「ポートの経営にすべてを懸けている」と言い切る春日社長 苦しい時こそ圧倒的に大胆な決断でビジネスチャンスをつかむ
~新morichの部屋 Vol.14 ポート株式会社 代表取締役社長CEO 春日博文氏~
福谷学氏(以下、福谷):「新morichの部屋」が始まりました。今回で第14回目になりました。ここ最近、肌寒くなりましたね。
森本千賀子氏(以下、morich):急に秋めいてきましたが、まだまだ暖かくないですか?
福谷:暖かいどころか暑い日もありますよね?
morich:ありますね。寒いのは苦手ですが、暑いのは大好きな私にとってラッキーです。
福谷:なるほど(笑)。ということで、先月で2年目となり、1周年記念も終わりました。今回で第14回目と、突き進んでいる「新morichの部屋」ですが、今宵もmorichさんにお会いすることをとても楽しみにしていました。
morich:私もです! ガス欠状態になって、そろそろお会いしたいといった感じでした。
福谷:それはものすごくうれしいです! 今日も多くの方にご覧いただけると思いますが、初めての方々もいらっしゃいますので、まずはmorichさんの自己紹介からお願いできますか?
morich:初めての方に向けて、メッセージを送りたいと思います。初めまして、株式会社morichの森本です。もともとは新卒でリクルートに入り、そこで約25年間、人と組織のマッチングということで、転職エージェントとして働いていました。
私にとって転機となったのは、東日本大震災でした。報道される光景を目の当たりにし、人生に悔いがないように生き切りたいと思ったのです。リクルート以外でも、社会に貢献できないかということで2011年から副業を開始し、いろいろなテレビに出たり、本も書いたりしています。プチ自慢をすると、今年は10月、11月に新刊が3冊出る予定です。
福谷:3冊もですか!?
morich:そうなんです。そのような副業を始めました。リクルートは2014年に上場しますが、上場した途端、いろいろ窮屈になっていったため、自分のやりたいことだけに時間とエネルギーを投下したいと思い、2017年に独立しました。それからは、本日のゲストもそうですが、組織のピラミッドのCxOといわれる経営幹部からのキャリア支援を行っています。
また、私のソウルワークとなっているスタートアップ応援団ということで、社外役員や顧問に出資するなどのサポートをしているだけでなく、現在は文部科学省のアントレプレナーシップ推進大使でもあります。少し仰々しいですが、アントレプレナーシップマインドを子どもたちに伝えるミッションも担っています。
実は小さな頃からずっと「徹子の部屋」を観ていました。49年間も続いている番組だそうですが、「いつか私もやりたい」という思いをずっと持っていたところ、「morichの部屋」のお話をいただきました。私にとっては、毎月のミッションというか、使命だという思いで、今日もここに来ています。
福谷:ありがとうございます。「morichの部屋」は2年目に突入していますが「徹子の部屋」は49年!
morich:「抜かすぞ」と、「いくつまでやるのか?」といった感じですね。
福谷:回数を重ねるごとに、上場企業の経営者をはじめ、たくさんのすばらしいゲストの方にお出でいただいています。しかし、上場企業の経営者がふらっとお話する機会というのは、実はあまりないように思います。
morich:そうですね。自分らしさを出していただけるような場は、なかなかないですよね。
福谷:お酒を飲みながらフラットにお話ししていただき、ご自身のことや今後のビジョンを語る場として、「morichの部屋」はたくさんの方にご覧いただいている番組に成長しました。お話の中から学びや知識を吸収していただきながら、日本経済の成長に貢献できればと思っています。
「1年経ったなぁ」と、いろいろなことを思い出して感極まっています……。
morich:当初は「3回くらいしか続かないのではないか」という意見もありました(笑)。
福谷:それでも多くのゲストをお招きし、いろいろなお話をしてきました。これが「morichの部屋」ですので、引き続き応援いただければと思います。
春日社長の自己紹介
福谷:それではmorichさんに、本日のゲストのご紹介をしていただきます。
morich:お会いするのをとても楽しみにしていました。ポート株式会社代表取締役社長CEOの春日博文さまです。本日はようこそいらっしゃいました!
福谷:ありがとうございます!
morich:春日社長の場合、とりあえず乾杯したいという感じですか?
春日博文(以下、春日):そうですね。飲みながらのほうがいいかなと思います。
morich:それでは、飲みながらということにしましょう。一口ぐいっといっていただいてから、簡単に自己紹介をお願いします。その後で、根掘り葉掘り聞いていきますので、まずはさわりの部分をお願いします。
春日:わかりました。春日博文と申しまして、ポート株式会社の代表をしています。1988年生まれで、現在36歳です。2011年に大学卒業と同時に創業しました。
morich:東日本大震災の年ですね?
春日:まさに先ほどお話されていたように、私も東日本大震災を目の当たりにして起業を決意した人間の1人です。
morich:私と同じだったのですね。
春日:2011年に学生起業をしたわけですが、そこから7年半くらい事業を展開しながら、ベンチャーキャピタルからも出資していただき、事業投資をしながら、会社がある程度大きくなってきた2018年末、ちょうど私が30歳の時に上場しました。
2018年から数えると、上場企業の経営者としての期間は、未上場時代の経営者だった期間と同じくらいの年数になりました。
福谷:ありがとうございます。
morich:私はいつもシャワーを浴びていますよね? 実は春日社長のプライベートは各メディアがあまり触れていません。
福谷:morichさんは、ゲストの情報ををひたすら調べることを「シャワーを浴びる」と表現しています。根掘り葉掘り調べることが、お迎えの仕方になっているのです。
morich:今日は謎です。下までスクロールしてもなかなか出てきません。
福谷:それでは、お話しする中でいろいろと引き出していきましょう。
morich:30歳で上場されたわけですから、やはり幼少期が気になります。どのような少年だったのですか?
春日:幼少期ですか? 本当に何もないんですよね(笑)。
morich:何もないのですか(笑)? それでも上場会社の社長になられたわけですから、みなさま安心したかもしれません。
春日:ネタがないくらいに、目立つことはあまりありませんでした。もちろん、小学校で応援団長になるとか、その程度のことはありましたが、例えば勉強にしても全国トップクラスだとかというのではなく、誇れるものは思い浮かびません。
morich:何かの記事で読みましたが、ご両親は学校の先生ですよね?
春日:そうですね。経営者家系ではありません。教員だった父も定年を迎えました。
morich:私の周りにも学生起業家はたくさんいますが、親御さんが商売人、経営者、起業家というケースは実に多いです。
春日:父方の祖父も起業家ではありませんでした。
morich:そうでしたか。厳しい環境で育ったという印象ですか?
春日:そうですね。他の家族が羨ましいと思うくらいに厳しい父でした。
morich:それは、しつけに関してですか?
春日:そうですね。怒鳴られると終わらないこともありましたし、ほしいものがあってもあまり買ってもらえませんでした。中学時代は携帯電話も持っていませんでした。
morich:周りは持ち始める時期ですよね?
春日:私の時代は中学生になるとほとんどが持っていました。
morich:そうですよね。では、かなり制約された中で育ったという感じですか?
春日:そうですね。親は私立高校の教員で、私も私立高校に行こうと思っていました。しかしそうなると、父にとって息子が競合高校に行くことになります。そこで、もし私立に行くのなら自分の学校だと言ってきました。
morich:えぇ!? 本当ですか? それはちょっと、エゴですね(笑)。
春日:エゴですね。そのため、公立高校に行きました。落ちたら困るなと思ったからです。
morich:確かにそうですよね。教員の息子さんが不合格というのは、親としてはなかなかきついことですからね。
春日:そうですね。公立高校に合格しないと父の高校に行かざるを得ないという状況でしたので、なんとしてでも公立高校に受かろうという気持ちはありました。
morich:そうでしたか。中学、高校でスポーツはされていましたか?
春日:小学校まではサッカーをしていましたが、中学校では卓球をしていました。そんなに実績があるわけではなく、県大会、関東大会レベルです。
morich:県大会には行かれたのですか?
春日:そうですね、一応卓球ではそれなりにがんばりました。
morich:すみません。卓球部出身という感じは1ミリもしませんでした(笑)。
春日:ガタイ的にはそうかもしれませんね(笑)。
挫折を味わった大学受験
morich:その後、公立高校に進学されて、高校時代の思い出はありますか?
春日:高校時代は、もう本当に挫折しかありませんでした。私は学習院大学を卒業しているのですが、もともと大学への進学は指定校推薦を予定していました。
morich:指定校で行けたのですか?
春日:そうですね。しかし、もう少しいい学校に行けるだろうと思い、指定校推薦を辞めました。それで一般受験することにしたのです。
morich:なかなかのチャレンジャーですね!
福谷:すごいですね。
春日:しかし受験したものの、すべて不合格になりました。
morich:本当ですか(笑)?
春日:それで、浪人することになったのですが、それもいいかもしれないと思っていました。
morich:一度くらいは、経験としてもいいかもしれませんね。
春日:しかし、最終的に受かったところが、学習院大学しかなかったのです。
morich:そうですよね(笑)。話のオチとしてものすごく笑えますね。
春日:そこで、私は大きな挫折を味わうことになりました。
morich:一浪までしたのですものね。勉強はかなりされたのですか?
春日:そうですね。浪人期間は自分なりに相当勉強しました。
morich:ちなみに第1志望校はどこでしたか?
春日:その時はやはり早稲田大学など、私立のトップ校にいきたいという気持ちはありました。しかし結果としては良かったと思います。学習院大学の経済学部を選びましたが、それ以外は、ほぼすべて文学部を受験しました。もともと夢がなかったので、学校の教員になろうと思っていたのです。
morich:お父さまの背中を見ていたからですか?
春日:これについても父は厳しくて、大学に行ったら教職課程を取らなければいけないというルールでした。そうなりますと、選べるのは教育学部か文学部くらいです。基本的にはそこしか受ける選択肢はありませんでした。
福谷:なるほど。
春日:しかし、たまたま学習院大学の経済学部を受けていたのです。
morich:何かの記事に、バレンタインデーの日で予定がなかったから受験したとありました(笑)。
福谷:morichさん、しっかりシャワーを浴びています(笑)。
morich:そのようなことで運命が決まったわけですね。彼女がいなくて良かったと書いてあったのを思い出しました(笑)。
春日:そうですね(笑)。指定校推薦の件もありましたから、受けておこうと思いました。
morich:一応、受けておこうといった感じですか? まさか、実際に行くつもりはなかったですよね。
春日:もちろん、まったくありませんでした。受験の感触がすごく良かったので、「浪人中にがんばった成果が出たな」と晴れ晴れした気持ちで過ごしていたら全部落ちてしまいました。
morich:では、手応えはかなりあったのですか?
春日:めちゃくちゃありました。
morich:それは大きな挫折ですね。
春日:明治大学の入試も受けていましたが、上智大学の受験は2月の早い時期にありますよね? 上智大学には受かった感触しかなかったので、明治大学の入試を途中で飛び出して、掲示板を見に行ったのです。
morich:合格発表の日だったのですね?
春日:受かっていると思ったのです。掲示板を見に行ったら落ちていたので、明治大学の受験をする気もなくなってしまいました。
morich:棄権したのですか?
春日:そうですね。棄権しました。
morich:本当ですか!?
春日:それくらい手応えがあったのです。
morich:逆にそれは強烈なショックでしたね。絶対に番号があると思って行ったら、なかったというのが現実ですからね。厳しいかもしれないと思いながら見るのとは違いますよね。
春日:そうですね。結論としては、浪人していた1年間はあまり意味がありませんでした。
morich:意味がないとは思いませんよ。
春日:それでも、結果としては意味がなかったと思います。
morich:指定校推薦で進学しておけばよかったわけですからね。
春日:やはり結果は大切だと思います。結果が出なければ、良い思い出にもならないということを痛感しました。ある種の原体験だったかもしれません。
morich:逆に言いますと、そのような学びがしっかりあったということですよね。結局は、消極的選択というかたちになったわけですね?
春日:そうですね。二浪するわけにはいきません。そもそも、私には勉強のセンスがないのだと気づきました。
学生起業家の先輩に背中を押されて
morich:学習院大学に進学されたわけですが、大学生活はいかがでしたか?
春日:大学1年生の後半からビジネスを始めました。
morich:何がきっかけだったのですか?
春日:大学1年生の時に、大学4年生の先輩と懇親会のような会合がありました。
morich:中央大学の方ですよね?
春日:ご存じだったのですね(笑)。
morich:頭の片隅に入っていました(笑)。
春日:インカレのイベントでした。
morich:学習院大学の方なのに、なぜ中央大学の方と知り合ったのかなと思いながら読んでいた記憶があります。
春日:そのイベントで知り合った中央大学の4年生の方が、学生起業をしていたのです。当時は学生起業自体の数はそこまで多くありませんでした。そのような人に初めて出会って、ものすごく感化されたといいますか、背中を押してもらいました。勉強はできませんでしたが、当時は資格のための勉強に力を入れていました。
morich:ちなみにどのような資格ですか?
春日:経済学部でしたので、公認会計士です。
morich:勉強しておこうかなと思ったのですね。
春日:そうですね。しかし、間違いなく落ちるとは思っていました。
morich:落ちると思いながら勉強されたのですか?
春日:最初から勉強のセンスはないと思っていました。
morich:落ちると思いながら勉強するというのはなかなかつらい話ですね。
春日:たいして勉強はしなかったのですが、その方に「なぜ資格の勉強をしているの?」と言われて、その時の私は答えられませんでした。
morich:公認会計士になりたいという気持ちがあったわけではないですものね。
春日:おそらく、大学生くらいまではなんとなくレールの上を生きているじゃないですか? 大学生になったら、選択肢は部活に入るか資格の勉強をするかくらいのものです。
morich:みんなそうですよね。
春日:そのことをすごく正され、本当にそのとおりだなと思いました。しかも受かる可能性のほとんどない資格ですから、何か違うことをしなければだめだと思いました。それでビジネスの世界に入ったのです。
福谷:えぇ!? そうでしたか。
morich:ビジネスといってもいろいろありますが、何をされようと考えたのですか?
春日:最初はいわゆるビジネスコンテストです。学生が起業するためのビジネスコンテストを開催しました。そのイベントを開催する過程で、例えば協賛金を集める、営業活動をするといった活動を経て、楽しみを感じつつ、すごくよい経験ができたなと思いました。
その延長線で、個人事業というかたちでスタートしたのです。
morich:別にビジネスコンテストを開催したかったというのではなく、手っ取り早くできそうだなということですよね?
春日:「今、目の前にあるビジネス関連のチャンスは何か」という観点で探したら、その方が紹介してくれました。
morich:そうでしたか。けっこう集まったのですか?
春日:そうですね。協賛金で数百万円を集め、実際に起業された方も何人もいました。
morich:そこから見えたものはありますか?
春日:その時も、このビジネスモデルで起業しようとは決めていませんでしたが、ビジネスコンテストを運営した時に「優秀な学生が来ますよ」と企業の人事に営業をしていました。イベントが終わった後に挨拶に行くと、「知り合いに優秀な学生がいるのなら、紹介してほしい」と言われたのです。
これはビジネスになりそうなので始めてみようということで、個人事業を開始しました。
morich:企業にとって新卒採用というのは大きな投資です。新卒採用に対する投資の感覚と、例えばマーケティングの投資の感覚とは大きく異なります。こちらのほうが圧倒的に多額の投資になりますよね。ここに可能性があると思ったのですか?
春日:可能性があるとまではいかなかったのですが、そのような依頼をいただいたので、「これほどまでにニーズがあるものなんだ」と思いました。そこで、就活生と企業のマッチングイベントを開くなどしていました。
私が行ったのは、当時でいうチェーンメールのようなものです。学生がインカレサークルなどで他の大学の学生を集めようとしても、手段がありませんでした。
morich:確かにそうですね。
春日:そこで、私はメールマガジンを作りました。そのメールマガジンには、「学生は無料で自分たちのイベントを告知できます。その代わり、団体から5人程度メールマガジンに会員登録してください」と記載して、運営していました。
morich:なるほど。会員としてですね。
春日:そうすると、発信したい人たちがいればいるほどメルマガ会員数が増えていって、結果、1万人ほどになりました。そうすると、そこに就活イベントの投稿を1回するだけで、イベントを毎回開催できます。
morich:おそらく当時はまだ珍しいので、みんな確実に見ていますよね。今でこそスパムメールはたくさん送られてきますが、当時は珍しかったと思います。
春日:そのような、ある種の仕組みを手に入れて、大学3年生から4年生の頃に行っていました。
morich:そうですか。けっこう儲かりましたか?
春日:儲かりましたね。
(一同笑)
morich:そこで、それなりに資金が集まったということでしょうか?
春日:そうですね。それなりに集まりました。ただ、旅行に行ったり、友だちにおごったりしていたら、どんどんお金はなくなりました。
福谷:なるほど(笑)。
morich:あまり未来のこと考えてやっていないですものね。
春日:そうです。就職する予定だったので、今後の軍資金にしようなどという気持ちは、一切ありませんでした。
morich:そうですか。「将来、社長になるぞ」ではなかったのですね?
春日:まったくその気持ちはなかったです。
morich:「時間があるからやっておくか」というような感じでしょうか?
春日:むしろ、私の大学2、3年生の頃の視座で言うと、大学進学時に私立のトップ校に入れなかったことが引っ掛かっている部分がありました。
morich:コンプレックスですね?
春日:「就職の時に追い抜ければいいかな」「いい企業に入れればいいな」といったような視座です。
morich:ここで追いつくぞという気持ちですね。
ベンチャー企業に就職するも半年で退職
morich:ちなみに就職活動では、どのような業界を受けられたのですか?
春日:いろいろ受けました。もう本当に、就職活動のスケジュールどおりです。
morich:真面目にやっていたのですね?
春日:真面目にやっていましたね。教職だけは地道に単位を取っていたんです。失敗したら怒られそうなので、それだけは受けていました。就職活動は外資系の金融機関から始まりますよね?
morich:青田買いですね。
春日:そこからスタートして、まずそこに決めました。その後、ベンチャー企業や大企業などを受けました。
morich:内定をもらっていたのですか?
春日:そうですね。5、6個もらいました。
morich:すごいじゃないですか!
春日:受かった時に「これで一応目標は達成した」という気持ちになりました。
morich:内定を取ることが、ある種の目標ですからね。
春日:そのようなところがありました。その結果、よくよく考えて、いったんベンチャー企業に就職することを決めました。
morich:そうだったんですね。業種は何系ですか?
春日:決済、今で言うフィンテックですね。50名ほどの会社だったのですが、フィンテックのベンチャー企業で約半年間、修業をさせてもらいました。
morich:入社されたのですね。
春日:いや、大学4年生の4月から10月くらいまでですね。
morich:なるほど、インターン的な感じですね。しかし、外資金融や大手企業から内定もらっていたのに、ベンチャーに入ろうと思ったのですね。
春日:いろいろと考えたのですが、自分のこれまでの人生について振り返った時に、何らかのアウトプットをしたり、価値を作ったりしたという感じがなかったのです。何を残せるんだろうと思った時に、唯一ビジネスという空間に関しては勝ち目があるなと思ったのです。
morich:勝ち筋があると思ったのですね。
春日:ここには勝ち筋があると感じました。ビジネスの中に勝ち筋があると思った以上は、どうするべきかと考えると、やはり将来起業しようと決心しました。
morich:センスがあると思ったのですね?
春日:まあ、そうですね。勝てるかもしれないという感覚がありました。
(一同笑)
morich:なるほど。それを学べるというか、習得できる場所ということで、ベンチャーを選んだんですね。
春日:大学3、4年生で学生ベンチャーをしていた頃は、1人もしくは何人かのチームで行っていただけで、雇用しているわけではありませんでした。会社も持っていませんでした。そのため、会社を作って、雇用して、事業を大きくするという自信がなかったのです。
自分1人の費用を賄うだけではなく、何十名、何百名となると自信が持てませんでした。そのような理由から、いったんベンチャーに行こうと考えました。
morich:そこで学ぼうと思ったのですね。インターンシップで見えたものは何ですか?
春日:まず、50名ほどになってくると、会社としてすごい状況になっています。
morich:カオスですか? いろいろな意味でしっかり整備されているということでしょうか?
春日:非常にしっかりとしています。
福谷:会社組織として成り立っているということですね。
春日:そうです。そのため、起業の勉強には向かないなと思ったのです。
福谷:あぁ! なるほど(笑)。
morich:ゼロイチではないですからね。中にはカオスの会社もありますが、おそらくフィンテックということは比較的……。
春日:すばらしい会社だったということもありました。その後、上場もした会社です。実際にすごい会社なのですが、すごすぎてスタートアップの勉強にはならないと思いました。
morich:ゼロイチではなかったわけですね。
春日:やはりスタートアップに行こうと思って辞めたのです。
福谷:半年でということですか?
春日:半年で辞めました。
「今日から君はCEOだ」と握手を求められ起業の道へ
morich:本当にアドベンチャーな方ですね……。それから、どうしたのですか?
春日:スタートアップに行こうと思ったのですが、スタートアップ企業が当時は探せなかったのです。2010年頃でした。
morich:確かに、今ほどピッチイベントなどなかったですものね。
春日:まったくなかったですね。そこで考えたのが「ベンチャーキャピタルはベンチャーに出資している」ということでした。ベンチャーキャピタルは検索できたのです。そこに履歴書を送り、「出資している会社に私を入れてください」というメールを送りました。
福谷:その観点はすごいですね!
morich:すごいですよ! 学生のみなさま聞いていますか? 今、メモるところですね。
福谷:そのかたちは、今でもないですよね?
morich:なかなかできないと思います。
春日:当時の私は営業はできたので、「営業はできます」と書いて履歴書を送りました。すると、面談してくれたベンチャーキャピタルがありました。それが、サムライインキュベートです。
福谷:おぉ! なるほど。
morich:なかなかのVCです。
春日:すぐに返事を返してくれました。10社、20社とメールを送ったのですが、5分後くらいに、もう返事が来たのです。
福谷:いや、さすがですね!
morich:サムライインキュベートさん、すごいです!
春日:私もびっくりしました。「来てください」と言われたので、行くことになりました。
morich:そのような学生はそうそういないからだと思います。どこか投資先の会社を紹介してくれるということだったのですか?
春日:そうです。そして、ある会社を紹介してもらいました。サムライインキュベートが出資していて、いい会社だということでした。実際、その後イグジットもされた会社です。ただ、そこは落ちました。
morich:本当ですか!?
春日:落ちました。その会社の社長に、「将来起業したいと言っているが、寝食を忘れてすべてを賭けるくらいの気持ちでやらなければ、スタートアップはうまくいかないから」と言われ、落とされたのです。
morich:生半可な気持ちでは……。ということですね。
春日:「勉強」という姿勢だったのでしょうね。
morich:学ばせてくれという気持ちだったということでしょうか?
春日:そうです。実際、自分に問い直してみると、まさにそのような気持ちでした。
morich:でも、多くの学生さんにそのようなところがあります。学びたいというスタンスですよね。
春日:そのような気持ちが、おそらくどこかにありました。そして、サムライインキュベートの榊原さんに「落ちました」と報告しました。その時に榊原さんから「本当に何かやりたいことはないの?」と言われました。
その当時というのは、FacebookやTwitterなどが日本に上陸した頃だったのですね。
morich:SNSがスタートした頃ですね。
春日:そうです。SNSを使ってマーケティングビジネスをやろうというような会社が、サイバーエージェントを筆頭に、プレスリリースを出していたのです。
福谷:ありましたね。
morich:感度が高いですね!
春日:私の見解として、マーケティングが変わると、リクルーティングが変わると思っていました。かつて、マーケティングがネット化した時に、リクルーティングもネット化しました。リクナビなどの就職情報誌がそうですね。そう考えると、「SNS×リクルーティングが成り立つ時代になるな」と思いました。
morich:直感したのですね?
春日:直感して、それを榊原さんに言ったのです。すると、「それで起業しよう」と言われました。
morich:その場で!?
春日:はい。「いやいや、僕はスタートアップに行きたいのです」という話をしたら、「いや、もう起業しよう」と言われました。
福谷:うわぁ! すごいです。いい出会いですね。
春日:「今日から君はCEOだ」と言われました。
福谷:これはすごいです!
morich:鳥肌が立ちました。
春日:そして、握手を求められました。
福谷:本当ですか!?
春日:「握手? ちょっと待ってください」みたいな感じになりました。
morich:「別にそんなつもりはないのだけど」と思いながら……。
春日:そう思いながらも、握手を求められて戸惑いました。
morich:出資もしますよと言われたのですか?
春日:もちろん、出資もいただきました。
福谷:うわぁ! これはすごい話ですね!
morich:最初の出資はサムライインキュベートなのですね。すばらしい!
春日:今では考えられませんが、Excelの資本政策評価が1通、メールで送られてきました。契約書もありませんでした。上場を準備する審査のタイミングになって、バックデートしましたから。出資は行われているので、問題はありません。
(一同笑)
morich:そうでしたか。いやいや、しびれますね。
福谷:いや、すごいです。すごい話ですね。
厳しい父も「本気」を応援
morich:その帰り道はどのような感じでしたか?
春日:その時は一瞬、「よし、行こう」と思いました。ただ、よく考えてみると、親は絶対にOKしないなと思ったのです。
morich:そうですね。
春日:うちの親父なので、OKしないと思いました。そこで、まず学校に行き「単位を取り消してくれと」言いました。「卒業しなかったことにしよう。留年しよう」と思ったのです。
morich:また、すごい荒業ですね(笑)。
福谷:すごいですね(笑)。
春日:ただ、もう3月も前半を過ぎていたため、だめでした。
morich:それはそうですよね。では、卒業してしまうことになるということですね?
春日:そうです。榊原さんに「私、親も厳しくて……」と言いました。
morich:「やめます」と言ったのですか?
春日:「学生のままではないということなので、これは苦しいです」という話をしました。すると榊原さんが「それなら私が1度社長になるから、春日君は取締役とか執行役員で始めれば?」と言ってくれたのです。
morich:えぇ!? そこまで言ってくれたのですか? 榊原さんにそこまで言わせるって、すごくないですか!?
福谷:すごいですね!
春日:そこまで言われて、逃げ場が本当になくなりました。
(一同笑)
春日:しかし結局、これでは意味がないですよね。ほぼ同じことになるから、やはり親に言おうと思いました。
morich:覚悟を決めたのですね。どのような感じでしたか?
春日:当然、反対ですね。
morich:そうですよね。お母さんは泣いてそうです。
春日:私も悪かったのですが、当然反対される感じだったので、「言っても、どうせわからないよ」と言ってしまったのです。
morich:「ベンチャーって知らないよね」くらいの感じでしょうか。
春日:そこで、けんかをしました。親からは「本当にやりたいことがあるなら、真剣に言え」と言われました。
morich:その気持ちわかります! 私も息子が「将来起業したい」とか、ヘラヘラと言っているので「そんなんじゃ認めない」「寝食を忘れても、これをやりたいという本気を見せろ」というようなことを言いました。
春日:まったく同じです!
morich:親は本気を見せられたら、やはり子どものことを応援したいものです。
春日:そう言われて、わからないだろうなと思いながらも、「ソーシャルメディアというのがあって……」と本気で伝えました。全部伝えたところ、親に「応援するよ」と言われました。
よかったなと思いましたが、ただ、私はお金がなかったのです。
(一同笑)
morich:なるほど。いろいろと使い切ってしまったのですね。
春日:そのため、父に50万円借りました。借用書まで書かされました。本当にしっかりしているなと思いました。
福谷:確かにそうですね(笑)。
morich:お父さんすごいですね!
春日:ですから、頑固な父から借りた50万円を元手に会社を設立して、その設立した日かその翌日に、いきなり榊原さんから出資をされたということです。
morich:すごいスタートですね! これはドラマですね。
福谷:ドラマですね。
morich:お父さんもすごいです。その場でOKと言われたのですか?
春日:もちろん、その時はそうです。「本当にいつ返すんだ?」と、1年目か2年目に言われて、たしか3年目に返した気がします。
福谷:3年かかったのですね(笑)。
morich:お父さん偉いです!甘いお父さんだと、すぐに出してしまいます。それではだめなんですよね。
創業3年目におとずれた危機
morich:そこから、一人社長で始めたのですか?
春日:その時に、内定が出ていて就職予定だった人間を呼んで「起業するから、内定辞退して一緒に起業しよう」と言ったら、すぐ辞めてきたんです。
morich:人徳ありまくりではないですか(笑)!
春日:学生の時から行っていた人材ビジネスに近しいことを始めようとする時に、プロダクトを作ることと、法人に営業すること、絶対に2人は必要だったのです。ですから、絶対にもう1人集めなければいけませんでした。
morich:「いいよ。辞めるよ」と。その方は今もいらっしゃるのですか?
春日:もう起業して、別の会社をやっています。
morich:そこから上場までの道のりは、どのような感じなのですか?
春日:最初は非常にいい感じで1、2年目がスタートしました。スタートダッシュを切って、どんどん大きくしていきました。
morich:やり切る力がすごそうですからね。
春日:3年目に、オフィスの広さを4倍ぐらいにしました。家賃は10倍くらいです。
morich:賭けたのですね。そのようなターニングポイント、ありますよね。
春日:社員が30人の時に、100人入るオフィスを借りました。家賃は10倍です。ここから一気に、むしろ2年ぐらいで社員を増やそうと考えていました。ところが、その年に30人が辞めてしまいました。
morich:えっ!? 計算が合わないですね(笑)。
春日:30人辞めて、30人入社しているのです。ぐるっとしてしまったのです。すぐやめた人間もいるので全員ではありませんが、30人辞めて30人入ってと、1周してしまったのですよね。3年目のことでした。
morich:それは何が原因だったのですか?
春日:一緒にやってきた創業メンバーが辞めたということもあります。それは別に裏切ったということではありません。
morich:起業したということですものね。
春日:新しい道をみんなが歩んだということです。また、私は学生ベンチャーで始めたのですが、会社をもっと大きくするにあたって、大人の組織にしないといけないと思ったのです。
morich:マネジメントですね。
春日:そこで、いわゆる副社長というかCEO、ナンバー2として、年上の方を入れました。そのようなかたちで作っていったのですが、やはり組織がもともと学生ベンチャーで、平均年齢が22歳といった組織から一気に変わってしまって。
morich:カルチャーが変わったということでしょうか? 確かに、バス1台分の社員が乗り切れなくなった時、そこから成長するには必ずそのようなカオスがいったん訪れます。
春日:やはり、そうなのでしょうね。
morich:でも、100人分のオフィスを借りていますからね。
春日:そうです。意味がないのです。家賃は10倍です。
morich:固定費だけが増えますね。
春日:そうです。もう、「これは終わるな」と思いました。
morich:経費がすごいですものね。その年はかなり大変でしたか?
春日:もう本当にギリギリ黒字ぐらいです。
本当に苦しい時こそ、圧倒的に大胆な決断をしよう
morich:そこから、どう乗り越えたのですか?
春日:そのような経験を何度かしているのですが、大事なことは一歩大胆に意思決定することだと学びました。
我々はもともとソーシャルメディアを活用したコンサルティングを行っていました。いわゆるBtoBです。ここからはBtoCの、いわゆるメディアの会社になっていこうと思いました。
morich:自社がメディアになるということでしょうか?
春日:そうです。自社でプロダクトを作り、そのプロダクトを大きくしていき、それを世の中に使ってもらう会社に変わろうと思い、ここでベンチャーキャピタルから次の出資を2億円ほどいただきました。
そこからグッと、舵を切りました。私は「既存の事業を見るのはもうやめる」と言って、1年から2年は、総会も出ませんでした。朝会も出ませんでしたし、本当に既存の事業には一切タッチしなかったのです。その時はナンバー2にすべて任せていました。
福谷:なるほど。
春日:私は「新しいビジネスを必ず1年で立ち上げる」ということで注力していました。
morich:toC向けビジネスですね。
春日:そちらに全力を傾けていき、半年ほどでかなり立ち上がっていきました。
morich:それもすごいですね。
春日:既存事業はなんとかギリギリ耐えている状態でした。出資金は全部新規事業に使うということで進めて行きました。その1年後にもう一度、7億円ほどファイナンスしました。そこからはグッとそちらに向けて進んで行ったという感じです。
morich:きちんと立ち上がったということですよね。
春日:そうですね。私はもう既存事業に関わっていなかったので、1年で立ち上げられなかったら辞めようと思っていました。
morich:それぐらいの気持ちでやっていたのですね。うまくいかなかったら、もうナンバー2に譲るというような思いだったのですね。
春日:「譲る」ということが言えるレベルではありません。「辞めます」です(笑)。
morich:身を引くような感じですね。それぐらいの思いだったのですね。
春日:それくらい新規事業だけに集中していました。本当に苦しい時には、圧倒的に大胆な決断をしようというのは決めていました。
宮崎県日南市に拠点を構えた理由
morich:それでは、ソーシャルメディアのコンサルから、メディアとしてスタートしたということですね。
春日:BtoCのプロダクトを作り、そちらが伸びました。もともと就職関連のメディアでしたが、そこから7億円調達して、一気に金融や医療系などのいろいろな領域に事業を横展開していきました。勢いよく増やして会社を大きくしていきました。
morich:ちなみに、そのtoC向けのビジネスモデルはどのような特徴がありますか?
春日:いわゆるSEOです。ユーザーが課題を感じて情報を検索する時、最初に見つけられる、かつ良いコンテンツをたくさん作っています。そのようなところを一番の強みにして出資を受けました。
morich:競合はどのようなところがありますか?
春日:当時はいろいろありました。
morich:その分野、その分野にありますね。
春日:おっしゃるとおりです。そこを横展開して一気に参入していく感じです。
morich:しっかりユーザーがついてきましたね。
春日:横展開しながらユーザーもついてきたため、これをより大きくしていきました。
morich:マーケティングが強かったということですか? 既存事業のほうで、そのようなノウハウを溜めていたのでしょうか?
春日:そうですね。私が何かをできるわけではないのですが、「絶対に結果を出す」ということに執着する力があります。
morich:なるほど、そうだと思います。起業の世界では1回はPDCAを回す、要するに成功するまでやることが成功と言いますね。
春日:おっしゃるとおりで、失敗の定義は難しいですよね。結局、成功すれば失敗とは言いません。
morich:逆に言えば、やりきるということですよね。
春日:そうですね。我々としては、いろいろなことを行っても仕方がないので、まずは一点突破をしようと考えています。
創業時は1個だけに取り組むということで「ソーシャルメディア×リクルーティング」を行おうと考えました。そのため、ソーシャルリクルーティングという会社名で起業したのです。これも一点突破することを表明するための手段でした。
morich:逆に言うと社名がすべてを表すということですね。その後は会社名をポートに変えて、上場も視野に入れたということですね。たしか、Q-Boardとマザーズの両方に出ましたよね? それには何か思いがあったのでしょうか?
春日:我々は宮崎県日南市にオフィスを構えています。当時、九州の中で日南市の市長が一番若かったのですが、その市長が地方創生の一丁目一番地として企業誘致を掲げていました。
我々もこれから会社を大きくする中で、地方にも拠点を置こうと考えていました。これはBCP的な観点だけではなく、地方で雇用することで離職を抑えようとしました。そこで競合がまったくいないところに置こうと考え、日南市に決めました。
IT企業が1社もなく、初のIT企業となりました。最初にオフィスを作った時は、日南市の人口が約5万人のところ、約380人から応募が来ました。
福谷:すごいですね!
morich:5万分の300ですか!? 労働人口はおそらく5万人もいないですからね。
春日:言い方が失礼かもしれませんが、パソコンの叩き方がわからない人が来るほど応募が来ました。
morich:なるほど。「なんかおもしろそう」という感じですね。
春日:その後、日南市出身の東京で働いている人たちが帰ってきてくれて、現在は27名ぐらいの在籍になります。地元に根づいていこうと考え、今年からは高卒の人材も採用しています。
morich:今もしっかりとオフィスはあるのですね。春日さんにとっては、縁もゆかりもないわけですよね?
春日:そうですね。私は埼玉県出身です(笑)。
morich:私も採用関係の仕事をしていますが、どこの会社も大変苦労しています。そのような手があるのですね。
春日:地方創生という目線で見ると、すべての市区町村、自治体が企業誘致をして、地方に会社があれば人々は地元に帰ると思います。
morich:確かに。関係人口が増えれば、そうなりますね。
春日:地元に帰っても仕事がありません。地元に戻ってやりたいと思える仕事があるかどうかが、地方創生にとって最も重要なことだと考えています。
morich:とても大事ですね。そのような意味では、御社はとても貢献していますね。「宮崎県民なんとか賞」のように、きっと表彰されますよ(笑)。現在はオンラインも含めて県境がなくなりましたよね。離れていても仕事はできます。
春日:日南市だけではなく宮崎市にもオフィスを作りました。そちらと合算すると50人近くの社員がいます。
morich:宮崎県の中で「ここで働きたい」という会社になっているわけですね。
春日:そうなりたいと思っています。
福谷:すばらしいですね。
上場後にメンターを得ることの大切さ
morich:その後、上場されましたが何を目指そうと思ったのですか? 上場の目的はどのようなものだったのでしょう。
春日:正直、上場する時は定型文のようなものがあるため、理由はいくらでも言えるわけです。
morich:そうですね(笑)。
春日:IRでお伝えしていることも嘘ではありませんが、正直なところをお話しします。学生起業で創業して約半年後、我々は何百万円かの売上を上げました。榊原さんは「本当に売上を上げるんだな」と驚いていました。
(一同笑)
春日:そうすると、「とりあえず営業利益を年間1億円作ればJASDAQに上場できるから、JASDAQに上場しよう」と言うのです。
morich:1年目でですか!?
春日:はい。しかし、当時は上場も知らなかったのですよ。
morich:「上場って何?」という感じですね。
春日:「上場で何かあるのか?」と思いました。
morich:一応経済学部ですよね?
(一同笑)
春日:上場するため証券会社と監査法人を入れることになりました。
福谷:すごいなぁ……。
morich:1年目でですか! 榊原さん、かなり大胆ですね。
春日:職場はただのマンションなので、監査するところがありません。
morich:社員はまだ2、3人ですか?
春日:10人ぐらいはいました。でもそのようなものです。
morich:監査法人もびっくりしますね。
春日:ですから、なぜか最初から監査法人も付いています。
morich:それはすごいですね。初めて聞きました。
春日:そのようなレベルとリテラシーでスタートしている会社なので、「正直なところ上場してからのビジョンは無かった」というと、投資家のみなさまには失礼ですね。
morich:今はそのへんも厳しくなりましたね。当時は無くても問題ないというのはありましたよね。
春日:そうですね。また、証券会社も「30歳なんだから、今だよ」とそそのかすのです。
morich:30歳ですか。確かにそうですね。当時だと、HR系でいうとリブセンスなどですか?
春日:リブセンスは先輩ですね。
morich:そのへんですよね。あちらはビジョナリーな感じですね。
春日:我々はいろいろと動きがあった上で……。
morich:そこに行き着いているわけですね。
春日:正直に言って、上場してから再度目標を立て直したというのが近いと思います。
morich:目標はしっかり立てようと考えたのですね。
春日:上場してからずっと業績が伸びていますが、最初の2年間は安定的に伸びていました。しかし、連続的に業績が伸びているのに株価が下がっていくということを経験し、「なぜだ?」と思いました。
morich:期待されていないということですね。
春日:まさにそのとおりです。この会社には株主からの期待値がないということです。そのため、資本市場で戦っていかなければいけないと思いました。
また、上場前は榊原さんを筆頭にベンチャーキャピタルの方から、苦労した時や多角化展開する時に出資してもらうなど、タイミングごとに良いVCが入ってくれて、株主としてアドバイスをしてくれていました。
morich:ターニングポイントごとにですね。
春日:しかし、その方々は上場してから全員抜けてしまいました。これは理論上仕方がありません。その後にサポートしてくれるメンターがいなくなったことは一番苦労したところです。
いろいろと検討した結果、チェンジホールディングスに出資していただき、経営者の福留さんに経営アドバイザーに入っていただきました。そこから、資本市場の見方や業績を作り上げる力、M&Aなど、いろいろな経営の意思決定についてディスカッションできるレベルの高い方と出会えて、大きく変わりました。
morich:福留さんとはどのようなご縁だったのですか?
春日:たまたま経営者の飲み会で会いました。私は基本的に6人以上の経営者飲み会があると行かないのですが、たまたま4人の会がありました。それが良かったのですよ。チェンジホールディングスがすごい会社だと知っていたのもあり、その会に参加しました。
そこで、上場からの2年間ぐらいの暗闇を進んでいる感じや、まったくうまくいかないというフラストレーションなどをお話しししました。すると、「いや、もう絶対大丈夫だ」「出資するからやっていこう」と言われました。
morich:その場でですか!? すごい出会いですね。
春日:レベルが段違いの経営者だったので、この経営者から教えてもらうべきだと思いました。いろいろなプロもいますが、経営者から教えてもらおうと考えました。
morich:それは本当に大正解でしたね。最近、社外取締役のニーズとしても、プロの経営者に入ってほしいと言われますね。上場後はVCの方がいなくなってしまうから、ある種、師匠やメンターの方が必要になりますね。
春日:福留さんが本当にすごいのは、土曜日の朝7時から隔週で私とミーティングをしているのです。壁打ちとしてずっと続けてくださっています。出資後の2021年からずっとです。
morich:本当ですか!? 朝のその時間くらいしか空いていないのでしょうか?
春日:その時間が取りやすいというのはあるでしょうね。私は「福留さんが一番都合のいい時で」と言っています。
morich:隔週の土曜日、朝7時から……、おそらく期待を込めてですよね。
春日:もっとがんばらないといけません。
morich:出資もしていただき、そのようなメンターのかたちでも支援してもらっているのですね。
春日:もちろん出資していただき業務提携をしているため、業績には貢献しています。しかし、福留さんに経営に参画していただくことで、やはり自分が向かいたい方向性の社長からアドバイスをいただくのが一番いいと思いました。
morich:ロールモデルですよね。いろいろな指南がありますか? 叱咤激励はありましたか?
春日:怒られるようなことはありませんが、経営判断の時に我々の現状を率直に伝えるとともに「このような意思決定をしようと思っています」と相談して、いろいろなアドバイスや示唆をいただいています。そして、さらに検討して、ということをしています。
「ポートの経営にすべてを懸けている」と言い切れる
morich:春日社長としては、これからポートをどうしていきたいですか?
春日:起業した時からそうですが、起業してリスクを取って行うのなら、社会にとって必要不可欠な存在にはなりたいと考えています。我々は現在、「社会的負債を、次世代の可能性に」ということをパーパスに掲げています。
社会が先送りしているさまざまな問題を1つでも多く、我々の手で解決したいという思いを持っています。そこに向けてチャレンジしていくことの総量を増やしていきたいと思っています。
morich:大学時代の春日さんに聞かせてあげたいです。
(一同笑)
morich:そのビジョンはすばらしいです。個人としてはどうですか?
春日:私個人と会社はほぼ一体です。ポートのパーパスが私のパーパスだと思っています。
morich:それはすばらしいですね。今日聞いている方は、起業を目指していたり起業して間もなかったりと、苦労している方も多いと思います。最後に、自身の経験も踏まえて社長からメッセージをお願いします。
春日:私は不器用で、過去を振り返ってもこのビジネスが私にとっての最適な場所だと考えてます。私は1つのことを達成するためには、すべてを削っていいと思っています。犠牲にしてもいいですし、できる限り削ります。やることを削って、目指すことはこれだと考えています。
ポートが目指している先ほどのパーパスを達成できるのであれば、他がなくなってもいいという気持ちで取り組んでいるため、1つの物事に対して本気になります。逆にいうとそれ以外のものをできる限り省きます。これがセオリーだと思っています。
morich:春日社長も今、ビジネスに闘魂注入という感じですね。
春日:ポートの経営にすべてを懸けていると思って取り組んでいます。
morich:ある種、「人生を」ということですよね。
春日:人生を懸けて行っていると言い切れると思います。
morich:なかなかここまで言い切れる社長はいないですよね。
福谷:いないですね。だからこそ、いろいろな人が支えたり助けたりされてきたのかなと思います。すばらしいです。
morich:私、鳥肌が立ちました。大学時代や高校時代のお話など、何を聞き出そうかと思いましたがとても引き込まれました。
春日:ありがとうございます。
morich:いろいろなところで語っていただきたいです。6人以上の集まりはだめと言われていますが(笑)。後進の方に対して、そのような機会を作っていいですか? 大学生に夢がないというか、未来に目指すものがないという人たちは多いです。しかし、それでもいいという話ですよね。
春日:いいと思います。私は大学に入った瞬間は夢などありませんでした。
morich:1つ言えることは、目の前のものに最善を尽くしていくということですよね。
春日:大学生活も含めて、目の前のこと、つまりはビジネスだったわけですが、それに集中している時はそれ以外を無視して、すべてを削っていました。
morich:スティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学の卒業式に「コネクティング ザ ドッツ(Connecting the dots)」というメッセージを伝えています。
ドッツとは点のことですが、点は過去にも未来にもつながる、したがって未来がもし見えていなくても、今のこの点を大事にしようというメッセージです。私はこの言葉が大好きなのですが、まさにそのような話だと思いました。
実は私も「morichさんにとってのハイライトはいつですか?」と聞かれた時に「私のハイライトは今です」と答えられる人生を送りたいと思っています。それに通じるものがあると感じました。
福谷:なるほど。そろそろ時間が来ましたが、今日もすばらしかったです。
morich:本当です。お腹いっぱいです。
福谷:毎回お話ししていますが、1回ゲストに来た方は次のゲストに来ていないのですよ。
morich:そうですね、リターンズはまだですね。
福谷:それも視野に入れて「morichの部屋」を広げていきたいです。このようなことを話していただけることって、なかなかないと思っています。
morich:春日さんは6人以上の集まりには来ないですからね(笑)。
福谷:だめですもんね。
morich:ルール違反です。
春日:今日は大丈夫です(笑)。
福谷:今日も素敵なお話を聞かせていただき、本当に学びになったと思います。
morich:3年後や5年後がとても楽しみですね。
福谷:引き続き、「morichの部屋」も応援していただきたいと思いますし、我々も応援させてください。何かあれば私どもも精一杯応援したいと思っています。
morich:一応、広義の意味で同業の中にいます。
福谷:そうですね、人材ビジネスというところですね。春日社長、本日は本当にありがとうございました。
春日:ありがとうございました。
morich:どうもありがとうございました。
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