大荒れ相場で問われるリスク分散、投資家の防御力高めるETF戦術 <株探トップ特集>

配信元:株探
投稿:2025/04/08 19:30

―トランプ関税ショックで世界同時株安、リスク軽減につながる投資手法を押さえる―

 米国トランプ政権発の関税ショックによって、金融市場が大荒れとなっている。日本に対する税率が想定よりも高いものとなったほか、国家間での報復合戦に発展する可能性もあり、世界景気への悪影響が懸念されている。トランプ大統領の関税強硬姿勢が修正される可能性もなくはないが、現段階ではプラス・マイナス両面でのリスクを想定すべきだろう。投資家は現実を所与として、戦略と戦術を練るしかない。

●個人投資家が可能な小口分散投資

 4月に入り世界各国で株式相場が下落し、債券相場が上昇(金利は低下)している。ドル円相場は一時1ドル=144円まで円高が急速に進行した。マネーの逆回転を前に投資家心理は委縮した状況にある。相場に明確な方向感が出てくるまでは、基本ポジションをキープしつつ、リスクを分散するという戦術がベターだろう。

 分散投資の「分散」とは、株式の世界での銘柄分散や業種分散、国際分散(カントリーアロケーション)に限らない。そもそも株式以外の資産クラスとして、債券や不動産、コモディティ、デリバティブなども含めて、リスク・リターン特性の異なる資産を組み合わせて投資をすることは機関投資家にとって一般的なものである。

 資金量が潤沢でない個人投資家にとって、これまで資産分散の敷居が高かったことは否めない。しかしETF(上場投資信託)を活用すれば、自国株式以外の資産クラスへの少額・小口分散投資が可能となる。相場急落に一喜一憂せず、こういう時こそ新しい投資手法を学び、実際に手を出し、分析してみることも有用だろう。

●相場急落時こそカバード・コール型ETFの投資機会

 東京証券取引所に上場するETFのうち、まずカバード・コール型に注目してみよう。カバード・コールとは、原資産の買いとコール・オプションの売りを組み合わせた投資戦略で、主に欧米の超富裕層を中心に広がった手法である。オプションとは、あらかじめ決められた期日に、あらかじめ決められた価格で、売買する権利のことで、売る権利をプット、買う権利をコールと呼ぶ。コール・オプション(買う権利)の買い手にとって、相場上昇時には利益は無限に増大し、相場下落時は、ある一定の額に限定された損失が発生する。コール・オプションの売り手にとっては、相場上昇時は損失が無限大となり、相場下落時は、一定の額に限定された利益を得ることとなる。

 オプション価格の算出には、本源的価値(原資産時価と行使価格との差)に加え、時間価値(満期までの期間)や価格変動性(ボラティリティ)などからなるプレミアムが付加されている。単純化すると、原資産の価格が動かず、時間が経過し、オプションが行使されなければ、コール・オプションの売り手はプレミアムを丸々懐に入れることができる。

 例えば、先週末(4月4日)の日経225先物ラージの日中取引終値は3万3760円だった。満期がおよそ1カ月後の5月限、権利行使価格3万3750円のコール・オプションの価格は1210円である。先物価格が3万3750円で満期を迎えた時、コール・オプションの本源的価値は0円となり、プレミアムの1210円が利益となる。満期までの時間が長く、ボラティリティが高ければ、プレミアムは大きくなる。

 先にカバード・コールは原資産の買いとコール・オプションの売りを組み合わせたものと説明したが、金融市場においては、原資産の上昇を諦めて、プレミアム獲得を目指す戦略と位置付けられている。東証には、米国株と日本株のインデックスを原資産とするカバード・コール型ETFが上場している。米国株を原資産とするものは毎月分配、日本株を原資産とするものは半年ごとの分配となっている。

 グローバルX S&P500・カバード・コール ETF <2868> [東証E]は、米国の代表的株価指数であるS&P500種指数を原資産に、Cboe S&P 500 BuyWrite Index(円換算)に連動させるETFである。分配金の変動要因は、獲得プレミアムの水準(ボラティリティの大きさ)と為替換算などである。過去1年間の実績分配金を直近の基準価額で割った分配金利回りは12.67%に達する。

 また、グローバルX NASDAQ100・カバード・コール ETF <2865> [東証E]は、米国のナスダック100指数を原資産に、Cboe NASDAQ-100 BuyWrite V2 Index(円換算)に連動させるETFだ。原資産の相対的なボラティリティの高さゆえ、高利回りが期待できるのが特長。過去1年の分配金利回りは13.75%に達する。ボラティリティの上昇時には、各ETFの分配原資となるファンドのプレミアムも上昇するため、相場の不確実性が高まった局面で大きな投資効果を発揮するとみなされている。

 なお、日本では投資信託協会の規制上、分配原資はインカムゲインに限定される。オプションのプレミアムはインカムゲインに該当しないため、分配原資とすることができない。上述の米国株指数を原資産とするカバード・コール型ETFは、米国籍ファンドに投資し、そのファンドからの分配金をインカムゲインとして、毎月分配をする仕組みとなっている。これに対し、日本株指数を原資産とするカバード・コール型ETFでは、分配原資は指数構成銘柄からの株式配当が中心となり、獲得したプレミアムは再投資に用いられることとなっている。流動性は高くはないが、原資産を日経平均とするカバード・コール型ETFには、グローバルX 日経225 カバード・コール ETF(プレミアム再投資型) <2858> [東証E]がある。過去1年の分配金利回りは1.17%だ。

●コモディティ型ETFも候補に

 金価格の上昇が話題だが、ここでは上がるから買うというのではなく、リスク分散のために持つという考え方を提示したい。いわゆる貴金属(金、銀、プラチナなど)は、経済活動での利用よりも資産価値が評価される傾向にあるが、卑金属(鉄、アルミニウム、銅など)やエネルギーなどの商品価格は、景気動向によって動くことが多い。また、農産物などでは、天候や収量の変動が大きな影響を与える。

 貴金属ETFは株式市場や景気動向と連動しない(リスク分散になる)代表的なETFであり、マーケットの先行き不透明感が高まると、資金逃避先として注目を集めることが多いのも特徴だ。金(ゴールド)には保管コストがかかり、金利が付かないため、高金利の時期には相対的に魅力度が落ちるが、インフレヘッジにはなるとされている。

 SPDRゴールド・シェア <1326> [東証E]は、代表的な金ETFだが、外国籍ETFであるため、外国証券口座の開設などひと手間がかかる。純金上場信託(現物国内保管型) <1540> [東証E]は、委託者である三菱商事 <8058> [東証P]が国内に純金現物を保管するタイプのETFだ。一定の受益権口数を保有していれば、受益権と引き換えに貴金属地金の現物を受け取ることも可能である。純銀上場信託(現物国内保管型) <1542> [東証E]は、上記と同様に純銀現物を国内保管するタイプ。銀(シルバー)は、産業用にもそれなりに使用されるが、金と比べて出遅れ感があるとの見方もある。

●REIT指数連動型・新興国株型も要マーク

 オルタナティブ投資として、多くの機関投資家が組み入れているのが不動産である。不動産は名前の通り動かないものであるため、物件の個別性が大きい。物件価格も高額となりがちであるため、分散投資のためには巨額の資金が必要となる。そこを解決するのが、不動産賃貸利益を分配原資とするREIT(不動産投資信託)である。不動産価格の変動は、含み損益の増減を通して価格に反映されるが、基本は賃貸利益による分配金利回りに着目した投資商品である。

 オフィスビルを主とする不動産賃貸市場では、コロナ禍での混乱を経て、底打ちの兆しが出てきている。需要復活と新規供給一巡により、空室率は低下、賃料も上昇に転じた。とはいえ、全般的に過去の指標からみて割安な水準にとどまっているREITは多い。東証REIT指数に連動するETFのうち時価総額が大きいものとして、NEXT FUNDS 東証REIT指数連動型上場投信 <1343> [東証E]や、iシェアーズ・コア Jリート ETF <1476> [東証E]がある。いずれも年に4回の分配がある。

 世界同時株安の落ち着きどころについてはなお不透明感が横たわるものの、相対的に高成長が見込まれる新興国の押し目を狙うというアイデアもある。米国金利の低下自体は、新興国のドル建て債務負担を軽減させるものだ。少し前まで人気化していたインド株にもチャンスがあるかもしれない。短期的にはともかく、インド自体は膨大な若年人口と潜在市場を抱え、中長期的な経済成長率は高い。NEXT FUNDS インド株式指数・Nifty50連動型上場投信 <1678> [東証E]は、インドの代表的な株価指数Nifty50指数(円換算)に連動することを目指すETFだ。直近1年間のパフォーマンスは冴えなかったものの、過去5年間でみると高水準だ。

 新興国まで枠を広げるなら、iシェアーズ・コア MSCI 新興国株 ETF <1658> [東証E]も候補に挙がる。MSCIエマージング・マーケッツIMI指数(税引後配当込み、国内投信用、円建て)との連動を目指すETFだ。中国株が3割弱のウェイトを占めるが、台湾、インド、韓国などにも幅広く投資している。





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