企業を見捨てるようでは、MBOは増えてこよう。MBO後の事業再編に勝算があるのならば、上場したまま実行してもよい。しかし、それを許容しない市場であるならば、MBOは有効な手段であろう。

・MBOを実施する時の買い取り価格はどのくらいが妥当なのか。ここはかなり議論になろう。現状の延長線としての将来がベースになろう。そこから、手を打てばよくなるという将来をどこまで織り込めるか。ここがなかなか難しい。

・経営陣は自社を安く買いたいと思うが、少数株主はそれでは困る。フェアバリューのあるべき内容について、大いに議論してほしい。それが企業価値向上の将来につながるからである。MBOの後、再上場してくる企業も多い。数年後にどのような企業に変身してくるのか。大いに注目したい。

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配信元: みんかぶ株式コラム