S&P500月例レポート(2025年11月配信)<前編>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET:2025年10月
最近、街中のバーで使われる「Chutzpah(厚かましさ)」の定義:「過去34ヵ月で85.5%(年率24.38%)のリターンを得たのに、君はまだサンタクロースラリーを期待するのか」

 S&P500指数は10月も上昇基調を維持しました。とはいえ一本調子ではなく、前半の12営業日で0.89%下落した後、後半の11営業日で3.18%上昇しました。10月中に終値での最高値を8回(9月も8回)更新し(取引時間中の最高値は6920.34、終値での最高値は6890.89)、同指数は6700、6800、6900の大台を突破しました(ただし、終値では6900を超えませんでした)。この結果、終値での最高値更新は年初来で36回、2024年11月5日の米大統領選挙以降では46回となりました。

 ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)も上昇基調を維持して終値での最高値を7回(9月は6回)更新し(取引時間中の最高値は4万8040.60ドル、終値での最高値は4万7706.37ドル)、4万7000ドルと4万8000ドルの大台を突破しました(ただし、終値では4万8000ドルを超えませんでした)。

 10月の相場のモメンタムは企業利益へシフトしました。S&P500指数構成企業の第3四半期の営業利益は予想を大幅に上回り、四半期ベースで過去最高の5990億ドルとなる見通しです。売上高も当初の減少予想に反して増加し、今では過去最高となる4兆4900億ドルが見込まれています。関税をめぐるニュースは依然として不安定で、重大発表が相次いでいますが、全体的なトーンは引き続き(解決に向けて)前向きに見え、米国と各国との合意は徐々に進んでいます。米国の消費主体は個人と企業の双方において、今のところ関税コストを吸収できていますが、ホリデーシーズンに向けた価格設定が始まる11月には負担が増加すると予想されます。

 S&P500指数は、10月最後の2週間に上昇し、終値での最高値を繰り返し更新した結果、2.27%上昇して月を終えました。関税発表直後の4月8日に付けた安値(4982.77)の時点で、同指数は年初来で15.28%下落していましたが、それ以降の騰落率は驚異的な37.82%上昇となっています。この期間に11セクターすべてが上昇し(パフォーマンスが最高となったのは情報技術で70.57%上昇、最低だったのは生活必需品で1.37%上昇)、387銘柄が上昇し(28銘柄が2倍以上に上昇、90銘柄が50%以上上昇)、115銘柄が下落しました(57銘柄が10%以上下落、24銘柄が20%以上下落、2銘柄が50%以上下落)。

 S&P500指数は年初来で16.30%上昇し(配当込みのトータルリターンはプラス17.52%)、11セクターのうち10セクターが上昇し(情報技術は29.30%上昇、生活必需品は0.58%下落)、278銘柄が値上がり(平均27.84%上昇)、224銘柄が値下がり(平均15.15%下落)となりました。これにより、投資家は年初来で8兆5320億ドルを手にしました(10月単月では8820億ドル)。

 モメンタムは今や主要な投資テーマであり、企業利益は過去最高を更新し、少なくとも2026年第1四半期まで過去最高の更新が続く見通しです。背景には、トランプ政権の予算法案である「1つの大きくて美しい法案(OBBBA)」に盛り込まれた総額1900億ドルの企業向け税制優遇措置による減税があります。個人も2026年初めに総額1500億ドル規模の追加の税還付を得られる予定で、消費の増加(または少なくとも下支え)につながる可能性が高いでしょう。さらなる楽観要因は雇用です。雇用水準は若干の減少が予想されるものの堅調が続くとみられており、雇用ベースが減少したとしても、AIによる生産性向上が補うとみられています。

 金利はボックス圏での推移が続いており、10年米国債利回りは4%のラインを死守し、短期金利は3.8%付近で安定しています。米連邦公開市場委員会(FOMC)は2会合連続で0.25%の利下げを実施して政策金利を3.75%~4.00%としました。賛成10名、反対2名で、そのうち1名(カンザスシティー連銀のシュミッド総裁)は金利据え置きを支持し、もう1名(ミラン理事)は0.50%の利下げを主張しました。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は12月の利下げについて「既定路線ではない」と述べましたが、市場は依然として12月の会合での0.25%の追加利下げを予想し、さらに資産購入がいつ始まるのかを話題にしています。

 10月にS&P500指数は2.27%上昇しました(9月は3.53%上昇、8月は1.91%上昇、7月は2.17%上昇)。11セクターのうち6セクターが上昇しましたが(9月は7セクター、8月は9セクター、7月は6セクターが上昇)、値下がり銘柄数が増加しました。10月は204銘柄が値上がりし、298銘柄が値下がりしました(9月は248銘柄が値上がり、255銘柄が値下がり、8月は337銘柄が値上がり、166銘柄が値下がり)。10月のパフォーマンスが最高となったのは情報技術で6.20%上昇し、年初来では29.30%上昇、2023年末以降では75.44%上昇となりました。パフォーマンスが最低だったのは素材で5.10%下落しましたが、年初来では2.23%上昇、2023年末以降では0.37%上昇となっています。S&P500指数は年初来で16.30%上昇し(配当込みのトータルリターンはプラス17.52%)、11セクターのうち10セクターが上昇し(最高は情報技術の29.30%上昇、最低は生活必需品の0.58%下落)、278銘柄が値上がり、224銘柄が値下がりしました。

 11月の株式市場では、当面は米政府機関の再開と職員の未払い給与に市場の関心が集まると思われます。閉鎖は10月末時点で31日目を迎え、日数は増え続けており、カギを握るのは(政府機関閉鎖の原因でもある)、今もなお医療保険制度改革法(ACA、通称オバマケア)に関連する補助金の延長または修正をめぐる予算問題です。この問題は話題の中心になるとみられますが、11月の取引を左右する主因にはならないと思われます。市場では、補助金は延長されるものの、所得に応じて一部の個人向け給付の段階的縮小が盛り込まれると予想しており、これらは2025年11月4日の地方選挙後の継続予算決議で成立する可能性があります(しかし、市場と議会は別物です)。何らか形で決着がつけば、政府機関閉鎖の間に延期されていた経済指標が月の中旬~下旬にかけて一斉に発表されることになり、最新情報に基づいてポートフォリオが調整されるのに伴い、市場のボラティリティが高まる可能性があります。現時点では、発表されなかった経済指標の新たな発表予定日は決まっておらず、完全なデータとして発表されるのか、それとも次回の定例発表に合わせて発表されるのかも不明です。11月のデータについても本来のスケジュール通りには発表されないとみられ、職員が(願わくは)職場に復帰し、遅れを取り戻すのに時間がかかると思われます。

 ちなみに、11月の主要な経済指標の本来の発表スケジュールは、11月5日に月次のADP全米雇用統計(ADPは民間企業で、10月に統計を発表しましたし、11月も発表する予定です)、11月4日にJOLTS(求人労働異動調査)、11月7日に雇用統計、11月13日に消費者物価指数(CPI)、11月14日に生産者物価指数(PPI)、11月26日に第3四半期GDP、毎週木曜に週次の新規失業保険申請件数、毎週火曜に新たに公表を始めた週次のADP全米雇用統計(後述の「注目点」を参照)となっています。第3四半期の企業の決算発表は今後も続き、小売り各社が決算とホリデーシーズンのガイダンスを発表しますが、決算の結果が各銘柄の値動きに影響を及ぼすと思われます。

 関税をめぐる状況も変化し続ける見通しであり、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)交渉は(おそらく個別に)継続し、10月30日にトランプ大統領と習近平国家主席による首脳会談を終えた米中間の交渉は、引き続き具体的な品目やスケジュールに焦点が当てられるとみられます。市場に関しては、11月27日は米国の祝日のため銀行と取引所は休みになります。取引所は翌28日(11月最後の営業日)も午後1時で取引を終了します。

インデックスの動き

 ○10月は企業業績、関税、そして月末に実施が予想されていた今年2回目の0.25%の利下げ(実際、10月29日にFOMCは0.25%の利下げを決定しました)に対する確信の高まり、さらには今年3回目となる12月の利下げが金融面のニュースと市場での最大の関心事となりましたが、12月の利下げに関しては疑念が生じ始めました(パウエルFRB議長の発言がきっかけでした)。企業利益は引き続き予想を上回り(S&P500指数構成企業の70%が業績発表を終え、そのうちの81%が事前予想を上回りました)、第4四半期の業績見通しも概ね良好です(小売企業はまだ見通しを示していません)。こうした良い流れは2026年第1四半期の業績見通しにも引き継がれています。また、2025年第3四半期の利益は過去最高(5990億ドル)を記録する見通しで、2025年第4四半期、2026年第1四半期も同様に過去最高の更新が見込まれています。第2四半期に過去最高を記録した売上高は、第3四半期は当初減収が予想されていましたが、実際のところ予想を大きく上回り、第3四半期は過去最高の更新が見込まれる(4兆4900億ドル)との期待感から見通しも引き上げられています。関税の企業利益への影響は全体として限定的で、企業は関税コストの一部を吸収してきましたが、顧客にコストの更に多くを転嫁し始めています。しかしながら、生産コストは上昇したものの売上高が過去最高を更新する見通しであることから、営業利益率も13.35%と極めて高い水準を維持しています(過去の平均は8.74%)。

 ○10月にS&P500指数は6ヵ月連続の上昇を記録しました(累積で22.82%上昇)。月間での連続の上昇が始まった5月以前は、1月は2.70%上昇したものの、2月、3月、4月は累積で7.80%下落しました。10月にS&P500指数は2.27%上昇(配当込みのトータルリターンはプラス2.34%)、9月は3.53%上昇(同プラス3.65%)、8月は1.91%上昇(同プラス2.03%)、7月は2.17%上昇(同プラス2.24%)でした。過去3ヵ月では7.90%上昇(同プラス8.23%)、年初来では16.30%上昇(同プラス17.52%)、2025年10月末までの過去1年間では19.89%上昇(同プラス21.45%)でした。2024年通年では23.31%上昇(同プラス25.02%)、2023年は24.23%上昇(同プラス26.29%)、2022年は19.44%下落(同マイナス18.11%)でした。

 ○マグニフィセント・セブン(エヌビディア<NVDA>、マイクロソフト<MSFT>、アップル<AAPL>、アルファベット<GOOGL>、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、メタ・プラットフォームズ<META>、テスラ<TSLA>で構成され、S&P 500指数の時価総額の35.7%を占める)のパフォーマンスは指数全体をアウトパフォームしました。これら7銘柄は10月の指数のトータルリターンの81.2%を占め、7銘柄を除くと同指数のトータルリターン(2.34%)は0.44%でした。2025年4月8日に付けた直近安値からのトータルリターンでは指数全体の49.9%を占め、7銘柄を除くと同指数のトータルリターン(38.23%)は19.16%、また年初来では46.7%を占め、7銘柄を除くと同指数のトータルリターン(17.52%)は9.34%となりました。10月はマグニフィセント・セブンのうち5銘柄が上昇したものの、メタ・プラットフォームズは11.71%下落(年初来では10.73%上昇)、マイクロソフトは0.03%下落(同22.85%上昇)しました。

 ○10月の市場は終値での最高値を8回更新しましたが(終値での最高値更新は年初来で36回、2024年11月5日の米大統領選挙以降では46回)、値下がり銘柄数が増加して引き続き値上がり銘柄数を上回りました。10月は204銘柄が値上がりし、298銘柄が値下がりしました(9月は248銘柄が値上がりして255銘柄が値下がり、8月は337銘柄が値上がりして168銘柄が値下がり)。年初来では278銘柄が値上がりして224銘柄が値下がりしました(2024年は332銘柄が値上がりして169銘柄が値下がり)。10月は23営業日のうち15営業日で値上がりし(9月は21営業日のうち13営業日で値上がり)、3営業日で1%以上変動しました(2営業日が上昇、1営業日が下落)。9月は1%以上変動した日はありませんでした。年初来では46営業日で1%以上変動し(23営業日が上昇、23営業日が下落)、2024年は50営業日で1%以上変動しました(31営業日が上昇、19営業日が下落)。10月はまた、11セクターのうち6セクターが上昇しました(9月は7セクターが上昇)。

 ○S&P500指数の時価総額は1兆2900億ドル増加して(9月は2兆2690億ドル増加)、58兆3370億ドルとなり、年初来では8兆5320億ドルの増加となりました。2024年に時価総額は9兆7660億ドル増加、2023年は7兆9060億ドル増加、2022年は8兆2240億ドル減少しました。

 ○10月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は1.00%となり、9月の0.69%と8月の0.77%から上昇しました(7月は0.63%、6月は0.83%、5月は1.09%、4月は3.21%、3月は1.71%、2月は1.09%、1月は0.91%)。年初来では1.21%となりました。2024年通年は0.91%、2023年は1.04%、2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした(長期平均は1.41%)。

 ○10月のS&P500指数の出来高は前月比4%増加(営業日数調整後)しました。9月は同15%増加でした。10月は前年同月比では57%増加しました。2025年10月末までの12ヵ月間では前年同期比29%増加しました。2024年通年では前年比2%減、2023年は同1%減、2022年は同6%増でした。

 ○10月は23営業日中で1%以上変動した日は4営業日でした(3営業日が上昇、1営業日が下落)。9月は21営業日中で1%以上変動した日はなく、8月は21営業日中4営業日で1%以上変動しました(3営業日が上昇、1営業日が下落)。年初来では1%以上変動した日は209営業日中47営業日(24営業日が上昇、23営業日が下落)、2%以上変動した日が13営業日(6営業日が上昇、7営業日が下落)となりました。2024年通年では1%以上変動した日は50営業日(31営業日が上昇、19営業日が下落)、2%以上変動した日は7営業日(3営業日が上昇、4営業日が下落)でした。

 ○10月は23営業日中7日で日中の変動率が1%以上となり、1日だけ日中変動率が2%以上(3.23%)となりました。9月は21営業日中2日で日中変動率が1%以上となりましたが、2%以上変動した日はありませんでした。8月は21営業日中4日で変動率が1%以上となりましたが、2%以上変動した日はありませんでした。年初来では日中変動率が1%以上となったのは92日、2%以上となったのは23日、3%以上となったのは7日でした(2025年3月9日には日中変動率が7%を超えました)。2024年通年では、日中変動率が1%以上となったのは83日、2%以上となったのは11日でした。2023年は日中変動率が1%以上となったのは113日、2%以上となったのは13日でした。

 過去の実績を見ると、10月は56.7%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.25%、下落した月の平均下落率は4.52%、全体の平均騰落率は0.50%の上昇となっています。2025年10月のS&P500指数は2.27%の上昇でした。

 11月は61.9%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.13%、下落した月の平均下落率は4.16%、全体の平均騰落率は1.01%の上昇となっています。

 ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は4万7562.87ドルで月を終えました。同指数が4万7000ドルを超えたのは史上初めてで、4万8000ドルを上回る場面もありました。10月には終値での最高値を7回更新し(年初来で15回、取引時間中の最高値は4万8040.60ドル、終値では4万7706.37ドル)、9月の終値4万6397.89ドルから2.51%上昇(配当込みのトータルリターンはプラス2.59%)しました。9月は終値での最高値を6回更新し、8月の終値4万5544.88ドル(3.20%上昇、配当込みのトータルリターンはプラス3.42%)からは1.87%上昇(配当込みのトータルリターンはプラス2.00%)しています。過去3ヵ月間では7.78%上昇(同プラス8.23%)、年初来では11.80%上昇(同プラス13.34%)、過去1年間では13.89%上昇(同プラス15.84%)しました。2024年通年では12.88%上昇(同プラス14.99%)、2023年は13.70%上昇(同プラス16.18%)、2022年は8.78%下落(同マイナス6.86%)でした。

<後編>へ続く
 


配信元: みんかぶ株式コラム