【QAあり】荒川化学工業、「つなぐ技術」と天然素材でライフサイエンス挑戦 既存事業は成長投資を結実させ150周年に向け再飛躍
第93回 個人投資家向けIRセミナー
高木信之氏(以下、高木):みなさま、こんにちは。本日は当社のIRセミナーをご視聴いただきまして、誠にありがとうございます。私は取締役社長の高木です。よろしくお願いします。
当社は、典型的なBtoBの事業会社で、一般的な知名度は極めて低い会社ですが、本日のセミナーで当社のことを少しでも知っていただき、ファンになっていただければ幸いです。
自己紹介
高木:簡単に自己紹介をしたいと思います。バブル最盛期の1988年に大学工学部を卒業し、荒川化学工業へ入社しました。その後、研究開発、営業、新規事業開発、資材戦略、さらに経営企画などさまざまな部門を経験し、2024年4月社長に就任しました。
スライド右上の写真をご覧ください。私が手にしている黄色い樹脂は松やにから得られる天然樹脂のロジンです。当社の原点とも言えますし、現在も当社の根幹を支えている原料です。この写真はベトナム国境付近の中国のサプライヤーを訪問した時に撮影しました。
では、松から松やにを採取し、ロジンに加工するまでのプロセスについて動画を見ていただきたいと思います。
松やにの採取は非常に手間のかかる作業です。当社は、その貴重な松やにから得られる天然樹脂ロジンに化学的な手を加え、さまざまな産業用途にご提供することで社会に貢献しています。
目次
高木:本日の目次です。スライドに記載のとおりの内容で進めます。
会社概要
高木:会社概要については、スライドに記載のとおりです。創業は明治9年、1876年です。
明治9年 大阪 道修町で創業
高木:大阪の道修町界隈は薬の町で、いたるところに薬を扱う商店がありました。当時、大手製薬会社である武田薬品や塩野義製薬、現在の田辺三菱製薬の前身である田辺製薬は、この道修町に拠点があり、道修町御三家と呼ばれていました。同じ頃、荒川商店も道修町近くに店を構えていました。
安政3年、1856年から創業者である初代、荒川政七が「玉屋」という屋号で生薬商を営んでいました。この玉屋を改め、荒川政七商店とした明治9年、1876年を創業年としています。生薬商の頃から松やにを扱い、多くの方々に支えられ、信用を得ることで事業を拡大し、今年で創業148年、再来年には150周年を迎えます。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):質問を挟みながら進めていけたらと思っています。創業当時は松やにを含めて商売されていたということですが、創業のきっかけがあれば教えてください。
また、ロジンの魅力や加工法を詳しく教えていただけたらと思います。よろしくお願いします。
高木:もともと、生薬と呼ばれるものの中に松やにがありました。松の成分は体に良い効果があると昔から言われていて、松やにをラインナップの1つとして取り扱う生薬商を始めたと聞いています。
ロジンについては、「工業的に同じようなものを作れないのか」ということを非常によく言われます。
坂本:天然成分ですが、化学成分として作れないかということですね。
高木:非常に手間がかかります。品質上、工業的に同じものを作ることは極めて困難でした。天然物は、さまざまな化学的な構造を持った混合物のようなもののため、これを人工的に作り出すのは難しく、ここに自然の神秘を非常に感じました。
坂本:タイヤなどに使用する天然ゴムなども同じですよね。
高木:そうですね。
坂本:天然ゴムも合成するのが難しいと言われていますね。
高木:同じようなものは作れると思いますが、完全に同じものは作れないという点は、ロジンも同様です。一部の用途では、石油樹脂と呼ばれるものが競合品として存在しますが、すべてをカバーすることは難しく、用途別にロジン系と石油系のものが使い分けられているのが実態です。
広がるグローバルネットワーク
高木:わずか数名で始まった一商店でしたが、1914年にロジンの製造を自前で始め、メーカーに転身しました。その後、事業領域の拡大、海外への進出、M&Aなどにより持続的な成長を実現しています。
引き続き、アジア地域を中心に、さらなるグローバル化と新たな領域への挑戦による成長を実現していきたいと思っています。
坂本:海外に非常に進出されていますが、いつ頃から進出されたのですか? また、現在の海外売上高比率がありましたら教えてください。
高木:当社の初海外拠点は台湾で、約57年前になります。事業内容としては、日本で行っていることそのままで、ロジン系のものをさまざまな工業用の素材に製造、加工して販売を行っています。その後、米国、中国、タイ、ドイツ、ベトナムに進出しました。比較的アジアを中心に海外展開を広げてきています。現在、足元の海外売上高比率は42パーセント程度です。
坂本:約半数弱ですか?
高木:そのうちの半分が中国です。
セグメント別売上高
高木:当社の事業は4つのセグメントで構成されています。機能性コーティング、製紙・環境、粘接着・バイオマス、ファイン・エレクトロニクスです。スライドには、今年度上期の各セグメントの売上高を記載しています。
坂本:セグメントはきれいに分かれている感じがしますが、最近の変化はありますか? 伸びている分野を教えてください。
高木:最近、業績のアップダウンが大きいため、どこを起点にするかということもありますが、事業として拡大できているのは、製紙・環境の海外事業です。台湾から始まり中国でも事業を開始し、直近では約2年前にベトナムで新しい工場を稼働させました。段ボール用の薬品で、売上高は足元で一番伸びています。
坂本:おそらくこのあと詳しくお話しいただくと思いますが、ロジンは塗ったり混ぜたりと、さまざまな用途があるのですね。これはおもしろいですね。
高木:本当にさまざまな使い方があります。
ココにも!つなぐ技術
高木:スライドに記載のイラストをご覧ください。スライドに記載されているのは、みなさまのご家庭にもふだんからあるものばかりだと思います。
この中に、目には見えない我々の技術が使用されています。粘着テープや雑誌、新聞紙だけではありません。キャラクターが風船ガムを膨らませていますが、このガムベースにも実はロジン由来の製品が使われています。
また、当社はすべてロジンをベースにした製品ばかりではありません。ロジン以外の素材を使用している製品も多数あります。例えばテレビや電子機器、段ボールもロジン以外の物を薬品に使用して貢献しています。
もともとロジンから始まっている会社ですが、ロジン以外にも領域を広げてきています。
つなぐ技術が機能を付与する
高木:スライドには、当社製品の特徴と最終用途の関係を記載しています。なお、スライドの左側に小さくロジンマークが付いていますが、マークが付いているのがロジンベースの製品です。
ここに挙げた以外にも、当社グループではさまざまな製品を扱っていますが、暮らしを豊かにする利便性・快適性の追求はもちろんのこと、環境負荷を低減する物作りも心がけています。
また、分野や素材が異なれば、それだけ新しい技術が必要になってきますので、我々の強みは、そのための技術の引き出しが非常に豊富であることと、その応用力と言えると思います。
2024年度上期の実績
高木:2024年度上期の実績については、前年比で全セグメントが増収増益となりました。連結売上高は393億2,700万円で、前年比13.4パーセントの増収です。営業利益は3億1,300万円、経常利益は同じく3億1,300万円、当期純利益も固定資産の売却益等がありましたので、16億3,400万円となりました。
連結業績と今期予想
高木:通期の予想は、連結売上高820億円、営業利益15億円、経常利益12億円、当期純利益21億円を見込んでいます。次年度の2025年度は、中期5ヵ年経営計画の最終年度です。最終年度の目標をスライド一番右に記載していますが、この目標達成に向けて全社一丸で取り組んでいます。
業績推移
高木:直近10年間の売上高と営業利益の推移です。2015年度までは営業利益は30億円台でしたが、その後、海外展開や付加価値の高い製品の成長が寄与したことで、2016年には過去最高の営業利益50億円に到達して、当社にとっては大きな飛躍の時になりました。この時期には、実は株価も最高でPBRもほぼ1になっていました。
さらに高みを目指す中、残念ながら米中貿易摩擦の影響で付加価値の高い製品が低迷したことに加え、原材料価格やエネルギーコストが上昇し、さらにウクライナ情勢が長期化しました。ドイツの水素化石油樹脂という主要製品がありますが、生産をストップせざるを得なくなり、大きな損失を計上しました。
また、新たに千葉にジョイントベンチャーで立ち上げた、同じ水素化石油樹脂の設備を持つ会社がありますが、稼働がうまく立ち上がらなかったため、償却負担だけが先行しました。さらに昨年、一昨年には、半導体の需給変動で、半導体分野での不況が重なったことが追い打ちをかけ、誠に不本意ですが、戦後初の赤字が2年続く事態になってしまいました。
ただし、ドイツの生産拠点のシャットダウンに伴う損失は、すでに落ち着きました。千葉の新会社についても、稼働安定とはまだ言えませんが、ようやく動き出しています。
さらに、半導体周りの低迷も底を脱し、かなりの勢いで回復してきています。したがって、今期はなんとか黒字回復に向けた路線にあると言えると思います。
黒字化に向けた進捗状況
高木:2年連続の赤字からの、黒字化に向けた進捗状況についてもう少し詳しくご説明します。
スライドのチャートの各事業セグメントに記載した数値は、前年比での増減額です。収益を大きく押し下げていた新会社・千葉アルコン製造の稼働改善に加えて、設備増強の投資を実施した非常に付加価値の高い光硬化型樹脂や、HDD用精密研磨剤、半導体関連のファインケミカル製品が、昨年、一昨年の低迷から急回復しています。
さらに、冒頭に少し触れましたが、アジア地区での段ボール用の紙力増強剤が拡販できていることから、2024年度のセグメント利益は18億円まで回復すると予想しています。
坂本:黒字化に向けた進捗状況についてお話しいただきました。すでに中間期を過ぎていますので、今期の黒字はかなり確実視できるかとは思っています。
赤字から黒字に変化してくる中で、おそらくいろいろな改革やコストの調整などを行ったと思います。中期経営計画についてお話しいただいてもよいのですが、今後の伸びについてどのようにイメージしていますか?
取り組んだ内容についてもお話しいただいたので、全体感についてお聞かせください。また、「今後はこの部分の需要が増えるだろう」といった予想も含めて、教えていただけたらと思います。
高木:今年度は今のところ黒字に回復する見込みですが、利益の水準としてはまだ低いと考えています。過去最高を記録した営業利益50億円台を目指していますが、それはあくまで通過点だと考えています。
そのためになさなければならないのは、新会社の千葉アルコン製造の稼働を、さらに上げていくことです。実際のところ今、この損失がかなり足を引っ張っています。
また、大きな赤字の中でも「今後、成長していくだろう」という分野については、設備投資を継続しています。その分野とは、スライドにも記載していますが、光硬化型樹脂、HDD用精密研磨剤、半導体関連のファインケミカル製品の3つです。
この3つの増強投資を昨年、今年にかけて行いました。次の中期経営計画が再来年から始まりますが、このタイミングでしっかりと回収し、上乗せしていきます。
さらに、事業ポートフォリオ改革にも取り組みます。その中で取捨選択しながら、全体の収益を底上げしていくことで、過去最高水準を1つの通過点として、さらにその上を目指していきたいと考えています。
坂本:過去最高を記録した営業利益50億円台の利益が出ていた時には、どのような状況・環境だったのか教えてください。今とは何か異なるのでしょうか?
高木:2016年度、2017年度の営業利益はほぼ50億円でした。その当時は、今より国内事業がもう少し元気でした。今は原材料価格やエネルギーコストの上昇が、かなり収益的に国内事業の足を引っ張っています。
また、ドイツの水素化石油樹脂の生産拠点をシャットダウンしましたが、その当時は市況も非常に良く、逆にかなり利益を出していました。
坂本:冒頭で稼げたというお話をうかがいましたが、そのような状況だったのですね。その環境はもう戻ってこないのでしょうか?
高木:水素化石油樹脂については、今は千葉アルコン製造の稼働が低いため、固定費と償却だけが先行している状態です。稼働が安定すれば、それなりに貢献はしてくれると思います。
坂本:需要自体はまだ切れていないイメージですか?
高木:需要にも汎用的な需要と、付加価値の高い需要があります。汎用的な需要は価格的に非常に厳しい分野ですので、収益を稼ぐのは難しいと思っています。
坂本:なるほど、コモディティ化してしまっているわけですね。それでしたら、そこで勝負しないほうがよいですね。
高木:おっしゃるとおりです。付加価値の高いところにしっかりと拡販していくことで、その事業は儲けていきたいと考えています。
荒川化学グループの独自製品
高木:当社の強みとも言える製品群をご紹介します。当社には、独自の技術力を用いた、強みと言える製品がたくさんあります。
その中でも、各セグメントにおいて今後の当社の成長ドライブの中心となってくる製品について、ご紹介したいと思います。
光硬化型樹脂(ビームセット・オプスター)
高木:先ほどから何度か触れていますが、光硬化型樹脂は、紫外線を当てることで瞬時に固まる樹脂です。
当社独自の樹脂設計技術と配合技術を用い、機能性フィルム用のコーティング剤として、スマートフォンやディスプレイ関連分野で利用されています。
昨年、一昨年は、半導体不況の影響も強く受けて売上が落ち込みましたが、今期は回復モードで過去最高水準に近いところまで回復しています。
紙力増強剤 (ポリストロン)
高木:製紙・環境事業の紙力増強剤「ポリストロン」は、段ボールなどに使われる板紙用の薬品で、古紙のリサイクルには欠かせない製品です。
国内では、ほぼ浸透しています。これからはASEAN地区を中心に、まだ経済成長していく国々で拡販を目指していきます。荒川ケミカルベトナムが稼働したことにより、順調に売上を伸ばしてきています。
水素化石油樹脂 (アルコン)
高木:水素化石油樹脂「アルコン」は、当社が世界で初めて工業化した製品で、上市から約60年経ちます。世界経済が成長するとともに用途を広げながら、グローバルに展開してきています。
先ほど触れたように、ウクライナ情勢の影響もあり、2023年にドイツでの生産を終了した関係上、2023年で売上が大きく落ちています。
しかしながら、「アルコン」は競合品に比べて品質が非常に良いと評価されています。今後は医療用の貼付剤やプラスチック用の改質剤といった付加価値の高い領域で、千葉アルコン製造の製品をはじめとして拡販していきます。
現状は千葉アルコン製造の稼働安定に手間取っていますが、この問題をできるだけ早期に解決し、売上を過去の水準以上に戻したいと考えています。
ロジン誘導体 (ロジンエステル・樹脂エマルジョン等)
高木:ロジン誘導体は昔ながらの商品です。主に粘着剤や接着剤の用途に向けて、お客さまが使いやすいかたちにロジンを化学変性させた製品です。
石油由来の素材では、なかなか代替が利かない特徴や用途などがあり、非常に長い期間、活用されています。また、昨今では「天然由来」という要素が脚光を浴びています。
売上については、昨年は中国の経済の不振等で落ち込みましたが、再び回復基調になっています。
トピックスとしてスライドに記載していますが、当社の樹脂エマルジョンは、ウォーターベースの環境対応に向けた製品です。
主に食品ラベルなどの用途で活用されており、国内では圧倒的に高いシェアを有しています。この製品が、独創的かつ極めて優れたものだと日本接着学会より評価され、「2024年度日本接着学会技術賞」を受賞しました。
ファインケミカル製品
高木:ファインケミカル製品は、先端の半導体関連などの受託事業です。昨年、一昨年は半導体不況の影響を受けて、売上が大きく落ち込みました。しかしながら、今期に入って急激に回復してきており、ほぼ過去最高水準に到達しそうな状況です。
生成AIなどでの需要は今後さらに伸びていくと見込んでおり、今月12月4日に水島工場に新しい設備が完成し、竣工式を行ったばかりです。
精密研磨剤 (Neopolish)
高木:精密研磨剤は、100パーセント子会社の山口精研工業で扱っているHDDのアルミ磁気ディスクの研磨剤で、非常に高いシェアを有しています。
昨年、一昨年は、データセンター投資が急激に冷え込んだことで、売上が大きく落ち込みました。今期は生成AIの恩恵もあって、急回復しており、過去最高水準になります。
こちらも昨年、設備増強で第2工場が完成し、これからの需要増加にもしっかりと対応できるように備えています。
地域別・セグメント別売上高比率
高木:スライドは、当社グループの海外売上高比率をセグメント別に示したものです。
冒頭でご質問いただきましたが、海外売上高比率は約42パーセントではありますが、各セグメントにおける地域別の売上高比率は、それぞれ異なる状況であることがおわかりいただけるかと思います。
事業ポートフォリオ改革
高木:成長分野への投資と新規事業創出についてご説明します。当社は事業ポートフォリオ改革を加速させることで、収益性の向上を進めています。
スライドに記載のとおり、各事業の製品を「のばす」「かせぐ」などの4つの象限にカテゴライズし、経営資源の投入判断や事業の撤退判断について徹底的に議論し、適切に判断するようにしています。
成長市場に向けた生産能力増強
高木:その議論の結果、成長市場に向けて経営資源を投入してきています。スライドでは、この1年、2年で投資した案件をご紹介しています。
今後需要が伸びていく成長市場である、半導体関連、生成AIに関連するデータセンター用のHDD用精密研磨剤、電子部品の工程用部材などに使われる光硬化型樹脂に対して投資を行いました。
赤字の中でこの3つの投資を行うのは非常に厳しかったのですが、しっかりと将来に備えた投資を進めてきています。
新規事業関連
高木:新規事業についてご紹介します。当社は創業以来携わっている、天然素材のロジンに関連した事業に加えて、人と自然素材を当社の技術でつなぐことを目指した、ライフサイエンス事業の立ち上げに注力しています。
アグリや再生医療、松由来の成分を活用したヘルスケア、農業、コスメなどのライフサイエンス分野での事業の創出は、当社にとっても経験値が少ない分野ではありますが、当社が持っているコア技術を活かすべく、産官学連携も積極的に進めています。
約1年前に資本参加したベンチャー企業のSoPros社が有する、微細藻オーランチオキトリウムを用いた新製品についても、2025年での上市に向けて両社一丸となって取り組んでいます。
また、水系ポリマー技術関連については、もともと当社のコア技術なのですが、昨今非常に注目されているPFAS規制に対応した紙の耐油コーティング剤の開発にも力を入れています。
新規事業関連
高木:先ほどのスライドにもあったSoPros社は、ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター株式会社(UMI)が運営しているベンチャーファンドへの出資を通じて、2024年1月に資本参加しました。
「ω-6DPA」を多く含有する微細藻であるオーランチオキトリウムの薬理作用に着目した事業を展開しており、当社が目指すライフサイエンス事業とのシナジー効果が発揮できるように取り組んでいます。
ただ今進行中の第5次中期経営計画の期間中において、微細藻類事業などを含むライフサイエンス関連の新事業に向けた投資は約20億円を予定しています。
成長分野&新規事業投資関連記事
高木:これはあくまで参考ですが、微細藻類市場への参入および成長市場に向けた設備投資を新聞記事に掲載いただきました。
坂本:さまざまな関連事業や、もともとのロジンを活かしたお仕事、そこに付随するもの、それ以外も含めてお話しいただきました。また、SoPros社もそうですが、微細藻類などのライフサイエンス分野への参入は、どのようなきっかけで行われたのか、今一度教えていただければと思っています。よろしくお願いします。
高木:当社はもともと天然素材としてのロジンには、創業以来取り組んでいましたが、実はロジンのことはよく知っていても、例えば松全体となると、よく知らないという状況でした。
坂本:昔は松の根を油にしていましたね。
高木:そうですね。おっしゃるとおりで、ロジンはあくまでも松やにの樹脂分だけであって、その油分のところは、当社は事業としては展開していませんでした。さらにさかのぼっていくと、例えば松の葉に含まれるような成分にも取り組んでいませんでした。
坂本:松ぼっくりなども含めてですよね。
高木:そのとおりです。そのようなものも、ライフサイエンスの分野でいろいろ研究していくと、実はさまざまな効果があることがわかってきて、それをなんとか当社のライフサイエンス事業の中で事業化していきたいと考えました。
坂本:そのため、松が中心になるところがあるのですね。
高木:松だけではなく、人と自然素材をつないでいくというかたちで、松以外の自然素材を探している中で、微細藻類にこのようにしてタイミングよく資本参加できる状況になったということです。
サスティナビリティへの取り組み
高木:サスティナビリティへの取り組みです。当社は、経営理念に基づいた持続可能な成長の実現に向けて、さまざまな社会的課題に対応すべく取り組んでいます。2050年におけるCO2排出量実質ゼロに向けた取り組みについては、当初中期計画の目標としていた2025年度の排出量30パーセント削減に対し、2023年度の時点ですでに50パーセント以上の削減を前倒しで達成しました。
また、働きがい向上の面では、2024年9月に厚生労働省より、「えるぼし」の2つ星認定をいただきました。引き続き、安全文化の醸成や働きがいと生産性の向上、経営戦略を支える人的資本投資などを通して、個人と会社がともに成長できる環境作りに取り組んでいきます。
荒井沙織氏(以下、荒井):御社はサスティナビリティへの取り組みがかなり進んでいますが、気候変動やCO2の削減に対して、化学産業が果たす役割についてどのようにお考えでしょうか?
高木:非常に大きなテーマなのですが、我々の暮らしが便利になる中で、我々のケミカルという業界の貢献は非常に大きかったと思います。ただその一方で、環境破壊やCO2の排出量の増加による気候変動などの弊害があったのも事実だと思います。
そのような中で、化学企業としては持っている技術を投入してCO2の固定化を行ったり、今の石化由来の製品をバイオマス由来の製品に置き換えていったりするなど、今まで培ってきた技術を逆に貢献させることで、このようなCO2削減に貢献できると思いますし、やるべきだと思っています。
そのような中で、もともと天然素材を扱っていた当社は、より光が当たりやすい環境にあると考えており、それだけみなさまの期待に応えなければいけないと感じています。
人財育成・活躍への取り組み
高木:当社の人財は、当社の発展を支える基盤となっています。一人ひとりが自ら考えて行動し、お互いの考えを尊重しながら、持っている能力を十分に発揮できるよう、ここに1例を示していますが、さまざまな施策を実施しています。
次代へつなぐ取り組み
高木:次世代へつなぐ取り組みについてです。当社が2016年から松の植林活動を行っている岡山県の矢掛町にある「マツタロウの森」を舞台とした、国連機関である国際連合食糧農業機関(FAO)の傘下の青少年向けのSDGsの教育公式プログラムがあります。「YUNGA Forests Challenge Badges」というプログラムですが、これを2023年度より2年連続で、矢掛町の小学生を対象に実施しています。
これからも「楽しく化学する」ことを基本として、植林活動を通して子どもたちに体験学習を提供していきたいと考えています。
株主構成情報
高木:株主・投資家さまとの関わり合いについてです。当社は、個人投資家のみなさまに支えられています。本日のような個人投資家向けの説明会などにも積極的に参加し、株主・投資家さまとのコミュニケーションを大切にしていきます。
資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応
高木:資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応についてご説明します。当社のPBRは、極めて低い水準にあるということは認識しています。
PBR改善のためには、スライドに示しているように、収益性の改善と将来に向けた期待度を両輪としたROE、PERを高めていくことが必須であると考えています。
そのためには、まずは2024年度の黒字化を必達とし、成長市場に向けた設備投資の増強を行った事業については、これからしっかりと収益を回収します。新たな取り組みとしてのライフサイエンス事業については、早急に商品化に結びつけ、いろいろな天然物を人とつなぐことで世の中に貢献できるよう、しっかりと進めていきます。
各事業での投下資本をいかに効率よく回収していくかということについても、現在はROICを重要な指標とし、事業の評価軸の1つとして導入する準備を行っている最中です。
配当金の推移
高木:配当金の推移についてです。当社は安定的かつ継続的な配当を維持しつつ、積極的な株主還元策に取り組むことを基本方針としています。2023年度まで当社は初の2期連続の赤字でしたが、内容的には一過性の損失による要因が大きいこともあり、さらに成長市場における中長期的な需要増加に備えた設備投資が先行していることも踏まえ、配当金は下げることなく維持しました。
今後も配当性向については、40パーセントを目途として株主のみなさまに還元していきたいと考えています。
株価推移
高木:株価の推移です。
見通しに関する注意事項
高木:以上で私からのご説明を終了したいと思います。ご清聴ありがとうございました。
質疑応答:M&Aおよび事業の取捨選択について
坂本:「業界再編の買収の可能性についてはどのようにお考えでしょうか?」というご質問です。
けっこうざっくりしており、お答えが難しいかと思いますが、成長に対するM&A、および事業の取捨選択の部分を含めて教えていただけたらと思います。
高木:当社の基盤となっている製紙薬品などは、国内では当社を含めて3社しかありません。
坂本:寡占化しているイメージですよね。
高木:そのため、これはなかなか難しいのが実情です。
坂本:買収して2社にしても、難しいところですね。
高木:そのとおりです。そのため、当社としては今後事業ポートフォリオ改革を進めていく中で、それぞれの事業について当社がベストオーナーなのかというところをしっかり考え、必要によってはM&Aで増強していきます。場合によっては、その逆ということも常に考えながら展開していきます。
質疑応答:創業150周年の記念配当や記念事業について
坂本:「150周年の節目に、記念配当や優待、あるいは別に御社の事業として何か行われますか?」というご質問です。
高木:過去から10年ごとに、内輪でのパーティなどは行っていましたが、派手なことは実施していません。また、記念配当については、過去に実行したことはあります。今回行うかどうかは、今の時点ではまだ決めていません。
坂本:ありがとうございます。増配にこだわる会社は、記念配当を行うと次の年のハードルが上がってしまうため、個人的には、そのへんは最近減ってきたイメージを持っています。そのあたりは、その時期になったらアナウンスいただければと思います。
高木:その分がまったく気にならないぐらい収益を上げて、増配できればとは思います。
坂本:それであれば非常によいと思います。配当に対するお考えなども教えていただき、ありがとうございます。
質疑応答:マスコットキャラクターについて
荒井:「今回の資料に表紙からたくさん登場しているマスコットキャラクターの名前は何でしょうか?」というご質問です。
高木:紹介できていませんでした。申し訳ありません。男の子と女の子がいるのですが、男の子は「マツタロウ君」という名前です。女の子は「ロジーナちゃん」です。
坂本:かわいいですね。
高木:実は「マツタロウ君」は当社の創業130周年の時の記念事業の1つとして生まれ、もう少し一般的な知名度を上げていきたいということで出しています。「ロジーナちゃん」は、その10年後の創業140周年の時に生まれました。
設定としては、松の木の妖精です。「君」や「ちゃん」を付けましたが、基本的には妖精ですので性別はなく、見た目だけで「君」や「ちゃん」を付けています。
荒井:130周年、140周年とくると、150周年にもまた何か、お仲間が増えるのかと期待してしまいます。
坂本:楽しみになりますね。
高木:乞うご期待ください。
坂本:「アルコン君」などはどうでしょう?
荒井:かわいらしいですね。かなり人気が出そうです。
高木:「LINE」スタンプもあります。
荒井:どのように検索すれば「LINE」スタンプは出てくるのでしょうか? 「マツタロウ」で出てきますか?
高木:「マツタロウ」で出てくると思います。
荒井:ぜひみなさま、使ってみてはいかがでしょうか?
坂本:非常におもしろかったです。では最後に一言いただいて、締めたいと思います。
高木氏からのご挨拶
高木:みなさま、本日はご視聴いただきましてありがとうございました。当社は冒頭にもお話ししましたが、BtoBの素材企業ということもあるために、非常に知名度が低いというのが悩みの種です。
しかし、このように地道にIR活動を続けていくことで知名度を上げ、2024年度は必ずや黒字を必達し、2025年度、2026年度には飛躍的に利益を向上させていくことで、現在低迷している株価の上昇およびPBRの改善に全力を傾けていきます。みなさま、引き続きよろしくお願いします。本日はありがとうございました。
当日に寄せられたその他の質問と回答
当日におよび事前に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。
<質問1>
質問:チャイナリスクはあるのでしょうか、影響はないのでしょうか? 地政学的リスクについてどこまで想定されていますか?
回答:原料面では10年以上前ではロジンの調達国として非常に高い依存をしていた時期もありましたが、リスク分散の意味でもロジンソースの多様化の強化を図ってきたことでその影響は軽減してきています。中国での操業においても、安全・環境対策を徹底し、幹部登用だけでなく、現地社員の育成による情報入手のスピードと正確性の向上にも取り組んでいます。他の国の拠点への影響は限定的であり、また、中国内での大型投資は予定しておらず、既存設備の生産性を高める投資を中心としています。
また、地政学的リスクとして仮に台湾有事が生じた際は、従業員の安全確保を第一に、さまざまな情報ソースから最新の情報を入手し、危険が予想される周辺地域への出張を自粛するだけでなく、緊張・緊迫度合いの段階に応じて全員国外退避などの対応も想定しています。事業面ではいずれも地産地消がメインなので、他国拠点への影響は限定的であると認識しています。
<質問2>
質問: 2019年以降、6年間にわたり投資CFを60億円以上かけてますが、何に使用しているのでしょうか?
回答:固定資産の取得による支出が主ですが、設備の環境・安全対策強化をはじめ、ベトナムの拠点の設立にともなう製紙用紙力増強剤などの製造設備、千葉アルコン製造の水素化石油樹脂設備、山口精研工業のハードディスク用精密研磨剤の第二工場の建設、富士工場での光硬化型樹脂設備、水島工場でのファインケミカルプラントなど成長分野での中期的な需要増加を見据えた増強投資が主になります。
大きな設備投資は概ね終了し、回収フェーズにシフトしていきます。また2024年度の投資CFは固定資産(社宅等)や投資有価証券の売却を進めたこともあり、22億円程度に縮小する見込みです。
<質問3>
質問:今後の事業展開について、1番重要視していることを教えてください。
回答:時代の変化のスピードに追随していけるように当社の事業ポートフォリオ改革のスピード感や柔軟かつ強靭な企業力が重要だと考えています。
企業の持続性という意味でも収益力のない事業をいつまでも続けるというわけにはいきませんので如何に省力化して、「かせぐ」状態にするもしくは「やめる」の区分にいち早く判断していくとともに、将来の楽しみとなる新しいライフサイエンス事業の柱となる候補を創出していくための資源を投入できるようにサイクルのスピードをもっとあげていきたいと考えております。
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