【QAあり】アネスト岩田、スプレーガンは国内外で高いシェアを獲得 インドに圧縮機組み立て工場建設で海外成長を推進
目次
三好栄祐氏(以下、三好):みなさま、こんにちは。アネスト岩田の取締役常務執行役員営業本部長の三好です。本日は当社の会社紹介をご視聴いただき、誠にありがとうございます。
本日は、事業概要や成長戦略などを中心に、アネスト岩田についてご紹介します。目次に沿って、会社概要、事業概要、成長戦略、サステナビリティ、本日お伝えしたいことのまとめの順にご説明します。よろしくお願いします。
1-1. 「アネスト岩田」について
三好:アネスト岩田についてご存知ない方は、相当いらっしゃるかと思います。箱根には車好きの方が集まる「アネスト岩田ターンパイク箱根」という有名な道路があります。そのネーミングライツを取っていますので、車好きの方は当社をご存知かもしれません。
創業は1926年で、あと2年ほどで100周年を迎える歴史のある会社です。2023年度の連結売上高は534億円、営業利益率は11.6パーセントです。
事業内容は、空気圧縮機(コンプレッサー)、真空状態を作り出す真空ポンプ、塗装するスプレーガンなどの塗装機器、塗装する上で必要な一連の工程を組み合わせた塗装設備などを、製造・販売しています。
シェアとしては、スプレーガンの国内シェアが約75パーセント、世界シェアは約30パーセントであり、日本では1位、世界では2位となっています。コンプレッサーに関しては、小形圧縮機において日本で2位となっています。
1-2. 「アネスト岩田」について(当社事業の構成)
三好:当社事業の構成です。エアエナジー事業とコーティング事業の2つが主体となっています。
エアエナジー事業は気体を圧縮することがコア技術であり、コーティング事業は液体を霧にすることがコア技術です。エアエナジー事業には空気圧縮機と真空ポンプ、コーティング事業にはスプレーガンを代表とする塗装機器と塗装設備が含まれています。
売上の割合は2023年度の実績で、圧縮機が57パーセント、塗装機器が33パーセント、真空機器が6パーセント、塗装設備が4パーセントとなっています。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):質問を挟みながら、お話をうかがえればと思います。先ほどセグメント別の売上状況をご説明いただきましたが、近年変化はありましたか? 伸びている分野はどこなのかイメージがつかめれば、ご覧になっている方もこの後のご説明が理解しやすいかと思います。
三好:近年では、SCR社(上海斯可絡圧縮機有限公司)という中国の中形コンプレッサーのメーカーをM&Aしました。そこから当社の戦略等が大きく変わってきたことから、比率も大きく変わり、圧縮機が増えてきています。
1-3.「アネスト岩田」について(成長の歴史)
三好:当社の成長の歴史です。1926年に創業し、もうすぐ100年を迎えます。100年も経営してきていますので、スライドの折れ線グラフのとおり、「山あり谷あり」となっています。
一般の企業と同様、バブルやリーマンショック、新型コロナウイルスで大きな影響を受け、売上が大きく下がった谷の部分が見てとれると思います。
しかしながら、幾多の危機の中でも、我々はM&Aなどの成長戦略を実行しています。リーマンショック以降、2017年にSCR社をM&Aしたことが売上の回復につながりました。
会社では「変革」と常々言っていますが、「変革」を早めに打っていくことで、この危機を乗り越えられたのではないかと思います。
2023年度の売上高530億円から、今後は2030年以降で1,000億円を目指し、従業員全員で「変革」を基本にして取り組んでいきたいと考えています。
1-4.「アネスト岩田」について(主な業績指標の推移)
三好:主な業績指標の推移についてご説明します。売上高は、直近の5年間は成長できています。営業利益率、ROEも10パーセントを堅持している状況です。そして、当社が今、重要な指標としているEPSも、伸ばすことができています。
坂本:この高い利益率と、厳しい状況下でも黒字を維持・確保できる利益構造は、長年積み上げられてきたものだと思います。後ほど詳しくお話しいただくと思いますが、このあたりの理由を簡単に教えていただけますか?
三好:もともと、当社の利益の源泉はスプレーガンです。このスプレーガンを100年近く作り続けていることから、製造や販売、原価を低減させるノウハウなどが蓄積され、大きく利益に貢献できました。
もう1つの理由として、現状では約65パーセントが海外の売上になっていることが挙げられます。海外の売上はどこかのエリアに集中しているわけではなく、比較的均等に分散しています。
近年の新型コロナウイルスのように、世界同時に大きな不況が来てしまうと全体的に下がってしまう場面はありますが、例えば、中国が悪ければアメリカでカバーする、アメリカが悪ければインドでカバーすることができます。そのため、利益がしっかり上げられているのではないかと思っています。
2-1. 塗装のメリットを最大限に生かす塗装機器を提供
三好:ここからは、我々が日々推進している事業についてご説明します。「塗り」で社会を彩る、コーティング事業の概要をご説明します。
コーティング事業では、塗装をサポートします。ご視聴いただいているみなさまの周りを見ても、ありとあらゆるものが塗装されていると思います。中にはフィルムコーティングのようなものもありますが、家具なども塗装されています。当社は塗装するための機器を製造しています。
坂本:ペンキやインクではなく、機械を製造しているのですね。
三好:おっしゃるとおりです。世の中の塗装の中では、美観向上や機能性付与、表面保護の部分における付加価値が高いと思っています。
自動車の塗装を例に挙げると、自動車をぶつけた場合、ディーラーに持っていき、ディーラーで修理します。我々のハンドスプレーガンの国内シェアは約75パーセントとお話ししましたが、多くのディーラーは我々の塗装機器で修理しています。また、自動車を購入する際などにカタログを見ると、メタリック塗料やソリッド塗料と書かれています。
坂本:確かに書いてありますね。良いものはプラス何万円と高くなることもあります。
三好:それは塗装が非常に難しい高級な塗料だからです。例えば、メタリック塗料は、塗料の中にアルミ粉という細かいものが入っています。
坂本:振るとピカピカ光るものですね。
三好:そのとおりです。そのため、角度を変えると色の見え方が変わっていきます。メタリック塗装では「塗料をきれいに塗らないと、この車のこの色の輝きは出ません」などと、塗料メーカーからの条件があります。
その塗料は日々進化していきますので、我々はその塗料を塗るためにはどのスプレーガンが最適なのかをご提案しています。単純にスプレーガンがあれば、どの塗料でも塗れるわけではありません。その付加価値の高い塗料を塗るためには、適したスプレーガンが必要となります。
お客さまが最終的に求めているのは、塗装機器ではなく、塗膜なのです。きれいなものが仕上がることを求めています。
坂本:きれいな元の状態で戻ってきてくれることが大事ですよね。
三好:おっしゃるとおりです。きれいに仕上げるためのお手伝いをしているのが、スプレーガンだとご認識ください。
坂本:おそらくまだイメージが湧かず、よく工場などで自動的に吹き付けて作るような塗装をイメージしている方もいると思います。
今は自動車補修の話ですので、どちらかというと手で作業するようなものがスプレーガンなのでしょうか? それとも自動のものもあるでしょうか?
三好:人が使用するスプレーガンをハンドスプレーガンと言います。そして、ロボットの先端などに付いて使用するものをオートスプレーガンと言います。
例えば、工場の生産ラインで大量に物を流すような時には、ロボットの先端に付いているオートスプレーガンが塗装していきます。一方、ハンドスプレーガンの場合は、どちらかというと商品数が少なく、補修などの自動でできないようなところの塗装で使用されます。
自動車補修では、車に傷ができる場所は人によってまったく違いますので、職人の方々がハンドスプレーガンを使って修理しています。
坂本:主にハンドスプレーガンのほうのビジネスに取り組んでいるのですね。
三好:おっしゃるとおりです。
2-2. 顧客が求める最適な「塗り」を提案
三好:塗装以外についてお話しします。我々は液体を霧にする部分で、日々製品開発を進めています。塗料以外の液体を吹き付けるところで今我々が力を入れているのが、例えば食品関係です。
「食品関係で何に使うのですか?」と疑問に思うかもしれません。例えば、タルトとかケーキなどは表面に光沢があり、とてもツヤツヤしています。それをナパージュと言いますが、そのような液体を食液用のスプレーガンで吹き付けるのです。大量にケーキを作っていくような場所では、そのようなものが使われています。
また、家を建てる際にはキッチンを選ぶと思いますが、キッチンでは人造大理石が使われていることも多いと思います。人工大理石の上には、物を落とした際に簡単に割れないように、保護的な役割で琺瑯(ホーロー)加工といい釉薬(ゆうやく)が塗布されます。釉薬には金属を削ってしまう性質がありますので、先端をより硬く強化したようなスプレーガンで対応する必要があります。
液体を霧にして吹き付ける市場の中に塗装という分野があります。この市場の中で、我々は日々いろいろな製品を提案しています。
坂本:自動車用から、食品、キッチンなど、いろいろな事例を紹介いただきました。技術が非常に高いからこそいろいろな応用が利くのだと思いますが、その競争の源泉のようなものは、何かあるのでしょうか?
当然積み上げてきたものはあると思いますが、お客さまとの関わりなども含めて何かあれば教えてください。
三好:例えば、塗装に関して言えば、塗料が必須です。塗料メーカーは最終ユーザーに「塗料を作りました。このようにきれいな塗面になります。例えばこの車であれば、こういう塗装でどうでしょうか?」と提案します。それでは、その塗面はどのように作ればよいのか、という話に当然なります。
例えば、自動車メーカーにプレートで新色を持っていき、「このような色です」と見せます。そのプレートは、実際にはハンドスプレーガンで塗られているとします。
ところが、お客さまが「ハンドスプレーガンではなく、自動で塗装したい」と希望した場合、もともとハンドスプレーガンで作ったプレートと同じような品質の塗膜を、新たに自動スプレーガンで作り上げなければいけないという工程が生まれます。
そこで、日々塗料メーカーと情報交換を密にすることで、塗料メーカーから「この塗料をきれいに仕上げるのに最適なスプレーガンは、アネスト岩田のスプレーガンの、この型式ですよ」と、推奨してもらっています。
プロダクトアウトではなく、塗料メーカーの情報をキャッチアップして、それを開発・設計にしっかり結びつけて上市できているところは、我々の強みだと思っています。
3-1. 世界初を生み出した圧縮機で暮らしを支える
三好:空気の力で産業を支える、エアエナジー事業の概要をご説明します。塗装機器は、自動車補修や世の中にあるさまざまなものが塗装されていることから、身近に感じられたと思います。
コンプレッサーも圧縮空気も、日々みなさまが生活している中では身近にあるものです。いろいろなところで、「プシュッ、プシュッ」という空気が抜ける音を聞いたことがあると思います。例えば、ジェットコースターが最後に止まる時の「プシュー」という音です。
坂本:バスのブレーキもそうですね。
三好:おっしゃるとおりです。トラックが止まった際にも「プシュッ」という音が聞こえます。また、ノンステップバスは、乗り降りする時にグーッと傾きます。そのほか、テレビ番組で工場の製造ラインが映っていることがありますが、工場のラインでモノが流れて、機械が「カチャカチャ」と動いています。
今ご紹介したものには、すべてコンプレッサーが使われています。コンプレッサーは我々が生活していく中でどこにでもあるものです。大中小いろいろなコンプレッサーがあり、さまざまなところで活躍しています。
今後「プシュッ」と音が鳴ったら、コンプレッサーだと思ってください。我々のものではないかもしれませんが、どこかのメーカーのものが入っています。
みなさまが歯医者に行くと、口の中に「シュシュシュッ」と、風を吹きかけられると思います。それもコンプレッサーによるものです。口の中に風を吹きかける際、きれいな空気が入らなければいけません。
通常、コンプレッサーは自動車のエンジンと同様、金属同士が動くため、潤滑油が入っています。必ず車にもエンジンオイルを入れますが、油が切れたらエンジンが焼きついてしまうのと一緒で、コンプレッサーも油が切れると焼きついてしまいます。
我々の強みは、潤滑油を使わないオイルフリーコンプレッサーです。
坂本:潤滑油の混入が防げることも要因だと思いますが、オイルフリーコンプレッサーに着目した理由を教えてください。
三好:コンプレッサーは空気を圧縮します。その圧縮空気を、タイヤの空気入れに使ったり、歯医者で使ったり、工場で使ったりします。
その際に、どうしても付加価値が付けにくかったのですが、そもそもの圧縮方式を別の方式にして、他社が真似できないようなオイルフリーであったり静かな駆動音に拘って取りかかりました。それが世界初のオイルフリースクロールコンプレッサーの開発に繋がり、オイルフリー式を強化していきました。
3-2. 世界の研究施設などで活躍する真空ポンプ
三好:真空機器についてです。真空ポンプは、食品の真空パックにも使われています。また、吸着搬送という、モノを真空の力で吸って搬送する工程などに使われています。
こちらも、オイルフリー式を強みにしています。
4-1. 中期経営計画「500&Beyond」サマリー
三好:真のグローバルワン・エクセレントメーカーになるための成長戦略をご説明します。直近では成長していますが、「VUCAの時代」と言われて久しい現在は、我々が想像できないいろいろなことが起こっています。
我々は2030年以降に売上高1,000億円企業を目指しているため、これからどのようなことが起こり得るのか想像しつつ、バックキャスティングの考え方で、今ありたい姿に向かっています。
4-2. コーティング事業戦略
三好:コーティング事業戦略の主なポイントをご説明します。1つ目は、グローバル展開です。日本のシェアはすでに75パーセント以上であるため、基本的に成長余地は海外となります。海外で成長するにあたり、まだシェアが低いエリアがあるため、そこに特化して成長戦略を描いていきます。
2つ目は、スプレーガンの形態です。スプレーガンと言っても、日本と欧州ではぜんぜん違います。なぜなら塗料が違うからです。欧州は環境問題に非常に厳しいのです。
我々は塗料の匂いというと、おそらくシンナーの匂いをイメージすると思います。マジックもそうですが、シンナーの匂いが必ずします。しかし、欧州では水ベースの塗料が95パーセント以上のため、塗料の考え方がぜんぜん違います。
欧州では水系塗料を吹くためのスプレーガンが主流となり、日本の溶剤塗料を吹くためのスプレーガンとは仕様が異なります。今後は、欧州をくむ流れが日本や他国にも広がっていくと考えています。この流れをしっかりと見据えつつ、今欧州で作っているスプレーガンを日本へどのようにして展開していくのか検討した上で、戦略を描きたいと思います。
4-3. コーティング事業戦略:塗料とスプレーガンの関係
三好:塗料とスプレーガンの関係性についてです。塗料の製造では、欧州に大手化学メーカーが多く存在しています。ここは、常にキャッチアップしつつ、新しいものを生産していきます。
そのために、イタリアに開発拠点を置いています。10年以上前から塗料メーカーと協議を継続して、スプレーガンを開発しています。
4-4. エアエナジー事業戦略
三好:エアエナジー事業の成長戦略についてです。スプレーガンの国内シェアは75パーセント以上ですが、コンプレッサーは30パーセントくらいです。
これは小形コンプレッサーに限ってのことで、中形領域はまだ成長の余地がありますので、中形領域を軸に海外へ展開していきます。やはり海外は成長エンジンになります。スライドの緑の小さい丸が我々のシェアですので、この部分はまだ伸びしろがあると考えています。
中国のSCR社をM&Aしたことで、2023年度の圧縮機海外売上比率は60パーセントに上がりました。その分を加速させていきます。
坂本:今後もM&Aの可能性は、同業も含めてありますか?
三好:可能性はあります。コンプレッサーは、大気中にある空気を圧縮するため、圧力が非常に高まります。そのため空気タンクが必要です。このタンクは国によって規格が変わるため、日本のものを他の国に持っていって使えるわけではありません。
そのため、各地に合ったものを各地で生産して販売することが適しています。今後は地産地消ではありませんが、そのようなところを描きつつ、どこの拠点でどのような会社をM&Aしていくのか考えます。このような取り組みが非常に重要になってきます。
4-5. エアエナジー事業戦略:インドに新工場を建設
三好:インドは今、非常に成長している国です。我々もインドにしっかり力を入れていきたいと考えています。
中国のSCR社の中形コンプレッサーをインドで販売していますが、今の世の中はスピード感が非常に重要になっています。そして、市場にマッチしたものを常に世に送り出すことが重要なため、インド子会社の中にSCR社の製品を組み立てられる工場の新設を現在進めています。
4-6. 開発スピードの向上に寄与する本社試作棟
三好:本社での開発スピードの向上に向けた取り組みとして、試作棟を建設中です。
先ほどのインドと同じような話になりますが、現在、圧縮機の製造工場が福島にあります。しかしながら、開発部隊は本社にいるため、開発したものを試作化する際に時間差が生じてしまいます。そこで、本社内ですぐ試作できる場所が必要だと考えました。
これにより、スピーディな開発につなげていきたいと考えています。
4-7. 中長期ビジョン「Vision2030」の策定(技術・製品の進化)
三好:中長期ビジョンとして、2030年以降に売上高1,000億円企業を目指すとご説明しました。しかしながら、コーティング事業とエアエナジー事業で、我々が入り込めていない市場がまだ数多くあります。
しっかり市場分析した上で、本社試作棟等を活用しつつ、そこにマッチした新たな製品を作り、世に送り出したいと考えています。
4-8. 新市場開発・新規事業開拓
三好:現在、新規事業に力を入れています。現在我々が行っている事業とまったく異なる飛び地の新規事業と、既存事業に関連した周辺の新規事業の、2つを考えています。
まったく新しい事業となると、新たな発想や常にアンテナを高く持つことが求められます。そのようなことを実現するための取り組みも行っています。
荒井沙織氏(以下、荒井):スライド1つ目の項目に「粒子・塗膜形成装置の開発」とありますが、この製品は従来品と比べてどう違うのでしょうか? 詳しくご説明をお願いします。
三好:我々が作っているのはスプレーガンで、それでスプレーすると塗膜ができます。この塗膜を作ることが我々の仕事ですが、現状は製品をお客さまに提案し、それを購入いただいたお客さま自身が塗膜を作っています。
最終ユーザーはこの塗膜自体を求めているため、形成技術を我々が手に入れて、最終的には塗膜を作るところまでを仕事にしたいと考えています。要は、塗膜を作る作業まで当社で請け負うことが、既存事業から発展させた新たな周辺事業です。
今考えているのは、自動車板金です。自動車板金は傷ついた車をディーラーに出し、塗装されて返ってきますが、そのディーラーでは我々の機器が使われています。
それなら、我々が自社の製品を使って、最終的に板金塗装まで行うことをビジネスにできるのではないか、メーカーとして我々の製品を使って塗ることができるのではないかと考え、取り組み始めています。
荒井:新たな工場など、施設を設けるというお考えですか?
三好:BtoBか、BtoCかにもよりますが、当然そのような施設も必要になると思います。
4-9. モビリティ関連分野における新規事業開拓
三好:新規事業開拓の取り組みの1つが、モータースポーツです。「Super GT」という国内最高峰の人気のレースに、ANEST IWATA Racingとして参戦しています。
アネスト岩田を知っている方は「どうして機械メーカーがレースに参加しているの?」と必ず尋ねます。
もともと、新規事業の創出にあたり、過去にはいろいろな取り組みを行ってきました。例えば、アクセラレータープログラムや、スタートアップ企業との協業などに取り組んできました。ところが、我々自身の明確な覚悟がないこともあり、うまくいきませんでした。
昔はF1がありましたが、現在は国内でレースは以前ほど注目を集めていないと思います。
坂本:コアなイメージはありますね。
三好:レース車両にステッカーを1個貼ると、何百万円、大きいと1,000万円や2,000万円かかってしまうわけです。実際にステッカーを貼ったことで、本当に宣伝効果があるのかと思われがちです。
我々も当初は、それで宣伝になるのかと思っていましたが、それだけではないという提案を受けました。スポンサーになることで、レース場のピット裏でいろいろな企業と出会うことができるのです。
例えば、トヨタ自動車や日産、ホンダといった自動車メーカーが参戦しているため、関係者や部品メーカーの方をはじめ、さまざまな業界の方がレースの現場に参加して、毎レース訪れます。そこをビジネスの社交場として、新たな創出ができるのではないかという提案でした。
実際に1年間ほど通いましたが、いろいろなつながりができ、非常に有効だと感じています。ここではお話しできないのですが、このレースをきっかけに新規事業案件が何件か進んでいますので、このような活動を今後も積極的に続けていき、新たなビジネスに結びつけたいと考えています。
4-10. 株主還元策
三好:株主還元策についてご説明します。基本的には、成長戦略に必要な財務基盤を構築、維持し、優先して成長投資を行いつつ、株主のみなさまにバランスよく還元したいと考えています。
配当方針としては、配当性向40パーセントを目安にしており、2024年度の年間配当は1株あたり50円を計画しています。上期中間ではすでに22円配当し、下期は28円と予想して取り組んでいます。
自社株買いについても、自社株購入枠を現中期経営計画にて15億円設定し、2024年10月末時点で約90パーセント完了しています。株主のみなさまにとって、より価値のある取り組みを行っていきます。
5-1. 環境にやさしい製品の開発
三好:当社のサステナビリティ事項についてご説明します。環境対応塗料に適応したスプレーガンや、省エネのコンプレッサーなど、環境にやさしい製品の開発を続けていきます。
また、SDGsのどの項目について課題解決するかを意識して開発テーマを策定し、製品開発に結びつけていきます。
5-2. ガバナンス体制
三好:ガバナンス体制についてです。現在は社外取締役比率が50パーセント以上となっています。多様な知見を有する社外取締役を登用して、経営の公平性と透明性を確保しています。
5-3.ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する活動
三好:ESG活動の一部をご説明します。「E」の環境対応については、潤滑油を使わないオイルフリー圧縮機や水性塗料対応スプレーガンなど、環境に配慮した製品を開発、上市することによって貢献していきたいと考えています。
製品開発の他には、国際フレームワーク(TCFD提言)に沿った情報開示範囲の拡大を図っていきたいと考えています。
「S」の人材については、我々は健康経営に非常に力を入れており、3年連続で「健康経営銘柄」に選定されました。これは、業界ごとに原則1社選定されるもので、機械セクターのナンバーワンとして選ばれました。
経営資源である人・モノ・金・情報の「人」にスポットを当てて、日々取り組んでいます。
「G」のガバナンスについては、社外取締役比率が過半数となっていることに加えて、取締役意見交換会、技術報告会などを行い、取締役会の実効性を高める取り組みを実施しています。
6. 本日お伝えしたいこと(まとめ)
三好:本日お伝えしたいことをまとめます。1つ目に、当社は国内外で高いシェアを誇るハンドスプレーガンを持っています。
2つ目に、モノづくりに欠かせない空気圧縮機は、潤滑油を使用しない(オイルフリー式)という点が強みです。
3つ目に、今後の伸びしろは海外市場です。海外を成長エンジンとして取り組みを強化していきます。
4つ目に、事業では、環境配慮の視点から、国内外で高いシェアを誇るスプレーガンを始めとした塗装機器や高い省エネ性、オイルフリー式などの強みを持つ圧縮機を開発し、製造販売しています。
5つ目に、安定した利益獲得による財務基盤の構築により、既存事業における新市場開発や新規事業開拓にも資金を投入し、持続的な成長を目指します。
6つ目に、健康経営をはじめとして、従業員が働きやすい職場環境の実現を推進しています。
当社に関するご説明は以上となります。
質疑応答:中級機以上のコーティング製品が売れるようになる時期について
坂本:スライドのコーティング事業戦略に「新興国中心にリーズナブルかつ一定の仕様を満たすスプレーガンの拡販」とあります。
新興国の所得が上がり、先進国並みのクオリティの自動車やそれ以外の製品を出すようになってくると、おそらく御社が一番得意としている中級機以上の製品も売れると思いますが、この状況になるのはいつでしょうか?
また、2030年を1つの区切りとして、どのような世の中になっていくと考えていますか? 御社の強みである デジタル式空気圧力計内蔵型スプレーガンも含めて教えてください。
三好:我々が今取り組んでいる活動の一例に、フィリピンがあります。10年前のフィリピンは、言い方は悪いですが、ぶつけたような古い自動車がたくさん走っている市場でした。フィリピンの方々は今、給与を自動車に投資しているため、きれいな自動車がたくさん走っています。
しかしながら、ぶつけた際に高品質で直せるところがないのです。今までのフィリピンの自動車板金屋は、中級以下の缶スプレーが少し良くなった程度のモデルを使用して塗装していました。ユーザーの要求品質が変わって高級機器を使わざるを得なくなってきたため、自動車を修理する単価は日本と変わらないのです。
坂本:確かに人件費が安いくらいで、塗料の値段などはほぼ変わりませんね。
三好:おっしゃるとおりです。このように今、新興国でもお金をかけて自動車をきれいに維持したいという流れが来ています。常にその国の市場を見て、何が最適なのかを考えて取り組んでいきたいと思います。
坂本:意外と10年前以上に早いかもしれませんね。
三好:そうですね。私も先日フィリピンに行ってきたのですが、車に関しては10年前と様変わりしています。
質疑応答:新規事業のフィリピン展開について
荒井:新規事業について、最後まで御社で手がける塗装のお話がありましたが、フィリピンでの展開もありますか?
三好:それを進めるために、ANEST IWATA A.I.R.(アネストイワタエーアイアール)社を7月に立ち上げて、BtoC向けのビジネスを積極的に行っています。
坂本:戦略が非常によくわかりました。
質疑応答:圧縮機の海外戦略について
坂本:圧縮機について、海外シェアは約2パーセントとのことですが、御社が手がけられない部分もあり、今度は中形のほうに広げていきたいというお話でした。これは自前で進めるのか、それともどこかをM&Aするのでしょうか?
おそらくコーティング事業と違ってグローバルに進めていくのだと思いますが、このあたりのイメージを教えてください。
三好:コーティングと違って、コンプレッサーは「空気を何に使うか」ですので、付加価値は「オイルフリーなのか」「小さいモーターで大空気量を出すか」などになります。それらをしっかりと技術に落とし込んで、基本的にはオイルフリーの領域は自前で、今使っている技術をより進化させて使っていきたいと思っています。
その汎用の中形圧縮機というレンジについては、中国ではSCR社をM&Aして伸びています。同様に、各国の強いメーカーをしっかりと見据えた上で、我々に足りないものをM&Aで補完できるとなった時には、M&Aをして戦略を描いていきたいと考えています。
質疑応答:「ターンパイク箱根」のネーミングライツを取得した観点について
坂本:「ターンパイク箱根」は、自動車の絡みでネーミングライツを取得したのか、それともCSRの観点なのかを教えてください。
三好:ネーミングライツを申請したのは私自身なのですが、私は自動車が好きで、「ターンパイク箱根」によく行っていました。前の会社のネーミングライツが外れたことに気づいて、申請しました。
「ターンパイク箱根」は、土日になると車好きが集まって、いろいろなコミュニティのオフ会が開かれています。我々はビジネスとして自動車業界に深く関わっていますので、自動車業界とのつながりができるのではないかと以前から思っていました。なおかつ、従業員の福利厚生も含めてネーミングライツが有効なのではないかと考えて進めました。
「Super GT」への参戦も、「ターンパイク箱根」で我々を知っていただいたことで提案された話です。
今、ほとんどの新入社員は「ターンパイク箱根」がきっかけで当社を知ってもらっていますので、車好き、バイク好きが非常に多いです。車好き、バイク好きには機械好きが多いため、「ターンパイク箱根」のネーミングライツを取ったことでいろいろな効果があったと思います。
坂本:非常に有益な取り組みですね。
荒井:届いてほしいところにしっかりと届いていると感じました。
当日に寄せられたその他の質問と回答
当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。
<質問1>
質問:小型圧縮機台数1位は目指しているのでしょうか?
回答:日本の圧縮機市場は成熟し、価格競争が激しく利益拡大が難しい状況です。そこで当社グループは、オイルフリー式など高付加価値製品の販売を強化し、収益を確保する方針です。これにより、日本全体でのシェア1位ではなく、それぞれのカテゴリーの中でシェア1位を目指します。
<質問2>
質問:先週ログミーで開催の大気社の説明会で、「ドライ加飾システム」という従来のスプレー塗装に替わりフィルムを貼り付ける新しい方式を提案中と聞きました。環境負荷が少なく大きな設備を必要としないため自動車メーカーから多くの関心が寄せられているとのことですが、この技術は御社にとって脅威ではないでしょうか?
回答:スプレー塗装の代替技術としては驚異になります。現在スプレー塗装が行われているのはフィルムでは補えない意匠性や機能性を持つためであり、フィルム技術の発展によりスプレー塗装の需要が減少することが予想されます。しかし、当社はフィルムもコーティング技術の一部と捉え、市場の変化に適応するため、今後の対応を検討しています。
<質問3>
質問:現在新たな技術を用いた圧縮機開発などがあれば教えてください。
回答:当社グループは、商品開発力の強化を最重要テーマとし、既存の圧縮方式の新モデルや空気以外のガス圧縮分野の開発に取り組んでいます。次期中期経営計画期間中には、これらの成果を発表できる予定ですので、ご期待ください。圧縮機以外でも、新商品を継続して市場に提供し、社会に貢献することがメーカーの重要な役割と考えています。試作棟の建設を始め、必要な投資を行い、開発力の向上に努めています。
<質問4>
質問:M&Aが決定しそうな先はあるのでしょうか?
回答:M&Aについては、現在も両事業で検討を進めています。地域カバーの拡大を目的に、製品やサービスを補完する企業、最先端技術を持つ企業、素材や材料メーカーなどを対象にしています。今はまだ具体的にお話しできませんが、今後も積極的にM&Aを進めていきます。
<質問5>
質問:第2四半期決算は予想に対し下振れ着地となりました。通期予想は据え置きましたが達成の確度はいかがでしょうか?
回答:通期見通しの達成を目指していますが、第1四半期の遅れを十分にカバーしきれていません。そのため、通期予想の達成は容易ではないと認識しています。第3四半期決算を行う際に状況を再評価し、計画と一定程度の乖離が生じた場合には、見通しの修正も検討します。
<質問6>
質問:売上の中で中国事業の占める割合を教えてください。
回答:2023年度連結売上において中国が占める割合は21.4パーセント、前年度比0.1ポイント増加しました。これは主に、中形圧縮機を製造販売する中国子会社の輸出販売が好調に推移したことで増加しました。
<質問7>
質問:今後の事業展開について、1番重要視していることを教えてほしいです。
回答:既存事業において、海外市場を成長ドライバーと位置づけ売上拡大を目指していくことです。特に圧縮機はすべての製造工場に欠かせない設備であり、モノづくりが続く限り、安定した成長が期待できます。
一方で、メーカーとして製品開発のアイデアを継続的に獲得し、さらなるスピードアップが必要と感じています。このため、試作棟の活用などを通じて改善を図っていきます。
詳細は、来年度から始まる新中期経営計画で説明しますので、2025年5月の発表をお待ちください。
<質問8>
質問:以前のIRセミナーでまもなく創業100年とお聞きしました。株主向けに限らず、記念事業などは予定されていますか?
回答:現時点では具体的な記念事業はお知らせできませんが、2026年の創業100周年に向けて新製品の発表を含め、さまざまな検討を進めています。100周年がさらなる成長につながるよう取り組んでいきますので、今後の発表にご注目ください。
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